もうすぐ終わってしまう日まで
一枚のプリントと本
黒板を少し見て、飽きたら視線を外し窓から空を見る。それが普段からの僕の習慣だ。
先生が話している声や、近くのクラスメイトたちの雑談をBGMにして、ボーッと空を眺めていた。
それを二時間ほど続けると放課後になった。
「はぁ。帰ろ……」
そう言い席を立ち鞄をもって教室を出ようとする。
ふと黒板の方を見る。そこには担任が資料をまとめている姿があった。視線を合わせないように前を向こうとすると一瞬目が合ってしまった。
「上山。ちょっと来てくれ。」
目が合ったのが運の尽きだと思い、はい。と言い教卓へ向かう。
「お前の隣の席の天宮琴美にこのプリントを届けてくれ。場所は紙にかいてあるから。」
「あ、はい…。」
僕に拒否権がないのを理解してしぶしぶプリントの入ったファイルと場所が書いてあるメモを受け取り教室を出た。
メモに書いてあった場所は僕の家と反対方向にある病院だった。
病室の番号までは書かれていなかったのでカウンターで天宮琴美の名前を出し聞く。
天宮が入院しているのは五〇二号室らしくエレベーターに乗って五階へ行く。三階で止まると一人の女子が乗ってくる。
扉が閉まった後その人は僕の制服を見ると何かを思い出したように問いかけてくる。
「あ、君が先生が言ってた上山くん?」
「そうだけど。えっと…天宮琴美?」
「そうだよ。プリントでしょ?今から部屋に戻るから着いてきて。」
良いよね?と言いたげな目で天宮がこちらを見るので、またもや僕には拒否権が無いなと察しため息を着く。
五階に着くと天宮はスタスタと歩いていくのでそれについて行く。談話室にはたくさんの患者さんがいたがそれを気にせず歩いていく。
天宮が入院している部屋の前に着くと、「どうぞ入って。」と言い扉を開けて中に入る。
部屋の中は殺風景で唯一目に入るものは本が沢山並んでいる本棚だった。
「上山くん本読む?」
「え、うん、まぁ。」
「じゃあ、これ読んで。」
いきなり聞いてきたと思ったら一冊の本を手渡してきた。その本は僕が読もうと思っていた本で受け取るとベッドの近くに置いてあった椅子に腰掛け読み始める。
いつもなら受け取らずにそそくさと帰るがたまにはいいかと思い本を読み進めた。
四時間ほど無言で読み続けている時ふと窓の方を見ると外は暗くなってきていた。
「もうそろそろ帰るから。じゃあ…」
「まって、明日もどうせ暇でしょ。また明日も来て。」
「え…。」
「いいから。私一人で暇だから本読みに来て。じゃあまた明日ね上山くん。」
「あ、うん。また明日…。」
なんか天宮に丸め込まれた気がしたがあの本を読むために行くのならいいかと納得し病室をあとにした。
その日は帰りが遅くなったことを母と妹に心配されたが少し寄り道していただけだよといい部屋にこもった。
明日またあの病室に行くのかと考えながらベッドに入り目を閉じた。
この日から天宮と僕の不思議な関係が始まった。
放課後の秘密
次の日から学校がある日は毎日放課後に天宮の病室に足を運んだ。
僕自身も本を読みたかったからというのもある。
今日はやっと本を最後まで読みおわれると少しウキウキしながら向かっていた。
何日も通っていたからか天宮とも話をするようになり、学校でのことや、お互いの愚痴などを言い合うようになっていっていた。 と言っても天宮が一方的に話しているだけだが。
「かけるくんってさ。喋れば仲良くなれそうなのになんで人と関わらないの?」
唐突に天宮がそう訊ねてきた。確かに人と少しずつ関われば友達や話し相手もできるが僕は人と距離を取った。
「それは、僕が関わりたくないからだよ。」
そう言い僕はまた本に顔を向け読み始める。ほんとかな?と疑問そうに言いながらこちらに視線を向けてくるのでそれを無視して読むのに没頭した。
読み終わると天宮も本を読んでいたので窓の方を向いて空を見る。夕焼け色に染まっていてすごく綺麗だなと思っていると。
