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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第2章
24/36

王子様の招待状



 ユリシーズが倒れた翌日…


「ユリシーズ!歩いて平気なの?」

「ああ。心配してくれたんだって?ありがとう」


 彼は普通に登校して…って、杖を突いていない。


「なんだか朝から調子が良くてな。今日は体育も参加してみようかな…」

「無理しちゃ駄目!でも…よかったぁ…」


 どんどん彼が衰弱して、最悪の場合…!と考えては眩暈がしていたけれど。倒れた事が逆に、いい方向に進んでいるのかしら!?



「…ねえ。本当に調子いいの…?」

「おう。…最後の足掻き、かもな」

「……………」


「?トア、ユリシーズ。なんの話?」

「「なんでも?」」


 ?私が首を傾げると…トアがマスクを外して、私の頬にキスをした?


「イグリット。もう大丈夫…君は乗り越えたから」

「……何、を?」

「………ふふ」


 いや、ふふじゃなくて。

 この様子では、何も教えてくれないでしょうね…諦めよう。

 乗り越え…まさか、死を?だとしたら…どうしてトアは断言出来るの?


 …貴方は私の知らない、何かがあるのね。

 それでもいいよ。私…貴方を信じてるもの。




「コア、お前昨日の夜どこ行ってたん?」

「トアですー。別に…このユリシーズのお見舞いだよ。ね?」

「…ああ」

「ふーん…」


 ???なんだか男性3人は、知らない間に仲良くなってる。うん、いい事だわ!



「そだ、イグリット。これ昨日…例の騎士に渡された」


 そう言ってギリアムは…私に封筒を差し出した。この封蝋は、以前何度も見た。王太子殿下の紋章…?

 無視するのは簡単だけど、この国で私の悪評を広めてお父様の顔に泥を塗りたくない。席に着いてから、そっと封を開ける。


「…夜会の招待状?」


 なんだそれ。一体なんの目的で?

 王太子殿下とはあの日…王宮で再会した時以来、1度も顔を合わせていない。


 私に用事が?

 いや、招待状には留学生の4人全員の名前がある。

 単に王子としての義務?

 まさか私に未練がある訳ではないでしょう。

 アウロラも来るのかな…

 それどころか、ファロン公爵がいても可笑しくない。

 大丈夫、私は1人じゃない。

 留学生として、領主の娘としての義務を果たさねば。


 等々、様々な考えは浮かんでは消え。結果…行く事にする。

 という事をトア達に伝えれば、みんな指をボキボキ鳴らしながら微笑んでいたわ。


「ふふ、みんな気合充分ね」

「(これが獣人か…頼もしすぎる…)」


 ユリシーズが遠い目をしている。分かるわ…私も通った道だもの!



「イグリット。もしも王子が近寄って来たら…大声を上げるんだよ?僕が常に側にいるけど、万が一がある。

 腕を掴まれたら足を思いっきり踏み抜くんだ。そうだ、鋭利なヒールを履こうか。

 それと毒虫を会場の中に待機させておくこと。それとそれと…」


 うーん、トアの殺意が一段と高いわ。





 ***





 翌日は休みなので、私とジャンヌは街へドレスを買いに行く。持って来てはいるけれど、島の物だし…ここは王国に合わせましょう。


「何コレー!?これが、コルセット…!あたたただ、内臓が出る!!」

「出ないわよ。でも、久々のこれはキツいわね…!」


 一応緩めにしてもらったけど、苦しい…試着も一苦労だわ。

 社交活動は何度かあるだろうし、既製品だけでなくオーダーメイドもしておこうかしら?



「このドレス素敵ねー」

「可愛いわね。

 ねえジャンヌ…今日トアね、神殿に行くんですって。急に信心深くなったみたい…?」

「そうなの?うーん…何かあったのかしら?」


 店内の休憩スペースで、ジャンヌと並んで座り、お茶を飲みながらカタログを眺めていたら…


「………ハッ…!このニオイは…!」


 何かを察知、即座に黒いマスク装着。控えていたルプスとティアも同様…つまり?



