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【第一章完結】抜きゲーみたいな世界に転生した童貞〔オレ〕は嫁を100人作ると決心した! ※決心しただけなので出来るとは言っていない。でも出来なきゃ死ぬらしい……  作者: 日之影ソラ
第二章 出会いと妄想の新生活

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孤独騎士の誘惑④

 風呂上り、俺は一人で部屋に向かって歩く。


「いい湯だったー、いろんな意味で」


 隠れ家を出た後の楽しみが増えてルンルン気分だ。

 カナタがそうってことは、ジーナも同じように我慢しているのか?

 だとしたらこれから大変だぞ?

 二人同時に相手ができるように体力をつけておくか。


「ん?」


 通り過ぎようとした部屋に明かりがついていて、扉がわずかに開いていた。

 中を見るとラランがいる。

 何やらブツブツ独り言を口にしているようだ。

 気になって近づくと、床がギギーと音を立てた。


「――! なんだタクロウか」

「ごめん。集中してるところ邪魔しちゃったか?」

「別にいいよ。気になるなら入れよ」

「いいのか? じゃあお邪魔します」


 正式に許可を貰い、部屋の中に入る。

 そこには見慣れない道具やものが大量に積まれていた。

 一見してガラクタの山にも見える。


「ここは……研究室?」

「そんなところだ。私の専門は魔導具開発だからな」

「だから栄誉騎士になれたんだっけか」

「まぁな。騎士になったのは研究資金が楽に手に入るからで、ジーナと違って騎士道精神とか微塵もないんだけどな」


 あくまで魔導具作りのためとキッパリ言い切る。

 そういうハッキリした性格は俺も見習うべきだろう。

 好きなことへは一直線で、嫌いなことには興味を示さない。

 ジーナが称したラランの性格は間違っていないようだ。


「だから度々逃げ出すわけか」

「あいつらが悪いんだよ。毎日毎日山のように仕事もってくるんだぞ? おかげで自分のやりたい研究がまったく進まないんだ」

「それはストレスだな。俺も残業でネトゲのイベント参加できなくて腹立ったことあるし」

「ネトゲ?」

「元の世界の話だよ。俺も最初は会社で働いてたんだけど、合わなくてすぐ辞めたんだ」


 それから少ない資金で株を始めて、それで出た利益でギリギリ生活を維持していた。

 大変だけど個人プレーでなんとかなるし、他人と関わらなくていい。

 何より好きなことに時間をさける。


「ラランは凄いよ。文句言いながらでも、何年も騎士やってるんだから」

「そ、そうか? 別に大したことしてない……」

「栄誉騎士って簡単にはなれないんだろ? その時点でラランは凄んだよ」

「や、やめろよな! タクロウに言われるとなんかむず痒い」


 ラランは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 恥じらう姿は可愛らしい。


「そういえば、初めてじゃないんだろ? いつもジーナに連れ戻されていたのか?」

「いや、ジーナが来たのは初めてだ」

「え? でもここ、ジーナしか知らないって……どうやって見つかったんだよ」

「……買い物するために王都に行ったら、バレた」


 詰めが甘すぎるだろ!

 隠れるなら徹底的に隠れておけよ……。


「仕方ないだろ? 食材ないと料理もできないんだから」

「それもそうか。じゃあ逃げても意味ないんじゃないか?」

「いいんだよ。この時間をやりたいことに費やせるからな!」

「ラランのやりたいことって?」

「見ての通り魔導具作り! 私は生涯かけて千種類の新しい魔導具を作る! そんで私の発明品だけがならんだ博物館を作ってやるんだ!」


 ラランはぐっと握りこぶしを作り、意気揚々と夢を語り出した。

 子供みたいに瞳をキラキラさせている。


「はっ! 私なんでこの話……誰にもしたことなかったのに! 今のは忘れろ!」

「無理だから。いいじゃないか。すごくいい夢だと思う。ラランらしいし」

「ば、馬鹿にしてるだろ!」

「してないよ! 本当にすごくいい夢だと思ってるし、語れる夢があるのっていいなと思う」


 本心からの言葉だと、全身でアピールする。

 

