クリスマスイブ、極寒の夜中にパーキングエリアで一人、置いてけぼりにされた女の子は元カノだった。
よろしくお願いします。
「「は~るばる来たぜ雪国~!
あ~なたと描きたい愛のしゅぷ~る!字余り!
ぎゃはははは!」」
深夜0時に神戸を出発して中央道に入り、
午前3時、高速道路の傍に除けられた雪を見て
俺とゴローのテンションは爆上がりした。
「なあ、このトンネル出口まで息を止めてたら、100万円やるけど、
挑戦してみない?」
運転しながら、何故かニヤニヤしてゴローが問いかけてきた。
「ちなみに距離はどのくらい?」
「う~ん、10キロ以上?」
「時速60キロで10分か!よしっ、やるぞ!180キロ出せ!」
「死ぬわ!凍ってたら死ぬわ!お前と心中なんてゴメンだわ!」
「ぎゃはははは!」
・・・
「いや~、疲れたな。」
「ホント、笑いに無駄に体力使っちまったよ。」
俺たちは目的地長野県白馬まであと2時間のパーキングエリアで
トイレ休憩のため車を降りた。
「寒い!死にそうだ!」
「いや、これを乗り越えたら新雪パラダイスだ!
クリスマスなのに、カレシのいない可愛い子ちゃんが
俺たちに群れをなすぜ!」
「ぎゃはははは!」
俺たちもクリスマスに彼女がいない残念な奴らで、
しかもイケメンでもなんでもない。
このハイテンション、イキリはすべて疲れと
初めて自力で雪国に来たせいだ。
トイレから車に向かっているとゴローが驚きの声を上げた。
「何あれ?この真っ暗で、くっそ寒い中、
あのだだっ広くてガラガラの大型車駐車場に人が立ってる!
しかも女だよ、あれ!」
「ホントだ・・・」
「行っちゃう?」
「行っちゃうか!」
繰り返すが俺たちはイケメンでもなんでもない。
だからナンパなんかしたことない。
これは全て疲れと初めて自力で雪国に来たせいだ。
近寄って行くと若い女の子のようで
後ろ姿からただならぬ雰囲気を漂わしていた。
オシャレなダウンジャケットのハズなのに、
オシャレは無視してフードを被って震えている!
「あの~、どうかしました?」
その雰囲気に負け、さっきまでのハイテンションではなく、丁重に声を掛けた。
「えっ?」
振り向いた女の子はなんか見たことある!って言うか・・・
「おまっ!ナツ?」
「アツオ?なんで?」
「何、知り合いなの?元カノ?」
ビクッとゴローを見てしまった俺とナツ。しまったぁ!
「あれっ、俺、こういう時だけ、当たるんだよね、あはははは。」
俺たちの反応に怯えたゴローは乾ききった笑いを浮かべた。
う~ん、バレてしまったらしょうがあるまい。
4年ぶりに話すナツは髪を軽く茶色に染め、
ますます目がパッチリ、別嬪さんになっていた。
大人になったせいと化粧が上手になったんだな・・・
「あの、ナツ、こんな所で何してるの?」
「・・・」
メチャクチャ不機嫌そうに黙り込んでいる。怖い!だけど・・・
「メチャクチャ寒いからさ、教えてくんない?」
「・・・置いて行かれた。」
「へっ?なんて?」
「置いて行かれたのよ!バスに!私だけ!」
マジかと思って聞き返したらマジギレされた!
「「えええっ!」」
確かにバスに置いて行かれるって恥ずかしすぎるわっ!
「バスで白馬にスキーに行く途中、ここでトイレ休憩があって、
あの、ちょっと遅れちゃったら、もう行っちゃってたの・・・」
「友達と来たんだろ?電話した?」
「スマホもバスの中に置いてきたの!」
「「ええええっ!」」
このバカっとは言わなかった。
昔なら言ってたけど、俺も大人になったよ・・・
「マジか・・・あっ、俺のから電話したら?」
「あ、ありがとう!じゃあ、掛けてくれる?」
「番号教えて。」
「えっ?」
「えっ?」
「電話番号なんて覚えてないよ!あんた、登録してるでしょ!」
「お前にブロックされて、ずっ~~~と前に削除したわ!」
「ブロックしたのはアンタでしょ!」
「お前だろ!」
「まあまあ。ここは寒い。一旦、俺たちの車に戻ろう。
あっ、飲み物奢るよ。何がいい?」
熱くなった俺とナツをゴローがいいタイミングで割って入ってくれた。
「・・・ありがと。じゃあ、熱いお茶で。」
「おっけ。じゃあ、元カノさんは助手席で待っていて。」
車に戻ってエンジンを掛け、暖房を最大にした。
エンジンと暖房の音がやかましく、小さな声では聞こえそうにない。
少し気を落ち着かせよう。ふう。
「寒かったな。どれくらい立っていたの?」
「・・・さあ。10分かな、30分かな?」
「大変だったね・・・」
何を話せばいいんだ!
