第13話 EP03-01 鉄壁のレサリア
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
今日は平日で中学校の教室にいるから、中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーである。
担任のインテリメガネ、三十四歳独身男性、が、教壇に立つ。いつも、ちょっと高価そうな、ストライプのスーツを着てる。
「朝のホームルームを始める。突然だが、転入生を紹介する」
長身で痩せて目が細くて、生徒を細目で見おろすように見る、数学教師だ。身体的特徴が理由と分かっていても、生徒側はあまり好い気分はしないヤツだ。
「本日より、皆さんと学び舎を共にする、美月 ゲシュペンストです。よろしくお願いします」
担任の隣に立つ美月が、無表情で、軍人っぽい俊敏さで頭をさげた。
美月は、内地では普通の中二女子だ。体は華奢で、ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。
今日は軍服ではなく、中学校の制服、白の半袖ブラウスに黒のプリーツスカートに黒のスニーカーである。
教室が騒つく。
理由は、考えるまでもない。美月がカワイイから、ではなく、ゲシュペンスト騎士団長の娘、正確には養女、だからだ。
「静まれ! 察しろ! 仲良くしろ!」
担任が雑に纏めた。生徒の相手は極力避けたい、と隠さず顔と態度に出す、大体こんな感じの教師だ。
「席は新実の隣。後は新実に任せる。ホームルーム終わり!」
「起立! 礼! 着席!」
生徒たちの着席を待たずに、担任はそそくさと教室を出ていった。
「おはよう、健二」
「おはよう、美月」
美月が、オレの隣の席に座る。
二人で話し合って、内地でも名前で呼び合うことにした。名字のゲシュペンストで呼ぶと、その度に周囲がビビるのが容易に想像できるからだ。
「普通の学校って、不思議な感じね」
美月は、周囲に悟られないように、目線だけで教室を見まわす。それなりにワクワクしてるようで、頬を赤らめる。
「そうか? いつもこんな感じだぜ?」
オレは、ひとまず安堵しつつ、明鏡止水の心で答えた。これが、過保護にならないように、さり気なく見守る、保護者のドキドキってヤツか!
オレと美月の親しげな会話を、周囲の生徒たちは興味津々と戦々恐々を半々くらいで見てる。
ゲシュペンストの姓は強烈だ。四つ角の魔物を討伐した英雄であると同時に、外見が威圧感ある強面で眼帯の初老男なのだから。その関係者と聞いて、ビビらないわけがない。
◇
ちなみに、『ユーナベルム戦場』の四つ角『ヴォモス』の討伐には至らなかったそうだ。あの三つ角も、後一歩まで迫ったが討ち取れなかったらしい。
赤薔薇騎士団長『ロゼリア』が腰をやらなければ或いは、が全会一致の最終見解と聞いた。腰は仕方ない。
あの作戦の最高功績は、ヴォモスを抑え被害を最小限にした赤薔薇騎士団。回収したユーナベルムの宝剣が激しく損壊してたから、ゲシュペンスト騎士団の功績評価は低い。作戦自体も、そんな戦果では失敗と断じられて已む無し。
オレが提供したユーナ王女の情報は、『物証がない』という理由で参考記録に留まった。オレの恥ずかしい秘密が露呈するリスクを冒したのに!
状況証拠すら、『ユーナベルム戦場』の『魔将軍』の目撃情報が一年間一つもない、くらいしかないから。公的記録として採用されると思っていたわけじゃないけど。
大人ってヤツはロマンが分かってない! と悔しさも一入だ。奇跡だった!、英雄だった!
でも、詳細に言及すればするほど、オレが『少女の記憶で戦う』って感づかれる可能性が高まる。それだけは避けたい。周知されて、友だちに噂とかされると、恥ずかしいし!
