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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第3章
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不穏



 なんで、なんでよ!なんでアウロラが、あんな女に負けるのよ!

 参加してた中でアウロラが1番偉くて可愛いんだから、意味わかんない!


 しかも舞踏会でも、あの女は2回踊っただけでさっさと帰るし。クールな自分かっこいいー、とか思ってんでしょ!

 ばかね、女はアウロラみたいに愛嬌がある方が可愛いのに!ま、教えてあげる義理もないけどっ。それに、こーんなに美味しいデザートを食べないなんて、ほんとばかね。


 クリームたっぷりなケーキを食べると、すっごく気分が落ち着くの。そこに…わたしの従者が歩いてきた。



「テオフィル!あなたはちゃんと、アウロラに票を入れたんでしょうね!?」

「ええ、もちろんですよ」


 テオフィルはにっこりと笑って言った。彼は平民だけど…顔が超いいのよね!

 アウロラが公女になってから、失礼な使用人はパパにお願いして、全員クビにしてもらったわ。どいつもこいつも「イグリットお嬢様が…」なんて言うんだもの。

 テオフィルもそうだったけど、顔がいいから全部許しちゃう。


 甘い物も補充したし、疲れたからかーえろ。



「ねえテオフィル。公爵家の養子になる話は決まった?」

「僕には身に余る光栄です。これからもずっと、ただの従者でありたいのです」

「もう、素直に受ければいいのに!一気に平民から公子になれるのよ?アウロラとおんなじね!」

「……………」


 寮に向かって歩きながらお話。テオフィルはニコニコ…前向きに検討中って事ね!

 アウロラは今まで色んな男性と婚約のお話があったけど、結局まだ決まってないのよね。セヴラン様の事はまだ諦めてないけど!

 それで、公爵家にはいずれ養子が必要になる。そこでアウロラが、パパに教えてあげたの。


「テオフィルを養子にすればいいんじゃない?それでアウロラと結婚すればいいのよ!

 アウロラはお嫁に行かなくて、ずっとパパと一緒にいられるし。テオフィルは顔がよくて身体も鍛えてるから、結婚してあげてもいいわ」


 って!それが去年の話。

 パパも大喜びで、早速テオフィルを呼び出してたわ。ふふ…これだけのイケメンだもの、連れ歩いていたら超自慢できるわ!セヴラン様がだめだった時の保険だけどね。

 ユリシーズも()()だったのに…勝手に死ぬとかありえない!まあ、あの女の泣いてるダッサい姿見たらスッキリしたけど。


 そういえば…あの女の旦那、なかなかいい男よね。どうにかアウロラの物にできないかしら?でも…

 あっちの、ギリアムのが格好いいわよね。特に垂れ目がいいわ、顔はテオフィルといい勝負よね!ジャンヌとかいうのが邪魔だけど。まあ、あんなちんちくりんにアウロラが負ける訳ないか。

 でもいつもマスクしてるせいで、素敵なお顔が見れなくて残念。

 ま、いつかセヴラン様と結婚して、ブラッド様も含めてみんな愛人にしてあげる。


 世界一可愛いアウロラが愛してあげるってんだから、みんな泣いて喜ぶに違いないわ。



 だって、パパがいつも言ってるもの。

 アウロラは可愛い。

 好きな事を好きなだけしていい。

 嫌な事はしなくていい。

 いつもニコニコしていればいい。って!



 チラッと後ろを歩くテオフィルを見る。ああ、どの角度から見てもイケメン…!

 上目遣いをしながら、ちょんと袖を引っ張ってみる。


「どうかなさいましたか?」

「ねえテオフィル…今夜こそ、どーお?」

「………………」

「アウロラの初めて…あげるのに…ね?」


 きゃっ、言っちゃった!でも、テオフィルは奥手だから…こっちから誘ってあげないとね。

 アウロラもお年頃だから、そういうのしてみたいの。でも相手は誰でもいい訳じゃないわ、イケメンじゃないと!

 相手だって、こんな可愛い子といい事できて嬉しいはず。そうよね?


 あの女は既婚者だから、もうしてるわよね。悔しい、負けないんだから!


「ね…どう?アウロラ…可愛いパジャマ、あなたに見せる為に用意してるのよ?」

「……ありがとうございます。ですが申し訳ございません。僕は…時間が許す限り、この身を鍛えたいのです。貴女をいつでもお守りできるように」

「テオフィル…!」


 もう、そんなストイックなとこも素敵!

 彼は昔からそう。わたしの従者なんだから、いつでも側にいてよ!ってお願いしてるのに。


 お嬢様を守るため…なんて言って、しょっちゅう騎士団の鍛練に混じってるのよ。そのせいで一緒の時間は少ないけど、アウロラのためだから許しちゃう。


 せめて…背伸びをして、テオフィルにキスをしてあげる。テオフィルはびっくりして目を丸くしたけど、そんなに喜ばなくていいのよ!うふふっ。


「うふ、ご褒美よ!

 ねえテオフィル…アウロラのお願い聞いてくれたら、もっといいものあげるわ」

「……なんでしょう?」


 テオフィルは微笑んで一歩退がった。照れ屋さんねっ。



「あの女…イグリット。邪魔だから…どうにかしてくれる?」

「……………………」

「今まで順調だったのに…あの女が来てから変な事ばっかり!

 パパもぼーっとして、アウロラのお話聞いてくれないし。なんかアウロラをばかにする人いるし、取り巻きはため息つくし!

 今まではみんな、アウロラの言う事を全部叶えてくれたのに、あの女が来てからよ!イグリットが何かしてるに違いないわ!」

「……そうですか。何をお望みですか?」


 うーん…そうねえ。今すぐ島に帰るなら、それでいいけど。でもそれだけじゃスッキリしないわ。



「あ、そうだ!傭兵とか使って、ボコボコにしちゃってよ。殺してもいいわよ、好きに襲っちゃって!」

「…………」

「ああ、テオフィルがしてもいいわよ?」

「……僕が、イグリットを好きに襲っていいのですか?」

「ええ!だって憎いでしょ?昔から「酷いよイグリット。嫌いになってしまう」って言ってたじゃない」


 だから、譲ってあげる。わたしって優しい!


「…………かしこまりました、お受けします」


 やった!これでもう安泰ね。

 女子寮の前で別れて、足取り軽く部屋に向かう。アウロラの平穏が戻るまで、あと少し!





 ******





 僕は手荒い場に直行して、何度も何度も石鹸を使って顔を洗う。口の中も、狂ったように洗い流す。



「……オエ…」


 気色悪い。豚が色気付きやがって…被害を被るのはいつだって僕ばかり。


 けど…豚もたまには、いい事を言う。


「イグリットを…この手で自由にできる。

 あの髪からつま先まで…僕の思うままに」


 これは僕の意思じゃない。アウロラの命令だ…だから。


 濡れた手で鏡に手を突くと…ピシッとヒビが入った。そこに映る僕は…まるで今の心象を顕しているよう。


「イグリット…酷いよ、イグリット。僕を置いてくなんて。でも…許してあげる。

 僕のイグリット。さあ…在るべき姿に戻ろう。あんな獣から解放してあげるから。

 ずっと…ずっとずっと焦がれてた。会いたかった…愛してる、愛してる、愛してる…愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!!」



 君をこの手に。その時が待ち遠しい…



「はは…あはは…っ」



 さあて…どんな手を使ってでも…君を、僕のモノにしてみせる。楽しみだね、イグリット。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きです 雨野様の作品全部好きです 一気読みしてしまう、、
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