いざ旅立ちの時③
「最期は派手だな」
「うん。だがこれで討伐は完了だ。みんな、怪我はないか?」
「カナタは?」
「あたしは平気だよ。ジーナのほうが痺れとかあるんじゃないのか?」
「少し残っている程度だ。すまないサラス、治療をお願いできるか?」
「もちろん! 癒し担当にお任せあれー!」
タンクはジーナ、アタッカーは前衛がカナタで、後衛が俺。
サラスは治癒と支援魔法で全体を援護する。
中々パーティーとしてバランスがよくなったんじゃないか?
妻が増えたことで経験値効率も上がり、レベルも順調に上昇中だ。
「よし。帰るか」
三人がそれぞれに返事をして、俺たちは森を後にする。
冒険者ギルドでクエスト達成を報告し、報酬を受け取ったら夕食だ。
宿屋とギルドの中間地点にいい酒場を見つけて、仕事終わりはいつもここで祝勝会をしている。
片手にはお酒の入ったコップ、テーブルには料理が並ぶ。
「「「「かんぱーい!!」」」」
仕事を終えて飲むお酒は格別に美味い!
身体も動かしたからお腹は空いていて、パクパク料理が口に運ばれる。
俺たちに限らず、多くの冒険者がこの瞬間のために頑張っているといっても過言ではないだろう。
「タクロウも剣術を覚えたらどうだ? せっかくあたしの加護が使えるんだしさ」
「そうだなぁ。前衛でも戦えるようになったほうが便利だよなぁ」
「だろ! あたしが指導してあげる!」
「ご指導よろしくお願いします! カナタ先生!」
なんて、楽し気に話す時間がとても好きだ。
元の世界じゃ食事は一人、どころか一日の大半を一人で過ごしていた。
それでいいと思っていたし、慣れてしまっていた。
けれど虚しさはあったんだ。
こうして仲間たちと過ごす時間が、俺の人生に潤いを与えている。
そして……。
夜には夫婦だからこそのイベントが待っている。
ベッドは一つ。
使うのは男一人と、女が二人。
あられもない姿の二人が、うるっとした瞳で誘うように俺を見つめる。
「タクロウ、今夜も……」
「お願いできるか?」
「もちろん!」
自信たっぷりに返事をした。
そう!
俺はもはや童貞ではない。
女を知り、色を知る非童貞の仲間入りを果たしたのだ!
彼女たちとの関係は、俺の精神に大きな変化をもたらしていた。
たかが女性経験ができた程度でと侮るなかれ。
心の持ちようが全然違う。
落ち着きが生まれたし、他の男性に僻みを感じる頻度が大幅に減った。
俺には支えてくれる女性がいる。
そう思うだけで、寂しさや劣等感など吹き飛ばせる。
もちろんそれだけじゃない。
身体を合わせることで、普段は見せない二人の顔を見ることができる。
カナタは積極的なタイプで、知識は疎いけど激しく求め、甘えてくれる。
すごく可愛いし、愛おしい。
反対に普段は気が強そうなジーナは奥手だった。
ベッドの上じゃしおらしくて、未だに初心な女の子の感じが残る。
それはそれでたまらんのじゃ。
とにかく何がいいたいのかというと……。
結婚は最高だということだ。
◇◇◇
身体を重ねた日の翌朝は、決まって少し早めに目が覚める。
睡眠時間は減っているのに、身体は元気で清々しい気分で朝を迎えられる。
まさに最高の目覚めというやつだ。
二人はまだ、俺の左右で眠っている。
俺の身体に抱き着くように、離さないぞと全身で表すように。
スヤスヤと眠る姿は可愛くて、聞こえる寝息は心地よく子守唄のようだ。
「もうひと眠りするか」
異世界生活最高!
こんな時間が永遠に続けばいい。
そう、この先……一年……。
「――は! こんなことしてる場合じゃない!」
「うぇ?」
「――んん!? タ、タクロウ?」
俺が大きな声を出し上体を起こしたことで、ビックリした二人が目を覚ました。
むっくりと起き上がり、カナタが目をこすりながら呟く。
「おはよう……タクロウ」
「おはよう、カナタ。って違う!」
「え? まだ夜なのかぁ? じゃあもうちょっと寝る……」
「お休み――ってそれもちがーう!」
「どうしたんだタクロウ。朝から変なテンションだぞ」
完全に目が覚めているジーナがツッコミを入れた。
寝ぼけているのかと聞かれたが、俺はハッキリと目が覚めている。
とてもクリアな思考で、現実を見ていた。
「このままじゃダメなんだ……もう一か月経ったんだよ」
「んえ? ああ、タクロウがこの世界に来てからか? 早いなー、あたしと会ってからもそのくらいになるのか」
「そうだな。カナタと会ってから……じゃなくて、もう一か月なんだよ! 十二分の一が終わったのに、まだ二人なんだよ!」
「世界に召喚された時の目標、嫁を百人作ることだったか」
「そうだジーナ! 目標を達成できなかったら俺は死ぬ。ついでにサラスも死ぬ」
そこは別にどうでもいいんだが、問題は期間だ。
異世界に召喚されて今日で三十五日目。
一か月と少し経過して、なんとか短期目標はクリアしたものの、中期目標には未だ遠い。
現在のペースじゃ絶対に間に合わない。
俺は顔に手を当て、頭を悩ませる。
「残り三百十日で九十八人……大体三日に一人くらいのペースで結婚しろって?」
無理だろ!
どんなハーレム王だ!
それこそ自分で国を作るくらいやれなきゃ達成できないぞ!
のんびり生活は幸せだけど、このままじゃ俺が死ぬ。
俺が死んだら、せっかく結婚できた二人を残すことになる。
なんとしても回避しなければ!





