いざ旅立ちの時②
俺たちは森を進む。
お馴染みになった東の森、別名迷いの森だ。
もう何度目かわからないから、今さら迷うことはないだろう。
方向音痴のカナタはともかく、森の地形は大体把握した。
今なら夜の暗がりでも迷わず帰還できるぞ。
「ふっ、俺も成長したな」
「そう思うなら人間性も成長させてほしいですよ」
「……誰の人間性が乏しいって?」
「クズタクロウ以外にいな――あひゃひゃひゃひゃ!」
「成敗」
笑い疲れて倒れ込むサラスを見下す。
「あまり強い言葉を使うなよ」
「す、すぐにそうやって人の弱点をつこうとする。サイテーですよ!」
「二人とも静かに。ここはもうモンスターのテリトリーなんだぞ?」
「「すみませんでした」」
先頭を歩くジーナに注意され、しょぼんとする俺とサラス。
普段は優しく甘いジーナだが、危険な場所や戦闘に入ると騎士らしくなる。
このギャップもいい。
「そういや、ジーナだけ弱点見てないよな!」
「あ、そういえば」
カナタがいいことに気づいた。
確かにまだジーナに加護を使っていない。
緊張感がなくて怒られるかもしれないが、弱点を守るために知っておくのも大事だろう。
とか自分の中で理由付けして、ジーナに加護を使用した。
さて、どこが弱点だ?
ジーナの腰当たりが光っている。
まさかあそこ……じゃないな。
位置的に前じゃなくて、これってもしかしてアナ――
「どうしたタクロウ? 私のおしりに何かついているか?」
「……ジーナ」
「ん?」
「お前はやっぱり、最高の騎士だよ」
俺はトンとジーナの肩を叩いて親指をたてる。
「え、あ、そうか? タクロウに言われると照れてしまうな」
わかってんじゃねーか。
騎士と言えばどこが弱いのか?
そう、ア〇ルだよな!
テンプレを身体で理解しているなんて、さすがは俺の嫁だ。
今夜が楽しみになってきたぜ。
「へぇ、ジーナっておし――んん!」
「それ以上は言ってはいけません」
「な、なんで? あたし変なこと言ったか?」
「後でゆっくり話そうな」
「お、おう。わかった」
加護が共有できるのは便利だが、俺だけの秘密にできないのはマイナスポイントだな。
上手く調整できないものか。
妻たちの弱点は俺だけが知る秘密にしたいのに。
そうすれば夜の運動会で優位に立てるのに。
「女神様の加護をいかがわしい目的のためだけに使わないでくださいよ」
「……お前、心が読めたのか?」
「顔見ればわかりますよ。変態の顔してました」
「へっ――!」
気をつけよう。
「三人とも! 目標が近いぞ」
先頭のジーナが立ち止まる。
バチバチと独特な音が響いていた。
木々がハゲ、岩山が露出しているこの場所で、ターゲットのモンスターは素を作っている。
「――! いたぞ! 奴がそうだ!」
ジーナが叫ぶ。
その瞬間、大きな山の影から巨体が飛び出す。
四足歩行の獣。
俺がいた世界では百獣の王と呼ばれる生物によく似たモンスターだ。
一番の特徴は、鬣が雷を帯びていること。
その名もサンダライオン。
「ダジャレみたいだな」
「気を抜くな! すぐに戦闘態勢に入るんだ!」
ジーナが剣と盾を構える。
カナタが先に剣を抜き、俺も遅れてマジックボウを構えた。
サンダライオンが吠える。
雄叫びで空気がピリつくようだ。
「私が前衛で攻撃を受ける。二人はその隙に攻撃してほしい!」
「おう!」
「わかった! サラスはジーナに防御と雷耐性の支援魔法をかけてやってくれ」
「了解しました!」
陣形を組み、戦闘が開始される。
先に動いたのはサンダライオンのほうだった。
雷を帯びた爪で地面を蹴り、その勢いのままジーナに襲い掛かる。
ジーナは盾を構えて動きを止める。
加護の効果により、防御力上昇が始まる。
「ぐっ……しびれる」
「大丈夫かジーナ!」
「構うな! 二人は攻撃に集中してほしい!」
「タクロウ!」
「ああ!」
名前はギャグっぽいが、迫力は本物だ。
長期戦になればこっちが不利。
ジーナの鉄壁が破られたら敗色濃厚になる。
その前に倒すには、弱点を見つけること。
俺とカナタは加護を発動し、弱点を見つける。
光っていたのは尻尾だった。
「尻尾が弱点か」
「サンダライオンの雷は尻尾で充電する! 尻尾を斬れば雷は使えない!」
「なるほどな!」
ジーナが攻撃を受けながら解説してくれた。
彼女は騎士として、俺たちよりも多くのモンスターと戦った経験や、王国での知識がある。
その知識のおかげで、見抜いた弱点の意味にたどり着けるようになった。
彼女の加入はタンク役を獲得しただけでなく、知識面の大幅な強化にもつながった。
「尻尾ならまかせて!」
カナタが素早さを活かして接近し、サンダライオンの尻尾を斬り裂く。
細くてクネクネ動くから当てにくいだけで、防御力は低い。
尻尾を斬られたことでサンダライオンの雷は四方に放出する。
「よし今だ!」
弱点を一つ潰してから再び加護を発動すると、別の弱点が光ることがある。
次に光っていたのは目だった。
見なくてもわかる弱点だが、光ることで狙いがつけやすくなる。
俺はマジックボウのチャージショットで片目を潰す。
「おおお!」
悶えるサンダライオンの頭を、ジーナが盾を使って押し出す。
サラスの支援魔法で筋力が上昇していた。
盾で押され、ひっくり返って腹部が上を向いたサンダライオンの上から、カナタが剣を突き刺す。
「ちょっと可哀想だけど」
突き刺さった刃を十字に斬り、サンダライオンの腹部を切断した。
切断面から血と一緒に雷が漏れる。
「うわっ!」
「カナタ下がれ!」
「タクロウ!」
飛び避けたカナタを俺がキャッチし、抱き寄せる。
致命傷を負ったサンダライオンは、雷を大放出して霧散した。





