第25話 EP05-04 四つ角
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』、中二男子。『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い、『心剣士』だ。
「健二! 大丈夫!? 怪我してない!?」
美月に心配されてしまった。
「大丈夫だ、問題ない! 楽勝だぜ!」
オレは、三つ角の土人形を討った高揚感に、高らかに答えた。
記憶を使い果たした殺意の長剣は、地面に丁寧に置いて、手を合わせて感謝を念じる。たいへん心苦しいが、持っていくことも、持ち帰ることも、出来ない。何故なら、重いから。
一本一キロだとしても、十本で十キロになってしまうのだ。十キロを腰にさげて戦い続けるとか、普通の中二男子のオレには無理だ。
オレは顔をあげ、腰にさがる九本の武器をガチャガチャと鳴らして軽い足取りで、美月の元へと戻った。
◇
横に長く隊列を組んだ横陣の人間の軍と、隊列も連係もない魔物の軍が、正面からぶつかる。
どちらの軍も万単位。人間の軍は大盾騎士で壁を成し、魔法や弓矢で猛攻をかける。魔物の軍は、魔物の個の強さと無尽蔵の土人形で押し寄せる。
激しい戦闘が、戦場の喧騒が。耳を塞ぎたくなる金音、怒号、叫び、咆哮が、延々と轟き続ける。
「序盤の攻勢で、かなり前線を押しあげられてるみたいね」
美月が、オレの隣で解説した。
確かに。魔法は、人間にとって対魔物の切り札だ。魔法使い隊の投入で、今は人間の軍が優勢だ。
隊列から、フラつく軽装の、たぶん魔法使いが、兵士の肩を借りて後方へとさがっていく。
だが、今の優勢には問題がある。
一つ、魔法は精神力を消費して発動する。精神力は有限で、消費したら回復を待つ必要がある。枯渇すれば魔法を使えない。
だから、序盤から魔法使い隊を投入すると、途中で必ず息切れする。実際、すでに人間の軍の勢いが落ち始めている。
一つ、魔物の軍は、まだ四つ角を投入してない。四つ角の魔物は三体とも、開戦前の位置から動かない。アレが投入されたら前線がどうなるか、不穏で、不気味で、恐ろしい。
隊列から、重装金属鎧の騎士が、屈強な兵士に地面を引き摺られて後方へとさがっていく。負傷者か、或いは……。
人間の軍の兵力が有限だってのも、問題だ。この作戦は、今ここに展開する兵力が全て。援軍は無い。
魔物の軍は、魔将軍『冒涜者』が、魔物の角から土人形を無尽蔵に作る。反則すぎる。
持久戦の消耗戦になれば、人間の軍が絶対に負ける。勝ち筋は、短期決着の電撃戦しかない。
と考えると、序盤から総攻撃は、英断なのかも知れない。
「四つ角が動きます!!!」
幾人もの騎士兵士が声をあげた。一様に、恐怖と危機感の口調だった。
本当の勝負は、ここからだ。
◇
四つ角の魔物の一体は、六本脚の巨大トカゲ。黒灰色の岩の鱗に覆われ、尖った口先から朱色の細い舌をチロチロと出し入れする。六本脚を小刻みに動かして地を走り、加速し、他の魔物や土人形を薙ぎ潰しながら、人間の軍の隊列の右端辺りを目指す。
アレもバケモノだ。体高は低いけど、代わりに学校のグラウンドを塞げるほどの長さがある。
巨大トカゲが六本脚で急ブレーキをかけた。慣性で地を滑り、自身をドリフトさせ、長い尾を振った。
比喩でも何でもなく、敵も味方も見境ない。魔物や土人形を薙ぎ、重装金属鎧の騎士を大盾ごと吹き飛ばし、隊列そのものを曲げる。
もう一体は、巨大なハゲ頭に裂けた大口とカエルの後ろ脚ライクな二本脚だけのヤツ。頭ガエルとでも呼ぶか。
頭ガエルが、後ろ脚で跳ねる。着地点で、他の魔物や土人形を潰す。アッチも、敵も味方も見境ない。
次は、後ろ脚に溜めを作った。勢いよく地を蹴り、空高く跳躍した。
オレは見あげる。薄曇りの空を背景に、……え?、まさか、こっちに? いや、少し、ズレてるか?
ズッドォォォンッッッ!!!、と轟音で、頭ガエルが落着した。隊列の中央、最大騎士団聖高潔騎士団のところだ。
ゲシュペンスト騎士団にまで、風圧と砂礫が押し寄せる。オレは両腕で頭をカバーして、砂礫に全身を打たれながら、片膝を地に着いて踏みとどまる。石が鎧を打つ金音が、そこらじゅうから無数に鳴る。
ヤバい! どっちもヤバい!
