第22話 EP05-01 フェニックス計画
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だが。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
最強クラスの魔法使い『心剣士』たるオレにとって、狭く窓もない全面コンクリの地下室だろうと、何の不安要素もない。……ここ、尋問室?
「オレ、尋問されるようなこと、何もしてないっすけど……」
不安に背中を縮こまらせて、パイプイスにチョコンと座る。いつもの中学校の制服で、休日で戦闘なし高額日給の指名に釣られて来てみたら、これである。
微妙に凹んだスチールデスクを挟んで、パイプイスに座るゲシュペンスト騎士団長と向き合う。
初老の男で、歳を感じさせないガッシリした肉体に、布の軍服を纏う。白髪交じりの癖のある灰色髪は、耳が隠れるくらいに伸びる。顔にシワが目立ち始め、頬はこけて、眼光鋭く、右目は死神の意匠の黒い眼帯に隠れる。
相変わらずの、圧倒される威圧感だ。腕組みし、俯き気味にオレを見据え、一言も発さない。怖い。
ゲシュペンストの背後には、水色髪オカッパでメガネの女が立つ。小綺麗で、背が低くて、体の線が細くて、色白で。『ユーナベルム戦場』で見た、情報官っぽい人である。
この地下室の唯一の出口の鉄扉の前には、美月が立つ。
美月は、オレのクラスメートの美少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
この面子までは、分かる。美月だって、ゲシュペンスト騎士団に所属する軍人である。
分からないのは、天井にオイルランプが灯るだけの薄暗い、全面コンクリの、この陰鬱な部屋の隅に、赤薔薇騎士団のロゼリア騎士団長がいることだ。
背が高く精悍なオバサn……女騎士で、迫力と威圧感がある。赤髪ロング縦巻きロールで、化粧が厚く、派手なデザインで豪華な赤いドレスを纏う。
オレと、この四人。そして、密室。何も起きないわけがなく。
◇
「早く始めてください」
オカッパメガネ女が、丸めた冊子でゲシュペンストの頭を叩いた。薄暗い尋問室に、パコン、と軽い音が鳴った。
ゲシュペンストは、低く渋く、圧倒される威圧感のある声で、寡黙なる口を開く。
「……少女の記憶を使うとは、事実か?」
「……っ!?」
オレは驚愕した。露呈した!? なぜ!?、どの経路から!?
思わず、鉄扉の前の美月を見る。
美月が、申し訳なさげな顔の前に、オレを拝むように、両掌を合わせた。頭を、手よりも低く、頭を低く、低く、下げた。
正しく! 謝罪のポーズ! 伝統的、詫びの動き!
……いや、いやいやいや。美月は悪くない。武器の入手に窮したオレが、美月に協力を頼んだのが悪い、オレが悪い。
それに、想定していたし、問題もない。美月からゲシュペンスト騎士団への情報漏洩は、オレの日常生活を脅かす範囲には至らない。オレが恐れるのは、学校の女子たちに知られることだ。
友だちに噂とかされると恥ずかしいし。
「ほほぅ」
ロゼリアが、興味深げに、メモを取り始めた。
オレは慌てて制止を試みる。
「そこ! メモはやめてくださいっす! それをどうするつもりっすか?!」
「レサリアちゃんが興味を示しますかと考えましてよ」
ロゼリアが、皮算用の笑みで答えた。
「ダメっす! オレが『女子の記憶を覗く覗き魔』って噂が広まるっす! オレの学校生活が終わるっす!」
「まぁっ?! 失敬ですわ! レサリアちゃんが、根も葉もない悪評を吹聴しますような、卑劣な振る舞いをするとでも!?」
うわぁっ?! 面倒くさい厚化粧オバサn……女騎士だな、おい!