ゴロー、頼む、早く帰って来てくれ!
「お待たせ。はいどうぞ。」
ゴローが熱いお茶を渡すとナツはホッと微笑んだ。
なんか胸がチクリとした。
「ありがとう。暖かい・・・私、どうすればいいかな?」
「ホテルはどこか覚えている?」
ナツに対する思いが渦巻いていて言葉が出ない俺を横目に
ゴローがナツに問いただし始めた。
「友達に任せていたから知らないの。白馬ってだけ・・・」
「そうか。じゃあ、何人で来たの?」
「二人だけど・・・」
「相手は一人か・・・その人は爆睡していた?時々起きるかな?
すぐに気付いてくれたら、バスは戻って来るけど・・・」
「トイレ休憩の時に誘ったら行かないって・・・」
「じゃあ、ここで待つ方がいいな。
朝まで待ってバスが帰って来なかったら、送ることにしよう。」
「・・・うん。」
ゴローが効率よく聞き取りを済ませると、ニヤッと俺に笑いかけた。
「じゃあ、俺は寝るわ。積もる話があるだろ?
俺は耳栓とアイマスクするからお気になさらず~」
「あっ、お前!」
・・・
気まずい・・・
何を言えば良いんだ?
俺は今、ナツのことをどう思っているんだ?
ナツは俺のこと、どう思っているんだ?
グルグル同じことを考え続けていた。
「あっ!バスが来た!アレ、私のバスかも!」
ナツは車から飛び出し、バスに近づいて行った。
そして笑顔で振り返った。
「アツオ、ありがとう!ホントに助かったよ。
そのお友達もありがとう!」
俺は何もしていないのに、相変わらず眩しい笑顔を見せて
バスに乗り込んだ。
「おう、どうする?」
「えっ?」
やっぱり狸寝入りだったゴローが声を掛けてきて、助手席に移った。
「ナツのこと気になるんだろ?」
「い、いや別に・・・」
「ふ~ん。まあ、俺たちも白馬に行くんだ。
あのバスに道案内をしてもらおう。」
「そ、そうだな!」
「出来たらナツと一緒に滑ろう。そしてその友達とも仲良くなろうぜ!」
「うん?カレシかも知れないけど?」
「お前、今日は全然冴えてないな。
カレシなら、寒くて暗い夜のトイレに一人で行かせるか?
カノジョが帰ってないのに、バスの出発を認めるか?」
ゴローがウザい得気な顔だが、凄いのは認めざるを得ない!
「お、お前、天才探偵だったのか?」
「今頃気づいたのかね、ヘイスティングス?」
「誰、それ?」
「もういい!もういい!お前のバカさ加減にはうんざりだ!」
セリフが終わるとゴローは変顔をキメた!ヤバい!狂ったか?
「お前の面倒なんてコリゴリだ!うんざりだ!」
またゴローは変顔をキメた!どこの病院に連れて行けばいいんだ?
「ふう、すまなかった。言い過ぎたよ。
お茶を入れてくれ、チャールズ!」
「なんなの?その一人芝居!」
「お前、あの小さいオッサンも知らないのかよ?」
またゴローから憐みの目で見られてしまった。
バスを追いかけながらナツのことを思い出していた。
ナツは幼なじみで中学までメチャクチャ仲良かった。
小学校の頃は、ナツの両親によくスキーに連れて行ってもらった。
ナツと一緒に、コブだらけの急斜面に挑戦して大転倒したのに、
「おんもしれ~」
とか言って笑っていた。
コケたことを揶揄われ、心配され、逆に揶揄い、心配していた。
中三の10月、中間試験が終わっていつもどおり一緒に帰っていた。
で、俺が押しのブイチューバーの誕生日に投げ銭しようかなって
呟いたら、叱られたんだ。
「何にも返してくれないヤツにプレゼントしてどうなるの?」
「いや、パフォーマンスで返してくれるだろ?」
「それはアンタに、じゃなくって、ファンのみんなに、でしょ?