「かけるくん携帯持ってるよね。」
と天宮が話しかけてきた。突然なんなのだろうと思いながら「もってるけど。」と答える。
「じゃあさ、連絡先交換していい?これからも毎日来てもらうんだし!」
といきなり言われた。確かに暇だがこれからも毎日家と反対方向の病院まで歩いていくのはめんどくさかった。さすがに断ろうと思いごめんと言おうとすると。
「私普段一人で暇なんだ。今まではそれでもいいと思ってたけど君が最近来てくれたからかもっと話がしたいなって。だめだったかな?」
突然言われた言葉にびっくりした。天宮の表情は嘘をついているようには見えない寂しそうな顔だった。
僕はその顔を見て断れなくなってしまった。
「分かったよ。こればいいんでしょ?はい、携帯。」
「…ありがとう!やった!」
素直に喜び笑顔を見せる天宮を見て少し嬉しくなった。
そのあとは、連絡先を交換し少し早いが家に帰ることにした。
「じゃあ、また明日。」
「うん。またね」
部屋をでてエレベーターを待っていると、天宮から連絡が来ていた。
『明日新しい本が来るので楽しみにしといて。』
さっき言えばよかったものを連絡できたので送りたかったのだろうか、と疑問に思いながらエレベーターに乗り込んだ。
家に帰ると妹の薫が出迎えに来た。
「おかえりお兄!今日は早かったね。」
いつも通り元気な声で言うので自然と明るい気分になった。最近は天宮の所に行っていたせいで帰りが遅くなっていたからか薫はお兄に彼女が出来たと騒いでいたらしい。
「今日は薫が早く帰ってきてって言ってたからな。」
そう言うと余程嬉しかったのか抱きついて来てありがとうと言ってきた。明日からまた少し遅くなるかもしれないと言うと拗ねてしまいそうなので言わずにリビングに入る。
いつも通り母がご飯を作っている途中だったので少しの間薫とテレビを見て待つことになった。
ご飯を食べ部屋に戻り携帯を見ると一つ着信が来ていた。天宮からのもので内容は
『新しい本が来るの明後日になりました。』
というものだった。ごめんとスタンプが送られてきていたので了解と打って送信した。
いつもなら少し本を読むが今日はもう寝ようと思いベッドに横になった。
次の日学校からの帰り道にいつも通り天宮の病室によると、彼女は眠っていた。朝検査をしたり親戚がお見舞いに来たりと色々なことが重なっていたらしく疲れてさっき眠ったと看護師の人が言っていた。
僕は天宮を起こさないようにそっと本棚から気になったタイトルの本を取り出し椅子に腰掛けた。
いつもなら読んでいる途中で天宮に話しかけられたり、感想を求められたりするが、眠っているのでそう言う邪魔も無い。
いつもより静かな部屋が今は静かすぎると思うくらいだった。
三時間ほど本を読んでいたが天宮は眠ったまま起きなかったのでそっと本を戻し帰ることにした。帰りに携帯を見てみると天宮から着信が来ていた。
『ごめんなさい。今起きた。』
それを見て僕はもう少しいれば良かったなと微笑みながら思った。
次の日から数日間は天宮が昨日のことを引きずっていたからか少し落ち込んでいた。だが僕は気にしていなかったのでそれが逆に面白く笑ってしまった。
「酷いなぁ。本気で落ち込んでるんだよこっちは!」
「わかってるから。僕は気にしてないし。」
「それでも!来てもらったのに寝てたなんてなぁ。」
拗ねたように頬を膨らませて言う。その顔が不覚にも可愛いと思ってしまった。
次の日からはテスト週間だった為お見舞いに行けなかった。
テスト週間が空けた次の日に行くと天宮は上着を羽織って待っていた。
「やっと来たね。じゃあついてきて。」
僕は荷物を置いている途中で手を引っ張られ部屋から出た。いきなり手を引っ張ってどこに行くのだろうと思っていると、そこは病院の中庭だった。
「最近調子が良いから散歩してもいいよって許可出たの。」
