第10話 EP02-05 潜入作戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。人が武器に残した強い記憶で戦う、『心剣士』だ。
防具なんて持ってないから、いつもの中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーで戦場にいる。腰には、愛用の小剣をさげる。
この『ユーナベルム戦場』で、八年前に六歳の美月を襲った三つ角の魔物と遭遇した。
対抗すべくオレは、美月が武器に残した記憶から、ゲシュペンスト騎士団千名に強化魔法をかけた。
「新実 健二『心剣士』殿! 悪いが、家族の仇は! 我ら家族が討たせてもらう!」
重装金属鎧の騎士も、軽装金属鎧の兵士も、我先にと踏み出し、前のめりに、魔物どもに渾身の一撃を叩きつける。それでいて足並みは揃い、まるで、荒れ狂う斬撃の波である。
強化がオレにもかかって、勢いで雄叫びをかましてしまったけど。オレの出番はここじゃないし、出る幕もなさそうだし、熱血な千名に割り込めるほど積極的な性格もしてないし。
已む無し。今はまだ、機を逃さないために静観しよう。
……叫んだ手前、ちょっと恥ずいな。
◇
驚くべきは、千人もの大勢に強化がかかったことだ。
残った記憶から精神力を流用する性質上、『心剣士』の効果範囲は縁者に限定されやすい。怒りの対象にこそ最大火力が出せるし、守りたいもののためなら最も堅固な守りとなる。
強化だって、力になりたい相手じゃないと、十分な効果は発揮されない。それが千人って、ゲシュペンスト騎士団の多くが美月を大切にして、美月もそれを実感している証左である。
「……ん?」
後ろから地鳴りが聞こえて、オレは振り返った。
馬上で片手を掲げたゲシュペンストの後方に、騎馬隊の姿がある。百騎以上、土煙をあげて駆け、ゲシュペンストが掲げた手を振りおろすのに合わせて、その左右を駆け抜ける。
騎馬隊だ! 戦場で見るのは珍しい!
実用性は低くても、格好いい! 勇壮さを見てるだけで燃える!
大型の馬が白銀の鎧を纏い、全身金板鎧の騎士が跨り、陽光にギラギラと輝く。脇に抱える馬上槍は、鋼の傘を畳んだような形状の『剛バネ炸裂騎槍』である。
凄く硬いバネを内地の大型機械で曲げて固定した、バネ炸裂式の使い捨て馬上槍だ。高威力で多角の魔物にも通用するけど、重く嵩張る、使い捨てで高コスト、扱い損なうと使用者が弾け飛ぶ、と難点も多い。
凄い、格好いい! 戦場で見るのは珍しい! 何はともあれ実用性は低いけど!
「突撃ーっ!」
先頭の騎士の号令で、騎馬隊が加速した。魔物どもの端に、加速のままに突撃をかけた。
凄い! 格好いい!
魔物どもは、歩兵の猛反撃で戦意が鈍ったところに、騎馬隊の強烈な不意討ちを受けた。
三つ角の周囲は、突撃を受けた端から遠いし、さすがに慌てないか。一緒に二つ角が二体いて、一つ角もたくさん集まってる。やっぱり、集団戦で集団のリーダーってヤツは、簡単には討てそうにない。
でも、そこ以外の一つ角どもは、軽くパニックになってる。騎馬隊と土煙に隠れて、はっきりとは見えないけど。乱雑に獣爪を振りまわしながら、土煙の中を当てもなく右往左往する。
魔物の軍は、完全に混乱状態だ。
……ん? 敵の混乱に乗じて?