 カランカラン…


「い、いらっしゃいませ、ファロン公女様」


 来たー。なんでよ、公爵家にデザイナーを呼んで作らせなさいよ。

 アウロラは店員さんを無視。口の端を吊り上げながら、こちらに寄って来た。


「あーら、ご機嫌よう。…ってなあに、それ既製品のカタログ?やだぁ、お金無いの?うふふ、アウロラは既製品なんて買った事ないわ!

 しかもアウロラは特別だから、普通に作るより高いのをパパは買ってくれるのよ♡」

「それは既製品が入らないからでしょ?オーダーメイドにしても、布を2倍使えば値段も倍増よね」

「スぶっっっ!!」


 やめてジャンヌ、噴き出しちゃう!店員さん達は流石プロ、涼しい顔だわ!見習いたい。

 

「ふ…ふんっ!!!いいわよ、どーせ貧乏人の僻みでしょ?

 わたしは今度の王宮の夜会で、王子様のハートをゲットするドレスを作ってる最中なの。楽しみだわ〜!」


 ジャンヌには勝てないといい加減悟ったのか、話を強引にすり替えるアウロラ。

 おーっほっほっほっ!と高笑いしながら…彼女は出て行った…何しに来たの?

 もしや…店の外から私の姿が見えたから、喧嘩売りに来ただけ?暇人ね…


 にしても…やっぱりアウロラも来るのね。はあ…面倒だわ。



「……(※キュピーンと閃いた)ねえイグリット!貴女が見返したいのって、あの女なのよね?」


 ため息をつく私にジャンヌが耳打ちする。まあ…その内の1人、かしら?


「ふっふー。じゃあ…本気出さなきゃ!店員さーん!」

「はへ?ちょ…何?」


 うふふふふ…と、指をわきわきさせるジャンヌ。よく分からないけど。嫌な予感が…!




 ***




 2週間後、夜会の日。私とジャンヌは…王宮にてトアとギリアムに合流する。

 一緒に向かえばいいじゃない、と言ったけれど。


「だーめ。最近マンネリ化してない?ここいらでもっぺん、トアを惚れさせるわよ!」

「何よそれ」


 いい顔で親指を立てるジャンヌ。こうなったら何を言っても聞かないので諦める。



 馬車が…王宮の門を潜る。

 なんだろう。1ヶ月前…ここを通った時。私は胸がざわざわして、どこか焦燥感に襲われていた。

 それが今回はなんとも無い。なんで…?


 と、考え事をしていたら馬車が止まる。降りよう…ん?


「お手をどうぞ、レディ」

「トア…」


 私を待っていてくれたの?馬車の扉が開かれると…真っ先にトアの姿があった。

 彼は今日の私の装いに、目を大きく開いて…徐々に頬を染めた。


「や、やっぱり露出多いわよね!?恥ずかしいぃ…!」

「……あっ!?綺麗だよ、イグリット。ただ…他の男に見せるのが、やだなあ…って」


 私のドレスは…大人の女性を意識したもので、肩や腕はもちろん、若干胸の谷間まで見せております。私は巨乳ではないけど、寄せまくってコルセットで締めて…中々グラマーに見えるわ?

 うなじを見せつける!というジャンヌの主張のもと、髪の毛は全て纏めてセットされ。メイクもばっちり…うーんイケてるわ、私。

 鏡を見て「これが私…?」って言っちゃったもの。王国の変身技術は流石だわ…


 あ、もちろんジャンヌもとっっっても綺麗よ!その証拠にギリアムも、ポーッとしちゃって声もないんだもの。


「ちょっと、エスコートしなさいよ。というか、お世辞のひとつも無いわけ?」

「…………かわいい…」

「んな…っ」


 ジャンヌは言葉では強気だが、散々「ギリアム、綺麗って言ってくれるかしら?」と不安がっていた。なのでこの反応に、一瞬で頬を染め。ぎこちない2人は先に入場した。



「…行こう、イグリット」

「ええ…トア」


 私も差し出された手をそっと取り。さあ…行くわよ!