オカッパメガネ女が、丸めた冊子でゲシュペンストの頭を叩いた。薄暗い尋問室に、パコン、と軽い音が鳴った。
「代わりに話を進めさせていただきます」
◇
「この先を聞いた場合、拒否権はありませんので、ご注意ください」
「聞かない、って選択肢は無いっすか?」
「かつて、軍によって、『フェニックス計画』と呼称される作戦が立案、実行されました」
オレの質問は無視された。
……『フェニックス計画』! 当時を知る者なら、誰でも知ってる。有史以来一つの討伐記録すらない『魔王』を倒さんとする、壮大な計画である。
「選ばれし勇者に『最強のアーティファクト』を貸与し。『魔王』の討伐を目指す。という計画です」
オカッパメガネ女の淡々とした説明口調は、ギリィッ、というロゼリアの歯噛みで遮られた。
「その先は。当時、軍議の末席にいた私から、お話しいたしましょう」
ロゼリアは、鮮やかな頬紅を暗く俯き、厚描眉間に深い悔恨を寄せる。
「軍にとりまして、『最強のアーティファクト』、『滅魔の剣』は、欠陥品でしたの。理由は、『その剣に選ばれし少女にしか扱えない』ことですわ」
ロゼリアの簡潔な言葉だけで、オレは察した気がした。ような、たぶん。オレが尋問室に呼ばれた理由も。
「同時に、軍権力内部での批判の種でもございましたわ。『最強のアーティファクト』を所有しながら、戦争に活用できません、宝の持ち腐れですものね。その責任追及を躱すために、軍中枢の年寄りどもが講じた愚策が、『フェニックス計画』でしてよ」
ロゼリアが、再びギリィッと歯噛みする。忌々しげに、真っ赤に太い唇を歪める。
「軍人、軍関係者の親族、親戚までを調査対象としまして、見つけられた有資格者は、ほんの数名でしたわ。資格保有可能年数を考慮し、その中の最年少を選び。戦闘訓練を受けていますわけもなく、教官を兼ねた数名を同伴させ、無責任にも『魔王』討伐を命じましたのよ」
なるほど、言葉のままに、無責任な話だった。
◇
ロゼリアが、少し躊躇う。
今さら、何を躊躇う? つまらない権力争いで、年寄りが保身のために少女一人に責任を押しつけた、以上の何かがあるとでも?
「……端から『魔王』討伐の成否など、どうでもよかったのですわ。少女の生死すら、どうでもよかったのですわ。少女の結末までを計画の第一幕としますならば、少女が記憶を残した『滅魔の剣』、勇者と選ばれし少女の残した強い思いを『心剣士』が振るうことが、第二幕なのですから」
精悍な声だった。ここではないどこかに向けた、怒りが籠もっていた。
オレは、今度こそ、完全に理解した。作戦を進めるために、『少女が武器に残した強い記憶』で戦う魔法使い『心剣士』、が必要だったわけだ。
腹立たしい作戦だ、ってのも理解した。幼い少女を道具同然に使い捨てにして。出来あがったもので戦果を出すために、心剣士まで使い捨てにしようってわけだ。
「前線の将たる私には、中枢の軍議に異議を通せますだけの発言力はございませんわ。見殺しにしたと誹られようと、甘んじて受け入れましてよ。……それでも!」
ロゼリアが、精悍な声で告げる。瞳は凛として、手を当てた胸を張る。厚い化粧には、自負と覚悟のみがある。
「たとえ、若き『心剣士』を死地に追いやりますような作戦だとしましても。勇敢なる少女の生き様まで踏み躙る愚者と成り果てませんために。私たちも同じ死地に立ちますことで、『心剣士』殿の信頼を置いていただけませんかしら?」
勢いに乗せられて『イエス!』と快諾してしまいそうな、カリスマってヤツがある。ロゼリア然り、ゲシュペンスト然り。
でも、その選択肢の先には、冗談抜きの死地があるに違いない。命が惜しければ、断った方がいい。
でもでも、『勇者と選ばれし少女の残した強い思い』を見てみたい好奇心もある。
五つ角『魔将軍』に立ち向かったユーナ王女の記憶でさえ、オレを圧倒した。ならば、六つ角『魔王』に挑もうとした勇者の記憶は、どれほど輝いているだろう? オレの矮小な魂を、どれほど震わせてくれるだろう?
「拒否権は、ありませんけどね」
オカッパメガネ女が、メガネのレンズを光らせ、口の端を吊りあげて笑んだ。
「この場でのやり取りは、他言無用にお願いいたします。強制は望みませんので。熟考と、快い御返事をお待ちしていましてよ」
ロゼリアが鉄扉へと、赤いドレスを翻す。
美月が、鉄扉をギギギギと軋ませて、重そうに開ける。
廊下の明かりが、薄暗い尋問室に差した。オレの答えは、もう決まっていた。『心剣士』にとって、一生に一度あるかないか、生涯最高の体験を、スルーできるはずなんて、なかった。
心剣士
第22話 EP05-01 フェニックス計画/END
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