第二話 彷徨いと覚悟
「まずは、この世界でも戦えるのか確認しよう」
とりあえずはステータスの確認だ。
シエル・アルトリウス
レベル100
ジョブ 暗黒騎士
種族 ドラゴニュート
HP 125,639/125,639
MP 25,000/25,000
アクティブスキル
暗黒剣技 両手剣術 暗黒魔法 挑発 騎士の誓い 決戦用大規模魔法
パッシブ
精神耐性 直感 隠蔽 HP自動回復 MP自動回復 物理耐性 魔法耐性
状態 正常
所持金 0G
お金こそなかったがそれ以外には問題なかった
「よかった、レベルとかは変わってないみたい。」
ゲームでの最高レベルであった100あれば、この世界でも後れを取ることはないと思う。
「レベルは確認できたし、次は…」
私は背中に納刀してあった大剣を抜き、軽く振るう。
特に違和感は感じないようだが…
何回か振り、体に問題がないことを確認する。
「最後はスキルね」
大剣をしっかり握り魔力を剣にまとわせる
『フラクチャー』
スキルがうまく発動したのを確認して安堵しながら地面に向けて大剣を振り下ろす。大剣は地面に突き刺さった瞬間に魔力を開放し爆発を起こした。
「よし!……あ」
スキルを発動したは良いがそのせいで大きな音を立ててしまった。
まあ、いっか特に問題があるわけでもないしね
ふと、自分の腰に目をやると、見慣れぬポーチを身に着けていることに気付く。
「この鞄は…?」
疑問に思いながらポーチに手を入れると中身のリストが頭に思い浮かんだ。
「アイテムバックだこれ」
アイテムをロストしていないことに心底安堵した。バックの中には貴重品のほかに装備や素材もある。
「ちょうどいい機会だし、中身を確認しよう」
バックの中には今まで集めてきた武器や防具に加えて、ポーション類や素材に拠点設置用の家具まであった。
その上、倉庫にしまっていた装備品やアイテムも入っていた。
とりあえず目ぼしい物を探す。ゲームから異世界になった影響か、アクセサリー系が沢山つけても効果が発揮されるようになったからだ。
「何で魔法少女ミーナちゃんシリーズが入ってんの……」
魔法少女ミーナちゃんシリーズとは、ゲーム内の有名プレイヤーのミーナが作った衣装シリーズの一つであり、魔法少女チックな見た目とは裏腹に、高い性能を持っていたガチ装備である。
そのためたまに、ムキムキの男アバターがこれを着ていることがあった。ダメとは言わないが勘弁してほしいものである。
他の目ぼしいものとしては蘇生の指輪があった。
「蘇生指輪はとりあえずはめとくか」
蘇生魔法がはめていると使用可能になるが如何せんMP消費が激しく、つけていなかった。
しかし、この世界では必要になるだろうと思って、着けることにした。
「とりあえずこんなところだろうか」
装備を終えて準備を済ませた私は、今後の方針を考えようとした。しかし、
「まずは街に行ってから考えるとしよう」
今は何かをするにも情報が足りないため、街に行く事を最優先にする。
「適当に歩いていればどっかに出るでしょ」
そう思って歩き始めた私だった。
二時間後
「街どころか道もないんだけど…」
ゲーム時代はマップを見たり転移魔法を使って一瞬だったが、この世界に放り出されて初めて、森を脱出するのは大変だということが分かった。
テイムモンスター?私はテイマーじゃないからそんなものなどいない。
「とりあえずどこか寝れる場所を探さないと」
私は面倒くさがりだが、睡眠に関してはこだわる女である。当然必死になって探した。
「見つけた!」
そこは洞窟であった。しかもちょっと広く、一日の疲れを癒すには適した場所と言えるだろう。
尤も、食料も水もないが。
アイテムバックにないのかって?回復アイテムでもないのにそんなもんあるわけない。
ついでに私は調理系のジョブは修めてないので料理もできない。現実の私も料理はできない。
「仕方ない。寝よう」
明日のことは明日の自分が考えてくれるのだ。たぶん。
軽く現実逃避をしながら、異世界で初めての睡眠にありつくのだった。
次の日
目覚め自体はよかったがそれ以外が最悪であった。
お腹が減った、その上、水もない。
「まだ眠いけど…移動しないと」
このままでは餓死一択である。
しかし、水を探したり、食料を探したりするということはしない。
なぜなら、料理ができないからだ。ついでに言うと、食べられる木の実や草なんて知らないし、川がどこにあるなんてのも分からない。従っていち早く森から脱出する必要がある。