 *




「なあ、乾杯ないんか?」

「ミルク飲みたーい」

「決闘は…?お肉は…?」


 獣人3人は、どことなく寂しそうな顔。やっぱ物足りなさそうね…諦めて。

 そしてここでもマスク着用。当然…彼女がいるからね。


 がやがやと、多くの人の声が飛び交う。さて…こうして4人で集まっているより、交流しないと…?


「トア…?」


 何事?背中が急に温かくなったと思ったら、抱き締められている…?


「ねえイグリット。あっちで…座らない?」


 トアが指しているのは、壁際にある椅子。体力はあるはずだけど、人が多くて疲れたのかしら?もちろん了承。



「……トア?この体勢は…?」

「ん?んふふふふ」


 何その笑い声。なんで私、トアの膝に横向きに乗ってるの…?

 しかもトアはマスクを外し、キュートなお耳と尻尾も出している。トアの獣人形態を初めて見る人も多いのだろう、好奇の視線をひしひしと感じる…

 そんな彼は私の耳やらうなじに鼻を寄せて…すんすん匂いを嗅いでいる。ちょっと変態ぽいわね…


「は…恥ずかしいわ、トア」

「何言ってるの?僕らは夫婦なんだから…何も恥ずかしい事じゃないよね?」


 そう…かも?

 いやいやいや、人前でするのは恥ずかしいけど!?


「ほら…僕らのラブラブっぷりをアピールするんでしょ?チャンスだよ?」

「う…」


 それは…確かに。えーい、なるようになれ!!




 ******




 ふふ…ふふふ。作戦は成功だわ!会場中の誰もが、美しいイグリットに夢中だもの!


「改めて見ると…本当にあのトドと血ぃ繋がってんのかなぁ…?」


 ギリアムも未知の生命体を見る目をしているわ。

 今私達の後ろに…会場の食料を食い散らかすトドがいるの。



「まあ、見てください。マナーも知らないようね」

「それ以前の問題な気もしますが…」

「もう公爵家も終わりですわね…」

「おっと、公爵様の耳に入ったら大変ですよ」

「あら、いけない…」


 くすくす ひそひそ 人間はこうやって陰口がお好きなようで、聞いていて不快ではある。

 ま…あの女を庇う理由も無し、放っておくわ。




 イグリットとアウロラとかいう女との差を見せつける為、頑張ったわ!

 まずドレス、イグリットの細く美しい肢体を存分にご覧あれ!トアは不機嫌だけど、我慢なさい!!

 トアだっていつも以上に磨いてもらったわ。服も上等な物だし、軽くメイクしたりヘアセットは完璧。手袋と靴の色、アクセサリーはお揃いにして。ラブラブ夫婦っぷりを披露するの!


 で、肝心の2人だけど。



「トア…1人で食べれるわよ」

「いいの、僕がしたいの。はい…あーん」

「もう…あーん」


 トアはイグリットを膝に乗せ。イグリットのお腹の上にはトアの尻尾が。

 イグリットは尻尾を撫でながら、トアにケーキを食べさせてもらっている。恥ずかしそうに赤面して眉を下げる顔は…めっちゃ可愛いわ…!


「イイわ…ラブラブだわ!」

「オレもあれ、ジャンヌとやりたいなー…」


 ふぁっ!?ギリアムが、私の横でぽつりと呟いた。きょ、今日は作戦の為に私達のイチャイチャは無しよ!でも…


「…帰ったら。やってあげても、いいわよ…」

「本当か!?」


 そんなに嬉しいの…?ギリアムはパアッと顔を輝かせ、弾んだ声を上げた。



「ああ…イグリット。君はまるで女神…どうしてこんなに美しいの?僕は何人の男を目潰しすればいいの?」

「ど…そん、言われても…。トアだってとっても格好いいわ」


 ケーキのお皿を給仕に下げてもらうと、2人は指を絡めて見つめ合う。いいわよ、そのままキスしちゃえ!


「イグリット…」

「トア…」


 2人の顔が近付き…!きゃーーーっ!!周囲の女性達も、小さく「きゃっ」と声を上げたわ。

 うっひょおお!いったれ、もっかいぶちゅーっと!!



「…ジャンヌ〜」

「ん?」


 何、今いいところ……は?


 ギリアムが…マスクをすっと外して、私の首筋に唇を当てた…!?

