第16話 EP03-04 レサリアの初戦闘
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だが。今は外地にいるから、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
レサリアの騎士昇格試験で、平和な農村に近い森に出た一つ角の魔物を討伐する。
オレとレサリアで、村へと流れ込む川の、森から流れ出るところに着いた。これから森に入って魔物を探す、が討伐への第一歩だ。
オレは軽い口調で、レサリアに声をかける。
「明るい森だな。取り敢えず、川沿いに進んでみるか? 比較的だけど歩きやすそうだし」
レサリアは、ガッチガチに緊張してる。赤髪ロング縦巻きロールが小刻みに揺れ、歯をカチカチと鳴らし、小柄な細身に纏う赤い重装金属鎧も、小さい金属籠手に握る赤い円盾も、震えにガチャガチャと騒ぐ。
その緊張を解きほぐしてやろうと声をかけてはいるが、効果がない。
レサリアは、実際に魔物と戦うのが初めてなのだろう。怖さと不安と心配で、緊張が頂点に達しているのだろう。
「リラックスだぜ、レサリアさん。魔法の基本は?」
オレは軽い口調で、レサリアの金属肩当てに手を置いた。
「ま、魔法の基本は、へ、平常心です、わ。そっ、それくらい、新実君に言われなくても、わ、分かっていましてよ」
レサリアが、森の中を睨んだまま、震えて歯をカチカチと鳴らしながら答えた。
「正解! 魔法の基本は、明鏡止水の心だぜ!」
オレは、思いっきり明るい声で、ウィンクした。
◇
「少し、落ち着きましたわ」
木の切り株に座るレサリアが、赤い水筒の紅茶を飲んで、深く息をはく。まだ微かに、手が震える。
「オレは、スポーツドリンクを凍らせてきたぜ」
オレも別の切り株に座って、雷竜柄の青い水筒を開ける。……まだ溶けてない……だと?
川沿いに進んで、ときどき木々の奥に入ってみて、と一時間くらい歩いた。魔物には遭遇できていない。
重装金属鎧が一歩ごとにガッチャンガッチャン響くから、魔物から見つけてくれると思う。所詮は一つ角、襲いかかってきてもらえさえすれば、瞬殺できる。
木々が疎らで、奥まで明るい森だ。地図で把握してる感じ、広い。足元は、膝丈くらいの草が茂って、歩きにくい。
鳥の囀りも、セミの声も聞こえる。途中でウサギを見かけた。草音にビックリしたら、可愛いウサちゃんだと分かって、レサリアの緊張が大幅に解れた。
オレの立場は!? いや、結果好ければ、いいんだけどさ。
「ところで。新実君は『心剣士』ですのに。どうして、美月さんに武器を借りていらしたの?」
水筒を振るオレに、レサリアが話を振ってきた。
「そりゃもちろん、『心剣士』の武器は、使用条件が面倒だからさ。ザコ相手なら、汎用武器の方が面倒がなくて好いんだ」
何度でも、心の中で叫ぼう。『少女が強い記憶を残した武器』って、何だ!? どこに行けば手に入るんだ!?
「そういうものですのね」
レサリアが、納得したような、納得してないような顔で、納得した。
「レサリアさんは、防御型ってことだけど。戦い方の要望とか、ある? 合わせるけど?」
オレくらいの強者になれば、一つ角の討伐ごときは楽勝である。コンビニ行く?、と同じノリで聞ける。
◇
不意に、バサバサと鳥の飛び立つ音がした。草を掻き分ける音が続いた。
来た! 多分!
「レサリアさん! 盾構えて!」
オレは切り株から素早く立ちあがる。右手で逆手に杭短剣を抜く。左手で愛用の小剣を抜く。
おそらく、この小剣が何か、ずっと気になっていたことと思う。これこそは、何を隠そう、身悶えするほど可愛くて可愛くて仕方ない妹が毎日オレの安全を祈ってくれる、守護女神!、圧倒的感謝の愛妹護剣なのである!、ある!
「えっ!? あっ?! あっ!」
レサリアが動揺して、水筒をお手玉しながら腰の革袋に差し込んだ。金属籠手に手を突っ込んで、固定用のベルトを、金具に上手く通せなくて、
「ゆっくりでいい! オレが相手しとく!」
オレは草音の方に駆け出した。
「グァッ!」
木の陰から、ハゲで痩せて腹の出た、手長短足の赤銅色のオッサンが飛び出した。
額に一本の角! 一つ角の魔物だ!
