同じ穴ってことですね③
「ありがとうございました! 本当になんとお礼を言っていいやら」
「お気になさらないでください。騎士として、市民を守るのは当然の義務です」
「心強い限りです。我々は商店街で雑貨屋を営んでおります。お暇がありましたら、ぜひ立ち寄ってください。サービスいたしますので」
「ありがとうございます。ではまた」
代表してジーナが行商人と挨拶をして、王都の門を越えたところで別々の方向へ進む。
街で借りた馬車はここで返却する。
レンタカーの乗り捨てみたいな制度がこの世界にもあるらしく、便利だ。
俺は改めて、街並みを見回す。
「ここが王都……まさにファンタジーの街って感じだ!」
「ふぁんたじー?」
カナタが首をかしげている。
「広くて派手で賑やかな場所ってこと」
「なるほどな! あたしもびっくりした! こんなに広いんだな! 建物も一つがでっかいしさ!」
街並みを表現するなら、ヨーロッパのどこか。
ロンドンの街並みを、もう少しファンタジーチックにアレンジしたような景色、とでも表現すべきだろうか。
建物は大きく、道もしっかり整備されている。
道行く人も、服装が近代的でおしゃれだ。
同じ国の中でも、街が違うだけでここまで差が出るのか?
俺たちの冒険者っぽい格好が逆に浮いている。
「三人ともこっちだ。騎士団隊舎まで案内しよう」
俺たちはジーナの案内で騎士団の本部を目指す。
宿を見つけたりするのは、報告が終わってからになりそうだ。
まだ正午過ぎだし、時間的には余裕もある。
報告がスムーズに終わったら、軽く観光でもしてみたいと思った。
「これだけ人が多いと、俺以外の転生者もいそうだな」
「いると思いますよ。割と普通に」
「そんなに?」
「はい。タクロウが来る前日も一人追加されていますし」
全然レアリティーないな、転生者なのに。
その人はちゃんと説明を受けて、身の丈にあった目標を掲げたのだろう。
「俺の天使ガチャはハズレなのに」
「ちょっとどういう意味ですか! ハズレってなんですか!」
「今さらだけど、俺たち騎士団の中に入って大丈夫なのか? 思いっきり部外者だけど」
「無視ですかぁ!」
「私がいれば問題ない。それに、今回の咎落ちの件の関係者だ。タクロウたちにも報告のため騎士団に入る権利がある」
そうこうしているうちに、俺たちの眼前にはいかにもという建物が顔を出す。
剣のマークを掲げられた白い建物。
お城というのは小さいが、屋敷と呼ぶには広い。
そんな絶妙な大きさの建物から、訓練に勤しむ騎士たちの掛け声が微かに聞こえる。
「中を案内しよう。ついてきてくれ」
「お、おう」
なんか急に緊張してきた。
報告って誰にするんだ?
騎士団長とか?