独り言のように天宮は呟いた。久しぶりの外だったのか植物が植えられている場所に来ると、この花前来た時は無かったなぁ。と言い普段の何倍も明るい笑顔を見せていた。
その後も二人で外を歩いて、暗くなってきたので病室まで天宮を送って帰ることになった。
そんな日が続いていつの間にか僕も天宮と喋っているのが楽しくなっていた。天宮と会うこの放課後が僕の中で楽しい時間になっていた。
それから数日後に退院した天宮が学校に来た。
容態が安定しせっかくなら学校に行きたいと天宮自身が希望したという。久しぶりのクラスメイトだったからか天宮の周りには沢山人が集まっていた。
その日の昼休み僕が携帯を見ると天宮から着信が来ていた。
『放課後裏庭に来て。』
何か用でもあったかと思い了解と返信し、持参した本を鞄から出し読み始めた。
放課後になり僕が裏庭に行くとベンチに天宮が座って本を読んでいて、風が吹くと少し寒そうにした。遠間から見ていると目が合い本を閉じこちらに向かってきた。
「遅かったね。」
「ごめん。人が多かったから遠回りしたんだよ。」
「ホントなのかなぁ。まぁいいや。」
疑うような目でこちらを見てくるので僕は目を逸らして対応する。
「じゃあ、今から本屋に行くからついてきてよ。」
いきなり天宮は言う。ただ僕も新しく本を買いたかったので分かったと言いついて行くことにした。
本屋に向かっている途中で僕は天宮に疑問を投げかけた。
「なんで他のクラスメイトを誘わなかったの?君なら行ってくれる人いたんじゃない?」
「……いたかもしれないけど、君とが良かったの。他の人は病気のことあんま知らないから。それに……。」
「それに?」
「あと半年くらいしか生きられないのに他に親しい人作る意味がないから。」
と付け足して答えた。
天宮の返答に質問しなければよかったと後悔した。僕は病気のことは聞いていたがこの日まで天宮が余命宣告を受けていることは知らなかった。
そのあとは本屋で各々本を買い天宮が乗るバスの最寄りのバス停まで送って家に帰った。
そんな日々が二ヶ月ほど続いた。
あの日天宮が余命宣告を受けていると口にして凄く心が痛かった。3ヶ月程だが天宮を見ていて死ぬだなんて思ってもみなかったから。いつの間にか僕は天宮に想いを寄せていたのだと気づいた。
そして僕は決意した。残りの半年間天宮との時間を大切にしようと。
黄色と白の花
天宮の体調が悪化したのはあれから2日後だった。突然のことだったのでびっくりしすぐに病院へ向かった。病室に着くと天宮はベッドに座って本を読んでいた。僕に気づくと本を閉じ昨日ぶりだね。と声をかけてきた。
「ごめんね。いきなり倒れちゃって検査したら入院してくださいって言われちゃった。」
天宮は他人事のように僕にそう言った。
天宮は少し寂しそうな笑顔を見せながら学校行きたいなぁと言うと僕に本を差し出した。
「これこの前言ってた新しくきた本だよ。私はもう読んだけど面白かった!」
と楽しそうに感想を伝えてくれた。
その日は少し本を読み1時間ほどで帰った。天宮ともう少しいたかったが、途中で体調が悪そうに咳をしていたので無理をさせていると思い早めに病室を出た。
次の日からも毎日僕は欠かさずに天宮の病室に足を運んだ。
「今日も来てくれたんだ!何心配してくれてるのー?」
「別に今読んでる本を読みに来ただけだよ。」
天宮がからかってくるので僕は本を読むと口実を作っていつも見舞いに来ていた。
それから3週間ほどで天宮は退院した。その時には12月後半になっていて学校も終わりに差し掛かっていた。
数日だったが天宮は、学校に来ていた。クラスメイトと明るく話している姿を見て胸が傷んだ。天宮が言うにはあと半年いや、あと二ヶ月程しか生きられないはずなのに、なんであんなにも笑顔でいられるのだろうと僕は少し疑問に思った。
冬休みに入るとお互い家庭の用事や年末年始が重なり合うことが出来なかった。ただ毎日連絡はしていたのでいつもと変わらないような感じだった。
