王子様の招待状
ユリシーズが倒れた翌日…
「ユリシーズ!歩いて平気なの?」
「ああ。心配してくれたんだって?ありがとう」
彼は普通に登校して…って、杖を突いていない。
「なんだか朝から調子が良くてな。今日は体育も参加してみようかな…」
「無理しちゃ駄目!でも…よかったぁ…」
どんどん彼が衰弱して、最悪の場合…!と考えては眩暈がしていたけれど。倒れた事が逆に、いい方向に進んでいるのかしら!?
「…ねえ。本当に調子いいの…?」
「おう。…最後の足掻き、かもな」
「……………」
「?トア、ユリシーズ。なんの話?」
「「なんでも?」」
?私が首を傾げると…トアがマスクを外して、私の頬にキスをした?
「イグリット。もう大丈夫…君は乗り越えたから」
「……何、を?」
「………ふふ」
いや、ふふじゃなくて。
この様子では、何も教えてくれないでしょうね…諦めよう。
乗り越え…まさか、死を?だとしたら…どうしてトアは断言出来るの?
…貴方は私の知らない、何かがあるのね。
それでもいいよ。私…貴方を信じてるもの。
「コア、お前昨日の夜どこ行ってたん?」
「トアですー。別に…このユリシーズのお見舞いだよ。ね?」
「…ああ」
「ふーん…」
???なんだか男性3人は、知らない間に仲良くなってる。うん、いい事だわ!
「そだ、イグリット。これ昨日…例の騎士に渡された」
そう言ってギリアムは…私に封筒を差し出した。この封蝋は、以前何度も見た。王太子殿下の紋章…?
無視するのは簡単だけど、この国で私の悪評を広めてお父様の顔に泥を塗りたくない。席に着いてから、そっと封を開ける。
「…夜会の招待状?」
なんだそれ。一体なんの目的で?
王太子殿下とはあの日…王宮で再会した時以来、1度も顔を合わせていない。
私に用事が?
いや、招待状には留学生の4人全員の名前がある。
単に王子としての義務?
まさか私に未練がある訳ではないでしょう。
アウロラも来るのかな…
それどころか、ファロン公爵がいても可笑しくない。
大丈夫、私は1人じゃない。
留学生として、領主の娘としての義務を果たさねば。
等々、様々な考えは浮かんでは消え。結果…行く事にする。
という事をトア達に伝えれば、みんな指をボキボキ鳴らしながら微笑んでいたわ。
「ふふ、みんな気合充分ね」
「(これが獣人か…頼もしすぎる…)」
ユリシーズが遠い目をしている。分かるわ…私も通った道だもの!
「イグリット。もしも王子が近寄って来たら…大声を上げるんだよ?僕が常に側にいるけど、万が一がある。
腕を掴まれたら足を思いっきり踏み抜くんだ。そうだ、鋭利なヒールを履こうか。
それと毒虫を会場の中に待機させておくこと。それとそれと…」
うーん、トアの殺意が一段と高いわ。
***
翌日は休みなので、私とジャンヌは街へドレスを買いに行く。持って来てはいるけれど、島の物だし…ここは王国に合わせましょう。
「何コレー!?これが、コルセット…!あたたただ、内臓が出る!!」
「出ないわよ。でも、久々のこれはキツいわね…!」
一応緩めにしてもらったけど、苦しい…試着も一苦労だわ。
社交活動は何度かあるだろうし、既製品だけでなくオーダーメイドもしておこうかしら?
「このドレス素敵ねー」
「可愛いわね。
ねえジャンヌ…今日トアね、神殿に行くんですって。急に信心深くなったみたい…?」
「そうなの?うーん…何かあったのかしら?」
店内の休憩スペースで、ジャンヌと並んで座り、お茶を飲みながらカタログを眺めていたら…
「………ハッ…!このニオイは…!」
何かを察知、即座に黒いマスク装着。控えていたルプスとティアも同様…つまり?
