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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある夏の日

作者: Vixtory_Xa

 あれはよく晴れた夏のことだった。

 朝起きると、時刻は既に午前8時を回っていた。時間を無駄にしたと思うとショックを受ける。リビングに降りると、母の置き手紙と朝食が置かれていた。手紙には急用ができたから早く出る旨と家を出るなら鍵を閉めるようにと忠告が書かれていた。朝ごはんを食べようと皿を手に取ると、ソーセージにベーコン目玉焼きと家では珍しい洋食だった。机上には食べてくださいと言わんばかりの食パンも置いてあった。さすがにトースターはあるのでパンを焼き、朝ご飯を食べる。家では目玉焼きに醤油をかけると決まっている。醤油の香ばしさが一番目玉焼きに合うのだ。半熟の状態の目玉焼きを焼きたてのパンに乗せほおばる。卵とトーストが絶妙に合う。その後、ソーセージに手をかけた。あまり食べたことがなかったが、皮のパリパリ感に中の肉は肉汁が出る。肉という感触がとても美味しい。一通りベーコンも食べ終え、ソーセージがないかと冷蔵庫を漁ってみる。しかし中身は何も入っていなかった。昼こそはソーセージをもっと食べようと決意して、着替えることにした。

 一度部屋に戻り、クローゼットの中をあさる。あまり人前に着れる洋服がないなか、この間買った好きなゲームの柄をした半袖の白いTシャツが目についた。これは有名な洋服のチェーン店で買ったものだ。これに青のジーンズを合わせる。良くもないけど悪くもないファッションだと思う。いや、悪いか。

 下に降りて家を出ようとしたとき、父がいないことに気がついた。今日は日曜日だ。あまり人付き合いの少ない父は、休日に友人と会うとは考えずらい。また、父は重度のインドアで家から出ることを面倒くさがるような人だ。こんな父がわざわざ仕事のない休日に家を出るようなことはありえない。父の部屋に行ってみると、机上にスマホがおいてあった。父は仕事柄スマホを常備している。取引先からの連絡が来ないと困るからだ。それなのに家にスマホを置いている。尚更なぜなのか分からない。そんなことを気にしていても時間の無駄だと思い、家を出ることにする。

 それにしても天気がいい。雲一つない空を見上げて一つ呼吸を置き、田舎道を歩き始める。近くの山に登り下山して駅前の商店街を歩く。これがいつもの散歩コースだ。山は標高千メートルもない小さな山だ。登りやすいということもあり、登山初心者や地元住民から愛されている。

 家から10分少々歩くと登山口に着く。すると、一人の男のようなものに目が止まった。父のように見えるが目が悪くよく見えない。男はとても大きいリュックを背負い、手には大きなシャベルのようなものを持っている。穴を掘っていたのだろうか。周りから土をかぶせている。この山を管理している人が植林でもしているのだろうと思い、山を登り始める。登山の楽しいところは登りきった時の達成感や、自然を楽しんでいると人のほうが優れていると思う優越感に浸ることができる点だ。もちろん自然が嫌いなわけではない。むしろ大好きだ。山の新鮮な空気を吸ったり緑に染まっている木をみていると心が落ち着くからだ。しかし、山に生息している虫を見るといつも自分より大きな生物に殺されるかもしれない恐怖に怯えながら生きていくのだろうかと考えるとほとんどそうなることはない安全で平和な日本に人間として生まれた悦びを味わうことができるのだ。

 そんな事を考えているといつもすぐに山の中腹にある休憩所に着く。ここに昔からある団子屋はいつも登山客を迎え入れている。もちろん、ココに来ると毎回この団子屋に寄る。ピンク、白、緑の順で串に刺さっている三色団子はこの地域の名物の一つとなっている。青天の下で自然に囲まれながら食べる今日の団子は、いつも食べてるものよりもとても甘く、歴代で食べた団子の中で1か2を争うくらい美味しい。お茶を飲んで心を落ち着かせていると、ふとラジオが耳に入ってきた。今夜大きい台風がこの地域を直撃すると報道していた。お昼ごろから風が強くなりだし夕方からは雨が強く降るらしい。今日は遅くならないように帰ろうと決心をし店を出た。

 そこそこ時間が経ったと感じながら時計を見る。もう家を出てから1時間が経ったらしい。時間というのは早いものだ。すれ違う人たちとあいさつをしたり飛んでいる鳥をみていたりすると山頂に着いた。小さいころから数えて数十回は登頂しているが、いつ来ても達成感を味わえる。今まで歩いてきた道を見てると、疲労とともに疲労より強い感動を覚えるからだ。山頂でいつものようにベンチに座って持ってきた水を飲む。これこそ理想的な休日の過ごし方だ。朝ご飯を食べてからもう結構経った。さっき団子を食べているがお腹が空いた。そろそろ下山するかと重い腰を上げる。この山では登山道と下山道が別れている。下山道の途中にもまた茶屋がある。下山するときにしか行けないこの茶屋では素麺がとても美味しい。この素麺を目標にこの山に登る人もいるくらいだ。そんな茶屋を目標に山を下りていく。

 隣に流れている川のせせらぎを聞きながら暑い夏のはずなのに涼しい気持ちになる。風鈴と同じ理論なのだろう。涼しい音を聞くと涼しい気持ちになる。ふと思い立ち川の方に行ってみる。川では子どもたちが水遊びをしていた。いつも通り穏やかな川を見ながら今日も平和なんだなと感じる。きれいな水に手をいれるととても冷たく、反射で手を引っ込めてしまう。あの子たちよく風邪を引かないなと思う。子どもが元気なのは良いことだ。