私に誕生日プレゼントくれたらカノジョになってあげるのに!」
「はあ?」
「あっ!」
ナツは頬を染めて向こうを向いてしまった。
ナツと顔を合わせようとすると逃げるので、
ナツの周りをグルグル回ってしまった。
何やってんだ、俺たち。
「えっと、次の日曜だったよな。」
「ちゃんと覚えているんだね。エライよ。」
ナツの誕生日を確かめると、ナツはあっちを向いたまま褒めてくれた。
「・・・あのさ、日曜日、デートしないか?」
「うん!」
勇気を振り絞りデートに誘うと
こちらを向いて満面の笑顔で頷いてくれた。
毎日一緒に登下校して、市内トップの県立高校を目指して
ナツの家で受験勉強していた。
4年前の今日、クリスマスイブに初めてキスした。
暗転したのはその高校入試だった。
前日に風邪を引いた俺は体調最悪のまま試験を受け、
出来栄えは最低だった。
合格発表の日、ナツに引きずられてその高校に行って、
自分の試験番号を探した。
ナツの番号はあったけど、俺のはなかった。
何度も探した。だけど、やっぱりなかった。
ナツと高校も一緒に、大学も一緒に、そしてその先も・・・
いきなり道が閉ざされたと思い、絶望した。
「ほ、ほら、高校なんて大したことないって。」
焦ったナツがそう口にすると、俺はキレてしまった。
「大したことあるわ!合格したからって偉そうにすんな!」
対等だと思っていたのに、上から目線と感じた。
今思えば卑屈な奴隷根性だな。
「そ、そんな言い方ないよ!アンタのこと心配して・・・」
「それが偉そうなんだよ!」
言い捨てると、俺は走って逃げかえった。
それまで、お互い言い過ぎることなんてよくあって、
何度もサヨナラも言わずケンカ別れしていた。
でも次の日の朝、
「おはよう!」
笑顔で声を掛けるとちゃんとリセットして楽しく出来ていた。
だけど、その時は出来なかった。
俺が謝るべきだったんだろうけど、逃げてしまった。
そしてそれをナツも受け入れていた。
ナツから声がかかることもなかった。
結局、滑り止めの少し遠い私学に通って、
ナツとは全く会うことなくなった。
大学に入って、仲がいい女の子が出来た。
大人しい女の子で、2度デートしたけど、なんか物足りなかった。
こちらから連絡取らなかったら、それ以上進まなかった。
ナツは殴ったら殴り返してくる人だったから、比べてしまったのか・・・
高速道路の出口が近づいてきたとき、追い越し車線から1台、
バスとの間に割り込まれてしまった。
そして出口の信号が黄色だったがバスは行ってしまい、
前の車は真面目に停車した。
「くそっ!」
「落ち着け!相手はバスだ。すぐに追いつくって!」
信号が青になって発信させると凍っていたらしく、少し滑った!
「うぉっ!滑ったよ!」
ビビった俺は安全運転に徹したら、
どこまで行ってもバスは見当たらなかった・・・
「しょうがない。ホテルに行こう。」
「・・・おう。」
・・・
久しぶりのスキーは楽しかった。
最寄りのスキー場はコースがたくさんあって、距離も長かった。
しかもコブコブの急斜面つきでメチャクチャ楽しかった!
だけど、物足りない・・・
ゴローは何人かの女の子に声を掛けていたけれど、全敗だった。
リフトに乗るたび、休憩のたびにナツを探したけれどいなかった。
夕方になり、疲れ切ってホテルに戻るとゴローが提案してきた。
「明日は隣のスキー場に行こうか?
ここの目ぼしい女の子には全部、声を掛けたからな。」
「フラれたんだろ?」
「行くのか、行かないのか、どちらだ?」
ゴローは無駄にハードボイルドにキメた。
「・・・隣のスキー場に行こうか。」
・・・
隣のスキー場も楽しかった。だけど・・・
「なあ、白馬じゃないんじゃない?
それに、近所なんだろ?家に会いに行けばいいんじゃない?」
「そうなんだけど・・・それじゃ、運命を感じないだろ?」
恥ずかしいけど、正直な気持ちを伝えると、
ゴローはニヤニヤした。
「運命か!お前、意外とロマンチックなんだな!」
・・・
「よし、ナイターに行くぞ!」
ナイターはまた別のスキー場に行った。車があるって最高だな!
ナイターは冷え込んでいて、カチンカチンに凍っていて、
メチャクチャ滑って楽しかった。だけど・・・
「よし、じゃあ、明日はまた別のスキー場に行くぞ!」
・・・
朝一番、リフトでてっぺんまで登りながら、ナツを探していた。
今日は雪がチラついていて、視界が少し悪い。
「あっ!」
なんとなく見たことのあるフォーム!
