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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第2章
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作戦開始!



 僕はトア、リスの獣人です。

 現在は伯母さんの故郷でもある人間の王国に向かう為、首都を目指して移動中。まず陛下にご挨拶してから、4人の留学生と合流して港町に向かいます。

 監督役は12領主の交代制。今年は伯父さんの順番で、僕は観光気分でついて行くつもりだったけど。そうも言っていられない事態になってしまった…!



「伯父さん、伯母さん。今からする僕の話を全て、信じてくれる?」

「「?」」


 この2人を味方にする!3人で乗る馬車の中、僕はキリッ!として言葉を続けた。



「伯母さん。これから会いに行くイグリットさんは、王子の婚約者なんだよね?」

「え?ええ…」

「…伯母さんが離婚したのは、公爵が愛人の娘を連れて来たから」

「ええ…」

「こら。女性の過去を探ろうなんて、失礼な奴だな」

「おごごごご」


 伯父さんのアイアンクローは頭蓋骨に響く…!でも、僕がここで怯んだら…イグリットさんとユリシーズを救えない!!


「その娘の名前はアウロラ!で、母親は馬車の事故で死亡!」

「え…?」

「お前、何を…?」


 まず、興味を持ってもらわないと…!いたたた、そろそろ離してー!


「王子はセヴラン、王女はルーシャでイグリットさんの親友で!テオフィルっていう従者がいて、ユリシーズは幼馴染み!!」

「…どうして、それを?私、そこまで話してないわ」


 伯母さんが、チラッと伯父さんに視線を投げる。だが伯父さんは首を横に振る…まだまだ行くぞ!

 伯母さんは僕にあまり過去を語らないので、僕が知っているはずのない事を次々口にしてみた。

 すると段々と、2人の表情が険しくなる。ここだっ!


「だからっ!このままじゃ死ぬほど後悔するの!」

「後悔って…どう…」

「イグリットさんが亡くなって、ユリシーズも彼女と一緒に死んじゃう!」

「な…何を…」

「…変な夢でも見たんだろう。トア、お前は島に残りなさい」

「伯父さん!!」


 なんで分かってくれないの!!!王宮に着いたところで2人は降りる。

 僕にはこのまま乗れと、御者にテルトラントへ向かうよう指示を…させるか!!!無理やり降りる僕VS馬車に押し込みたい伯父さん、ぬおおおお…!!


「信じてよ伯父さん!!」

「…信じてやりたい気持ちはあるが。そんな妄想とも言える話を鵜呑みにして…王国との関係を悪くさせる訳にはいかない」


 うぐぅ…!伯母さんも微妙な顔で、僕と伯父さんを見比べる。誰よりも後悔するのは伯母さんなのに!


「じゃあせめて、王国に着いたら真っ先にファロン家に行って!!というか日程ズラして!」

「簡単に予定は変えられない」

「人命とどっちが大事なの!?」

「それは人命に決まってる」

「じゃあ僕のお願い聞いてよ!みんなが不幸になっちゃうんだからあああっ!!!」


 もどかしくて、人目も憚らず大声で泣いた。小領主として失格?知るか!!



「なんの騒ぎかしら?」

「アイリーン殿下!」


 あ。騒ぎに人が集まってきた人の中に…成人式で挨拶した王太女殿下がいた。彼女の声は騒めきの中でもよく通り、僕の乗る馬車まで人垣が割れて、自然と道ができる。


「ねえ貴方、今のお話を聞かせて。

 キーフォ、イリア。貴方達も来なさい」

「「…はい」」


 よっしゃ助かった!伯父さんも殿下を無碍にはできない、チャンス!


