同じ穴ってことですね②
「ひひっ、わざわざ俺たちの前に出てくるなんて馬鹿な女だなぁ」
「あなたたち、こんなことをして許されると思っているの?」
「は! 許しを請う神なんざいねーんだよ! てめぇこそ無駄な抵抗は止めて、裸で土下座でもするんだな!」
「……」
ジリジリとにじりよる咎落ちたち。
数人が握った剣を振りかざす。
一発ずつ撃っては間に合わない。
ならばここで披露しよう。
マジックボウに備わる新たな攻撃スキルを!
一発の矢を分散し、複数のターゲットに同時攻撃をする。
――『マルチショット』!
「観念し――ぐあっ!」
「え?」
同時に三人の武器を、俺の矢が弾いて飛ばした。
「よし!」
ん?
待てよ?
この後って……堕ちますよね!
勢いで忘れていたが現在空中である。
重力はあるので、当然このまま落下していく。
ビルの四階くらいの高さだろうか?
元の世界の肉体なら確実に骨折する。
つか最悪死ぬ!
「ふんっ!」
思いっきり両脚に力を込め、勢いよく落下した。
着地地点は奇跡的に、咎落ちと女の子の間になってくれた。
土煙の中で、俺は仁王立ちする。
「君は……」
「もう大丈夫、これ以上好きにはさせない」
一目見て女の子がとびきり可愛かったので、俺は見栄を張って格好をつけた。
派手な登場にビビった咎落ちたちは一歩下がる。
「な、なんだてめぇ!」
「通りすがりの冒険者だ。悪いことは言わない。武器を置いて投降するか、情けなく逃げるんだな」
「なんだと……一人増えたくらいでビビると思ってんのか!」
「ふっ、やめたほうがいいぞ。俺が動くまでもない。お前たちは負ける」
「な、何!?」
「……」
という動けません。
落下の衝撃で両脚がものすごく痛いです。
しびれています。
たぶん折れてはいないけど、しばらく行動不能なんです。
だからお願いします。
これ以上近づかないでください。
俺は心の中で情けなく懇願していた。
「ふざけやがって! まとめてぶっ殺してやる!」
「ふっ」
あ、これ死んだかも。
「タクロウ!」
「なっ、ぐあ!」
ピンチに駆けつけたのは頼れる嫁第一号。
素早い剣さばきで咎落ちたちの不意をつき、次々に倒していく。
「え、援軍がいやがったのか!」
「だから言っただろう? 動くまでもないとな」
「こいつ……」
咎落ちは悔しそうな顔で、助けた女の子は驚いた顔で俺を見ていた。
気持ちいい!
俺自身はまったく役に立っていないけど!
「ジーナとサラスは?」
「馬車のほう! 隠れてた人を保護してる! あたしらの役目はこっちだ!」
「そうか。じゃあそろそろ俺も動こうか」
やっと痺れが治まってきたしな。
「なめんじゃねーぞ!」
「――!」
咎落ちの一人が魔法を発動しようとしている。
こいつ咎落ちの癖に魔法スキルを習得してるのか!
まずいな。
こっちの面子は魔法耐性が低い。
「サンダーボルト!」
「ぐああああ!」
俺がマジックボウを構える前に、雷は放たれた。
黒焦げになったのは咎落ちのほうだ。
先に魔法を放ったのは……。
「君、やっぱり魔法使いだったのか」
「ええ、見ての通り」
彼女はニコッと微笑む。
今の雷魔法で倒したのが最後で、咎落ちは全員戦闘不能となり気絶した。
カナタが意識を失った咎落ちを一まとめにして、全員をロープで拘束していく。
「このまま放置でいいのか?」
「ええ。この辺りを巡回している騎士がいるはずよ。今日中には見つけてもらえるわ」
「詳しいな」
「それなりにね。さっきはありがとう。助かったわ」
魔法使いの女の子は握手を求めてきた。
改めて見ても綺麗な子だ。
「偶然だったよ。君はあの行商人たちの仲間?」
「全然違うわ。偶々通りかかって、襲われているのが見えたから助けようと思ったのよ」
「君もか。一人でなんて無茶するな」
「そうかもしれないわ。今後は気をつけないといけないわね。ねぇ、あなたの名前を教えてもらえる?」
「俺はヒビヤタクロウだ」
「ヒビヤ……タクロウ……変わった名前ね」
「よく言われるよ」
彼女は明るくニコッと微笑み返してくれた。
どことなく高貴な立ち振る舞い。
服装も冒険者って感じがしない。
白いマントのようなもので全身を隠していて、マントにはフードがついている。
「君は?」
「私は――! ごめんなさい。急いでいるのを忘れていたわ」
「え?」
彼女はマントのフードを被り、顔を隠して背を向ける。
「またどこかで会いましょう。その時は、助けてくれたお礼をさせてね?」
「ああ、また」
彼女はそそくさと立ち去ってしまった。
まるでこの場から逃げるように。
その直後、ジーナが俺の近くにやってくる。
「行商人は無事だったぞ。あの子は?」
「ああ、いやなんか、急ぎの用があるみたいで。名前も聞けなかったな」
「……」
「ジーナ?」
「いや、どこかで見たような気がして」
ジーナは小さくなった彼女の後姿を見つめて、首をかしげていた。
「騎士の巡回とかに詳しかったし、王都の出身なのかもな」
「かもしれない。パッと思い出せないし、きっとどこかですれ違った程度だろう。この後だが、行商人たちも王都に向かう途中らしい」
「じゃあ一緒に行くか。また襲われたら大変だしな」
「そう提案しようと思っていたんだ。さすがタクロウだな」
ジーナは騎士だ。
困っている人がいて、放置はできないだろう。
そうだろうなと思って先手の提案だったが、ちゃんと喜んでもらえたらしい。
その後は助けた行商人と一緒に王都を目指した。
拘束して放置した咎落ちに関してはわからないが、ちゃんと回収されたことを願おう。
出発から九日、俺たちはついに王都へたどり着く。
魔法使いの女の子も王都の方向に歩いて行ったけど、結局再会することはなくて少し残念だ。