年始の最後の方に天宮から連絡が来た。成人の日に学校が無いので出かけないか。というものだった。その日は用事もなかったのでOKと返信した。内容は全て自分が決めると天宮が言っていたので僕はその日を待つだけだった。
二日後待ち合わせ場所の駅前の本屋で僕は天宮を待っていた。三分ほど遅れて天宮は到着した。
「ごめん!電車間違えちゃって。」
「そっか。ちゃんと来れたからよかったじゃん。」
「君はドライだね。」
と手を合して謝りながら言う。僕はそんな天宮を見て少し頬が緩む。今日の予定は本屋と花屋を巡るらしい。行き先もどんなことをするのかも何も僕は聞かされていなかった。数箇所お店をまわって五箇所目の花屋で天宮はお気に入りの花がないか探し始めた。
「植物は基本的に全部好きなんだけど特に好きなのはミモザって言う黄色いお花なんだよねー。でも初春に咲く花だからあんまり売ってないんだよ。」
「へぇー。」
「興味無さそうだね。」
と言うとほかの花を見始める。きれいな花があると僕に向かって花言葉を教えてくれる。3箇所目の花屋さんでも気になった花を聞くと教えてくれた。それだけ花が好きなんだなと、はしゃいでいる天宮を見ながら思った。
「天宮。さっき言ってたミモザって花の花言葉はなんて言うんだ?」
天宮が好きだと言う花だったので気になって聞いてみた。彼女なら喜んで教えてくれるだろうと思っていたが恥ずかしそうに顔を赤くして。
「かけるくんには秘密だよ。」
と言う。
まさか教えてくれないとは思っていなかったので僕は携帯で調べようとした。そうすると天宮は慌てて携帯を奪い調べるのも禁止!と指を指した。
そこまで頑なにダメだと言われると調べない方がいいと思い調べるのを諦めた。
この日最後の本屋さんを巡り時計を見ると時間は午後6時を指していた。
あたりも暗くなっていたので解散なのかと思ったが天宮が
「まだ行くところあるから着いてきて。」
と言い歩き出した。それに続いて僕も歩き出す。
その場所は歩いて15分ほどの所にある。少し坂を登って小さな休憩用のベンチと子供用のブランコがある公園だった。二人でベンチに腰をかけると、
「ここから見える星空すごく綺麗だから見たかったの。もうみれないかもしれないから。」
そう呟く天宮の目は寂しそうな目をしていた。
僕はその言葉にそっか。としか返せなかった。もう見れないかもしれないと言われて胸がチクっと傷んだ。彼女にとっては最後の冬だったからだ。
少しの間二人は無言で星を眺めていた。綺麗だったのもあるが、天宮になんて声をかければいいのか分からなかったから声をかけることができなかった。
そんなことを考えているとパラパラと雪が降ってきた。それを見た僕は
「綺麗な白い花だね。」
と言っていた。
それを聞いた天宮は嬉しそうに笑いながらこう言ってきた。
「そうだね。綺麗な、素敵な白い花だね。」
その後少しして時計を見ると午後8時を回っていたので天宮を家まで送ってから帰ることになった。
帰り際天宮が
「ありがとう。今日一緒に来てくれて。すごく楽しかった。また明日!」
と言ってきて今日一緒に行けて良かったと思った。家に帰るとすぐにベッドの上に寝転がる。そして少し後悔する。
あの公園にいた時に好きだと伝えればよかった。僕はなんで大切なことを言えないんだろうと思いながら目を閉じ眠った。
次の日天宮は学校に来なかった。始業式だったため早く学校が終わり携帯を確認すると病気が悪化し入院したと連絡が入っていた。
僕は鞄に荷物を入れると足早に病院へ向かった。
病院へ着くとベッドに座っている天宮がいた。彼女から話を聞くと朝支度をしている時に倒れたと言う。検査したら進行が早まっていていつ死んでもおかしくなかったと言われたらしい。
「こんなに元気なのになぁ。」
「大事に至らなくて良かったじゃん。とりあえず安静にしときなよ。」