……ここだ! オレは、完全に理解した。
「お、おい、美月! 『……その時になれば、分かる』ってヤツ!」
オレは、右目を手で覆い、難しい顔をして、微妙にゲシュペンストの声音を真似ながら、美月の手を引いた。
◇
魔物どもに見られずに、森に入れたと思う。
オレは、『ユーナベルム城』がある森の中を、美月と二人きりで、美月と手を繋いで歩く。頭上を覆う木の葉の隙間から、キラキラと日が差す。どこからともなく、蝉の声や鳥の囀りが聞こえる。
美月は、オレと同い年くらいの少女だ。ピンク髪のショートヘアで、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。体は軍人にしては華奢で、黒の半袖の軍服に、黒のミニスカートを穿いて、素肌の腕脚が細く伸びる。
「こうして見ると、長閑だよなぁ」
オレは、木々を見まわしながら、誰にともなく声をかけた。
「察知されないからって、暢気すぎ。ちょっとは警戒しなさいよ」
美月しかいないから、美月が答えた。
美月は、魔物に認識されなくなるアーティファクトを手に握る。白い宝石の嵌まった金色のナイフで、手に握って効果が発動する。もう片手で握った一人まで、効果を拡大できる。
つまり、今の美月は魔物に認識されないし、美月と手を繋ぐオレも魔物に認識されない。
そもそも、見える範囲に魔物がいない。
「杞憂だって。魔物は組織的な行動をしないからな」
オレは、お気楽に答えた。
「でも、平原に集団で襲撃してきてるでしょ?」
「そう。ボスが平原に出たから、全員で平原に出る、はする。でも、本隊が平原に出て、一部は森の中に残って警備する、みたいなことはしない」
理由は知らない。出来るのか出来ないのかすら分からない。魔物の考えなんて、人間に理解できるわけもない。
「あ、あったわ! 大門が破壊されてるところから入るわよ。情報があるのは、ここまでだから」
美月が指さす先に、高さ十数メートル、町を囲む石壁が見えた。縦横十メートルサイズの、折れ曲がって歪んだ黒鉄の大門も見えた。潜れば、きっと町の廃墟があって、広い敷地の中央に堅固な城があるはずだ。
◇
「やっと着いたぜ……」
「やっと着いたわね……」
オレも美月も、汗だくで荒い息遣いで、真上を見あげるほど高い城壁を見あげた。
魔物はいなかったけど、町が思ってたより広かった。道も瓦礫だらけで歩きにくかった。
濡れたシャツが肌に張りついて気になる。美月も、太腿に張りつくミニスカートを気にして、剥がすように摘まむ。
目線を、高い城壁の陽光に霞む天辺から、美月のミニスカートから、前へと戻す。
潜入路は、悩まずに済みそうだ。高々と堅牢な石積みの、灰褐色の城壁が、一部を抉られて、大穴が開いていた。何ものが、どれほどデタラメなパワーか、考えたくもなかった。
美月と手を繋いだまま、城壁の大穴を潜る。大穴すぎて、普通の野原を歩いてる感覚しかない。
ここまでの町の、まだ常識の範囲内の壊され具合と比べると、異常な規模の異常な破壊跡である。これが『魔将軍』の強さってヤツか?、と考えるのはやめよう。怖すぎて逃げたくなる。
オレは、横を向いて、美月を見る。手を繋いでるから近い。ちょっと照れる。
「で、どうやってアーティファクトを探すんだ?」
美月も横を向いて、オレを見る。近い。目が合うと、さらに照れる。
「通常時は精神力消費抑え目だから、近くにないと見えないわ。怪しい場所があれば、精神力を多く使って広範囲を探索する感じね。障害物の向こうでも、埋まってても、分かるから」
分かって当然、とばかりに堂々としていた。美月に任せて問題なさそうだ。
「そっ、そりゃ、凄いな」
オレは、目を泳がせながら称賛した。
城と思しき超大きい建物を目指して、手を繋いで、野原を歩く。すぐに、美月が足をとめる。手を引かれて、オレも足をとめる。
「城の中にあると予想していたけれど。思ったより、呆気なかったわね」
独り言のように言う美月は、野原の中央辺りを見ていた。
茂る草葉の中に、ジグザグしたデザインの、灰色の石で装飾された、荒々しい雰囲気の柄が、無造作に転がっていた。見た目は兎も角、普通サイズの柄だ。刀身は、根元から折れたようで、無かった。
心剣士
第10話 EP02-05 潜入作戦/END
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