瞳のむこうで
「十秒だけ、目を瞑って。」
君が言う。わたしは、言われた通りに目を瞑った。心の中で秒数を数え、
「目、開けるよ」君に言う。
だけど、返事がない。聴こえなったのかな、と思ってもう一度言う。「開けるよ」少し大きな声で言った。なのに、君は答えてくれない。変だな、と思って目を開けた。
君がいない。君に電話をかけようと思って、思いとどまる。頭がフル回転している。今まで君が言ったことを思い出す。記憶がさかのぼる。さかのぼって、君と出会った日。どこで会ったっけ。
ピリリリッ、ピリリリッという聞きなれた音が聞こえて、目が覚めた。あ、そっか。夢だったんだ。
また苦しい一日の始まりだ。
本当の瞳のむこうには、いつも、君でもない、少しだけ、穢れた世の中が、あるだけだ。