第15話 EP03-03 騎士昇格試験
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学二年生の、ごく普通の男子だが。今は外地にいるから、少女が武器に残した強い記憶で戦う魔法使い『心剣士』だ。
「ふぁ~っ」
眠い。欠伸が出た。
オレは、早朝の、外地の、農村を囲む木板の柵の、木製の門扉の前にいる。
暗いうちから、黒塗りの高級車が迎えに来た。外地は軍用の箱馬車に乗り換えて、揺られて、夜明け前に、この農村に着いた。
何処であれ、何であれ、オレは中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーである。腰には、愛用の小剣をさげる。
「やっぱり、試験の協力者一名が『心剣士』ってのは、狡くないか? 一応、最強クラスの魔法使いって呼ばれてるわけだしさ」
正式な騎士になるための騎士昇格試験に臨むレサリアに、軽い口調で声をかけた。
レサリアは、赤髪ロング縦巻きロールの、クラスメートの女子である。小柄で、体が上から下まで細くて、自信家で高慢な御嬢様って顔をしてる。
赤薔薇騎士団の見習い騎士にして、自称するは『鉄壁のレサリア』。赤い重装金属鎧を細身に纏い。赤い金属籠手に直径一メートルほどの赤い円盾を握る。
「人脈も騎士の実力でしてよ」
レサリアが緊張気味に答えた。
「それでいいなら、いいけどさ」
オレは内心、そんな適当でいいのか?、と不安になった。レギュレーション違反で失格になっても責任は取れないぞ?
……いや、オレが心配しても無意味か。即座に切り替えて、美月に向く。
「騎士団の武器、借りてきてもらえたかな?」
「借りることはできたけれど。管理が厳しくて、ランクの低いアーティファクトしかないわ」
美月が、少し申し訳なさげに答えた。
美月は、オレのクラスメートの美少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
え?、いや、あの、大騎士団の武器庫なら短時間魔法付与された長剣くらい出してくれるんじゃないの、と高望みはしていたのだが。まさか、個人に超強力装備を貸し出すのは、管理が激甘だと思う。
黒の革の鞄から、美月が短剣を取り出す。杭に近い形状で、茶色の革を巻いた感じの鞘と柄で、返り血が垂れて変色したみたいな黒い染み模様がある。……それ、呪われてない?
「突き刺せば、一定確率で高い貫通力を発揮するわ。汎用性はないけど、攻撃特化の武器だから。防御型との共闘で相性がいいって、ギドベックが言ってたの」
差し出された短剣を、ギドベックって誰だろう、と思いながら受け取る。アーティファクトの管理をしてる人、とは予想できる。
オレは革の柄を握り、革の鞘から抜く。見た目は、刃渡り十数センチの鉄の杭である。好かった、呪われた装備ではない。
鞘の中からメモ用紙が出てきた。『美月の頼みごとは久しぶりだ。ありがとう! ギドベック』と書いてあった。
ギドベックって誰だろう、と思いながら、短剣を鞘に納める。
「ありがとう、美月。ギドベックさんにも、お礼を言っといてくれ」
ギドベックって、どんな人だろう。
◇
「それでは、試験内容を説明いたしますわ」
赤いパーツがドレスのようなデザインの金板鎧で、背の高い女が、精悍な声で告げた。
オレとレサリアが並び立つ目の前の、その人は赤薔薇騎士団の騎士団長『ロゼリア』である。その後ろには、赤い全身金板鎧のゴツい騎士二名を従える。
面と向かうと、ゲシュペンスト騎士団長に負けず劣らず、迫力と威圧感と圧迫感が凄い。
噂に違わず、厚化粧も凄い!
「……」
ロゼリアがオレを睨んだ。アイシャドウばっちり、マスカラべったりの目と目が合った。
あっ、ちっ、違っ、違うんです! 立体感があって化粧映えがゴージャスですね!