「悪い!俺、ぶっ飛ばすから!」
「おう、10時に下のレストランで会おうぜ!グッドラック!」
ゴローはカッコつけてサムズアップした。
死ぬほど似合ってなかった。
・・・
ぶっ飛ばしたけれど、差がありすぎて追いつけなかった。
もう1回、リフトに乗った。
さらに、もう1回。
てっぺんに着くと、いた!
白いスキーウェア、赤いニットの帽子、大きなゴーグルを
しているけど、間違いない。
「ナツ!」
大きな声が出てしまった!
周りの人たちが俺を見た。
「アツオ!」
ナツの口元がほころんだ。
・・・
ナツに友達のナオを紹介してもらって、俺はゴローを紹介した。
自己紹介のために、みんな帽子とゴーグルを外していた。
この前は真っ暗の下だったけど、
改めて明るい日の下のナツは、肩までの茶色の髪が輝いていた。
中学時代よりほっそりとした頬が大人になったと感じさせ、
メチャクチャ綺麗になっていた。
まさに、美しさのピークを迎えた感じだ。
山のてっぺんにいるだけに。
「あっちのコブに行きたいんでしょ?幼なじみと行けば?」
ナオが照れているようなナツにニヤニヤしながら提案した。
「そうそう。俺たちはこっちの緩斜面を楽しんでいるからさ。
10時にレストランで待ち合わせな!行こうか!」
ゴローはウキウキしながらナオを誘うと、
ナオも満更ではなさそうに頷いた。
・・・
雪が止んで空は青く、晴れ渡っていた。
「よし、せっかくだからコブを攻めようぜ!」
「そうだね!」
ナツも満面の笑顔を見せてくれた。
・・・
全力で攻めたら、コブで弾き飛んで、大転倒した。
雪煙の中、心配そうにナツが近づいてきた。
「大丈夫?」
手を差し伸べてくれたので、ぐっと掴んで起き上がった。
「怪我無い?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「攻めすぎだよ。ヘタなのに!」
「大きなお世話だ!攻めるのが楽しいんだろ?」
「そうね!」
笑顔になって、コブコブの急斜面を攻め続けた。
リフトに二人っきりで乗った。
よし、ここでも攻めるぞ!
「まずはゴメンなさい。
別れたのは全部俺のせいで、高校落ちたぐらいで、
ナツの隣に立てないって思い込んでいたんだ。
ナツが言ってたように、大したことなかったのにな。
傷つけちゃったね。ゴメンなさい。」
「ううん。あれだけ頑張って結果が出なかったら、凄く落ち込むよね。
私も、もうちょっと言葉を選べたらって何度も思ったよ。
私も意地っ張りだから、連絡することが出来なかったよ。ゴメンね。」
許してくれた!嬉しい!
「ありがとう。それで、出来れば連絡先、交換してくれないか。
帰ったら飲みに行かない?」
「うん、いいよ。」
連絡先、ゲットだぜ!やった!
右手の手袋を外してスマホを取り出した。
微笑みながらナツは左手の手袋を外してスマホを取り出した。
そして連絡先を交換すると、スマホをポケットにしまい込んだが、
お互い手袋はすぐにはめなかった。
ドキドキしながら、ナツの左手を握った。
ナツは前を向いたまま、左手をぎゅっと握った。
「・・・ありがとう。なんか暖かいね。」
「うん。」
我ながら初々しいわ!中学生か!
・・・
もうすぐゴローと待ち合わせの10時だ。
「最後は林道を通って行かない?」
ナツの提案に一も二もなく同意した。
ナツが緩斜面をゆっくりと滑っていく。
ほんの少し風が吹くと、枝の上から小さな雪がパラつき、
太陽の光を反射して輝いていた。
その後ろを幸せな気持ちで滑っていた。
と、ナツの目の前に、枝から大きな雪の塊が落ちてきた!
「きゃっ!」
ナツは可愛らしく悲鳴を上げて、少しコントロールを失って、
コースアウトしてしまった。
新雪に突っ込んで立ち止まっているナツにワザと、
ゆっくりとぶつかっていった。
「きゃっ!」
ナツを抱きしめ、新雪の上に倒れこんだ。もちろん、そろりと、だ。
「ナツ、好きだ!」
ゴーグルをぶつけながら告白して、軽くキスした!
「・・・セクハラだ~。
恋人でもないのに、キスするなんてサイテ~」
ナツの目はゴーグルで見えない。やっちまったか?
謝ろうか?
ナツにぎゅっと抱きしめられ、キスされた!
「よろしくね。」
口元をほころばせたナツに、何度もキスした。
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