いざ旅立ちの時④
「早急に何か手を考えないと……くそっ! 女神の祝福なんてなかったらでっち上げられるのに!」
「タクロウ、それはさすがに騎士として見過ごせないぞ」
「大丈夫だって。タクロウは悪いことできない人間だと思うから」
「そうですよ。この男は口だけでかくて大したことない人間の典型なんです」
なぜかいつの間にかサラスが俺たちの部屋に合流していた。
いつもなら悪口に速攻反撃するところだが、今はこんなアホに構っている時間も惜しい。
「どうすればいい? 何が最適だ?」
「なんだかブツブツ言い出しましたよ。この男」
「必死になるのもわかるよ。あたしもタクロウには死んでほしくないからな」
「うむ。タクロウには生きて私たちと共にいてもらわないと困る。だから私たちも一緒に考えよう! タクロウの悩みは、夫婦の悩みだ」
「そうだな!」
「カナタ、ジーナ……うっ」
また泣きそうになってしまう。
二人と結婚できて本当によかった。
この先もずっと、二人と過ごしたいと心から思う。
そのためには目標を達成し、生き延びなければならないんだ。
「出会いのなさが一番の問題だ。今のエンカウント数じゃそもそも足りない」
「それは単にタクロウがモテないだけなのでは?」
「そういうお前はまともなサポートをしろ! 女神様こいつクーリングオフしてくれ!」
「酷いじゃないですか! 私だって頑張って考えてるんですよ!」
女神の安心サポートサービスで一緒に異世界にやってきた天使のサラス。
本来ならば序盤、彼女が上手くサポートして俺を導いてくれるはずなのだが……。
今のところデートの心構え以外でまったく役に立っていない。
恋愛相談だけが得意の天使って、もはやただの女子高生じゃないか。
悶々と悩んでいると、ジーナが提案をする。
「そういうことなら、王都に行くのはどうだ?」
「――王都?」
彼女はこくりと頷いた。
王都とはその名の通り、俺たちがいる国の主要都市。
日本でいうところの東京みたいな場所だ。
ジーナは王国に属する騎士の一人で、この街に訪れる前も王都にいたらしい。
「先の咎落ちの件は手紙で報告済みだが、直接詳細を伝えたいとは思っていたんだ。そのためには王都に一度戻らないといけない。いつにしようか迷っていてな」
「そっか。ジーナってあたしらに協力してくれてるけど、所属は騎士団なんだよな」
「ああ、その通りだ」
パーティーへの加入は、戦う資格をもつ職業なら誰でも可能だ。
ジーナは騎士団カードを持っていて、その中身はほぼ冒険者カードと同じ仕様になっている。
騎士だからクエスト報酬はもらえないけど、クエストに参加する分にはギルド側も干渉してこない。
「どうだろう? もしタクロウたちがよければ、一緒に王都まで来てくれないか?」
「俺はもちろんいいぞ」
「あたしも! 王都って行ってみたかったんだ!」
「いい宿を探しましょう!」
三人とも速攻同意して、王都行きがほぼ確定する。
ジーナは安堵と嬉しそうな表情を浮かべて、俺に優しい視線を向ける。
「よかった。タクロウと結婚したことも、姉上に報告したかったんだ」
あ、そういうイベントもあるのか。
俺としても、娘さんを貰ったわけだし、挨拶はしておきたいところだが……。
ジーナのお姉さん、アイギスだったか?
話を聞いている感じ、とても厳しそうなイメージがある。
余計な波風が立たないといいのだが……。
「ま、会えばわかるか。よーし、そうと決まったら王都行きの準備をするぞ!」
「「「おー!」」」
元気よく掛け声が響き、俺たちは朝の仕度と宿屋を退出する準備を始めた。
一か月ほどお世話になった場所を、一時的かもしれないが出ていくのは名残惜しい。
宿屋の店主にお世話になった挨拶をすると、すごくいい笑顔で見送ってくれた。
またのご利用をお待ちしております、とかは一言もなかった。
どうも俺たちのふざけた噂が宿屋の店主まで届いているようで、余計なトラブルを起こしたくないと思っていたのだろう。
この街で唯一の安住の場所だと思っていたのに……。
朝からショックを受けながら、冒険者ギルドに向かった。
「――というわけで、王都に行くのでしばらく留守になります」
「そうなのですね。お気をつけていってらっしゃいませ。王都にも冒険者ギルドはございますから、クエストを受けたい際はそちらをご利用ください」
「はい。いろいろお世話になりました」
俺たちは受付嬢に事情を説明し、出発前の挨拶をした。
最初の頃は表情に嫌々オーラが滲み出ていたが、さすがプロの受付嬢だ。
もう慣れただけかもしれないけど、俺と目を合わせて話してくれる数少ない人物ではある。
「お? 聞いたか? 変態が街を出ていくらしいぞ」
「マジか! やっといなくなってくれるのかよ」
「え、いや……また戻って――」
「やっとなのね。これで街にも平穏が戻るわ」
俺たちが街を出る話を、周囲の冒険者が聞いて騒ぎ出す。
ほぼ全員の口から、出て行ってくれてありがとう的な声が聞こえるのだが……。
「あいつが来てからロクなことねーからな。性獣のうえに疫病神って最低かよ」
「本当よね。二度とこないでほしーわ」
「出てイケー、出てイケー」
「くっ……こいつらぁ……」
なんてひどい連中なんだ。
一度は一緒に街を守るために戦ったのに。
若干この街にも愛着が湧いて、今回も終わったら戻ってくるつもりだったのだが、俺の中でその気が失せた。
この街に、最初から俺の居場所なんてなかったんだ。
「俺がいなくなった後に滅びてしまえ! チクショウー!」
「あ、ちょっ、タクロウ!」
「待ってくれ! 私たちは味方だぞ!」
「大丈夫なんですか……この先不安なんですけどー」
俺は最後に呪いの言葉を盛大に残し、一か月を過ごした街に別れを告げた。
果たしてこの先、どんな出会いが待っているのか。
せめて誤解のない人生を歩みたいところだ。
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