第21話 EP04-02 不死鳥の勇者
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だが。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だ。
オレと美月は、レオンにスラム街へと連れてこられた。レオンの知人の、装飾品の加工ができる人がいるそうだ。
薄汚れた身形の人たち、スラム街の住民だろう、に交じって、狭い土の道を歩く。服の裾が裂けていたり、ところどころ破れていたり、気になってついつい見てしまう。
あっちもオレたちを、ジロジロと見てくる。オレたちを避ける。顔に傷痕の目立つマッチョのレオンがいるからだと思う。
見るからに悪党すら、レオンが一瞥すると、怯えて逃げるように離れていく。治安が悪いったって、『外地』と比べれば平和なものである。……オレの見せ場は!?
「ここだ」
レオンの先導で、潰れた個人ショップみたいな建物に着いた。建物の前に、木箱に座って、女の人がいた。道端に広げた布にアクセサリーを並べて、露天販売をしてるようだ。
「久しいな、コレット」
「……えっ?! レ、レオン指揮官っ?! ご無沙汰してます!」
女の人が、木箱に座ったまま、レオンに敬礼した。
大人の女の人だ。黒髪のポニーテールに、上はタンクトップで、下は膝を曲げても足首まで隠れるロングパンツってスタイルだ。体の線は細いけど、露出した腕だけは、目を惹くほど筋肉質だ。
ひとまず、レオンの隊にいたことのある人、とは分かる。
「元気にしてたか? 食べていけてるか?」
「はい! お陰様で。軍からお仕事もいただけてますし」
それ以外は、分からない。ヒントが少ない。
表情に出てたのか、コレットがオレを見る。大人が子供に向ける笑みを浮かべる。
「アタシは、コレット。レオン指揮官の隊にいたの。怪我をして、続けられなくなっちゃったけどね」
ロングパンツの裾を捲ると、足首があるはずの中身に、金属の棒みたいなものだけが見える。
「今は、軍の仕事で『スラム街の情報収集』をしながら、手作りのアクセサリーを売ってるわ。最近は皆、ゲシュペンスト騎士団や赤薔薇騎士団の話題ばっかりで、別の情報も持ってこい!、って上司に怒られるんだけどね」
なるほど、だいたい分かった。名乗りには、名乗りを返すのが礼儀だ。
「オレは、新実 健二、中二っす。バイト傭兵の『心剣士』っす。こっちは」
人見知り全開でオレの背中に隠れる美月も、ついでに紹介しよう。
「はぁっ!? 中二でカップルってどういうことよっ?! アタシでさえ二十四年彼氏がいないんだけどっ?!」
コレットが悔しさに顔を歪めて唐突に声を荒げた。年齢が分かった気がした。
◇
「……というわけだ」
「ゲシュペンストにレッドローズって! 大物じゃないですか!」
コレットが、大仰に驚いた。
「そうだったんですね。早とちりしてしまって、申し訳ありません。中二でカップルなんて、世の中間違ってるだろぉぉぉっ!!!、とは思ったんですよ」
レオンの説明で、コレットの荒ぶりが鎮まった。大人が子供に向ける笑みに戻った。
「それじゃぁ、どんな『御守』がご希望かしら? 遠慮なく、コレットお姉さんに話してごらんなさい」
キャラ変わってない?、と思いつつ、オレは考える。『鉄壁のレサリア』に贈るのだから、デザインは盾しかない。じゃぁ、どんな盾をレサリアが喜ぶのか?