 通された王宮の1室で、僕は同じ事を再び説明した。

 ユリシーズがイグリットさんの時間を飛ばした事は言わない。僕も神官だからか…自然と理解できる。

 異能の秘密は、気軽に共有してはいけない…と。



「……です!どうして僕が知っているのかは言えませんが!!」

「……………」


 向かいに座る殿下は話の最中、僕の目をじっと見つめていた。すると殿下が、ふうっと息を吐いた。


「そこの貴女、お母様に連絡を。国を挙げて、イグリットさんとユリシーズ様の救出に向かいます」

「「えっ!?」」

「えっ?」


 そんなアッサリ信じてくれるの?いや、嬉しいけど。伯父さん達も驚き短く叫んだ。


「早くなさい。今すぐにでも、王国に出発するのよ。

 トア。現地に着いてからの案内は任せるわ」

「は…はいっ!」


 何事?なんで誰も、殿下に「決めつけるのは早計では…」とか言わないの?

 慌ただしい中、伯父さんが座って動けない僕の肩を突ついた。


「すまなかった、お前の言葉を疑って…。イグリットは必ず、何がなんでも助け出す!」

「え…あ、いや…。それより、どうしてみんな信じてくれたの…?」

「?なんだ、知らなかったのか?」


 何を?僕の信用の無さを?




 僕はこの時初めて知ったけれど。アイリーン殿下もまた、異能者なんだ。

 彼女の異名は『真実の女神』、異能は【洞察眼】…他人と目を合わせると、相手の発言が嘘か真か見破れるのだと。


「安心なさい。貴方とユリシーズ様の秘密は…お母様にも内緒にすると誓うわ」

「殿下…!ありがとうございます!!」


 僕が一切の嘘を言っていない…最悪の未来がすぐそこに迫っている、と痛感したらしい。

 更に僕と違って、能力を磨いているから…真偽どころか、対象の記憶まで読み取れる域に達している。

 色々条件は必要だけど、僕の目を通して…もう1つの世界の存在も知ったようだ。



 *



 すぐに陛下まで話が行き、かなりの大人数で乗り込む事になった。


「先遣隊急げ!王国側に我らの行軍を知られるな、ファロン公爵家とやらを監視せよ!!」

「「「はいっ!!」」」


 僕達も、3日早く出発した。

 作戦の指揮は伯父さんと陛下に任せて、船の中で僕は…



「……はっ!紙とペン!」


 眠っては証拠を現実に書き写す…という作業を繰り返し行っていた。

 だが毎回、簡単に眠気が来る訳もなく。


「よし任せろ!」ゴキッ

「オフンッ」ぱたり…


 力尽くで気絶させられ(眠らされて)いた。大体陛下に殴られた。





 〜夢の中〜



「うーん…資料の半分は使えないな」


 何かを()()ならともかく、()()()()()証拠は難しいよね。その時間に、完璧なアリバイがある…ぐらいしか。


「イグリットさんが虐めた、というのは…アウロラの証言が全てだった。だからユリシーズはそこを逆手に取って…」



 例えば、テオフィルとかいう奴。

 こいつがアウロラに「お姉様に殴られた」と訴えられて、イグリットさんを非難したとして。

「自分は現場を見ていない。アウロラがそう言っていただけ」…と証言させたのだ。


 資料にはざっと50人分、家名を懸けてサインしてある。もしも後で撤回しようものなら、家から除籍する覚悟の行為だ。恐らく全員、イグリットさんの悪評を吹聴していた人物なんだろう。

 でもよく1人も、嘘でも「暴力をこの目でしっかり見た!」という奴いなかったなー…って不思議に思ったけど。伯母さん曰く。



「私だったら…「自分はその瞬間を偶然見ていたんだけど、この時あなたはいなかったはず。誰に聞いたの?これはイグリットを追い詰めるのに必要なの、嘘は言わないで」とか言うと思うわ。

 味方だと錯覚させれば口も軽くなるだろうし、偽の証言をするというリスクを負わなくて済むしね」


 ですって。人間ってすごい。

 まあこれは本人のサインが重要だから使えないけど、50人の名前は控えておこう。



 メインはこっち。イグリットさんが、傭兵に「アウロラを襲うよう依頼した」件について。

 資料には逆に…アウロラが「イグリットを襲うよう依頼した」という事が記されている。ふざけるな…

 アウロラは相当な馬鹿で、しっかりと「依頼者 アウロラ・ファロン 対象 イグリット・ファロン」と書かれた書類が残されていた。しかも公爵家の印章使ってる。

 公爵家の依頼なら傭兵は断るまい、と踏んだのだろう。ただし良識的なギルドマスターが依頼を握り潰し、保管しておいてくれたのだ。

 僕達は上陸したら、速攻で傭兵ギルドに走って依頼書をゲットする!


