第20話 EP04-01 スラム街らへん
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。外地なら、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だが。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だ。
中学校の放課後、久しぶりに傭兵ギルドに来た。美月も一緒だ。
といっても、傭兵の募集を探しにきたわけではない。
オレは、いつもの中学校の制服。半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーである。
美月も、中学校の制服。女子は白の半袖ブラウスに黒のプリーツスカートに黒のスニーカーである。
傭兵ギルドは、『内地』のスラム街近くの、『傭兵ギルド』の看板を掲げた、普通の古いビルの中にある。周囲は、寂れた商店街みたいな通りをガラの悪い連中が往来する、怖めの雰囲気の場所である。
傭兵ギルドなんてアングラめいた呼び名でも、裏稼業でも地下組織でもない。傭兵も精々、無法者じゃなくて腕自慢の荒くれ者である、見た目はさて置き。オレみたいに、強い魔法が使える民間人も少なくない。
ここは、『金目当ての民間人』と『即時の戦力増強をしたい軍』との仲介を生業とする、真っ当な企業なのである。
「混んでるな~」
待合席からフロアを見まわす。
募集の紙を貼り出した掲示板に、オッサンたちが群がっている。好条件の募集でもあるのだろうか。オレも見たいけど、美月が一緒にいるので我慢する。
この辺りは『外地』が近くて、電子機器の動作が不安定だ。資料も手続きも、専ら紙とペンなのだ。
「整理券、五一五番。新実さん。応接室の三番へどうぞ」
「ありがとうっす」
比較的年長の、緑髪に細メガネの受付嬢の案内に従って、待合席を立つ。すぐ後ろに、美月が同行する。真夏に暑苦しい大人たちで混み合う、筋肉!、オッサン!、鎧!、戦斧!、戦鎚!、大剣!、オッサン!、髭!、オッサン!、って感じのフロアを横切って、応接室に入る。
「新実 健二『心剣士』殿! 御足労いただき、申し訳ない!」
前線基地のレオン指揮官が、安っぽいソファから立ちあがって、会釈で出迎えてくれた。
レオンは、いかにも前線の騎士っぽい、無精髭でボサボサ金髪の、オレの親より年下であろう若めのオッサンである。体格がよく、顔に大小の傷痕がある。今日は全身金板鎧じゃなくて、筋肉にパツパツのTシャツジーパンを着てる。
「レオンさん! こっちこそ、わざわざ『内地』まで来てもらって恐縮っす!」
オレも会釈で応えた。
「あ、あの、は、初めまして。よろしく、お願いします……」
美月も、人見知り全開でオレの背中に隠れて、オドオドと会釈した。
◇
それぞれが安っぽいソファに座って、安っぽい木のローテーブルを挟んで向き合う。
レオンが、美月をチラと気にして、オレを見る。
「新実 健二『心剣士』殿に頼まれた特別報酬をお持ちしたのだが」
オレは察して、美月を紹介する。
「ゲシュペンスト騎士団長の娘さんっす。ナントリ村の生き残りで、養女になった、って説明で分かっていただけるっすか?」
「……あ、あの、美月 ゲシュペンストです」
「それは! 大物だな!」
レオンが、大仰に驚いた。
「っと、失礼した。事情は察した」
レオンが、麻布で包んだ剣をローテーブルに置く。ボロボロの長剣で、刃は欠け、錆びて、土に塗れて、今にも折れてしまいそうに見える。
「これで間違いないっす。ありがとうっす」
オレの『心剣士』能力が、少女の記憶の残る武器だと告げる。それには、美月の姉の記憶が、まだ僅かに残る。
「一つ角の掃討任務で、前線を離れられなかった。遅くなってしまって申し訳ない」
レオンが頭をさげる。
「レオンさんは指揮官っすから、仕方ないっすよ」
オレは恐縮して頭をさげ返した。
美月が、不思議そうに、ボロボロの長剣のボロボロの柄を握る。『心剣士』でもない美月にとっては、単なるボロボロの長剣でしかない。姉の記憶が残ってるなんて、微かにも感じられはしない。
でも、まぁ、
「これでオレの、『美月のお姉ちゃん』も完遂だな」
感慨深さに、思わず声に出た。
美月とレオンが困惑顔をした。
「あ、こっちの話っす。気にしなくて大丈夫っす」
オレは一応、釈明しておいた。
◇
「しかし、新実 健二『心剣士』殿。特別報酬は、それだけでいいのか? 価値のあるものとは、お世辞にも言えないと思うが」
レオンが怪訝に思うのも当然だ。実際に、価値はない。あるとして、オレと美月にとっては思い出になる、くらいか。
オレ的には、それで十分である。でも、現在進行形で抱える悩み事の相談相手が欲しかったので、ついでに甘えておこうと思う。
「もう一つって言うか、ちょっと相談に乗ってほしいっす。クラスメートが騎士に昇格して、お祝いに何かプレゼントしたいっす」
レオンは騎士である。バイト傭兵のオレより、詳しいに決まってる。
「おおっ!、それは、おめでとう。騎士昇格祝か。お相手は、どのような方かな?」
「赤薔薇騎士団のロゼリア騎士団長の、姪っ子っす」
「それは! 大物だな!」
レオンが、大仰に驚いた。
「っと、失礼した。高価な実用品では贈り物にならないタイプか」
「オレたちの『高価』なんて通用しないっす。湯水っす」
「ならば、定番の『御守』はどうだろう? 価値が価格に依らず、贈られた『御守』の数をステータスとする騎士も多い。親しい者からとなれば、戦場で心の支えともなるだろう」
さすがは本職の騎士だ。実体験か、ってくらい詳しい。
「……『御守』、素敵だと思います」
美月が、真理を得たとばかりに瞳を輝かせた。
レオンが、笑みで頷く。
「自分に、装飾品の加工を得意とする知り合いがいる。丁度この後に、顔を見に行くつもりだ。一緒にどうかな?」
「もちろん、ご一緒させていただくっす」
オレも、笑みで頷いた。
◇
って、ことで、薄曇りの空の下、スラム街に連れてこられた。
スラム街は、一応は『内地』に含まれる。『外地』に接する、『内地』の外周である。
傭兵ギルドからも近い。十数分歩いて、一般の居住区と仕切る有刺鉄線フェンスの、あちこち破れた穴の一つを潜ったらスラム街である。
土の狭い道を挟んで、荒れた古ビル、廃墟みたいな一軒家、ボロい荒ら家、綻びた天幕が、雑多に不規則にズラリと並ぶ。
魔物の勢力が強いときは、『外地』にもなるそうだ。壊れたような建物が密集するのは、魔物の襲撃と住民の出入りが繰り返された結果だ、と授業で習った。
スラム街に住むのは、だいたい、『比較的貧乏な人』か、『犯罪者』と聞く。『比較的裕福な人』じゃないと、一般の居住区には住めない。
だから、治安が悪い。魔物はいないけど悪人が多い。治安維持組織がない分、軍権力のある『外地』より悪い、と授業で習った。
電子機器は、ほぼ動かない。火薬は、かなり効果が落ちる。魔法は、薄らと使える。
物騒な場所と聞くけど、強さの上限は精々、人間相手に粋がる程度の、刃物で武装した人間だろう。そんなの、『外地』ではザコ未満だ。魔物と戦ってると強さの感覚がバグっちゃって、オレが強すぎて申し訳ない。
心剣士
第20話 EP04-01 スラム街らへん/END
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