砂煙の中から、魔物と土人形が押し寄せる。
「怯むな! 盾を構えろ!」
大盾騎士たちが、崩れた並びを立て直そうと構える。
でも、怯まないなんて無理だ。
怯むに決まってる。凄惨な死の恐怖に、身が竦むに決まってる。
人間の軍の勢いは、完全に消えた。前進どころか、進まないどころか。
巨大トカゲに襲撃された右端の騎士団は、振りまわされる尻尾に翻弄されてる。重い重装騎士たちすら、オモチャみたいに吹き飛ぶ。
頭ガエルの爆撃染みた落下急襲を受けた中央は、大勢が倒れている。何人、何十人、潰された?、弾き飛ばされた?
右端と中央で、騎士兵士たちが後退る。隊列が乱れて曲がって、下がり始める。
いつ誰が背を向けて逃げ出しても不思議じゃない、総崩れ一歩手前だ。
オレは蒼褪める。呆然と、遠く聳える闇の壁を見あげる。
四つ角の魔物二体が参戦して、戦局は容易く引っくり返されてしまった。正しく、難攻不落。前線の維持すら絶望的、押しあげなんて不可能、勝利なんて夢のまた夢だ。
◇
カツンと蹄を鳴らして、戦馬に騎乗したゲシュペンスト騎士団長が、オレと美月の隣に進み出た。
ゲシュペンストは、『ゲシュペンスト騎士団』の騎士団長である。
初老の男で、歳を感じさせないガッシリした肉体に、急所を守る軽装金属鎧を纏う。白髪交じりの癖のある灰色髪は、耳が隠れるくらいに伸びる。顔にシワが目立ち始め、頬はこけて、眼光鋭く、右目は死神の意匠の黒い眼帯に隠れる。
その威圧感には、未だに緊張してしまう。
「……美月」
ゲシュペンストが、低く渋く、圧倒される威圧感のある声で、寡黙なる口を開いた。
「はい。ゲシュペンスト騎士団長」
美月が答えて、前方を指さす。
「直進で約二百メートルです」
美月の答えの意味は、オレにも分かった。そこに、最強のアーティファクト『滅魔の剣』があるのだ。
ゲシュペンストの意図も、オレにも分かった。確かに、勝ち筋は、それしかない。勝つか負けるか、生きるか死ぬか、賭けに賭けを幾重にも重ねるような、勝率の低すぎる、バカなギャンブラーみたいな、蛮勇だ。
「……美月。……戦場では、『パパ、……あっ?!、ゲシュペンスト騎士団長! つい、いつもの呼び方が』、と短く呼ぶように言っているだろう?」
低く渋く圧倒される威圧感のある声に、微妙な声真似を交えていた。
「絶対に嫌です」
美月が威嚇の冷たい目で即答した。
美月も、怖いときは怖い。
◇
この戦場で、あらゆる作戦を何百回繰り返しても、こんな感じの戦局に辿り着いてしまうのだろう。その度に敗走していては、多大な被害を積み重ねるだけだ。
だから、いつか誰かが決行しないといけないわけで、蛮勇であると同時に、英断でもある。英雄だけが、その決断をできる。その決断をして、作戦を成功させた者だけが、英雄と呼ばれる。
ゲシュペンストが馬上から、前方を指さした。前方にあるのは、砂煙の中、騎士兵士たちと魔物どもの激しい戦いと、その先に犇めく無数の土人形だ。
「総員! 命と引き換えにしてでも、陣を二百メートル進めよ! 己が死体を盾としてでも、陣を五分間維持してみせよ!」
そんな声も出せるんだ?、ってくらいに、力強い号令だった。戦場の喧騒すら吹き飛ばすような、低く渋く、圧倒される迫力の声だった。
でも、静まり返る。誰も、応えない。
無謀な指示だ。周囲の友軍が総崩れ一歩手前なのに、自軍だけが敵の中に突入するなんて、孤立無援で包囲されて、全滅しに行くようなものだ。
皆、彼我の戦力差を察して意気消沈してる。別の戦場で四つ角の魔物を討伐した英雄だろうと、十年に一度の快挙だろうと、これはどうしようもない。
「但し!」
ゲシュペンストが、力強く続ける。
「美月には、傷一つ負わせることは許さん! 作戦成功の後!、美月だけは!、必ずや無傷で生還させよ!」
そんなことも言えるんだ?、ってくらいに、饒舌だった。たぶん全員が見失って分からなくなっていた最終目標ってヤツを、明確に提示していた。全員に思い出させた。
『……ぅ、う、ウオォォォッッッ!!!』
ゲシュペンスト騎士団の全員が、雄叫びをあげた。釣られてオレも、渾身の雄叫びをあげた。
こりゃもぅ仕様がない。勝ち目のない最大の理由『士気の低さ』が解消してしまった。勝算があるなら、やるしかない。
オレは、……否! オレも!、覚悟を決めた。群がる魔物と土人形どもを見据えた。
美月だけが、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
心剣士
第25話 EP05-04 四つ角/END
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