第18話 EP03-06 撤退戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だが。今は外地にいるから、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
レサリアの騎士昇格試験で、何たる不運か、数十体の一つ角の魔物を率いる、赤黒いヤギのバケモノみたいな三つ角の魔物と対峙することになった。
かなりのピンチだが、オレたちの作戦は単純だ。
オレが一つ角を倒して退路を作る。レサリアが三つ角を抑える。
レサリアがオレの背中を守る。オレがレサリアの背中を守る。この二人に今できる、単純かつ最善だと、オレは考える。
「グァッ!」
ハゲで痩せて腹の出た、手長短足の赤銅色のオッサンみたいな見た目の一つ角が、飛びかかってきた。
オレは、薄汚れた鉤爪を愛妹護剣で受けとめる。逆手に握った杭短剣を、一つ角の蟀谷に突き刺す。
一つ角の魔物が消えて、角が一本、草むらに落ちた。
魔物を倒すと、消滅する。角だけが残る。分かりやすい。
「三歩!」
レサリアに聞こえる音量で声を出した。小幅に三歩、前進した。
次の一つ角が飛びかかってくる。視界の端に、レアリアが三歩後退る。三つ角が、クラウチングスタートのように、四足歩行の獣が身構えるように、地面に低く張りつく。
「ギャッ!」
一つ角の薄汚れた鉤爪を、愛妹護剣で受けとめた。さっきと同じように、杭短剣を蟀谷に突き立てた。
「っ!?」
今度は、刺さらなかった。赤銅色の皮膚に阻まれた。
あ~、なるほど。『一定確率で高い貫通力を発揮する』って、こういうことか。
問題はない。好運には自信がある。
素早く杭短剣を引いて、突き立てなおした。豆腐の感触で易々と突き刺さった。一つ角の魔物が消えて、角が一本、草むらに落ちた。
次の一つ角は……? 近くの一つ角どもが、オレから離れる。ってことは、三つ角の突進が来る!
オレは、レサリアに振り向いた。
「ヴォエェー!」
三つ角が野太く吠えた。
赤い円盾を構えたレサリアから、魔力の圧が広がる。
オレが、事後の補助はできる。でも、レサリアが三つ角の突進に耐えられなければ、補助できる前に、死ぬ。
◇
オレはレサリアを信じる。レサリアは根性がある。
レッドローズの家名は、ゲシュペンストと同列に畏怖の対象だ。レサリアも最初は、美月と同じく、周囲から遠巻きに避けられていた。
レサリアの言動が偉そう、ってのもあった。オレも第一印象は、『係わらないでおこう』だったし。
それでもレサリアは、皆に声をかけ続けた。煙たがられても、無視されても、積極的に挨拶し、自信の笑みで話しかけた。
その積み重ねが、今のレサリアなのだと思う。クラスメートと普通に挨拶を交わして、談笑して。
三つ角がスタートを踏み出した。
レサリアの魔法は、防御型だ。魔力の盾を張るのか、防御力を強化するのか、或いは他の何かか、までは知らない。
人間と魔物が戦争する『外地』では、電子機器が動かない。火薬すら機能しない。爆発物も銃器も役に立たず、剣や弓で戦うしかない。
その代わり、『外地』では魔法が使える。人間の安全生活圏の『内地』には存在しない、『内地』では使えない、魔法という武器を得る。
魔法は、精神力を消費して発動する。呼び方は他にも、魔力、心の力、気力、根性、と色々ある。
まぁ、要するに、根性があるってのは、強い魔法が使えるってのと、同義だ。
三つ角が、まるで物理法則を無視した加速で、レサリアの円盾に激突した。ゴワンッ、と鉄板が波打つ音がして、レサリアが跳ね飛んだ。
◇
オレが補助する!
護剣の魔力で我が身を守りつつ、レサリアの背中を受けとめる。二人一緒に勢いよく、背中から木に激突する。これも、護剣の魔力で緩和する。
「……かっ、はっ」
レサリアが苦しげに息をはいた。生きてた!
「大丈夫か?」
「も、問題ございませんわ」
苦しげに立ちあがるレサリアの背中を押して補助する。
レサリアが円盾を構えた。
三つ角は、すでに、地面に低く身構えていた。
漁夫の利狙いの一つ角どもが数体、飛びかかってきた。
忙しい! こんなの、オレ一人で全部を捌くつもりでいたら、確実に詰んでた!
一体の鉤爪を護剣で受けとめる。もう一体の眉間に、カウンター気味に杭短剣を突き刺す。好運には自信がある。
一体が消えて、角が一本、草むらに落ちた。
護剣で止めた方の一つ角が、離れようと後退った。
三つ角の突進が来る!
