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【第一章完結】抜きゲーみたいな世界に転生した童貞〔オレ〕は嫁を100人作ると決心した! ※決心しただけなので出来るとは言っていない。でも出来なきゃ死ぬらしい……  作者: 日之影ソラ
第二章 出会いと妄想の新生活

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同じ穴ってことですね①

 俺たちは王都を目指し、馬車を走らせる。

 馬車は街で借りて、操縦はジーナがしてくれていた。

 騎士の訓練で馬や馬車を扱うこともあるそうだ。

 他三人は誰も馬車の操縦なんてできないから、ジーナがいてくれて本当に助かったよ。

 徒歩だと王都まで、二週間ほどかかるらしいからな。


「さすがにそんなに歩きたくない」

「ですねー」

「お前が飛べたら全部解決したんだけどな」

「無理ですよ。飛べてもこの人数をかかえてなんて絶対に嫌です! 私だけ疲れるじゃないですか!」

「サポート役なんだからそれくらいやれよな」

「私は運び屋じゃないんですよ!」


 賑やかな馬車の中、荷台に座っている俺とサラス、そして……。


「スゥ……」

「よく寝れますね。こんなに揺れているのに」

「サバイバル生活が長かったからじゃないか?」


 カナタは俺の肩にもたれかかり、スヤスヤと寝息を立てていた。

 街を出発して数分後には寝ていただろうか。

 早朝、俺の叫びで普段よりも早く起こしてしまったから、まだ眠かったのだろう。

 カナタは眠りが深く、一度眠ってしまうと中々起きない。

 この感じは、たぶん一時間は起きないだろうな。


「寝かせておいてやってくれ。どうせまだ時間がかかる」


 ジーナの声が先頭から聞こえてくる。

 俺は馬車の荷台から少し顔を乗り出し、ジーナのほうを見る。


「悪いなジーナ。俺たちも運転できたらよかったんだけど」

「気にするな。体力には自信がある。この程度苦ではないよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ジーナにばかりまかせっきりも申し訳ないからな。俺にも運転の仕方教えてくれよ。そしたら交代で休めるだろ?」