特にあてがあるわけでもないので、昨日と同じ方角に歩くことにする。
歩き続けること一時間、ついに私はファンタジーにおける女の敵と言える魔物に遭遇を果たした。
オークである。身長2メートルほどで緑色の体に豚の頭を持つモンスターである。相手も私を見つけたようで、私を見て興奮している。何故興奮しているのかは考えないことにした。
私が美少女なのは分かるが我慢してほしいところだ
「気持ち悪い…」
相手のレベルは分からないが恐らくそれほど強くはないだろう。
背中の大剣を抜き、いつものように構える。それと同時に頭が冷えて、自分が戦闘用の思考に切り替わって行くのを感じる。
オークは我慢ができなくなったのか、叫び声を挙げながら棍棒を振り上げて突っ込んで来る。
「遅い」
ひょいと体を横にずらし、棍棒をかわし、大剣を横一文字に振りぬく。
オークは断末魔をあげることなく一刀両断され、動かなかった。
「問題はなさそうかな」
大丈夫だとは思っていたがこの世界では初めての戦いである。不安に思うのも仕方ない。
大剣を軽く振って血糊を落としてから納刀する。そうしてから倒したオークに目を向けた。
ここで一つ問題がある。ゲームでは魔物は倒したらドロップアイテムになる。
しかし、これは現実だ。従ってドロップアイテムにはならない。つまり解体をする必要があるのだが、そんな技能はない。
残った死体を眺めながら、何とか解体して食べられるようにするか、放っておくか悩んでいると、遠くで人らしき叫び声が聞こえた。
「人がいる……?」
人がいる方向、それすなわち街への道である。
既に倒したオークのことなど頭から抜け落ちている。
アイテムバックの中に入れればよかったのだが、後の祭りだ。
急いで声の所に向かうと、武装した人達が、中央の荷馬車を守りながらゴブリンと戦闘しているところだった。
そういえば、こういう時って助けが必要かどうか聞かないといけないんだっけ
ゲームでも狩場で戦闘してる人にはそうしないといけないルールがあったことを思い出す。
「助けは要る?」
私の声に気づいたのか、リーダーっぽい斧使いのおじさんがこちらを向いて叫んだ。
「ありがたい!是非頼む」
「分かった」
頼まれたので早速攻撃を開始する。
まず返事をした斧使いのおじさんは大丈夫そうなので、先に囲まれてた。弓使いのお姉さんの援護をする。
「ふっ」
囲んでいたゴブリン達のの背後に飛び込み、二体を切り捨てたのち、お姉さんの背後に忍び寄っていた奴を貫き、そのまま切り上げて刀身を引き抜きながら両断する。
「次!」
その勢いを維持したまま、荷馬車付近に近寄っていたゴブリン達をまとめて薙ぎ払い、そのまま倒したゴブリンの持っていた剣を拾い上げ、槍使いの兄ちゃんの方にいた奴に投げつけ、直撃させる。
「ラスト!」
最後に、残っていた個体の首を切り飛ばしたところで周囲の敵が全滅したことに気づいた。
「これで全部?」
「そのようだ。ありがとな、助けてくれてよ」
「ええ、お陰で助かりました。」
「あんた、強いんだな。」
「それなりには鍛えてますから」
どうやら被害なく助けられたようだ。これでこの後の交渉もやりやすくなる。
ていうか、言葉通じるんだ。
襲撃が終わったことに気づいたのか、荷馬車から商人らしきひとが下りてきていて話しかけてきた。
「失礼、先ほどは助かりました。私、この先の街で商売をしているラブルクと申します。高ランク冒険者様でしょうか?かなりの腕前でしたので」
冒険者!やはりこの世界には存在するのか。テンションが上がるなと思いつつ、顔には出さずに応対する。
「いえ、冒険者にはこれからなる予定なんです。よかったら乗せていってはもらえませんか?もちろん護衛はしますので」
「是非ともお願いします。報酬は払いますので」
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
ふー、何とか乗り切ったみたい。
「そうだ、名前を教えてはいただけませんか?こういった縁は大切にしたいものですから」
「いいですよ、私の名前は…」
柊佳奈と名乗ろうとしたが、ここはもはや日本とは異なる世界であることは明白。
帰れるかもわからない。
既にこの世界で生きていく覚悟を決めた私は、この世界で名乗るべき名前では無いように思えた。
だから、私は両親からもらった名前ではなく、今の私の名を名乗ろう。
「私の名前はシエル、シエル・アルトリウスです」
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