カランカラン…
「い、いらっしゃいませ、ファロン公女様」
来たー。なんでよ、公爵家にデザイナーを呼んで作らせなさいよ。
アウロラは店員さんを無視。口の端を吊り上げながら、こちらに寄って来た。
「あーら、ご機嫌よう。…ってなあに、それ既製品のカタログ?やだぁ、お金無いの?うふふ、アウロラは既製品なんて買った事ないわ!
しかもアウロラは特別だから、普通に作るより高いのをパパは買ってくれるのよ♡」
「それは既製品が入らないからでしょ?オーダーメイドにしても、布を2倍使えば値段も倍増よね」
「スぶっっっ!!」
やめてジャンヌ、噴き出しちゃう!店員さん達は流石プロ、涼しい顔だわ!見習いたい。
「ふ…ふんっ!!!いいわよ、どーせ貧乏人の僻みでしょ?
わたしは今度の王宮の夜会で、王子様のハートをゲットするドレスを作ってる最中なの。楽しみだわ〜!」
ジャンヌには勝てないといい加減悟ったのか、話を強引にすり替えるアウロラ。
おーっほっほっほっ!と高笑いしながら…彼女は出て行った…何しに来たの?
もしや…店の外から私の姿が見えたから、喧嘩売りに来ただけ?暇人ね…
にしても…やっぱりアウロラも来るのね。はあ…面倒だわ。
「……(※キュピーンと閃いた)ねえイグリット!貴女が見返したいのって、あの女なのよね?」
ため息をつく私にジャンヌが耳打ちする。まあ…その内の1人、かしら?
「ふっふー。じゃあ…本気出さなきゃ!店員さーん!」
「はへ?ちょ…何?」
うふふふふ…と、指をわきわきさせるジャンヌ。よく分からないけど。嫌な予感が…!
***
2週間後、夜会の日。私とジャンヌは…王宮にてトアとギリアムに合流する。
一緒に向かえばいいじゃない、と言ったけれど。
「だーめ。最近マンネリ化してない?ここいらでもっぺん、トアを惚れさせるわよ!」
「何よそれ」
いい顔で親指を立てるジャンヌ。こうなったら何を言っても聞かないので諦める。
馬車が…王宮の門を潜る。
なんだろう。1ヶ月前…ここを通った時。私は胸がざわざわして、どこか焦燥感に襲われていた。
それが今回はなんとも無い。なんで…?
と、考え事をしていたら馬車が止まる。降りよう…ん?
「お手をどうぞ、レディ」
「トア…」
私を待っていてくれたの?馬車の扉が開かれると…真っ先にトアの姿があった。
彼は今日の私の装いに、目を大きく開いて…徐々に頬を染めた。
「や、やっぱり露出多いわよね!?恥ずかしいぃ…!」
「……あっ!?綺麗だよ、イグリット。ただ…他の男に見せるのが、やだなあ…って」
私のドレスは…大人の女性を意識したもので、肩や腕はもちろん、若干胸の谷間まで見せております。私は巨乳ではないけど、寄せまくってコルセットで締めて…中々グラマーに見えるわ?
うなじを見せつける!というジャンヌの主張のもと、髪の毛は全て纏めてセットされ。メイクもばっちり…うーんイケてるわ、私。
鏡を見て「これが私…?」って言っちゃったもの。王国の変身技術は流石だわ…
あ、もちろんジャンヌもとっっっても綺麗よ!その証拠にギリアムも、ポーッとしちゃって声もないんだもの。
「ちょっと、エスコートしなさいよ。というか、お世辞のひとつも無いわけ?」
「…………かわいい…」
「んな…っ」
ジャンヌは言葉では強気だが、散々「ギリアム、綺麗って言ってくれるかしら?」と不安がっていた。なのでこの反応に、一瞬で頬を染め。ぎこちない2人は先に入場した。
「…行こう、イグリット」
「ええ…トア」
私も差し出された手をそっと取り。さあ…行くわよ!
*
「なあ、乾杯ないんか?」
「ミルク飲みたーい」
「決闘は…?お肉は…?」
獣人3人は、どことなく寂しそうな顔。やっぱ物足りなさそうね…諦めて。
そしてここでもマスク着用。当然…彼女がいるからね。
がやがやと、多くの人の声が飛び交う。さて…こうして4人で集まっているより、交流しないと…?