オレが振り向く前に、ゴワンッ、と鉄板が波打つ音がした。跳ね飛んだレサリアが、オレも一つ角も巻き込んで、木に激突した。
一つ角の魔物が消えて、角が一本、木の根元に落ちた。
◇
「生きてるか!? レサリアさん!」
オレはパニック気味に声をかけた。補助が間に合わなかった気がした。
「も、問題、ございませ、んわ」
レサリアが、細い呼吸音で、草むらに転がったまま答えた。
「ヴォエェー!」
三つ角は野太く吠えて、すでに、地面に低く身構えている。
……思ってたより、強い。三つ角の魔物と一括りにしても、上級から下級までいて、コイツは上級側なのかな、と思う。
周囲は、一つ角どもが回り込んで、包囲しなおされている。どいつもこいつも、赤一色の目を見開き、大きく裂けた口から濁った涎を垂らして、殺気に満ちる。オレたちを逃がす気が、あるわけもない。
「レサリアさん。盾役を何回か代わる。その間に呼吸を整えといて」
オレは、護剣を構えて、三つ角の正面に立ち塞がった。
碌に時間を稼げてない。碌な時間を稼げる気がしない。
美月たちは、どのくらいで駆けつけてくれるだろうか。それまで、オレとレサリアは持ち堪えられるだろうか。
「でし、たら、一つ、角、は、ワ、ワタクシ、が」
レサリアが、円盾を杖代わりにして、フラつく足で立ちあがる。自信家で高慢な御嬢様って顔に、苦痛に歪もうと、諦めなんてあるわけがない。
……否! 持ち堪えてみせる! 『心剣士』が、最強クラスの魔法使いが、先に諦めてどうする!
むしろ、一つ角を全滅させて、三つ角を討伐してしまっても構わんのだろう?
「ヴォオォォーー!」
三つ角が、スタートを踏み出した。まるで物理法則を無視した、凄まじい加速だった。
その瞬間、バギバギッ!、と木々の割れる轟音が轟いて、前方の森が潰れた。
◇
「……?」
透明な何かに上から押し潰されたみたいに、森が潰れた。魔物どもがいる範囲、数十メートル四方ほど。何が起きたか分からないけど、森が潰れた、オレも意味が分からないけど。
一つ角どもが、地面に這いつくばり、押しつけられ、潰れて、消える。三つ角でさえ、地面に押しつけられ、減り込み、身動きできないでいる。
背後から、ガチャン、ガチャン、と金板の打ち合う、堂々たる金音が聞こえてくる。
オレは、呆然として、振り返る。
「……!」
そこには、赤いパーツがドレスのようなデザインの金板鎧で、赤いカイトシールドを構え、背の高い女が凛々しく、静かに佇む。赤薔薇騎士団の騎士団長『ロゼリア』である。
「お二人とも、無事ですわね?」
「ロッ、ロゼリア伯母様! ……あっ?!、ロッ、ロゼリア騎士団長!」
また言い間違ったレサリアが、恥ずかしそうに赤面した。
ロゼリアの後ろに、美月もいる。
ロゼリアが、周囲を見まわす。
「これは……」
レサリア、オレ、三つ角の順に見てから、安堵混じりに小さく息をはいた。
「お二人とも、よくぞ持ち堪えました。騎士団には厳重な再調査と、討伐隊の派遣を命じますとして」
地面に減り込みながらも未だ健在の三つ角を、堂々と見据える。
「私も、万全とはいきませんので。三つ角を潰すには至りませんわ。止めを、お願いできますかしら?」
ロゼリアの精悍な声には、迫力と威圧感がある。同時に、頼もしさと安心感もある。
何が起きたか分からないけど、何が起きたか予想はできる。魔力の盾みたいなもので、上から押し潰した感じだと思う。万全なら四つ角とすら渡り合える防御魔法を、攻撃に転用した、範囲と威力が想像を絶するけど。
「畏まりっす」
オレは答えて、美月に駆け寄って、杭短剣を差し出した。
美月が戸惑う。
「美月が、もう過去を引き摺ってないのは分かってるつもりだ。でも、この最初で最後の機会を傍観で終わらせたら、それはそれで後悔が残ると思うぜ?」
「……そう、そうね」
美月は、迷いながら、頷いた。オレの手にある杭短剣を握った。
「大丈夫だ。オレも、一緒にやる」
オレも、一緒に杭短剣を握った。姉的な心情で。
「こっ、これはっ! ワタクシの試練でしてよ!」
レサリアも、一緒に杭短剣を握った。
三人で一緒に、大事を成す。
経緯はどうあれ、この結果は、オレと美月とレサリアにとって、一生を美しく彩り続ける大切な思い出となるだろう。掛け替えのない、強い絆となるだろう。
心剣士
第18話 EP03-06 撤退戦/END
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