第26話 EP05-05 電撃戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
人間の軍十万の隊列は、もうすぐ崩れるだろう。
これから、ゲシュペンスト騎士団一万で、数万の魔物の軍勢の中に突入をかける。
この『魔城の前庭』にある最強のアーティファクト『滅魔の剣』を回収し、それに残る勇者の記憶で一発逆転の反撃に出る、なんて無謀な賭けだ。
でも、絶望的な戦力差を。この先何回攻めようと無駄な犠牲を繰り返すだけの戦場を。今この作戦にこそ変えられる可能性があるというなら、ごく僅かの勝算に賭けた無謀も悪くない。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
◇
「四方を大盾で防御! 攻撃は前方に集中! 歩調を揃えて進め!」
野太い号令で、ゲシュペンスト騎士団が隊列を変える。横に長い横陣から、四角形の方陣になる。
前一面だけ守ればいい横陣と違って、前後左右の四面全てを守らないといけない方陣は、防御が大変だ。単純に考えて、防御力は四分の一か、それ以下だ。
「力を出し惜しむな! 前面は敵を全力で倒せ! 側面後面は全力で守れ!」
ゲシュペンスト騎士団が、少しずつ、友軍の横陣から前へと出る。横陣から突出した部分から、魔物に包囲される。
賭けの一つ。
オレたちの目的地、『滅魔の剣』がある地点は、魔将軍『冒涜者』から離れてる。四つ角の魔物の一体、巨大な触手樹も動かない。
まずは、運が好い。好運には自信がある。
「後面、気合を入れろ! 包囲戦は、気を抜くと簡単に潰されるぞ!」
いよいよ、完全に魔物の中に入った。周囲全ては魔物と土人形だ。
ゲシュペンスト騎士団一万、大盾騎士たちが四方に壁を成し、中に騎士兵士が動きまわる。魔物どもは方陣の外から押し寄せ、大盾に爪をかけ、押し、しがみつき、大きな体躯で圧しかかる。四面全て、壁を成す全ての大盾に、魔物が取りつく。
賭けの一つ。
防御は騎士団で頑張ってもらうしかない。
運好く、ゲシュペンスト騎士団は強い。いや、これは賭けでもないか。ゲシュペンスト騎士団は、賭けるまでもなく、強い。
◇
ここからは、進攻速度が勝負の電撃戦だ!
オレは、腰のベルトから、不格好な脇差を抜く。
「前方を切り開くっす! タイミングの合わせはお任せするっす!」
戦場の喧騒に、なるべく大きく叫んだ。全員が必死に戦ってる最中だから、答える余裕は無さそうだ。
脇差を片手で握り、体を捻りながら肩の横に構える。
コレは、鍛冶師見習いの少女が、魔物を斬る刀を目指して打ち続けた練習刀だ。見習いが練習で打ったものだから、見てくれは悪い。
もちろん、『少女の思い』を武器とする『心剣士』には、見てくれなんて関係ない。オレの武器は、『強い思い』だ。
オレの立ち位置は、方陣の中央の前寄り。前方には味方の背中が並ぶ。その先に魔物の姿が、味方の頭越しに見える。
脇差を、横一直線に振る。振り抜く。距離は言うまでもなく、魔物どもの最前列にすら、物理的な刃が届くわけもない。
「ギャッ!?」
魔物の驚いたような断末魔が聞こえた。一つ角の魔物が数体、消えた。
この少女の思いは純粋すぎて、魔物しか斬れない。魔物であれば、広範囲に斬る。思いは強烈だけど、効果範囲が魔物全般と広いから、攻撃力は普通ってところか。
ちなみに、その鍛冶師見習いの少女は存命だ。この練習刀を手渡しで受け取ったし、何なら、とっても嫌そうな顔をしていた。
分かる。オレも、自分の記憶を見られるのは嫌。
振り抜いた脇差を翻す。逆方向に、横一直線に振り抜く。
『ギャギャッ!?』
また数体の、魔物の驚いたような断末魔が聞こえた。
「今だ! 押しあげろ!」
魔物どもが、見えない斬撃に動揺した。見逃さず、野太い号令があがった。
手前の魔物どもを突破できれば、奥は土人形の群れだ。土人形は魔物より弱いから、多少は楽に前進できるはずだ。
オレは、練習刀を手から放す。腰のベルトから、棍棒みたいな厚刃のブロードソードを抜く。
コレは、超戦闘狂の少女騎士が
「う!、お!、お!、お!、お!、お!、お!、っ!」
少女の記憶に引っ張られて、意図せず、歓喜の雄叫びが出た。
「どぉけどけどけぇっ! 道を、開けろぉっ!!!」
オレが意図せず、叫びながら前へと駆け出す。大盾騎士たちが開けた子供一人分の隙間に駆け込む。やめて!、ダメ!、危ない!
