ミスコン
「おい、そこのお前」
「……なんでしょう?」
イグリットとジャンヌを女子寮の前まで見送った後。僕とギリアムは…テオフィル・ホワイトを人気の無い場所に連れ出した。
「すっとぼけるのやめてくれる?心当たりが無いとは言わせないよ」
「…そうですか。貴方は公爵の地位に、興味は無いと?」
「ある訳ないじゃん。寝言は寝て言えってね」
テオフィルを追い込んで、2人で左右から圧を掛ける。だが彼は臆する事もなく、余裕な態度で僕に視線を寄越す。
「身分が低く、抵抗できない相手にこのような仕打ち。お嬢様はご存知なのでしょうか?」
「普通ならしないよ、絶対にね。言いたきゃ言えば?彼女は僕がこういう性格だって知ってるし、この程度で嫌われる事は決して無いよ。
何せ…もうお互いに曝け出して、身も心も知り尽くしちゃってるからね。彼女の喜ぶ事、怒る事、悲しむ事…僕にだけ見せる、可愛い姿も余す事なく…ね(身はこれからだけど)」
「……………」
クスクスと、敢えて挑発するように嘲笑してみせると。テオフィルは気色悪い微笑みをやめて、真顔になった。
「…あのさあ。誰が、イグリットの愛人になるって?」
「…………」
手首を掴んでみると…やっぱりこいつ、かなり鍛えている。イグリットの知っている、女々しくてアウロラの尻を追っ掛けてた男じゃない…
「お前ごときが、イグリットに触れたいだって?この手で…彼女を暴こうとしたのか?
残念だったね。彼女の全てに触れていいのは…この世で唯一、僕だけの特権だよ?」
「……!」
僕はテオフィルの手を壁に押し付け、ネクタイピンで手の平をグリグリと抉る。痛いのか僅かに眉間に皺を寄せたけど、尖ってる訳でもないのに大袈裟すぎない?
本当は…ナイフを突き刺したいのを我慢しているのに。まあ獣人の力いっぱいでやったから、骨にヒビくらい入ったかな。
「次にイグリットに近付いたら、容赦はしない。お前のバックに公爵がついていようと関係無い。じゃあね」
これ以上用は無い。ギリアムを連れて、とっとと部屋に戻った。
「お前にしちゃ、随分と優しい制裁だったな?」
「だって相手はか弱い人間だよ?獣人にするように、5階の窓からぶん投げたら死んじゃうじゃん」
「違いねえな」
ギリアムはベッドに足を組んで腰掛け、ははっと笑う。…足長いな、ムカつく。
「いて、いてて!んだコラ!」
「ふんだ」
ゲシッ ガスッ 縮め!と呪いながら蹴飛ばした。
「ったく!…あの従者よぉ。以前イグリットの言っていた…腕が立つっつー騎士。ブラッド・マスグレイヴだっけ?」
「ああ。少なくとも、あの男と同等の強さを持っているね」
やっぱりギリアムも気付いていたか。
回帰前のテオフィル・ホワイトは、一般人に毛が生えた程度の力だったはず。アウロラで分かってはいたけど、未来が全然違う。
……関係無い。相手が誰であろうと、絶対に僕がイグリットを守る。
僕だけじゃない、ヴォルフもルプスもいる。
「けど…よし。こんな時の為に…!」
「?…うわっ」
ガサゴソ。秘密兵器投入だ!
******
眠ったらスッキリしたわ。もうテオフィルの奇行は忘れよう…と思ったのに。
「イグリット。今日からは常に虫を連れて歩くようにね。
僕のオススメはこの毒蜘蛛。噛まれると呼吸困難を引き起こすよ!」
「……………」
ゴム手袋をするトアの手の平に、拳大のデカい蜘蛛が。ヨロシク!と私に向かって脚をフリフリ、可愛らしく挨拶してくれた。じゃあ私の肩に…
「いやいや、こっちのサソリだろ。毒性は低いけど、刺されるとすっげえ腫れてクソ痛えらしい。何よりカッコいいだろ?」
「……………」
ギリアムが持つ透明な袋に…10cm程の黒いサソリが。ぺこりと頭を下げてくれた、礼儀正しい子だわ。じゃあ、私の頭の上に…
「いいえこの子よ!!粘液に触るだけで、肌が爛れるカエルよ!」
「……………」
満面の笑みのジャンヌが持っている水槽に、赤と黄色と黒のデンジャラスな色の大っきいカエルが。どうやって連れて来たの。
「ごめん、ジャンヌ…。私の能力、カエルは対象外…」
「あら」
脊椎動物だからね。そう断るとジャンヌは、残念そうに逃した。……野に放たないで!!?
彼らはたった一晩で、どこから調達したというのだろうか。
蜘蛛のいとちゃん、サソリのはりちゃん。今日からよろしくね!だけど、絶対に人を攻撃しちゃ駄目よ!(カエルはジャンヌが責任持って返しに行った)
学園祭2日目。
蜘蛛とサソリを纏う私は…誰もが距離を置く。こんなに可愛いのに…女性は特に、絶叫しながら逃げる。いいわねこれ…快適だわ。
ん?うっかり毒を喰らったらどうするのかって?そこはご安心。蟲使いの私に、虫の毒は効かないのよ!
「ねえねえ!今日はミスコンがあるんですって。優勝したら、今夜の舞踏会でエスコートしてもらう男性を指名できるらしいわ!」
「行くわよジャンヌ!!!」
「えっ」
それもどうせ断れないやつでしょ?だったら…私のトアを指名する令嬢がいるかもしれないじゃない!
「イグリット…!嬉しいよ、でも君が見世物になるのはやだなあ…」
「そうよ!男共にいやらしい目で見られるのよ!?私だけ行くわ!」
「(オレとジャンヌはいいんかい)」
「大丈夫!…と言いたいところだけど。
私愛想がないから…評価は低そうなのよね…」
王国に来て半年経つけど、未だに私は営業でも笑えない。ミスコン…かなり不利だわ…
「(まーそれはそれで「クールビューティー」とか「氷の女王」とか言われて密かに人気なんだけどな)」
?ギリアムが、目を閉じてふんー…と息を吐いた。何よう、呆れてる?
とにかく!あと4時間ある…エントリーして着替えるわよ!
「絶対勝ーつ!!!最終手段は、私達以外の参加者を戦闘不能にするわ!!それでどっちかは優勝できる!」
「「その手が!!」」
「(その選択肢が浮かぶ辺り、イグリットも大分オレらに染まったなあ…)」
ギリアムが今度はしみじみしてる。何が彼をそうさせるの。
男性陣は客席ね!それで少なくともトアとギリアム、ユリシーズの票が………あっ…
「…………」
「イグリット…?」
…駄目だってば、私。もう…新学期が始まったら、前に進むって決めたでしょ?
「……ごめん、なんでもないわ!
はい、いとちゃんとはりちゃんをお願いね。残念だけど、ミスコンにこの子達は向かないわ」
「…うん。頑張ってきてね、イグリット!」
トアの激励に笑顔で応えて、2組に分かれて行動。
よーし…張り切っていきましょう!!
イグリットは基本的に常識人だけど、たまに発想が暴走する。
トアとジャンヌは常に問題児。
ギリアムは大体はしゃぐ側、イグリットがそっちに行ったら保護者に回る。
そんな4人を呆れながらも受け入れ、過ぎたら止めて宥めて…と纏めるのがユリシーズ。だった。