と言うとうん!と笑顔で天宮は返事をした。今日は様子を見に来ただけだからと言って僕は早めに病院を出た。彼女は大丈夫だと言っていたが無理をさせてるかもしれないと思ったからだ。
次の日から天宮は昏睡状態になった。
昨日も無理をして起きていたらしく僕が帰ると倒れるように眠ったと看護師さんが言っていた。僕は本を読みに来ただけだと自分に言い聞かせ天宮のお見舞いに毎日通った。
三日後の休日の午後に天宮が目を覚ましたと連絡がきたので僕はすぐに支度をして彼女の病室へと向かった。病室に着くと天宮は久しぶりと手を振りながら言う。
「なんかね。生死をさまよってたんですよー。って先生に言われたの。確かにすっごく体重いし、咳も出るからそうだったんだってなったんだー。」
天宮は他人事のように言い、でも君が毎日来てくれてたって聞いて嬉しかったんだよ。と付け加えて笑顔で言った。僕はそんな天宮を見ていつの間にか涙を流していた。
天宮がオドオドしているので涙を拭くが止まることはなくそれにつられて天宮も泣き始めてしまった。少しして落ち着いたので天宮に質問した。
「天宮は死ぬのが怖くないのか?いつも他人事みたいに言ってるけど。」
「……怖いよ。すっごく。だからいつも他人事みたいに言って誤魔化してたの。」
その言葉を聞いたとき僕ははっとした。天宮は誰よりも強いと思っていたけど、ホントは誰よりも普通の子でこの現実が怖かったんだと。それを聞いた時また涙が出てきた。
六時を回ったころに天宮は少し疲れちゃったから寝るね。と言い眠りについた。僕はおやすみと言い部屋をあとにした。
帰り道普段は行かない文房具屋さんに行き3日後にまで迫っていた天宮の誕生日プレゼントを選んでいた。悩んだ結果1番使うであろう栞をえらんだ。三日後に渡して想いを伝えよう。そんなことを考えながら家に帰った。
しかし、プレゼントを彼女に渡すことは出来なかった。
次の日彼女は眠るように息を引き取った。
最後の日と次の春
天宮の容態が悪化した。そう彼女の携帯から天宮の母親が電話してきた。僕は急いで支度をし病院へ向かった。
病院へ着くとすぐにカウンターで天宮の容態を聞く今は落ち着いている様だったが親族以外会えないと言われロビーで待つことになった。
その後2時間ほどは容態が安定していたが急変し集中治療室に運ばれた。
その後彼女は息を引き取った。ロビーで待っていた僕の所に天宮の母親が来てそれを伝えて下さった。それを聞いてすぐに僕は彼女に会いたいと思った。
「あの。天宮に会わせて貰えませんか……?」
そう僕が言うと天宮の母親は是非と言い案内してくれた。歩いている時僕は少し不安だった。天宮の亡骸を見てしまったら現実を受け入れなければいけない。それが怖かった。
少し歩いた所にある部屋に案内された。顔色が悪かったのか天宮の母親が心配そうな顔でこちらを覗いてきた。
「大丈夫?一旦座る?」
僕は大丈夫と言うと覚悟を決めて部屋に入る。そこには顔に白い布をかけている天宮を前に歩く足が重くなった。そっと近づき顔にかけてある布を取る。そこには眠っているようにしか見えない天宮がいた。そこで気持ちを保っていた糸がプツンと切れたのか涙が溢れ出した。なんであの日気持ちを伝えられなかったのか。と後悔が一気に押し寄せてきた。
10分ほど泣いたあと、天宮にごめんと言い部屋を出た。部屋を出ると天宮の母親が待っていて僕が出てきたのに気づくと「会ってくれてありがとう。」優しい笑顔で言ってくれた。
その後は天宮の母親と話をすることになった。
天宮は僕の話をよく家族にしていたようで毎日欠かさず来てくれるのをすごく喜んでいたと天宮の母親は言った。
「かけるくんはすごく優しいの。いつもお見舞いに来てくれるし、体調のこと気にかけてくれる。でも、私のせいでかけるくんの時間を奪っちゃってるんじゃないかって思うんだよね。って話してたの。」
僕はそんなこと言ってたんですね。と少し笑顔を見せた。
