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【第一章完結】抜きゲーみたいな世界に転生した童貞〔オレ〕は嫁を100人作ると決心した! ※決心しただけなので出来るとは言っていない。でも出来なきゃ死ぬらしい……  作者: 日之影ソラ
第一章 転生したけど死にそう

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結婚、一人目④

「童貞卒業?」

「お前なぁ! いっつも一言余計なんだよ!」

「なんでですかぁ! 何も悪いことしてませんよぉ!」

「こいつ無自覚か! 一番タチ悪いぞ!」


 最高の気分を台無しにしたポンコツ天使の頬を引っ張る。

 せっかく雰囲気もよかったのに、今の発言で全部流れたぞ。

 しかもこいつ忘れてるな?

 カナタがまだ、本当の短期目標を知らないことを。

 今ので悟られたんじゃないだろうな?


「なぁ、タクロウ」

「はい」


 結婚してわずか十秒。

 夫婦最大のピンチが訪れる……。


「童貞って何?」

「……そこからですか」


 どうやら彼女は、童貞という単語すら知らなかったらしい。

 言葉がなかったのではなく、単なる無知。

 これまでそういうことに疎かったのだろう。

 嘆きを通り越して呆れた俺は、もう全部素直に話そうと思った。

 夫婦になったんだ。

 隠し事はなしでいこう。


 カクカクシカジカ。

 

 俺は隠していた本当の目標と、そのリスクを彼女に伝えた。


「なるほどな。童貞は、エッチなことをしたことがない男の人で、タクロウがそうなのか」

「はい、そうです」


 なんか尋問されてる気分だ。


「で、転生するときの目標で一か月以内に童貞卒業? しないと一生独身になる?」

「そうです」

「そうなると、一年以内に百人と結婚する目標が果たせなくて、死んじゃうのか」

「……らしいです」

「そっか。大変だな、タクロウも」

 

 同情されてしまった。

 これなら怒られたほうがよかったのでは?

 すごく惨めな気分になる。


「あの、カナタ……」

「そういうことか。じゃあ、タクロウが死なないためにはあたしと……!? え、エッチなこと?」


 ようやく気がついたらしい。

 俺の目的が、結婚を焦った理由がどこにあるのか。

 最低だと罵られても仕方がない。

 これに関しては、性獣という名を甘んじて受け入れようと思った。


「わ、わかった! 頑張るよ!」

「カナタ?」

「だって、そうしないとタクロウが死んじゃうんだろ? そんなの絶対に嫌だ! せっかく結婚したのに」


 糾弾するのではなく、俺を助けようと考えてくれている。

 俺は感動してしまった。

 ここまで……まっすぐな人間がいるのかと。


「うぅ……ごめんな。カナタ」

「な、なんで泣くんだよ! 大丈夫だ! あたしがいる!」

「ああ、ありがとう」

「そういうことなら! さっそくやっちゃいましょう!」

「「――へ?」」


  ◇◇◇


 宿屋の一室に。

 ベッドの上に腰かけた俺とカナタ。


「では、ごゆっくり~」


 バタンとサラスが扉を閉めた。

 二人きり。

 夕日も沈んで、すでに夜になっていた。


「……」


 や、やるのか今から?

 カナタとセ……セッ!


「ごほっごほっ!」

「大丈夫か? タクロウ」

「ああ、ちょっと興奮して」

「興奮……したのか」

「いや、そうじゃなくて! そうだけど!」


 恥ずかしすぎて死にそうだ。

 世のリア充たちはこの空気に耐えていたというのか?

 どういう精神をしている。

 やはりリア充は化け物ばかりなのか?

 いやいかん! 

 ここは男がリードしないと。

 カナタだって初めてだろうし……。


「カナタ、その……いいか?」

「お、おう! こい!」


 こいって……雰囲気とかあったものじゃないな。

 でも、カナタらしい。

 おかげで少し、緊張がほぐれた。

 覚悟を決めろ。

 俺だって男なんだ!

 惚れた女の前でくらい格好つけずに何が男だ!


「――!」


 カナタの肩に触れる。

 ビクッと身体を震わせた。

 俺よりもカナタのほうが緊張している。

 ドキドキが、熱が、こちらにも伝わってくる。


「カナタ」

「タ、タクロウ……」


 ゲームの知識をフル活用して導き出した初手。

 まずはキスからだろう。

 唇を近づけようとする。


「や、やっぱダメ!」

「え、うおっ!」


 突き飛ばされてしまった。

 俺はベッドに転がる。


「ご、ごめん! やっぱりまだ恥ずかしくて……こ、心の準備ができてない」

「そ、そうか……なら仕方ないな」


 正直その気だったから残念だけど、無理矢理はよくないよな。

 でもやっぱり、拒絶されたみたいで落ち込む。

 それが表情に漏れたのだろう。

 カナタが慌ててフォローする。


「タクロウとするのが嫌ってことじゃないんだよ! タクロウのこと! ちゃんと好きだから!」

「――! そ、そうか。わかってるよ」


 その一言だけで、今は心がいっぱいだ。


「待っててくれよな! 次は必ず、ちゃんと覚悟決めとく!」

「無理しなくていいよ。時間はまだあるんだ」

「大丈夫! あたしはもう、タクロウの嫁なんだから!」


 なんて健気な……最高かよ、俺の嫁は。


「とりあえずここまでだな。じゃあ俺は自分の部屋に――!」


 立ち上がろうとした俺の腕を彼女が掴む。

 振り返ると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめながら言う。


「あのさ……もしよかったら、一緒に寝るだけでも……ダメかな?」

「――!」


 そんなもん、いいに決まってるだろ!


「じゃあ、一緒に寝るか」

「おう」


 一つのベッドで、二人で眠る。

 おそらく幼少期、親と一緒に寝たのが最後じゃないだろうか。

 他人の温もりを感じるベッドは……。


「幸せって、こんな感じなんだな」

「……そうだな」


 俺も幸せだった。

 願わくは、この時間が永遠に続けばいいと思えるほどに。

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