寿退社を目指して④
唐突に聞き覚えの無い女性の声が響く。
聞こえてくるのは結界の中で、俺はまだ中に入っていないから見えていない。
確かめるために結界を潜ると、そこにはこじんまりした家があった。
イメージ的には山の中の別荘だろうか。
木造建築の一軒家で、玄関までは階段を上る。
その玄関の前で、クリーム色のポニーテールが特徴的な女性が立っていた。
「ララン、私だ」
「――ん? なんだジーナか。騎士団の追手かと思った」
「その通りだが?」
「……」
「ララン?」
沈黙を挟み、ラランは扉を閉めた。
「帰れ! 私はもう働かないんだ!」
「ちょっ、ララン! 開けるんだ!」
「絶対に嫌だ! あんな場所に戻るもんか! 私は自由に生きるんだ!」
「落ち着いて話を聞いてくれ! すぐに連れ戻したりはしない!」
「嘘だ! そう言って私を騙そうとしてるんだろ! その手には乗らないからな!」
ラランは扉に鍵をかけて立てこもってしまったようだ。
ジーナが力いっぱい引いても扉は開かない。
彼女は困り果てていた。
「どうすれば……」
「ちょっと失礼」
「タクロウ? 何をする気だ」
俺は手元をカチャカチャ言わせる。
一秒後、かチャッと音がした。
「よし開いたぞ」
「なっ!」
開いた扉の先で余裕を見せていたラランが大口を開けて驚く。
レンジャーのスキルの一つに、鍵開けというものがあってだな?
何となく役立ちそうだから取得して置いて正解だった。
「今だジーナ! とりあえず捕まえろ!」
「わ、わかった!」
「ちょっ、くそっ!」
「諦めろララン。レベルは私のほうが下だが、腕力は圧倒的に私が上だ」
暴れるラランをジーナが取り押さえた。
彼女のステータスは体力と筋力に特化している。
男も顔負けのパワーである。
「よしよし、上手くいったな」
「タクロウ……それを悪いことに使っていませんよね?」
「失礼な。俺が女性の寝室に忍び込むような変態だと思うか?」
「思います」
「即答すんじゃねーよ」
本当にやましいことには使っていない。
鍵開けスキルも、ダンジョンに潜った際に宝箱を開けられるように取得しただけだ。
ちょっとエッチなことを考えはしたけど、実行に移してはいない。
偉いぞ俺!
理性がちゃんと働いている証拠だ!
「そもそも忍び込まずとも、カナタたちは快く俺を迎えてくれるからな! な?」
「ん? よくわかんないけど、そうだな!」
キョトンとしながらも彼女は肯定してくれた。
やっぱり嫁は最高だぜ。
「あーもう、離せよ! つかそこの奴らは誰なんだよ!」
「私の夫と妻だ」
「あとペットもいるぞ」
「誰がペットですか! 私はタクロウのサポート役! つまりは相棒ですよ!」
こんな相棒はお呼びじゃない。
いつも通りのやり取りを繰り広げていると、ラランはぽかーんとした顔で困惑していた。
「夫と妻? は?」
まぁそういう反応になるよな普通。
俺はやれやれと首を振り、ラランを見下ろしながら提案する。
「説明するから逃げないでくれよ。俺たちの未来もかかってるんだからな」
「わ、わかった……どうせ逃げれないしな」
「ふぅ、ようやくか」
観念したらしく、ジーナも抑えていたラランの手を放す。
二人はゆっくりと立ち上がり、改めてラランに自己紹介をする。
「俺はヒビヤタクロウ。ジーナと、こっちにいるカナタの夫で、冒険者だ」
「あーえ? 二人?」
「あたしはカナタ! タクロウの嫁第一号!」
「そして私が嫁第二号というわけだ」
「いやいや、意味わかんないから。なんで二人が同時に結婚できてるわけ? 普通ありえないでしょ? というかジーナ結婚したの?」
次々にあふれ出てくる疑問に、一つずつ応えていく。
話が長くなったので、ソファーが用意された部屋に移動し、座りながら話を続けた。
一応応接室はあるらしい。
人見知りが過ぎて森の奥に逃げ込んだくせに、ちゃっかり人が来ることを想定しているところが、ボッチ上級者って気がする。
俺も必要ないのに客用のコップとか用意してたな……懐かしいぜ。
「要するにこいつは転生者で、女神から授かった第二加護の力で複数の女と結婚できると」
「そうだぞ!」
「で、二人はなんやかんやあってこいつに惚れて、晴れて結婚したと」
「ああ、そういうことだ」
「……」
ラランと視線が合う。
「お前……変態なんじゃないのか?」
「失礼な! 純愛だぞ」
「そうだ。タクロウは変態などではない」
「タクロウのこと悪く言うなよな!」
「あ、いや、別に悪く言うつもりはないんだけどさ。世間一般的に、複数の女と結婚したいとか本気で思う奴て、大抵頭おかしいから」
「俺も先に説明を受けていたら考えなかったよ」
この世界のルールを考えると、これが普通の反応と考え方なのだろう。
悪いのは肝心な説明を忘れていたポンコツ天使だ。
「私はタクロウと一緒にいるために騎士団を辞める。そのための最後の任務で、ラランを姉上の下に送り届けなければならないんだ」
「げっ、やっぱあの人の差し金か」
「お願いだララン、私たちと一緒に王都へ戻ってくれ」
「嫌だって言ってるだろ? 戻ったらどうせ、またやりたくもない研究と仕事で生き埋めんされるんだ。私はもう働きたくないんだよ。もっと楽して生きたいんだ」
わかる。
すごくわかるぞその気持ち!
俺も昔は同じことを考えていたよ。
「なんかタクロウが頷いてるんだけど?」
「似た者同士だからですよ」
「ていうかジーナは騎士団辞めるのか。いーなー私も一緒に辞めさせてもらえないかな?」
「それは無理だろう。私とラランじゃ立場が違う」
「立場なんて関係……あ、そうだ! いいこと思いついたぞ!」
「いいこと?」
何かひらめいたラランは瞳を輝かせ、そのキラキラした視線を俺に向けた。
なぜだろう?
とても嫌な予感がするのだが……。
「タクロウとか言ったよな? 複数の女と結婚できるって、まだ枠は空いてるのか?」
「え? まぁ全然ガラガラだけど」
「よっし! じゃあ私とも結婚してくれ!」
「――は?」
突然のプロポーズに、俺たちは固まった。
困惑する俺たちに向けて、ラランは声を弾ませて言う。
「そうすれば私も、ジーナと一緒に騎士団辞める理由ができるだろ? 寿退社ってやつだ!」
この時俺は思った。
寿退社って言葉、こっちの世界にもあるんだな。
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