……まぁ、いいか。オレ的な戦果は、あった。ようやく美月が色々な柵から解放されたことだ。
美月は過去の束縛から抜け出して、未来に向けて今を生きる選択をした。普通の女子として、内地の普通の学校に通うことを受け容れた。それだけで、素直に嬉しかった。
同い年の男だけど、姉的な心情で。
◇
「ずっと軍学校に通ってたから、勝手が分からなくて。色々と教えてね?」
「それは任せろ。オレは内地なら、何の取柄もない普通の男子だからな」
オレは自信満々で、カワイイ女子の手前、キメ顔で安請負した。
「計画性皆無の新実君では、全く頼りになりませんわ。ここは、このワタクシ、『鉄壁のレサリア』が。同じ戦場に立った誼で、仲良くしてさしあげてもよろしくてよ?」
一人の女子生徒が、ゲシュペンストの名に怖じることなく、美月の席の前に立った。
「おう、お早う、レサリアさん」
オレは席に座ったまま、雑に挨拶した。
「お早うございます、新実君」
レサリアが丁寧に挨拶を返してきた。
「……誰?」
美月が困惑顔で、オレに聞いてきた。
「……っ!?」
認識の相違に、レサリアがショックを受けた。
レサリアは、赤髪ロング縦巻きロールの、クラスメートの女子である。小柄で、体が上から下まで細くて、自信家で高慢な御嬢様って顔をしてる。中学校の制服、白の半袖ブラウスに赤のプリーツスカートに赤の革靴である。
「……赤いけど?」
美月が困惑顔で、オレに聞いてきた。
「制服なんだけど、有力者の関係者とかは、『内地』でも融通が利くんだよ。『外地』での軍の治外法権みたいな感じだな」
オレは雑に答えた。
「ちょっと、男子ぃ! レサリア様が家名で我が侭を通したみたいな言い方は、失礼じゃなぁい?!」
「そうよそうよっ! レサリア レッドローズ様が、そんなケチな真似するわけがないでしょっ!」
レサリアの取り巻きの女子二人が、遠く離れた教室の隅から言い掛かりをつけてきた。一人は高身長で一人は太め、以外に特徴のない、普通の女子生徒だ。
ゲシュペンストの名が怖い気持ちは分かる。オレも、美月は怖くなくても、ゲシュペンスト父は怖い。
「……レッドローズ?」
美月が困惑顔で、オレに聞いてきた。
オレは、ようやく考え至る。
「あ、そうか! レサリアさんも、あの『ユーナベルム戦場』に参戦してたんだ? 四つ角の真正面にいたとか、凄いな」
「バッ?!、相変わらずのオバカさんですわね、新実君は! 見習い騎士のワタクシが、前線に立てるわけがございませんわ。後方支援のお手伝いに決まってますでしょう」
レサリアが、恥ずかしそうに赤面しながら、慌てて訂正を自己申告した。
「……?」
美月が困惑顔で、オレを見た。
オレは雑に答える。
「レサリアさんは、赤薔薇騎士団長『ロゼリア』の姪っ子なんだ」
「ロゼリア伯母様の妹の娘ですわ」
レサリアが、自身の清々しいほどに平らな胸に手を当て、誇らしげに補足した。
クラスでの愛称は、『絶壁のレサリア』である。何が絶壁か、詮索してはいけない。
「悪い人じゃないから、仲良くするくらいはいいと思うぜ?」
「新実君の言い方が引っかかりますけれど。いつかは赤薔薇騎士団の長となります身。損はさせませんから、安心なさい」
レサリアの小さな手が、美月に差し出される。
オレは、二人の握手の瞬間を心待ちにして、キラキラと輝く瞳で見つめる。これが、きっと、美月の初めての同い年の同性の友達に、生涯の親友との出会いになる。きっと、一生を美しく彩り続ける大切な思い出になる。
美月が、顔に迷いを出しながら、手を差し出そうとする。出そうとして、迷って、引っ込めようとして、迷って、出そうとして、迷う。
「……ワタシ、結構、人見知りみたいだから。やっぱり、今は、遠慮しとくわ」
美月が、遠慮がちに、手を引っ込めた。
「……っ!?」
「……っ!?」
あまりにも予想外の結果に、オレも、レサリアも、大きなショックを顔に出した。
心剣士
第13話 EP03-01 絶壁のレサリア/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