「あ、あの」
美月が、オドオドと、ボロボロの長剣を差し出した。美月の姉の記憶が残っていた、まだ僅かに残ってもいるものだ。
「こ、これを、キーホルダーみたいにって、できますか?」
金属のキーホルダータイプは、メジャーな御守ではある。戦場に持ち込んでも、簡単には壊れない。個人データを彫り込めば、非常時に個人の特定もできる。
でも、その剣は、美月にとって、ある意味で形見である。
「いいのか?」
「このままだと、持ち歩きも嵩張るし」
美月が無表情で答えた。
「確かに」
オレも無表情で納得した。
「できるわよ。その壊れようだと、打ち直しも無理だろうし。記念品?、なら、アクセサリーにするのは良案だと思うわ」
「で、でしたら、『不死鳥の勇者』の、『勇者の剣』と、『騎士の盾』と、『魔法使いの杖』のデザインで、三つ、お願いしたいです」
お?! 美月から、その名前が出るとは思わなかった。
何年も前に、『最強のアーティファクトを装備した勇者が仲間と共に魔王を倒す旅に出る』という計画が実行された。作戦名『フェニックス計画』。
オレも子供心に大興奮したものだ。今にして思えば、軍が人類の未来を懸けたにしては雑な計画だが。
世間の熱狂に合わせて、『不死鳥の勇者』という物語がメディアミックス展開された。アニメ、マンガ、ノベル、グッズ、キャラソン、ボイスドラマ、等々。オレも子供心に大興奮したものだ。
ストーリーは王道。勇者と騎士と魔法使いと僧侶が魔王を倒す旅に出て、旅路で様々な出会いと別れを繰り返し、強敵と戦い。
本家の『フェニックス計画』は、妨害対策とかで、経過が完全に伏せられ、続報が皆無だった。次第に話題にあがることもなくなって、引き摺られるように、『不死鳥の勇者』も自然消滅してしまっていた。公式グッズなんて、今さら探して見つかるかどうか。
内容は、もちろん覚えてる。正義感の強い勇者と頼れる騎士は親友で青年、魔法使いは美少女で、僧侶はハゲで髭でメイスでマッチョのオッサンである。
美月の選択から僧侶が外れたのは、美月が魔法使いっぽいからかな? 完全に無関係の情報として、僧侶はハゲで髭でメイスでマッチョのオッサンである。
「いいわね、『不死鳥の勇者』! お姉さんも好きだったわぁ」
勇者はもちろん、騎士も人気だった。敵の謀略で悪人に仕立てられた勇者を守るため、地位も名誉も捨てようとした漢だ。騎士の鏡だ。
「お、お願いします」
美月がオドオドと、ボロボロの長剣をコレットに渡す。
「任せて。久々に楽しい仕事ができそうで、お姉さんも嬉しいわ」
コレットが、満面の笑みで応えた。
◇
朝の教室に、美月が入ってくる。
喧騒が、一瞬だけ静まる。クラスメートは、ゲシュペンストの名を恐れて、美月を避ける。
またすぐに、教室に騒がしさが戻る。
美月は無表情な真顔で、真っ直ぐに自席に、オレの席の横の席なんだけど、早足で来た。
「……」
無言でオレを見てから、チラと横目に、取り巻きの女子二人と談笑するレサリアを見る。オレを見て、盾のキーホルダーを突き出す。
「お! 完成したんだ! いいな~!」
オレが見てもカッコイイ! 騎士を象徴する騎槍が二本交差する紋章が、アニメそのままに描かれる。
「……」
美月が無言で、盾のキーホルダーを、オレの胸に押しつけた。レサリアを横目にチラと見て、またオレを見た。
「オレから渡してくれ……ってこと?」
オレの困惑に、無言の頷きが返ってくる。
美月はレサリアにライバル認定されてるし、昇格祝を受け取ってもらえない可能性も、確かにあるか。
オレは盾のキーホルダーを受け取って、自席を立つ。
「レサリアさん」
名を呼び、こっちを見たレサリアに、キーホルダーを投げる。
「騎士昇格おめでとう!」
華麗にキャッチしたレサリアが、それを見て微笑した。『不死鳥の勇者』を知ってる顔だ。
「センスの微妙な新実君にしましては、素敵な贈り物ですわ。ありがたく、いただきましてよ」
ジャラジャラと数十個のキーホルダーが繋がるメタルリングに、盾のキーホルダーが加わった。
贈られた『御守』の数が、多い。さすが、レッドローズ。家名が強い。
オレはレサリアに軽く手を振って応えて、自席に座った。
「ありがと」
美月が、『勇者の剣』のキーホルダーを、オレの胸に押しつけた。
「……え? オレにも、くれるの?」
オレは、ちょっと予想外で、美月に確認した。
美月が頬を赤らめ、無言で頷く。照れたように目を逸らし、パスケースに付けた『魔法使いの杖』のキーホルダーを見せる。
「……いいな。お揃いか」
オレも何だか照れてしまって、照れ笑いした。何だか、とっても、嬉しかった。
心剣士
第21話 EP04-02 不死鳥の勇者/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