偉い人と会って話すと、正直苦手だから避けたいのだが……。
そんなことを考えていると、隣でサラスがジーナに尋ねる。
「ジーナのお姉さんもいるんですよね?」
「――ああ、今から会うんだ」
「そうなんですか! ちょっと楽しみですねー!」
「……」
どうやら報告は彼女の姉、アイギスにするようだ。
ジーナの横顔を覗き込む。
能天気なサラスと対照的に、緊張が見て取れる。
身内ですらこの緊張感……果たして俺は上手くしゃべれるだろうか。
不安を抱いた時、ふいに背後から呼び止められる。
「戻っていたのね、ジーナ」
「――!」
びくりと反応したジーナが、すぐに振り返った。
俺たちも続けて視線を向ける。
背後には、ジーナによく似たロングヘアの女性が堂々と立っていた。
ただ立っているだけなのに威圧感がある。
俺たちは一瞬で確信する。
彼女がアイギスだ。
「姉上……ただいま戻りました!」
「一か月かしら? たかが不審者の捜索に、随分と時間がかかったみたいね」
「も、申し訳ございません」
「いいわ」
チラッと、俺と視線が合う。
明らかに睨まれて、俺は怖くて視線を逸らした。
「話は中で聞くわ」
「はい」
そのまま彼女の執務室に案内された。
部屋に入るまで、全員が無言だった。
珍しくサラスも空気を読んで、というか威圧感に負けていたようだ。
普通にビビッて俺の後ろに隠れてやがったぞ。
執務室に到着し、仰々しい大統領が待ち構えて良そうな椅子と机のセットがあって、そこにアイギスは座り、腕を組む。
俺たちは彼女の前で横並びになる。
「それで、何か報告があるみたいね」
「は、はい! 捕らえた咎落ちについて詳しい説明を」
「それはもういいわ。報告書に目を通したら十分……私が知りたいのは、どうして男が一緒なのかしら?」
「ひっ!」
ギロっと睨まれて、思わず情けない声が漏れる。
それほどの圧力が、なぜか俺一人に向けられている。
「彼はヒビヤタクロウ、今回の件で協力してくれた冒険者と、その仲間です」
「ああ、報告にあったわね。転生者だったかしら」
「はい」
「それで? どうしてその男が一緒なのかしら? 報告ならジーナ、あなた一人で十分でしょう? それに……報告があってから戻ってくるのが随分遅かったわね?」
アイギスは視線を俺からジーナに戻し、彼女に言葉で詰め寄る。
「申し訳ございません」
「謝罪じゃなくて理由よ。何をしていたのかしら? まさか、遊んでいたわけじゃないでしょうね?」
「……それは……」
ジーナがごくりと息を飲む音が聞こえた。
彼女は俺に一瞬視線を向けてから、覚悟を決めたような表情でアイギスに言う。
「姉上! 私は彼と、タクロウと結婚しました!」
「……は?」
「それが帰還が遅くなった理由です!」
「……冗談でしょう?」
「い、いえ、本当です」
俺とジーナの指には、証拠たる女神の指輪がはまっている。
アイギスの視界がそれを確認し、俺のことを睨みつける。
「この男と……? 頭でおかしくなったのかしら? ジーナ」
「――! 姉上……」
明らかに彼女は怒っていた。
眉間にしわを寄せ、苛立ちが全身から溢れ出ている。
「教えたはずよ。男なんて全てケダモノのゴミ以下なの。しかも冒険者なんて野蛮な連中の……こんなパッとしない男と結婚なんて、正気とは思えないわね」
な、なんだこの女!
初対面でその物言いは酷くないか!
確かにパッとしないしイケメンではないけどさ!
不細工ってほど酷くもないと思っているぞ!
たぶん!
「おい、タクロウのことを悪く言うなよ」
「カナタ!」
俺の心の声を代弁するように、隣に立っていたカナタが口を開く。
凄いなカナタは。
この状況で反論できる胆力がある。
ジーナは驚きと焦りを表情に見せていた。
「いくらジーナのお姉ちゃんでも、タクロウのことを馬鹿にするのは許さないぞ」
「お、おいカナタ」
「ジーナだってムカつくだろ? あたしらの夫が馬鹿にされたんだぞ!」
「あたしら……!」
アイギスの視線は明らかに、カナタの左手薬指に向けられていた。
同じ指輪をカナタもしている。
男は一人、結婚指輪をしている女は二人。
この状況を、すぐに理解できる人間は少ないだろう。
「説明をしてもらうわよ、ジーナ」
「は、はい」
ジーナは怯えながら、俺が転生者であり加護の力で複数の女性と結婚できること。
自分だけじゃなく、カナタも俺と結婚していることを伝えた。
さてここで問題だ。
この世界は愛に厳しい。
そしてアイギスはどう見ても男が嫌いだ。
この後の反応は?
「クソ男ではないか貴様ぁ!」
ブチギレである。
わかってましたよ!





