寿退社を目指して②
「爺、彼らも今夜は宿泊する。準備をしてもらえるか?」
「かしこまりました。早急に準備いたします。どうぞ中でおくつろぎください」
「ありがとう、みんな中へ」
「お、おう……」
もう何がなんだかわかりません。
混乱しながらジーナに案内され、応接室のような場所に入る。
部屋の準備ができるまで、ここで一時的に待機していればいいようだ。
「すっごいな! こんな広い家に住んでたのか!」
「ジーナはお嬢様だったんですね!」
カナタとサラスは広い屋敷にはしゃいでいた。
サラスは窓から外を見ている。
田舎育ちのカナタがはしゃぐ理由はわかるが、サラスは意味が分からん。
こいつがいた天界もそこそこ広かっただろうが。
「よしてくれ。すごいのは私じゃなくて姉上だ。この屋敷……いいや、今のアデラート家があるのは姉上のおかげだからな」
「どういう意味だ?」
「……まだ話していなかったな。私の両親は咎落ちに殺されている」
「――!」
空気が変わる。
はしゃいでいた二人も、シュンとして落ち着く。
話を切り出したジーナは少し悲しそうだ。
「ある誘拐事件を捜査している時だったそうだ。その事件にはアダムストが関わっていて、交戦になったらしい。二人とも囚われた市民を守るために……」
「アダムスト……ジーナが騎士になったのは、もしかして……」
「いいや、復讐のためではないよ」
そう言って彼女は微笑む。
「恨みはあるし、許せない気持ちもある。だが、私が騎士になったのは両親や姉上への憧れだ。私もあんな風に、強くて優しい騎士になりたいと思ったんだ」
「ジーナらしいな」
「ありがとう、カナタ」
「アイギスもそうなのか?」
俺の問いに、わずかに沈黙を挟んでジーナが答える。
「わからない。姉上は本心を私に語ってはくれないから、本当のところどう思っているか……」
「そうか」
アイギスが男を毛嫌いする理由は、おそらくそこにある。
咎落ちはほとんどが男だと聞いている。
男たちによって、大切な両親が殺されてしまった。
恨む理由は十分だし、男というだけで敵意を持つのも仕方がないと思ってしまう。
「両親が他界してすぐ、姉上がこの家の当主になった。そこからの姉上は本当にすごかったよ。人が変わったように厳しくなって、いつも苛立っていた」
「昔は優しかったんですか?」
「ああ、とても優しい人だった。花が咲いたように笑う人だったよ」
「ほへぇ~。想像できないですね」
気の抜けた笑い方だが、サラスと同じ感想を抱く。
現在の彼女しか知らない俺たちには、優しく笑うアイギスの姿がまったく想像できない。
ただ少し安心した。
彼女が強く当たるのは、きっとジーナのことが心配だからだろう。
姉妹仲が悪いわけじゃないのはわかったから、それはよかったと思う。
ならば尚更、俺がジーナに相応しい男であると。
あなたが敵視するような下賤な男たちとは違うのだと、ちゃんと証明しなければならないな。
「ジーナ、名誉騎士ラランについて教えてくれないか?」
「ああ、その話もしようと思っていたんだ。どこから話せばいいか」
「まず名誉騎士ってなんだ?」
カナタが質問を投げかけた。
それは俺も知りたかったことの一つで、ジーナの回答に耳を傾ける。
「名誉騎士は、騎士団に所属しながら任務の一部を免除された特別な者をさす。部下への命令権は持たないが、地位だけなら大隊長である姉上と対等だ」
重ねてジーナが説明してくれた。
名誉騎士に選出されるためには、王国や騎士団に対して明確な功績が必要となるらしい。
それは戦闘や任務での功績ではなく、それ以外の面での成果だ。
たとえば、王都を守る結界魔導具を作りだしたり、新しい魔法薬を開発したり。
騎士というより研究者が多く、それ故に通常の任務はほとんど受けず、王都や特定の施設などで籠りながら、研究や事務仕事に励んでいるらしい。
「ララン、彼女は優れた魔法使いであり、魔導士でもある。騎士団で活用している魔導具の大半は彼女が作ったものなんだ」
「そんなすごい人が行方不明に……大事じゃないか」
「まぁそうなのだが……彼女の性格を考えると、おそらく大した理由じゃない」
「性格?」
ジーナは小さくため息をこぼす。
俺はジーナが親し気に栄誉騎士ラランの話をしていることに気づく。
「ジーナはそのラランと知り合いなのか?」
「彼女は私と同期なんだ。年齢も一緒で、友人のような関係ではある」
「栄誉騎士と友達なんですか! 凄いじゃないですか!」
「サラスが思うほど凄くはないよ。ラランは地位や名誉にこだわりはない。だから私とも仲良くしてくれているし、姉上に対しても態度を変えない」
「マジか……」
あの強烈な性格のお姉様に対しても、友人のように接しているって?
一体どんな猛者なんだ。
アイギスみたいに厳しい性格の人は勘弁だぞ。
「まぁとにかく、失踪したラランを探せばいいんだな。一週間以内に」
「そういうことになっているな」
「一週間って結構短いぞ? 見つけられるのか?」
カナタが首を傾げる。
俺もカナタと同じ疑問を抱いていた。
失踪の理由も不明だし、何か大きな事件に巻き込まれていたら大変だ。
またアダムストが関与でもしていたら、いよいよ俺たちだけじゃ対処できない。
あの時のように、新種のモンスターを召喚されたらどうするんだ。
「おそらく心配はいらない。私にいくつか心当たりがある」
「本当か?」
「ああ。候補がいくつかあるのだが、十中八九そのどこかにいるだろう。いつもの通りなら」
「そうか……ん?」
いつも通りって、初めてじゃないのかよ!
本当にどんな奴なんだ?
いろんな意味で興味が湧く。
「まぁいいや。捜索は明日からだし、今日は休もう」
「そうだな。長旅だったし、今夜はゆっくりしてくれ。夕食も用意させる」
「やったー! 貴族の夕食だからきっと豪華ですよー!」
「貧乏人みたいな反応だな」
とても天界で暮らしていた天使とは思えない。
今さらだけど、天使ってあそこで転生者を導く以外何して生活してるんだ?
今度、暇な時にでも聞いてみるとしよう。