 人々はトア達に注目していて、誰にも気付かれていないけど!


「ギリアム、何してんのよ!」

「…お前さ、オレが男だって忘れてる?」

「女性に見えるワケないでしょ!?」

「だよなあ。じゃあさ。オレだってトアみたいに…番とイチャイチャしたいって、思ってるのは分かってる?」

「……!」



 ギリアムは…普段飄々としているけれど、今は真剣な顔で私を見つめている。

 う…だって、恥ずかしいんだもの…。キス、だって。


「ジャンヌはオレと、そういう事したくないのか…?」

「し…したいわよ!!!」小声

「じゃあ、なんで拒むんだ?」


 そ、それは。つまり…その…


「……え…えっちな事、されるんじゃないかって…思って…」モゴモゴ

「………………」ぽかん


 ギリアムって、手早そうだし…

 雰囲気に流されて、ベッドイン…とか。


「駄目よー!だって私達、まだ結婚前だものーっ!!!」小声


 いやーっ!ギリアムって、脱いだら意外と…きゃああああっ!!!待って、勝負下着に着替えさせて…!ちゃんと用意してあるのっ!!

 きゃーっ!と両手で顔を覆い、卑猥な妄想を頭から追い出す!


 そんな風に悶える私だけれど…頭上で「ふっ」と笑う声がした。何よ!!!



「…オレはそこまで考えてなかったんだけどなー。

 ジャンヌって…スケベー」

「んな…っ!!?」


 耳元で囁かれ…私の頭は沸騰寸前。色々言いたい事はある、けど。

 流れるように私のマスクも取られて、優しく…唇が重なった…


「…今はここまでな。続きは…島に帰ってから、な?」

「〜〜〜…!!!」


 まるで小さな子に言い聞かせるように…私の目をしっかり見て、彼はそう言った。

 私が動けずにいると、涼しい顔で私と自分のマスクを着け直す…もうっ!!!



「あはは、拗ねんなって」

「拗ねてないっ!!」


 もう…!彼はいつも、私を子供扱いするんだから!!今だって、ポンポンと頭を叩いて…



 そんなところも、好き。なんて言えないわーーーっ!!!お返しに背中をぶっ叩いて照れ隠し!!


 バン!バシッ!ダダダダッ!!


「あだだだだっ!?

 …!おいジャンヌ、あれ」


 何!?

 …あ。ギリアムの視線の先に…灰色がかった銀髪の男性がいる。

 その男性は、目を真ん丸にしてイグリットを見ている…?どこか、目元がイグリットと似ているような。



「…ファロン公爵、かしら?」

「かもしんねえ」


 浮かれていた気分が一気に氷点下、警戒態勢に入る。


 私達の知っている情報は…

 ファロン公爵は、私生児のアウロラを迎えた事で、おば様と離婚。その際イグリットに執着したが、結局離れ離れに…



『そもそもね?お母様は公爵に対して、アウロラを家に入れるなら離婚。どこかに養子に出すなら、婚姻は継続…と選択肢を提示した。その上でアウロラを選んだのは公爵なの。

 自分でお母様と私を捨てたのよ、あの男は。まあ、私は公爵家に残るって思い込んでたみたいだけど…』



 と、イグリットは疲れたように笑っていたの。

 それが事実なら、あの男は私達の『敵』よ。そうでなくても、()()アウロラを育てた父親だし。



 その時…楽団の演奏が始まった。ダンスか…


「行こうぜ、ジャンヌ。ダンスを利用して、自然にあのオッサンから離れるぞ」

「ええ。行きましょう、ギリアム」


 私達は手を取り、同様に手を繋いで歩いて来る2人に手招きした。



 イグリット。貴女は…私達が守るんだから!




エロに対するそれぞれの心情

ギ:興味はあるが、結婚するまで一線は越えない。

ト:興味はあるが、相手に合わせる。

イ:興味はあるが、まだちょっと怖い…

ジ:興味津々。

ユ:ノーコメント。


「私だけエロいみたいな言い方すんじゃないわよ!!!」

「大丈夫、オレも興味津々」

「うっさい!!!」

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