「トア…?」
何事?背中が急に温かくなったと思ったら、抱き締められている…?
「ねえイグリット。あっちで…座らない?」
トアが指しているのは、壁際にある椅子。体力はあるはずだけど、人が多くて疲れたのかしら?もちろん了承。
「……トア?この体勢は…?」
「ん?んふふふふ」
何その笑い声。なんで私、トアの膝に横向きに乗ってるの…?
しかもトアはマスクを外し、キュートなお耳と尻尾も出している。トアの獣人形態を初めて見る人も多いのだろう、好奇の視線をひしひしと感じる…
そんな彼は私の耳やらうなじに鼻を寄せて…すんすん匂いを嗅いでいる。ちょっと変態ぽいわね…
「は…恥ずかしいわ、トア」
「何言ってるの?僕らは夫婦なんだから…何も恥ずかしい事じゃないよね?」
そう…かも?
いやいやいや、人前でするのは恥ずかしいけど!?
「ほら…僕らのラブラブっぷりをアピールするんでしょ?チャンスだよ?」
「う…」
それは…確かに。えーい、なるようになれ!!
******
ふふ…ふふふ。作戦は成功だわ!会場中の誰もが、美しいイグリットに夢中だもの!
「改めて見ると…本当にあのトドと血ぃ繋がってんのかなぁ…?」
ギリアムも未知の生命体を見る目をしているわ。
今私達の後ろに…会場の食料を食い散らかすトドがいるの。
「まあ、見てください。マナーも知らないようね」
「それ以前の問題な気もしますが…」
「もう公爵家も終わりですわね…」
「おっと、公爵様の耳に入ったら大変ですよ」
「あら、いけない…」
くすくす ひそひそ 人間はこうやって陰口がお好きなようで、聞いていて不快ではある。
ま…あの女を庇う理由も無し、放っておくわ。
イグリットとアウロラとかいう女との差を見せつける為、頑張ったわ!
まずドレス、イグリットの細く美しい肢体を存分にご覧あれ!トアは不機嫌だけど、我慢なさい!!
トアだっていつも以上に磨いてもらったわ。服も上等な物だし、軽くメイクしたりヘアセットは完璧。手袋と靴の色、アクセサリーはお揃いにして。ラブラブ夫婦っぷりを披露するの!
で、肝心の2人だけど。
「トア…1人で食べれるわよ」
「いいの、僕がしたいの。はい…あーん」
「もう…あーん」
トアはイグリットを膝に乗せ。イグリットのお腹の上にはトアの尻尾が。
イグリットは尻尾を撫でながら、トアにケーキを食べさせてもらっている。恥ずかしそうに赤面して眉を下げる顔は…めっちゃ可愛いわ…!
「イイわ…ラブラブだわ!」
「オレもあれ、ジャンヌとやりたいなー…」
ふぁっ!?ギリアムが、私の横でぽつりと呟いた。きょ、今日は作戦の為に私達のイチャイチャは無しよ!でも…
「…帰ったら。やってあげても、いいわよ…」
「本当か!?」
そんなに嬉しいの…?ギリアムはパアッと顔を輝かせ、弾んだ声を上げた。
「ああ…イグリット。君はまるで女神…どうしてこんなに美しいの?僕は何人の男を目潰しすればいいの?」
「ど…そん、言われても…。トアだってとっても格好いいわ」
ケーキのお皿を給仕に下げてもらうと、2人は指を絡めて見つめ合う。いいわよ、そのままキスしちゃえ!
「イグリット…」
「トア…」
2人の顔が近付き…!きゃーーーっ!!周囲の女性達も、小さく「きゃっ」と声を上げたわ。
うっひょおお!いったれ、もっかいぶちゅーっと!!
「…ジャンヌ〜」
「ん?」
何、今いいところ……は?
ギリアムが…マスクをすっと外して、私の首筋に唇を当てた…!?