「協力者は、ゲシュペンストのところにいた、確か、新実 健二『心剣士』殿、でしたかしら」
オレは怖い。レサリアは、ずっと緊張してる。
「人脈も騎士の実力ですわ。事前の準備は合格点、といたしましょう」
ロゼリアが、オレを睨みながら採点した。
レサリアが、緊張のままに口を開く。
「あっ、ありがとうございます、ロゼリア伯母様、……あっ?!、もっ、申し訳ありません、ロゼリア騎士団長! つい、いつもの呼び方が出てしまいましたわ」
言い間違えて、恥ずかしそうに赤面した。
オレは、『こっ、こんな状況って現実にあるんだ?!』とビックリした。
美月が、『こんな恥ずかしいことを自分は求められていたのか!』と理解した顔で、頬を赤らめ、ワナワナと震えていた。
ロゼリアが精悍な声で続ける。こちら側も、聞くだけで気が引き締まる。
「この近くの森で、一つ角の魔物の目撃情報があり、被害も出ていましてよ。数は一体、『ユーナベルム戦場』から逸れたと見られ、その討伐が正式な騎士昇格の条件となりますわ」
「お任せくださいませ、ロゼリア騎士団長! このレサリア、騎士の誇りにかけまして、討伐してみせますわ!」
レサリアが力強く応えた。
「但し、一つ条件がございますわ。『心剣士』殿の御力のみで討伐しては試験の意味が損なわれますので、レサリアちゃ……、レサリア見習い騎士が対象の動きを止めた状態で、『心剣士』殿がトドメを刺す、こと。お二人とも、よろしくて?」
「騎士の誇りにかけまして!」
「畏まりっす」
その条件なら難しくない、とオレは思う。もともと、レサリアが実力を試される場である。オレが過剰に出しゃばる気は、最初から無い。
「よろしくてよ。お二人とも、お行きなさい。私は、ここで、吉報を待たせていただきますわ」
ロゼリアが、精悍な声で、終始、凛とした表情で、試験の開始を告げた。
「ワタシも、村で待ってるから。怪我しないようにね」
美月も、その場に残って、手を振った。
「任せとけ! ……てくださいっす!」
まだ朝も早い。村の人たちは、とっくに農作業に取りかかる。
涼しい風に吹かれながら、オレとレサリアで、森を目指して歩き出した。
◇
夏の快晴だけど、外地で朝で川沿いだと、涼しい。
森から村へと流れ込む川に沿って歩く。川は農地に挟まれて、川沿いには土を踏み固めた道と、農地に川の水を引き込む細い用水路がある。用水路には木板の橋がかかって、踏むと軋む。
農地は何かの農作物が、穀物か野菜か、青々と茂ってる。農作業に勤しむ大人の人たちが、オレたちに手を振ったり、頭をさげたりする。オレもレサリアも、手を振り返して応える。
平和な農村だ。水源の森に魔物が出た、は一大事だ。
森は魔物の拠点になりやすいけれど、一般的に、町や村に近くても手を加えることはない。人間と魔物が生活圏を激しく奪い合う現状で、外地の土地の維持を見込める年数は短い。森を切り開くにしても防衛用の砦を築くにしても、コストがリターンに見合わないのだ。
森が魔物の拠点になれば、近隣の農村は放棄される。そこの農家は、別の農地を探して放浪するしかなくなる。そうならないように、森に現れた魔物は早急に討伐する。
オレは、緊張したレサリアの横顔に、軽い口調で声をかける。
「で、どうする、騎士様? 森の近くを彷徨いて魔物を誘き出す、ってのが定石だと思うけど?」
「そそっ、そのように悠長にしましては、村の方に、さっ、更なる被害が出てしまいましてよ。も、森に入って、まっ、魔物を探すに、きっ、決まってますわ」
レサリアが、震えて歯をカチカチと鳴らしながら答えた。
「そう、こなくっちゃな! 流石は騎士様だ!」
オレは思いっきり明るい声で、レサリアの背中を叩いた。金属板が硬く鳴って、掌がちょっと痛かった。
心剣士
第15話 EP03-03 騎士昇格試験/END
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