いざ旅立ちの時①
第二章開幕!!!
人の一生は刹那的で、いつ終わるかわからない。
当たり前のように過ごしていた日々も、いつか必ず終わりを迎える。
それは今日かもしれないし、明日かもしれない。
人生、何が起こるかなんて誰にもわからないんだ。
「タクロウ。もう朝だぞ」
「ぅ……」
「全然起きないな!」
「まったくだらしない男だ。仕方ない。ここはあれでいこう、カナタ」
「よしわかった!」
うっすらと目を開く。
寝ぼけ眼に二人の姿が見えて、何やら構えていた。
何をする気だろう……。
「「せーの!」」
「ぐへっ!」
二人同時に寝ている俺へとダイブしてきた。
カナタは胸を、ジーナは股間あたりに飛び乗ってきて、衝撃で目が覚める。
「起きたか! タクロウ」
「おはよう。今日もいい朝だな」
「……危うく永眠するところだった」
「大袈裟な奴だなー。そんなんで死ぬわけないじゃんか」
カナタは朝から元気いっぱいの笑顔を見せる。
全然冗談じゃないぞ。
一瞬だが走馬灯が見えた気がする。
「ほら、早く起きて着替えてくれ。朝食に行くぞ」
ジーナに急かされてベッドから降りて、大きく背伸びをする。
乱れた布団を丁寧に畳む姿が、なぜか様になっていた。
「三人ともまたですかー! あんまり遅いと先にご飯食べていきますよー」
「すぐ行くから待ってて! ほらタクロウ!」
「わ、ちょっ、引っ張るな! 自分で着替えられるから!」
朝から賑やかで慌ただしい。
この世界に転生して、今日でちょうど一か月目にあたる。
短期目標の最終日。
今日までにクリアできなければ、一年で死ぬことが確定していた。
けれど今はもう、その心配はない。
なぜなら俺は――
「童貞じゃなくなったのだ!」
「――おっ、急にどうしたんだよ」
「まだ寝ぼけているのか?」
「いや、なんでもない」
つい興奮して心の声が言葉に出てしまったようだ。
しかし事実、俺は童貞を捨てた。
二人の妻のおかげで、無事に大人の階段を上ることができたのだ。
「二人とも、本当にありがとな? 俺と結婚してくれて」
「な、なんだよ急に、照れるな」
「当然じゃないか。私たちはタクロウのことが好きなのだから」
「そうだな。俺も二人が大好きだ!」
「ちょっとー、イチャついてないで早くしてもらえませんかー」
二人同時に抱き寄せようとしたら、空気を読まずにポンコツ天使が乱入してきた。
開いた扉に身体と視線を向けたことで、俺の抱擁はスカってしまう。
くそっ、また邪魔が入ったな。
「すまないサラス。タクロウが寝ぼけているようなんだ」
「寝ぼけてないぞ。すぐ着替える」
「手伝ってやるよ!」
「大丈夫だって」
カナタは俺の替えのパンツを握っていた。
自分のパンツを好きな女の子が持っていると思うと、朝から変な気分になる。
治まるんだ俺のリビドーよ。
せめて夜まで我慢してくれよな。
「タクロウが日に日に気持ち悪くなっていますね」
「お前はいつも一言多い」
◇◇◇
朝食を済ませて宿屋を出る。
向かった先はもちろん冒険者ギルドだ。
朝方ということもあり、クエストボードの前には人混みができている。
「今日も繁盛してるなー……こりゃいいクエストは残ってないぞ」
「うむ。ならば私が適当に見繕ってこよう」
「まさかジーナ、あの人混みに入る気ですか? 危険ですよ!」
「そうだぞ。だからサラス、お前行ってこい」
「なんで私なんですか! 流れ的に男のタクロウが行くべきですよ!」
「こういう時だけ男女を持ち出すな。それ差別だぞ」
「安心してくれ。これでも防御力と体力だけは自信があるんだ」
そう言ってジーナは人混みの中に突入していく。
確かにジーナのステータスは、防御力と体力が異常に高かった。
レベルが近いカナタの倍以上ある。
まぁ大丈夫だろうと思いつつ、彼女の帰りを待つ。
「あ、戻ってきた」
カナタが指をさす。
その先でジーナが人混みを押しのけて帰還する。
手にはクエスト用紙が握られていた。
「お帰り、ジーナ」
「無事でしたか! 変なところ触られませんでしたか!」
「大丈夫だ。クエストもとってきたぞ」
「お、サンキュ。どれどれ……ぶっ!」
クエスト内容、サラマンダーの討伐。
適正レベルは60前後。
「絶対無理だろ! てかなんで駆け出しの街にこんなクエストがあるんだ! どう考えても不適正だろう!」
「なんか時々張ってあったの見たぞ。あたしは挑戦してもいいけどな!」
「いや無理だから。悪いなジーナ、違うので頼む」
「そうか。すまない。じゃあもう一回行ってくる!」
再びジーナが人ごみに潜る。
一分後、人混みからジーナが帰還して、クエストをみせてくれた。
「これはどうだ?」
クエスト内容、ロックエレメンタル駆除。
適正レベル65前後、魔法系スキル必須。
「さっきよりも難易度上がっとるがな!」
「うわっ、どうしたタクロウ? しゃべり方変だぞ?」
カナタが俺の隣で驚いていた。
俺は呆れながらクエストをジーナに返す。
「これも無理! 他の、もっと俺たちのレベルにあったクエストを持ってきてくれ!」
「わ、わかった。まかせてくれ!」
「……大丈夫だろうな」
もしかしてジーナって、天然か?
その後も三度、四度目と高難易度のクエストを引き当て戻ってきたジーナ。
どうやら人混みのせいで選べず、適当に手に取ったものが全て高難易度クエストだったらしい。
なんという運の悪さだ。
いや、逆に持っているのか?
「仕方ない! もう俺が行く!」
「す、すまないタクロウ」
「頼んだぞ! タクロウ」
「おう!」
時間経過と共に人混みも若干緩やかになった。
気がする!
今なら俺でもいける。
「うおおおおおおおおおおおおお」
「きゃあ! この人痴漢よぉ!」
「またてめぇか変態色情魔!」
「俺は何もしてねぇえええええええええええええ!」
「だ、大丈夫かな……」
「信じよう。私たちの夫を」
数分後。
「はぁ……うぅ……」
「大丈夫か? 生きてるか?」
「な、なんとかな」
カナタに背中をさすってもらいながら、なんとか呼吸を整える。
人混みはこれがあるから嫌なんだ。
触ってもないのに痴漢と疑われて殴られ蹴られ。
やっとの思いでクエストボード前にたどり着いても、ロクなクエストが残っていない。
とりあえず一枚、手を伸ばして剥がしてやったぞ。
「今日のクエストはこれだ!」
俺は戦利品を広げて、絶望した。
三人も覗き込み、サラスが呟く。
「これ、近所のお惣菜屋さんのチラシですね」
「なんでそんな広告がクエストボードに紛れてんだよ! 誰だ嫌がらせしてる奴は! 神か! 神が弄んでるのか!」
「ちょっ、タクロウ! 女神様に喧嘩売らないでください! 私が罰せられますから!」