頭上を、援護の矢や火球が飛び越す。大盾の壁を抜けたオレの前方で、魔物や土人形が弾け飛ぶ。
スタイルのいい二足歩行の赤黒のネズミみたいなヤツが、矢を受けながらも向かってきた。二つ角の魔物だ。
「ひょろネズミィィィッ! 来ぉぉぉいっ!」
オレの中の超戦闘狂少女が嬉々として煽った。煽るまでもなく、二つ角ネズミが腕を振りかぶった。
オレは背を反らして、その鉤爪を紙一重で避ける。汚い鉤爪が目の前数センチを通過する。
怖っ! この記憶は強いけど、戦い方が危うい、際どすぎる。
カウンターで、二つ角ネズミの脇腹にブロードソードを叩きつけた。二つ角ネズミが『く』の字に折れ曲がって、消えた。
「どしたどしたーっ?! 次、来い、次ぃーっ!」
記憶の中の超戦闘狂少女が、また笑った。
◇
賭けの一つ。
「ここです。『滅魔の剣』は、間違いなく」
美月が告げた。美月は、宝物捜索系の最上級魔法使い、『アーティファクトシーカー』だ。
オレは運が好い。美月と出会えたことも、運が好い。好運には自信がある。
美月が、動揺した声で続ける。
「でも、約二メートル、下です」
「……掘れ! 急げ!」
「この場に陣を固定! 馬車の隊はワイヤートラップを設置しろ!」
「魔物の動向を注視しろ! 小さな違和感でも報告しろ!」
騎士団の全員が、即座に対処に動く。下って、埋まってるってことか? 周囲から押し寄せる土人形は、四方の大盾騎士たちが必死に防ぐ。
ここまで陣を進めるのに、オレもゲシュペンスト騎士団も、ほぼ総力を使い果たした。魔法使い隊は精神力切れ、リヒトもフラフラ、騎士兵士も気力で戦ってる感じだ。
賭けの一つ。
頭ガエルと巨大トカゲは、どう動く? 一体でも厳しい。四つ角が二体ともコッチに来たら、さすがにどうしようもない。
まぁ、オレは好運には自信があるから
「四つ角! 二体とも動き有り! こちらに、き、来ます!」
物見の兵士が馬上から報告を叫んだ。
うわぁ、ダメかぁ。現実は厳しいな。オレの物語が終わったかも知れない。
「あ!、いえ!、他にも、敵中に突入した騎士団有り! トカゲは、そちらに向かいます! あれは、赤い鎧の、薔薇騎士です!」
物見の兵士が馬上から報告を叫んだ。
おぉ!、赤薔薇騎士団!、頼りになる! オレは運が好い。好運には自信がある。
「頭ガエルは、こちらに来ます!」
そっちは来るのか。他より前に出た隊に敵の攻撃が集中するのは当然だけど。
だったら、時間を稼ぐ。
土の荒野を二メートル掘るのに、大した時間はかからない。体格のいい兵士が数人掛かりで掘ってるから、すぐだ。
空高く跳躍した頭ガエルが、薄曇りの空を背景に、オレたちの頭上に姿を見せた。
オレに残された武器は、最後の一本、愛妹護剣の小剣だ。
「オレが止めるっす!」
オレは自信満々で宣言した。愛らしい愛妹が大好きなお兄ちゃんの無事を毎日祈ってくれる思いが、あんなハゲ頭なんぞに負けるわけがない。
「左に落とせ! ワイヤートラップに絡めて時間を稼ぐ!」
「了解っす!」
愛妹護剣を両手で握り、頭上に掲げる。健気に祈る愛らしい姿が記憶に浮かぶ。最近は反抗期か『お兄ちゃんキモい』って言われることもあるけど、それもまた成長の記録、尊い。
薄曇りに、頭ガエルの影に入った。戦いの喧騒が、薄暗さに騒ついた。落ちてきた頭ガエルを、愛妹護剣の思いの防壁で受けとめた。
ズゥゥゥゥゥンッ……、と重く響いて、ほんの一瞬、頭ガエルが頭上で止まる。オレは仰け反りながら全身を捻り、その巨体を左へと落とす。
巨体の重さに土煙があがって、荒れ地から数十本のワイヤーが打ち出された。頭ガエルに突き刺さり、絡みつき、巻きついた。鋼線を束ねたワイヤーの先端に銛がついていて、バネで打ち出し打ち込む兵器のようだ。
「よくやった! 頭ガエルに近づくなよ!」
ワイヤーから抜け出そうと、頭ガエルが藻掻き暴れる。近くの土人形が次々と、巻き込まれて潰れる。
これで少しは時間が稼げる。数分でいい。
穴掘り隊の方は
「あったぞ! これか、美月ちゃん?」
「触っちゃダメ! それ! 健二!」
「よし! 任せろ!」
オレは美月の元に走る。滑るように膝を着き、前のめる。穴に手を突き、手を伸ばす。
穴の底に、半分埋まった剣がある。形状的には、細い長剣っぽい。柄も鞘も、真の闇よりも暗い黒をして、剣があるのか闇があるのか、一瞬迷う。
オレは、一瞬の迷いを振り払って、黒い柄を握った。黒い鞘から、剣を引き抜いた。刀身が、刀身すら、真の闇よりも暗い黒をしていた。
心剣士
第26話 EP05-05 電撃戦/END
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