「――! そうだな。そうしよう」


 ジーナは嬉しそうに微笑んでくれた。

 ただの当たり前の気遣いだったから、そんなにも幸せそうな顔をするとは思わなかった。


「誰かに何かを教えるのは初めてだ。ワクワクするな」

「そうなのか?」

「ああ。大抵のことは姉上に教わったし、姉上は私よりずっと優秀だったから。騎士団でも、姉上はよく他の騎士の指導をしていたよ。私はそれを見ているだけだった」


 ジーナは羨ましそうに語る。

 彼女のお姉さんへの感情は、一言では表せないほど複雑なようだ。

 憧れ、畏怖、劣等感、他にもありそうだな。


「咎落ちのこと、手紙で報告はしてるんだよな? 俺と結婚したことは手紙に書いたのか?」

「いいや。報告はあくまで騎士団に対してだ。プライベートな事情まではさすがに書けない」

「あ、そういうことか」

「うん、それに、姉上には結婚のことを、ちゃんと自分の口で伝えたいんだ。姉上がなんと言うかは私にもわからないから、少し不安だが……」

「ジーナ……」


 それは俺も不安だった。

 正直ちょっと殴られるんじゃないかとヒヤヒヤしているが、ここは男らしく頼りがいのあるセリフを言うべきだ。

 俺は一回咳払いをして気持ちを整える。


「おほんっ! 大丈夫だ! もしもの時は、俺が誠心誠意ジーナへの思いを伝える! それで納得してもらおう」

「タクロウ……ああ。頼りにしているぞ」

「どんどん頼ってくれ! 頼れる夫に!」

「戦闘面じゃおんぶに抱っこだから、こういう時に格好つけないと威厳がないですね。あ、威厳なんて最初からなか――あひゃひゃひゃひゃ!」


 余計なことを言うやつは成敗だ。


  ◇◇◇


 街を出発してから五日が経過した。

 街を見つけたら立ち寄り、宿を探して一泊する。

 なければ野宿を交互に繰り返して、少しずつ旅の疲れが見え始めてきた。

 馬車は朝日に背を向けて走っている。

 操縦しているのは俺だ。


「いいぞ。その調子だ」

「お、おう! 慣れると意外と簡単だな」

「タクロウの覚えが速いんだ。騎士団でもこんなに早く乗りこなせるのは珍しいぞ」

「そうか? なんか照れるな」


 旅の途中でジーナから馬の扱い方を教えてもらった。

 最初はちょっと怖かったが、乗り始めてみると結構簡単で、それに楽しい。

 元の世界じゃお金がなくて車の免許すら取得できなかったけど、異世界には免許がないから乗り放題だ。

 なんだかすごく得した気分になる。


「いいなー。あたしも練習したら乗れるようになるか?」

「もちろんだ」

「そうだぞ。俺が教えてやろう!」

「やったー!」

「すぐ調子に乗りますね。ちゃんと前見ないとだめですよ!」


 呆れながらサラスが忠告してきた。

 もちろん前は見ている。


「大丈夫だって。この先何もない草原……ん?」

「どうかしたか?」


 ジーナが身を乗り出す。

 ここは草原の一本道で、見晴らしがいい。

 ずっと先に何かが見える。

 まだ遠くてハッキリとは見えないけど、俺たちと同じ馬車だろうか?

 薄っすら煙が立っているように見えるんだが……。


「こういう時こそあれだろ!」


 俺は両目を大きく見開き、『千里眼』スキルを発動させた。

 このスキルはレベルが上がったことで新たに覚えたレンジャー固有スキル。

 遠いところを見ることができたり、暗い場所もナイトビジョン感覚で見ることができる。

 スキルを発動したことで、少し離れた先の景色が見えるようになった。


「やっぱり馬車だ。でも様子が変だぞ?」

「何が見えるんだ? タクロウ」

「馬車から煙が上がってる」

「――! モンスターに襲われているのか?」


 ジーナが慌てる。

 俺もモンスター被害かと思ったが、その姿が見えない。

 代わりに馬車を取り囲んでいるのは……。


「男たちだ」

「――それって咎落ちじゃないのか?」


 カナタが口に出す。

 俺も同じことを考えていた。

 馬車の近くで行商人らしき男が二人、震えながら隠れている。

 囲っている咎落ちらしき男は八人。

 武器を構えていた。

 その切っ先が向いているのは、行商人や馬車ではなく、彼らを守るように立ちふさがっている一人の女性に対して。

 どこか高貴な雰囲気を醸し出す黄金の髪と透き通る青い瞳。

 手に持っているのは杖だ。

 魔法使いだろうか?

 しかし人数差があり、じりじりと距離を詰められている。


「まずいな」


 このままじゃ女の子が襲われてしまう。

 俺は三人に状況を伝え、馬車の速度を上げる。


「助けないと!」

「わかってるよカナタ。でもここからじゃ当てられない」


 援護したいが距離が遠い。

 千里眼のおかげでマジックボウの射程は伸びたけど、さすがに遠すぎた。

 マジックボウは距離が離れるほど精度が落ちる。

 馬車や隠れている行商人がちょうど障害物になっている。

 ミスって彼らに当たったら最悪だ。

 

「せめてもう少し近づいて、狙いやすい角度なら……」

「ならば私に任せてくれ!」


 そう言ったのはジーナだった。

 彼女の指示に従い、俺は馬車を急停止させる。

 俺とジーナは馬車を降りる。

 ジーナは盾を斜め上向きに構えて、しゃがみ込んだ。

 この時点で大体察した。


「乗れ! タクロウ!」

「え……まさか――」

「時間がない! 私たちも後で追いつく!」

「あーもう! わかった任せろ!」


 俺は意を決して彼女の盾の上に乗った。


「よし! 行くぞ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 予想通り、彼女は盾を思いっきり持ち上げて俺を吹き飛ばした。

 ジーナの筋力によって上空へと跳び上がった俺は、涙目になりながらも襲われている人たちを見下ろす。


「この角度なら!」


 咎落ちだけを狙える!

 俺は空中で落下しながら、マジックボウを構えた。

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