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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第2章
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もしも生まれ変わったら



「足元、気をつけろよ」

「ありがとう」


 俺はランプを持ち、イグリットと手を繋いで夜道を歩く。

 妻が友人とはいえ、男と2人きりて…普通は嫌だろうに。一緒に行こうと言ったのに、トアに無理矢理送り出された。……ったく。



「この辺は変わらないわね」

「…ああ」


 懐かしいな。昔もこうやって…手を繋いで歩いた道だ。

 この先…道を外れて大きなスギの木を右に曲がって。少しの段差を飛び降りると、ショートカット出来るんだ。

 幼かった俺達は、「えーい!」と気合いを入れないと降りれなかった段差も。今では一足で簡単だ、いつの間に成長したんだな…



「…あ、イグリット。あの木…覚えてるか?」

「え?…ああ!屋敷に帰る途中で、大雨が降ってきたのよね。それで雨宿りしようって、木の根元に並んで座ったね…懐かしいなあ」


 そうだな。屋敷はすぐそこだったのに…俺がぬかるんだ地面に足を取られて、転んじまったんだよな。それで泣き出して、イグリットがハンカチで俺の顔を拭きながら慰めてくれて。

 あの大きな木の下で、手を繋いで雨が止むのを待ったな…



 あちこちに、イグリットとの思い出があって。俺は何度も足を止めて、目頭が熱くなるのを彼女に悟られまいと唇を噛んだ。

 ランプに照らされたイグリットは、何度も俺を見上げていた。心配させてしまっているみたいだな…




 そんな俺だが…もう、時間は無い。自分で分かる…1歩、また1歩と進む度に。命が消えていく。


 両親にはもう、別れを告げた。カール達…使用人にも。半信半疑の者が多かったが、両親は俺の様子に深刻な事態だと悟って…母は泣き崩れてしまった。父上、母上。親不孝な息子でごめん。

 言葉を遺す友人はいない。だけど…トアには昨日、改めて伝えた。



「イグリットを頼む。俺の心残りは…彼女だけだから」

「……もしも、例えばだけど。王子とか、別の人間の命を代償に。君が生き永らえる事は出来ないの?」

「……………」

「どうなの?出来るんなら…」

「トア。それは出来ない。出来ても…俺は望まない」

「そう…でも僕は望んでるよ。あんなクズ共より…ユリシーズに、生きてほしい…って…」


 はあ…トアは目に涙を浮かべて、強く拳を握る。なんか…手の掛かる弟みたいだ、同い年なのに。

 

 …本当に、トアと出会えてよかった。イグリットも、俺も。

 ちょっと危なっかしいが、こいつは全力でイグリットを守ってくれるだろう。




「…じゃあな」

「……………うん……」



 ポロポロと涙を流すトアの頬を、俺は苦笑しながら拭った。





「わあ…!」


 考え事をしていたら、もう蛍の生息地域に到着した。

 今年も蛍は…命を輝かせている。イグリットが手を伸ばすと、すぐに数匹の蛍が集まった。顔を綻ばせるイグリットは…とても綺麗だ。


 ランプを消して、草むらに並んで座った。沢山の蛍が飛び交い、俺の体にも蛍は止まり、幻想的な風景に目を奪われる。

 年々数が減っている気がしたが、今年は随分多いな。イグリットのお陰だろうか。



 俺達は自然と口数も少なくなり。風で葉っぱが擦れる音。虫の鳴き声。近くの川のせせらぎ。それが心地良い…



 ふいに、俺の手とイグリットの手が触れた。

 俺はいけないと思いつつも…彼女の手に、自分の手を重ねた。意外にも、彼女は拒まなかった。


「…いいのか、振りほどかなくて」

「なんだか…貴方が。この手を離したら、どこかに行ってしまいそうで…」


 …そっか。それからは会話も無く…ただ蛍を眺めていた。





 あ…段々と、目蓋が重くなってきた。待って…もう少し、だけ。


「……ユリシーズ?」

「……………」


 思わず、握る手に力を込める。



 …死にたくない。トアには格好つけたけど、思い残す事なんて、いっぱいある。

 けど俺は。決して後悔はしない…絶対に。

 自分が死ぬか、イグリットが死ぬか選べと言われたら。迷いは無い。



「……イグリット…」

「なあに?」

「もし…俺達、生まれ変わったら。その時は…俺を選んでくれるか?」

「え…?」


 俺はきっと何度でも、彼女に恋をするだろう。だから…来世ではトアでも、殿下でも、他の誰でもなく。俺と、結婚してくれるか?



「……うん。いいよ。私達生まれ変わったら…結婚しようね」

「約束…だぞ…」


 イグリットはなんだか照れくさそうに笑って、そう言ってくれた。

 それは彼女の、その場凌ぎの嘘だろうけど。俺は…満足だ。でも実は、イグリットとトアの子供に生まれるのも、楽しそうと思ってたりする。



「ユリシーズ…っ!?」



 最後に…イグリットの頬に手を当てて、唇を重ねたら。彼女は真っ赤になって口元を押さえ、俺を見つめる。ごめんな…

 俺の体は…力を失くして彼女にもたれ掛かった。もう…



 ドクン ドクン… トクン… トク…



 沢山の蛍に囲まれて。最愛の女性の傍で…命を終えるのなら。ああ…それはなんて、幸せな最期だろう……



「ユリシーズ?……寝てるの…?風邪をひいてしまうわ」

「…………イグ、リット。俺は、お前を…」




 愛してる。


 どうか…生きて…幸せに、なって。






 さようなら…







 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️





「…ユリシーズ、そろそろ起きて。ほら……え?




 ……ユリシーズ…?」




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