人々はトア達に注目していて、誰にも気付かれていないけど!
「ギリアム、何してんのよ!」
「…お前さ、オレが男だって忘れてる?」
「女性に見えるワケないでしょ!?」
「だよなあ。じゃあさ。オレだってトアみたいに…番とイチャイチャしたいって、思ってるのは分かってる?」
「……!」
ギリアムは…普段飄々としているけれど、今は真剣な顔で私を見つめている。
う…だって、恥ずかしいんだもの…。キス、だって。
「ジャンヌはオレと、そういう事したくないのか…?」
「し…したいわよ!!!」小声
「じゃあ、なんで拒むんだ?」
そ、それは。つまり…その…
「……え…えっちな事、されるんじゃないかって…思って…」モゴモゴ
「………………」ぽかん
ギリアムって、手早そうだし…
雰囲気に流されて、ベッドイン…とか。
「駄目よー!だって私達、まだ結婚前だものーっ!!!」小声
いやーっ!ギリアムって、脱いだら意外と…きゃああああっ!!!待って、勝負下着に着替えさせて…!ちゃんと用意してあるのっ!!
きゃーっ!と両手で顔を覆い、卑猥な妄想を頭から追い出す!
そんな風に悶える私だけれど…頭上で「ふっ」と笑う声がした。何よ!!!
「…オレはそこまで考えてなかったんだけどなー。
ジャンヌって…スケベー」
「んな…っ!!?」
耳元で囁かれ…私の頭は沸騰寸前。色々言いたい事はある、けど。
流れるように私のマスクも取られて、優しく…唇が重なった…
「…今はここまでな。続きは…島に帰ってから、な?」
「〜〜〜…!!!」
まるで小さな子に言い聞かせるように…私の目をしっかり見て、彼はそう言った。
私が動けずにいると、涼しい顔で私と自分のマスクを着け直す…もうっ!!!
「あはは、拗ねんなって」
「拗ねてないっ!!」
もう…!彼はいつも、私を子供扱いするんだから!!今だって、ポンポンと頭を叩いて…
そんなところも、好き。なんて言えないわーーーっ!!!お返しに背中をぶっ叩いて照れ隠し!!
バン!バシッ!ダダダダッ!!
「あだだだだっ!?
…!おいジャンヌ、あれ」
何!?
…あ。ギリアムの視線の先に…灰色がかった銀髪の男性がいる。
その男性は、目を真ん丸にしてイグリットを見ている…?どこか、目元がイグリットと似ているような。
「…ファロン公爵、かしら?」
「かもしんねえ」
浮かれていた気分が一気に氷点下、警戒態勢に入る。
私達の知っている情報は…
ファロン公爵は、私生児のアウロラを迎えた事で、おば様と離婚。その際イグリットに執着したが、結局離れ離れに…
『そもそもね?お母様は公爵に対して、アウロラを家に入れるなら離婚。どこかに養子に出すなら、婚姻は継続…と選択肢を提示した。その上でアウロラを選んだのは公爵なの。
自分でお母様と私を捨てたのよ、あの男は。まあ、私は公爵家に残るって思い込んでたみたいだけど…』
と、イグリットは疲れたように笑っていたの。
それが事実なら、あの男は私達の『敵』よ。そうでなくても、あのアウロラを育てた父親だし。
その時…楽団の演奏が始まった。ダンスか…
「行こうぜ、ジャンヌ。ダンスを利用して、自然にあのオッサンから離れるぞ」
「ええ。行きましょう、ギリアム」
私達は手を取り、同様に手を繋いで歩いて来る2人に手招きした。
イグリット。貴女は…私達が守るんだから!
エロに対するそれぞれの心情
ギ:興味はあるが、結婚するまで一線は越えない。
ト:興味はあるが、相手に合わせる。
イ:興味はあるが、まだちょっと怖い…
ジ:興味津々。
ユ:ノーコメント。
「私だけエロいみたいな言い方すんじゃないわよ!!!」
「大丈夫、オレも興味津々」
「うっさい!!!」