赤銅色のオッサンが全裸で森林浴してるわけないから! オッサンは赤一色の目を見開き、大きく裂けた口から濁った涎を垂らし、赤黒い体を躍動させて醜悪に咆えないから!
一つ角が振りあげた腕の先端に、薄汚れた鉤爪が二本V字に伸びる。赤銅色の細長い腕が、鞭の撓りで振りおろされる。
鉤爪を小剣で受けとめた。ガキンッ、と鋼の硬さが打ち合う音だった。
普通の人間が魔法無しなら、歴戦のマッチョだろうと押し倒される勢いだ。一つ角でも人間より強い。
だが! 守護女神の愛妹護剣の加護をチョッピリ使えば、容易に弾き返せる。
見える! 見えるぞ! 大好きなお兄ちゃんのために祈る愛妹ちゃんの愛くるしい姿が!
「ギャッ?!」
弾き返された一つ角が、その場に踏みとどまって、汚く咆えた。両手の鉤爪を左右に振りあげ、身構えた。
まだまだヤル気と見える。そうこなくっちゃ困る。
◇
「おっ、お待たせっ、いたしましたわ!」
レサリアが、オレの前に踏み出した。赤い重装金属鎧をガチャリと重く鳴らして、赤い円盾を金属肩当て越しに構えた。
流石は未来の騎士様、盾の構え方が様になってる。いよいよ初めての実戦で、緊張は復活してる。
「レサリアさんは、ソイツの動きを止めてくれればいいから」
オレの声が聞こえているのかどうか。臨戦の状況で、確認する余裕はない。
「グアァッ!」
一つ角がレサリアに飛びかかった。両手の鉤爪を、レサリア目掛けて振りおろした。
ガキンッ、っと、赤い円盾が鉤爪を受けとめる。V字の二本が両腕分、で四本を受けて、盾はビクともしない。
「グアアアアッ!」
一つ角は、円盾に鉤爪を引っかけたまま、盾越しに、レサリアに咬みつこうと迫る。
「ひっ!? ひぃっ?!」
レサリアが高い悲鳴をあげた。
問題は、ここからだ。実戦、特に、自分を殺そうとする敵を目の前にして、殺意に恐怖して委縮するのは当然の反応だ。その試練を乗り越えずして、敵に打ち勝つことはできない。
レサリアが、仰け反り気味に、金属長靴を退く。一つ角が、レサリアの顔に食いつこうと、盾を押しさげながら前のめる。
ここは一度、オレが割って入って仕切りなおすべきか?
でも、レサリアの実力なら、冷静に対処できさえすれば、一つ角なんぞには負けないはずだ。
レサリアが、草に足を滑らせ、片膝をつく。
「えっ!? あっ、ひっ?! い、いやっ!」
完全に混乱したレサリアに、一つ角が押し倒そうと覆い被さる。
……ダメだ! 割って入る!
「りゃっ!」
オレは、一つ角のオッサン染みた顔面を、小剣で打ち据えた。
一つ角は仰け反って、数メートルを跳び離れて、顔を顰めた。
これが、『心剣士』の魔法の面倒なところである。愛妹がオレの安全を祈る思いを込めた小剣だから、オレを守るときに最高出力を発揮する。オレ以外を守るとか、魔物を攻撃するときは、出力が目に見えて低下する。
今回はオレが討伐しちゃいけないから、顔を顰める程度でも、問題ないけど。
「グッ、グッ、グッ、グギャーーーーーッ!」
負け犬の遠吠えみたいに大々的に咆えて、一つ角はオレたちに背を向けて逃げ出した。
「……えっ?」
オレは拍子抜けして、思わず声が出た。
いやいやいや。今は、それより、レサリアだ。
「大丈夫か、レサリアさん?」
レサリアは、地面にお尻を付けて座り込んで、涙目でオレを見あげていた。
「……ま、まぁ、なんだ。最初は誰でも、そんなもんだろ? 次、ちゃんとすれば、いいさ」
オレには、作り笑顔で、慰めるしかできなかった。
心剣士
第16話 EP03-04 レサリアの初戦闘/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




