不穏
なんで、なんでよ!なんでアウロラが、あんな女に負けるのよ!
参加してた中でアウロラが1番偉くて可愛いんだから、意味わかんない!
しかも舞踏会でも、あの女は2回踊っただけでさっさと帰るし。クールな自分かっこいいー、とか思ってんでしょ!
ばかね、女はアウロラみたいに愛嬌がある方が可愛いのに!ま、教えてあげる義理もないけどっ。それに、こーんなに美味しいデザートを食べないなんて、ほんとばかね。
クリームたっぷりなケーキを食べると、すっごく気分が落ち着くの。そこに…わたしの従者が歩いてきた。
「テオフィル!あなたはちゃんと、アウロラに票を入れたんでしょうね!?」
「ええ、もちろんですよ」
テオフィルはにっこりと笑って言った。彼は平民だけど…顔が超いいのよね!
アウロラが公女になってから、失礼な使用人はパパにお願いして、全員クビにしてもらったわ。どいつもこいつも「イグリットお嬢様が…」なんて言うんだもの。
テオフィルもそうだったけど、顔がいいから全部許しちゃう。
甘い物も補充したし、疲れたからかーえろ。
「ねえテオフィル。公爵家の養子になる話は決まった?」
「僕には身に余る光栄です。これからもずっと、ただの従者でありたいのです」
「もう、素直に受ければいいのに!一気に平民から公子になれるのよ?アウロラとおんなじね!」
「……………」
寮に向かって歩きながらお話。テオフィルはニコニコ…前向きに検討中って事ね!
アウロラは今まで色んな男性と婚約のお話があったけど、結局まだ決まってないのよね。セヴラン様の事はまだ諦めてないけど!
それで、公爵家にはいずれ養子が必要になる。そこでアウロラが、パパに教えてあげたの。
「テオフィルを養子にすればいいんじゃない?それでアウロラと結婚すればいいのよ!
アウロラはお嫁に行かなくて、ずっとパパと一緒にいられるし。テオフィルは顔がよくて身体も鍛えてるから、結婚してあげてもいいわ」
って!それが去年の話。
パパも大喜びで、早速テオフィルを呼び出してたわ。ふふ…これだけのイケメンだもの、連れ歩いていたら超自慢できるわ!セヴラン様がだめだった時の保険だけどね。
ユリシーズもそうだったのに…勝手に死ぬとかありえない!まあ、あの女の泣いてるダッサい姿見たらスッキリしたけど。
そういえば…あの女の旦那、なかなかいい男よね。どうにかアウロラの物にできないかしら?でも…
あっちの、ギリアムのが格好いいわよね。特に垂れ目がいいわ、顔はテオフィルといい勝負よね!ジャンヌとかいうのが邪魔だけど。まあ、あんなちんちくりんにアウロラが負ける訳ないか。
でもいつもマスクしてるせいで、素敵なお顔が見れなくて残念。
ま、いつかセヴラン様と結婚して、ブラッド様も含めてみんな愛人にしてあげる。
世界一可愛いアウロラが愛してあげるってんだから、みんな泣いて喜ぶに違いないわ。
だって、パパがいつも言ってるもの。
アウロラは可愛い。
好きな事を好きなだけしていい。
嫌な事はしなくていい。
いつもニコニコしていればいい。って!
チラッと後ろを歩くテオフィルを見る。ああ、どの角度から見てもイケメン…!
上目遣いをしながら、ちょんと袖を引っ張ってみる。
「どうかなさいましたか?」
「ねえテオフィル…今夜こそ、どーお?」
「………………」
「アウロラの初めて…あげるのに…ね?」
きゃっ、言っちゃった!でも、テオフィルは奥手だから…こっちから誘ってあげないとね。
アウロラもお年頃だから、そういうのしてみたいの。でも相手は誰でもいい訳じゃないわ、イケメンじゃないと!
相手だって、こんな可愛い子といい事できて嬉しいはず。そうよね?
あの女は既婚者だから、もうしてるわよね。悔しい、負けないんだから!
「ね…どう?アウロラ…可愛いパジャマ、あなたに見せる為に用意してるのよ?」
「……ありがとうございます。ですが申し訳ございません。僕は…時間が許す限り、この身を鍛えたいのです。貴女をいつでもお守りできるように」
「テオフィル…!」
もう、そんなストイックなとこも素敵!
彼は昔からそう。わたしの従者なんだから、いつでも側にいてよ!ってお願いしてるのに。
お嬢様を守るため…なんて言って、しょっちゅう騎士団の鍛練に混じってるのよ。そのせいで一緒の時間は少ないけど、アウロラのためだから許しちゃう。
せめて…背伸びをして、テオフィルにキスをしてあげる。テオフィルはびっくりして目を丸くしたけど、そんなに喜ばなくていいのよ!うふふっ。
「うふ、ご褒美よ!
ねえテオフィル…アウロラのお願い聞いてくれたら、もっといいものあげるわ」
「……なんでしょう?」
テオフィルは微笑んで一歩退がった。照れ屋さんねっ。
「あの女…イグリット。邪魔だから…どうにかしてくれる?」
「……………………」
「今まで順調だったのに…あの女が来てから変な事ばっかり!
パパもぼーっとして、アウロラのお話聞いてくれないし。なんかアウロラをばかにする人いるし、取り巻きはため息つくし!
今まではみんな、アウロラの言う事を全部叶えてくれたのに、あの女が来てからよ!イグリットが何かしてるに違いないわ!」
「……そうですか。何をお望みですか?」
うーん…そうねえ。今すぐ島に帰るなら、それでいいけど。でもそれだけじゃスッキリしないわ。
「あ、そうだ!傭兵とか使って、ボコボコにしちゃってよ。殺してもいいわよ、好きに襲っちゃって!」
「…………」
「ああ、テオフィルがしてもいいわよ?」
「……僕が、イグリットを好きに襲っていいのですか?」
「ええ!だって憎いでしょ?昔から「酷いよイグリット。嫌いになってしまう」って言ってたじゃない」
だから、譲ってあげる。わたしって優しい!
「…………かしこまりました、お受けします」
やった!これでもう安泰ね。
女子寮の前で別れて、足取り軽く部屋に向かう。アウロラの平穏が戻るまで、あと少し!
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僕は手荒い場に直行して、何度も何度も石鹸を使って顔を洗う。口の中も、狂ったように洗い流す。
「……オエ…」
気色悪い。豚が色気付きやがって…被害を被るのはいつだって僕ばかり。
けど…豚もたまには、いい事を言う。
「イグリットを…この手で自由にできる。
あの髪からつま先まで…僕の思うままに」
これは僕の意思じゃない。アウロラの命令だ…だから。
濡れた手で鏡に手を突くと…ピシッとヒビが入った。そこに映る僕は…まるで今の心象を顕しているよう。
「イグリット…酷いよ、イグリット。僕を置いてくなんて。でも…許してあげる。
僕のイグリット。さあ…在るべき姿に戻ろう。あんな獣から解放してあげるから。
ずっと…ずっとずっと焦がれてた。会いたかった…愛してる、愛してる、愛してる…愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!!」
君をこの手に。その時が待ち遠しい…
「はは…あはは…っ」
さあて…どんな手を使ってでも…君を、僕のモノにしてみせる。楽しみだね、イグリット。




