孤独騎士の誘惑④
風呂上り、俺は一人で部屋に向かって歩く。
「いい湯だったー、いろんな意味で」
隠れ家を出た後の楽しみが増えてルンルン気分だ。
カナタがそうってことは、ジーナも同じように我慢しているのか?
だとしたらこれから大変だぞ?
二人同時に相手ができるように体力をつけておくか。
「ん?」
通り過ぎようとした部屋に明かりがついていて、扉がわずかに開いていた。
中を見るとラランがいる。
何やらブツブツ独り言を口にしているようだ。
気になって近づくと、床がギギーと音を立てた。
「――! なんだタクロウか」
「ごめん。集中してるところ邪魔しちゃったか?」
「別にいいよ。気になるなら入れよ」
「いいのか? じゃあお邪魔します」
正式に許可を貰い、部屋の中に入る。
そこには見慣れない道具やものが大量に積まれていた。
一見してガラクタの山にも見える。
「ここは……研究室?」
「そんなところだ。私の専門は魔導具開発だからな」
「だから栄誉騎士になれたんだっけか」
「まぁな。騎士になったのは研究資金が楽に手に入るからで、ジーナと違って騎士道精神とか微塵もないんだけどな」
あくまで魔導具作りのためとキッパリ言い切る。
そういうハッキリした性格は俺も見習うべきだろう。
好きなことへは一直線で、嫌いなことには興味を示さない。
ジーナが称したラランの性格は間違っていないようだ。
「だから度々逃げ出すわけか」
「あいつらが悪いんだよ。毎日毎日山のように仕事もってくるんだぞ? おかげで自分のやりたい研究がまったく進まないんだ」
「それはストレスだな。俺も残業でネトゲのイベント参加できなくて腹立ったことあるし」
「ネトゲ?」
「元の世界の話だよ。俺も最初は会社で働いてたんだけど、合わなくてすぐ辞めたんだ」
それから少ない資金で株を始めて、それで出た利益でギリギリ生活を維持していた。
大変だけど個人プレーでなんとかなるし、他人と関わらなくていい。
何より好きなことに時間をさける。
「ラランは凄いよ。文句言いながらでも、何年も騎士やってるんだから」
「そ、そうか? 別に大したことしてない……」
「栄誉騎士って簡単にはなれないんだろ? その時点でラランは凄んだよ」
「や、やめろよな! タクロウに言われるとなんかむず痒い」
ラランは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
恥じらう姿は可愛らしい。
「そういえば、初めてじゃないんだろ? いつもジーナに連れ戻されていたのか?」
「いや、ジーナが来たのは初めてだ」
「え? でもここ、ジーナしか知らないって……どうやって見つかったんだよ」
「……買い物するために王都に行ったら、バレた」
詰めが甘すぎるだろ!
隠れるなら徹底的に隠れておけよ……。
「仕方ないだろ? 食材ないと料理もできないんだから」
「それもそうか。じゃあ逃げても意味ないんじゃないか?」
「いいんだよ。この時間をやりたいことに費やせるからな!」
「ラランのやりたいことって?」
「見ての通り魔導具作り! 私は生涯かけて千種類の新しい魔導具を作る! そんで私の発明品だけがならんだ博物館を作ってやるんだ!」
ラランはぐっと握りこぶしを作り、意気揚々と夢を語り出した。
子供みたいに瞳をキラキラさせている。
「はっ! 私なんでこの話……誰にもしたことなかったのに! 今のは忘れろ!」
「無理だから。いいじゃないか。すごくいい夢だと思う。ラランらしいし」
「ば、馬鹿にしてるだろ!」
「してないよ! 本当にすごくいい夢だと思ってるし、語れる夢があるのっていいなと思う」
本心からの言葉だと、全身でアピールする。
「だから笑ったりしないよ」
「そ、そうか」
ラランは照れくさそうにそっぽを見る。
照れる顔も可愛いし、夢を語る活き活きした表情は、彼女がこれまで見せてくれた顔の中で、一番輝いて見えた。
「お前の夢は何なんだよ」
「え? 俺の?」
「そうだよ! あたしが教えたんだからそっちも教えろよな!」
「俺の夢……」
真面目に考えたのはいつ以来だろう?
思い出すと、意外と近くにあった。
「たくさんお嫁さんを貰うことかな」
「は? それは夢じゃなくて死なないための目標だろ?」
「そうなんだけど、やっぱり夢でもあるんだ。あの時も、無理だと思いながら叶ったらいいなと内心思っていたから」
「ふーん、嫁をたくさんねぇ……」
「ラランほど立派なものじゃないけどな? でも、本気で思ってるよ。カナタやジーナと出会えて、結婚する幸せを知ったからかな」
「急に惚気るなよな。下心もないってか?」
「いや、それはある」
「あるのかよ……」
ラランは呆れた表情をみせる。
当然あるだろう。
俺だって男の子だし、好きな女の子とは一緒に逢瀬したいじゃないか。
だから結婚したいという訳じゃないけど、それも理由の一つには数えられる。
「下心を満たしたいなら襲えばいいだろ? どうせ一年で死ぬなら好きにやってやろうとか思わなかったのか?」
「死ぬ前提で話さないでくれるかな? 俺は諦めてない!」
「いや、一年で百人は無理だろ」
「俺もそう思う……」
全部あのポンコツが悪いんだよ!
改めて無理ゲーすぎる難題だ。
未達成で死亡とか理不尽すぎるだろ。
「……でも、無理矢理はしたくない。一時の快楽に身を任せたって、誰も幸せにはなれない。たとえ
夢が叶っても、その時俺一人しか笑っていないなら意味ないんだ。夢が叶った時は、みんなが一緒に笑っていてほしい」
「……みんなが……か……本当に夢だな。私にはそんなの想像できないよ。私の夢が叶っても、誰が笑ってくれるかな」
「俺は盛大に喜ぶぞ!」
「――! な、なんでだよ」
「教えてもらえたからな。ラランの夢! かなってほしいと思うのは普通だろ?」
「ふ、普通って……お前、お人好しがすぎるだろ? そうやって誰彼構わず優しくして、どこの罪深イケメン野郎だ」
お、生まれて初めてイケメンとか言われたぞ。
ラランは俺の容姿をイケメン認定してくれていたのか?
素直に嬉しいな。
ただ一つ訂正しておこう。
「誰にでも優しいわけじゃないよ。ラランとは仲良くしたいなと思ってるだけだ」
「――そ、そうか! じゃあ結婚もできそうだな!」
「いや、それはまだ無理かな」
「なんでだよ!」
「ラランだって俺のこと、恋愛的な意味で好きになってないだろ!」
「そんなことな――くはなくないような……」
自信なさげだな。
お互い気が合うことは知っている。
けれどまだ、俺たちの心に愛は生まれていない。
今はただきっかけを待っている段階だ。
「きょ、今日はもう寝る!」
「夜這いの準備か?」
「するか! 今日はなしだ! おやすみ! タクロウ」
「おやすみ、また明日」
結婚できる日はいつかわからない。
でも俺は、ラランと結婚したいと思っている。
彼女もそうであってほしい。
ここでの生活はもうすぐ終わりで、王都に戻らないといけない。
願わくはその後も、今みたいな日々が続いてほしい。
そう思っていた。
しかし翌日。
ラランは隠れ家から姿を消した。
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