 これは1番有力だ、と伯父さん達も言っている!



 階段から突き落としたという日は、イグリットは体調不良で寝込んでいた。これは医者の診断書があり、日付もバッチリ。こういった外部の書類は、全て後で回収に行く。



 僕の頭では暗記も容易ではなく、船旅の間ギリギリまで時間を使ったけど…終わった!!



 *



 ここからは別行動。陛下達は目立たないよう人間に化けて、複数のグループに分かれて公爵家を目指す。

 それと伯父さんを筆頭に、必要な書類を集めるチーム。

 僕は…先遣隊が用意していた馬を操り、真っ直ぐにキッドマン邸に向かう!!



「こんにちはすみません!!僕はトアと言います、ユリシーズ・キッドマン君はいますか!!!」


 ドンドンドンドン!!

 もう1人の僕の記憶にある屋敷。僕は玄関を力一杯叩いて、ユリシーズを呼び出した。アポ無し?知らん!島では普通だ!!


「ど…どちら様ですか…?」


 あ。恐る恐る顔を出したのは…カール!ユリシーズの唯一の理解者だ!!


「驚かせてごめんカール、僕はトア。ユリシーズの…うん、友達」

「(え…なんで俺の名前を…?)」

「え〜と…(しまった、呼び出す口実考えてなかった!)ん〜…!あっ。イグリットさんの夫です、って伝えてくれる?」

「ええええぇっ!?いえ、イグリット様は…殿下の婚約者で…あれえっ!?」

「いいからいいから」


 嘘は言っていない。もう1人の僕達は結婚してるし、この僕もその予定だからね!

 カールがバタバタと走って行った、数分後。



「おい!!お前は誰だ、イグリットのなんだって!?」

「あ…」


 息を切らせて姿を現し、激昂して僕の胸ぐらを掴む…ユリシーズ。

 僕は窶れた、病人の彼しか知らなかったから…健康的で力強いユリシーズに、目頭が熱くなる。


「…?何、泣いてんだ…?」

「ユリシーズ……君に問う!!」

「っ!!?」


 だが今は、感慨深くなっている時じゃない!!その手を振り解き、今度は僕が彼を締め上げる。


「僕はトア!!島より来た獣人にして、テルトラント地方の小領主!!」

「島から…?」

「ユリシーズ・キッドマン!!愛する人の為に、命を投げ打つ…弱くも勇敢な君!!!

 君は…イグリットを守る為に!!主君に剣を向け、今の生活を捨てる覚悟はあるか!!?」


 彼の答えなんて、分かりきっているけどね。

 僕の勢いに圧されたのか、ユリシーズは一瞬怯んだけど。ギッと僕を睨み、腕を強く掴んだ。


「無論だ!!俺は…イグリットを愛している!!彼女を守れるなら…名誉も命も俺は差し出してみせる!!!」


 よし、よく言った!!!



「じゃあ行くよ!」

「うおっ!?」


 ポーンとユリシーズを馬に乗せ、レッツゴー!!後ろからカールの「人攫い〜〜〜!!!」という絶叫が聞こえるが無視!!


「おい、状況を説明しろ!?」

「見たほうが早い!!僕らは公爵家の近くで待機して、王子達が乗り込んでくる時に被せる!!!」

「!!!?」


 イグリットを傷付けてしまう可能性もあるけど。そのくらいしないと、彼女は断ち切れないと話し合った結果だ。




 イグリットが投獄されるまで、あと3日。失敗は許されない…絶対勝つ!!!




 それと。モフモフが大好きな彼女の為に…今日からは念入りに、尻尾をブラッシングしないとね!!



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