 登山道に戻り、少し歩くと茶屋に着く。そうめんを食べたいところだが、あいにく今日の昼はソーセージを食べると決めている。しかし、疲れたので冷たい緑茶を注文し少し休憩することにする。川のせせらぎが聞こえるところで冷たい緑茶を飲むとさらに涼しく感じる。やっぱりココの茶屋は良いな。そう思いながら店を出る。体力も回復したからゆっくりと下山する。この道を真っすぐ行くと、山の出口に着く。そこから5分くらい歩けば駅前の商店街に着く。

 商店街と言っても人口が少なくなってるこの地域で店を経営するのは厳しいものがあるのだろう。今日に至るまでに8割近くが閉店してしまった。いわゆるシャッター商店街というやつだ。

 この商店街の中に昔からやっている精肉店がある。そこは、レストランが併設されていて新鮮な肉料理を食べることができる。子供の頃何回か親につれてきてもらったらしいがあまり覚えていない。昔のことを思い出しながら歩いていると天気が悪くなっているのに気がついた。空は黒く、風が強くなっている。台風が近づいているのを感じながら店に入った。コロッケや唐揚げなどとても美味しそうなメニューがたくさんある。しかし、今回頼むのはソーセージとハンバーグの定食だ。どうしても今朝食べたソーセージが食べたいのだ。注文して5分くらい待っただろうか。鉄板と一つの皿が運ばれてきた。鉄板にはソーセージが3本と牛肉のハンバーグ、四角いポテトにコーンまで乗ってる最高のセットだ。もう一つの白い皿には山盛りに盛られた白米がのっている。まずは楽しみにしていたソーセージから食べることにする。フォークで刺して口に運ぶ。うん、確かにおいしい。だが今朝食べたものと何だか違う気がするのだ。種類が違うというのも一つの要因としてあるのかもしれない。しかし、それ以上に今朝食べたものがまるでソーセージではないのかもしれないという感覚が強く襲うのだ。このソーセージよりは今朝食べたもののほうがおいしい気がする。一度米を口に運び口をリセットする。そして、ハンバーグにナイフを入れる。デミグラスソースのかかったハンバーグは切られて中からおいしそうな肉汁を吹き出している。そんな肉汁を口に逃がしてあげる。肉の旨味とデミグラスが絡み合い口の中でハーモニーを奏でている。そこに白米というテノールが入る。きれいなコーラスを奏でているのが分かる。きれいな歌唱が一通り終わったところでソーセージを食べる。この流れで食べるこのソーセージは指揮者のように口の中の統制を担っている。米が進む。このフォークは止まらない。ポテトもコーンもバックダンサーのように口の中で踊っている。そんな楽しい時間も長くは続かず。あっという間に食べ終えてしまった。

 店を出ると、風が強くなっているのが分かる。立っているのがやっとだ。ココから家まではまあまあ距離がある。この風の中歩きたくないがバスもなければタクシーも来るわけないので仕方なく歩いていく。そういえばこの道小さい頃に母と一緒に歩いたっけ。母に連れてきてもらって買い物に付き合ってたっけ。お菓子も買ってもらったな。懐かしい。あ、お菓子で思い出したが家の冷凍庫にアイスがあるじゃないか。強い風の中歩く速度が速くなる。早く家に帰ってリビングのソファーに座りながらアイスでも食べよう。この悪い天気の中長く外にいるのは嫌だ。そう思うと自然と走り出していた。

 自宅の扉に手をかけたとき、丁度雨が降り始めた。間一髪だと思いながら中に入る。玄関にはなぜかとても大きいシャベルが立てかけられていた。先端には土がついている。少し眺めて考えていたが、疲れていたし時間の無駄だと思い、考えるのをやめた。手を洗ってキッチンの冷凍庫を開ける。アイスどこだと探していたら何か大きくて重いものを手に取った。まるで人の顔のようなもの。髪が生えていて側面には耳のようなものがついている。180°回転させてみると母によくにた顔だった。一瞬理解できず中に入れて急いで扉を閉める。見間違いを信じて恐る恐るもう一度開けてみる。夢だと思い、自分の頬をつねってみる。しっかりと痛みを感じ現実に引き戻される。それでも信じられず、扉を開け閉めしてみる。何度開け閉めしても中には入ってるのは母の頭のようなものだ。母だと信じたくなく、携帯に電話をかけてみる。しかし、もちろん電話にはでない。もう一度かけてみる。すると、隣の部屋から大きな音がした。母の部屋だと気づき、行ってみると、母の携帯が床の上で鳴っていた。振動で机の上から落ちたのだろう。拾い上げてみると、昨日から時が止まったようにスマホは開かれてなかった。頬を熱い何かが伝う。窓が閉まっているのに音が聞こえるくらい雨は激しく降り、強い風が窓をたたいている。信じたくないが、認めたくはないが起こってしまった事実を目の当たりにして絶望する。警察に電話をした後、もう一度母の顔が見たいと冷凍庫を開ける。母は目は見開き、苦しそうな表情をしている。痛みを感じながら死んでいったのだろう。冷凍庫の中をよく見てみるとフリーザーバッグが入っていた。表面に母の名前と昨日の日付が書いてある。中には心臓や胃、腎臓に肝臓などほとんどの内臓が入っていた。全て取り出したところで何かが足りないことに気づいた。何が足りないか一生懸命回らない頭で考えた。腸だ。大腸も小腸もない。それに気がついた瞬間強いめまいと吐き気に襲われ、立っていられなくなる。意識が朦朧としているところに父の笑い声が聞こえたことだけがはっきりと記憶に残っている。

 それ以来私の喉を通ったものは何もない


伏線を張った小説が書きたかっただけです。特に理由はないです

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