「僕は人と関わりたくなくて、あの日もすぐに帰るはずだったんです。でも、天宮が止めてくれて。それから少しずつ人と話していこうかなって思えてきて。天宮のこと好きになってたんです。でも、言えなかったです。」
正直に気持ちを言うとまた涙が溢れてきた。
「私は琴美になにも出来なかった。1人にしてしまったのをずっと後悔していたの。でもかけるくんに会ったあとの琴美はいつも楽しそうだったわ。」
天宮の母親も涙を堪えながら話していた。
少ししてから、三日後に葬儀あるからぜひ来てねと天宮の母親から言われ、行きます。と言いその場を後にした。帰っている途中、きもちがまた溢れ出して、涙が止まらなくなった。
3日後の葬式に来たのは僕とクラスメイト数人そして親戚と天宮のご両親だけだった。天宮の希望で人は少なめにしたらしい。葬式は滞りなく終わってみんなが帰る中僕は天宮の母親に呼ばれていた。
天宮の母親は僕に手紙を差し出してかけるくん宛に書いたものだったから。と渡してくれた。
手紙を貰い家に帰るとすぐに部屋に入った。
早く手紙を読みたかったからだ。手紙を封筒から出して一枚一枚読んでいく。
「かけるくんへ
この手紙を読んでいるなら私はもう死んじゃってるんだと思う。君は悲しんでくれるかな。そうだと嬉しい。私ね君のことずっと知ってたんだ。ストーカーとかじゃなくて、昔君を病院で見かけたの。怪我をして入院してるのにすごく大人しくてなんでそんなに冷静でいられるのかなって思って声をかけたの。そしたら君僕の怪我は治るから。って言ったの。凄いなぁって思った。また会いたいなって。でも余命宣告受けてもう生きてる意味ないじゃんってなった時に君がプリント届けてくれて、すごく嬉しかった。もっとこの時間が続けばいいのにって思った。でも体はどんどん悪くなってそれがすごく苦しくて、でも君が来てくれるとすごく楽しくて。だからありがとう。君は私の気持ちに気づいてるかな?あの時はバレないように必死だったけど覚えてると嬉しいなぁ。天宮琴美より。」
すごく天宮らしい手紙で笑顔になれるのに涙が溢れてきて、気持ちの整理がつかなくて、その日はそのまま眠ってしまった。
次の日手紙に書いてあった天宮の気持ちに着いて思い出すために彼女と言った場所を歩いていた。
色々思い出そうとしているがどのことか思い出せなくて悩んでいると二人で出かけた日に言った花屋さんに着いた。そういえばあの時好きな花の花言葉を教えてくれなかったなと思っていた。僕ははっとして店員さんに訪ねた。
「あの!ミモザって言う花の花言葉ってなんですか?」
そう言うと、店員さんはこう答えた。
「ミモザの花言葉は密かな愛っていいますよ。」
僕は天宮の手紙を読み返す。そして天宮の母親に電話をして聞いてみた。
「あの、天宮って昔からミモザって花好きでしたか?」
「あら?確か月見草とかが好きって言ってたはずだけど……。」
「ありがとうございます。」
これが天宮の言っていた気持ちだったんだ。僕と天宮はお互い好きなのにその事を伝えれなかった。それに気づいた僕はいつの間にか涙を流していた。それを見て店員さんが困ったような顔をしているのに気づいて、ありがとうございました。と言いその場から立ち去った。
僕は天宮と最後に行った坂の上の公園に行った。
「天宮の気持ち届いたよ。言えなくてごめん……。」
僕はそう言いその場をあとにした。
天宮が亡くなって三ヶ月がたった。僕は高校2年生になった。学校に行く前に天宮と最後に行った坂の上のベンチに座っていた。手には天宮が好きだったミモザの花を持っている。時計を見ると7時30分を回っていた。
「天宮……。行ってきます。」
ベンチから立ち上がり僕はそう言う。天宮に届くように上を向いて。
「行ってらっしゃい。かけるくん。」
そんなふうに言ってる天宮の声が聞こえたきがして振り返る。そこには誰もいなかったか僕はうん。と言い歩きだした。
ベンチの上にミモザの花を置いて。