大切だったはずなのに
初め貰った時はすっごく嬉しかったのに、その喜びが段々と薄れていくのが悲しくて書いてみました!
私には最近悩み事がある。
そこまで深刻なものではないが、どうも毎晩毎晩悪夢にうなされるのだ。目覚めたとき、シーツを湿らした大量の汗を見た時はとても動転した。
どんな夢かと言われても、よく覚えていない。夢なんてストーリー性もなにもないのだから、とにかく理由のわからない断片的な部分しか覚えてない。
ただ、誰かに責められていたような気がする。
何故こんな悪夢を見るのか、特になにも心当たりはない。だからこそ、余計に困ってしまう。私の潜在的な意識の部分からの罪悪感が、夢となって現れてでもいるのだろうか。
そこでふとある考えに至った。
これはオカルト的な問題ではないのかとー。
「…それで私を呼んだんですか?」
「その通りだ」
私の話を聞いたくろこが何とも言えない表情でお茶を啜った。
くろこは私の可愛い後輩で、結構仲は良いと思う。
彼女はオカルトに通じており、霊感もあるらしい。
そんな彼女なら解決してくれるのではないかと、私の家に招き入れた。
「それでどうだ?わかるか?」
「まぁ、確証はしてませんが、恐らく原因は分かりました」
くろこの言葉に、私は口に含んでいたお茶を吹き出してしまった。
「うわぁ!なにするんですか!」
「ゴホッ…す、すまない。それで、本当に原因がわかったのか!?」
「はい。多分ですけど…」
「すごいな!まだ何も調べてないだろ!」
「いやまぁ…感覚でわかりました。たしかにこれ、オカルト的なやつですね」
私は思わずくろこを抱きしめた。
「素晴らしい!やはり君を呼んでよかったよ」
「く、苦しいです先輩…!」
くろこが窒息してしまいそうだったので、私は彼女を腕から解放した。
「それで、原因はなんなんだ?」
「多分…あれです」
くろこが指を差したのはー
私の机だった。
「え…そこになんかいるのか?」
「いや、普通にあの机です」
どうやら本当にあの机を差しているらしい。
特に何の変哲もない私の勉強机だった。
「この机、ひょっとしてヤバい曰く付きなのか?」
「ちょっと珍しくはありますけど…曰く付きとか、そんなんじゃないから安心してください」
「なら、なんで…」
私が呟くと、くろこがじっと私を見てきた。
「先輩、あの机普段使ってます?」
「いやほとんど使ってない」
「でしょうね。なんか色々置かれてて、作業できる状態じゃないですもんね」
「うっ…ぐうの音も出ない」
「だったら、机の上片付けて、ちゃんと使ってあげてください」
くろこはそんな事を言い出した。
「それで解決するのか?」
そう尋ねると、彼女は説明し始めた。
「先輩が悪夢を見てしまうのは、机を怒らせてしまったからです」
「机を…怒らせてた?」
彼女は机に近づき、そっと優しく撫でるように指が机の上を伝う。
「先輩が最近全然使ってくれないから、寂しがってるんですよ。おまけに、物置みたいに扱って…」
「机に感情があるのか?」
思わず聞き返したが、この言い方は少し無神経だったかもしれない。
「ここまであらわになるのは珍しいですけど、物にも心はありますよ」
彼女は珍しくきっぱり断言した。
それから、彼女に言われた通り私は机の上を片付け、机はすっかりきれいになった(彼女にも手伝ってもらったが)。
彼女がもう帰ると言い出したので、名残惜しいが、玄関まで彼女を見送ることにした。
「しかし、ありがとう。君のおかげでなんとかなったよ」
「ちゃんと使ってあげてくださいね」
「くろこ…」
「なんです?」
「いや…ただ、机を片付けるときに思い出したんだがな、あれは私が小学生の頃に両親から貰った、誕生日プレゼントだったんだ。
私は買って欲しいと何度もせがんだ。だから、貰った時はすごく嬉しかったんだ。
…なんでその事を忘れてしまったんだろうな」
あんなに大切だったはずなのに。
机があることにすっかり慣れてしまった私は、机をぞんざいに扱うようになってしまった。
決して皆にあるわけではない幸福に慣れ、感覚が麻痺してしまうような。
ようは、贅沢になったのだ。
そのことが、なんだか悲しかった。自分がどんどん嫌な奴になっていくようで。
「それは私にもよくあります」
くろこが口を開いた。
「多分皆そうです。人間ですから。でも、先輩は今日その事に気づけたじゃないですか。今の先輩ならきっと、大丈夫です」
「くろこくん…そうだな。君の言う通りだ。これからは物を大切にするとしよう」
「うん、そっちの方が先輩らしいです」
くろこが微笑んだ。慈悲深い笑顔だった。
それから私は机だけでなく、自分の物を大切に扱うようになった。
お読みいただきありがとうございました!