「だから笑ったりしないよ」

「そ、そうか」


 ラランは照れくさそうにそっぽを見る。

 照れる顔も可愛いし、夢を語る活き活きした表情は、彼女がこれまで見せてくれた顔の中で、一番輝いて見えた。


「お前の夢は何なんだよ」

「え? 俺の?」

「そうだよ! あたしが教えたんだからそっちも教えろよな!」

「俺の夢……」


 真面目に考えたのはいつ以来だろう?

 思い出すと、意外と近くにあった。

 

「たくさんお嫁さんを貰うことかな」

「は? それは夢じゃなくて死なないための目標だろ?」

「そうなんだけど、やっぱり夢でもあるんだ。あの時も、無理だと思いながら叶ったらいいなと内心思っていたから」

「ふーん、嫁をたくさんねぇ……」

「ラランほど立派なものじゃないけどな? でも、本気で思ってるよ。カナタやジーナと出会えて、結婚する幸せを知ったからかな」

「急に惚気るなよな。下心もないってか?」

「いや、それはある」

「あるのかよ……」


 ラランは呆れた表情をみせる。

 当然あるだろう。

 俺だって男の子だし、好きな女の子とは一緒に逢瀬したいじゃないか。

 だから結婚したいという訳じゃないけど、それも理由の一つには数えられる。


「下心を満たしたいなら襲えばいいだろ? どうせ一年で死ぬなら好きにやってやろうとか思わなかったのか?」

「死ぬ前提で話さないでくれるかな? 俺は諦めてない!」

「いや、一年で百人は無理だろ」

「俺もそう思う……」


 全部あのポンコツが悪いんだよ!

 改めて無理ゲーすぎる難題だ。

 未達成で死亡とか理不尽すぎるだろ。


「……でも、無理矢理はしたくない。一時の快楽に身を任せたって、誰も幸せにはなれない。たとえ

夢が叶っても、その時俺一人しか笑っていないなら意味ないんだ。夢が叶った時は、みんなが一緒に笑っていてほしい」

「……みんなが……か……本当に夢だな。私にはそんなの想像できないよ。私の夢が叶っても、誰が笑ってくれるかな」

「俺は盛大に喜ぶぞ!」

「――! な、なんでだよ」

「教えてもらえたからな。ラランの夢! かなってほしいと思うのは普通だろ?」

「ふ、普通って……お前、お人好しがすぎるだろ? そうやって誰彼構わず優しくして、どこの罪深イケメン野郎だ」


 お、生まれて初めてイケメンとか言われたぞ。

 ラランは俺の容姿をイケメン認定してくれていたのか?

 素直に嬉しいな。

 ただ一つ訂正しておこう。


「誰にでも優しいわけじゃないよ。ラランとは仲良くしたいなと思ってるだけだ」

「――そ、そうか! じゃあ結婚もできそうだな!」

「いや、それはまだ無理かな」

「なんでだよ!」

「ラランだって俺のこと、恋愛的な意味で好きになってないだろ!」

「そんなことな――くはなくないような……」


 自信なさげだな。

 お互い気が合うことは知っている。

 けれどまだ、俺たちの心に愛は生まれていない。

 今はただきっかけを待っている段階だ。


「きょ、今日はもう寝る!」

「夜這いの準備か?」

「するか! 今日はなしだ! おやすみ! タクロウ」

「おやすみ、また明日」


 結婚できる日はいつかわからない。

 でも俺は、ラランと結婚したいと思っている。

 彼女もそうであってほしい。

 ここでの生活はもうすぐ終わりで、王都に戻らないといけない。

 願わくはその後も、今みたいな日々が続いてほしい。


 そう思っていた。


 しかし翌日。

 ラランは隠れ家から姿を消した。

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