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夏のホラー2023『帰り道』

おんがえし

作者: 家紋 武範

 会社からの帰り道、街路樹のクモの巣にかかった蝶を見つけた。見事な黒アゲハで、この美しい虫がクモに食べられてしまうのを哀れに思った俺は、蝶をクモの巣から外して夜空に放ってやった。


「もう捕まるなよ」


 そんな臭いセリフを吐いて、ロマンチストな自分自身を苦笑した。


 しばらく歩くと首筋にチクリと痛みが走る。慌てて首を押さえるが、なぜか力が入らない。膝をついて前のめりに倒れ込んでしまった。


 人通りのない裏路地だ。回りに人の気配がない。助けを呼ぼうにも全身が痺れるようで大声がでない。


 そこに、カツカツとヒールの足音が聞こえた。女性が近づいてくる。


 彼女は前に座り込み、俺の顎を掴んで自身のほうに顔を向けた。




 そこには美しい女性がいた。全身黒づくめで唇すら黒い。しかし妖艶な魅力を感じさせる女性だった。


 彼女はニヤリと笑って言う。


「おん返しに来たわよ」

「恩返し?」


 そ、そうか。彼女は黒アゲハの化身で突然倒れた俺を助けてくれるのでは……?


 相変わらずのロマンチストだと思ったが、彼女は俺を乱暴に引きずって空きビルへと連れて行く──。


 そして俺を背中から抱くと、鋭い牙を突き立てて来た。


 痛い! だが声が出ない。彼女は音を立てて俺の体液を吸う。


「よくも食事の邪魔をしてくれたね。代わりにお前を食ってやる!」


 そう言って彼女は食事を再開した。


 コイツはあの時の黒アゲハじゃない。クモのほうなんだ。食い物の怨み、つまり『(おん)返し』なのだと、薄れ行く意識の中で理解した──。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これもキレの良い短編ですね。一気に見せ切る感じに魅力を感じます。 [気になる点] 特にありません。 [一言] 蜘蛛については、「蠅男の恐怖」って映画が子供の頃のトラウマになっていまして………
[良い点] しいなさんが吸われたいんでしょうって書いてますが、違いますよね。 女王様に縛られたかったんですよね?
[良い点] やはり、食い物の恨みは恐ろしい………((( ;゜Д゜)))
感想一覧
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