成人式!!!
パーティーが始まるも、イグリットは可愛らしく首を傾げている。
分かるよ、俺もそうだった!交換留学で王国に行った若かりし日を思い出す…
何せ王国のパーティーでは、最初の乾杯が無い!
飲み物は軽くてお洒落なものばかり、料理も然り!
みんな踊ってしゃべって…なんて暇なんだろう、と思っていた。
それもイリアと出会い通じ合ってからは、彼女と踊っている間は楽しめるようになったが…
女性は腰をやたらと締め付け顔色が悪い人もいて、何故わざわざ苦しみたいのか理解が及ばない。
更に俺は人間より鼻がいいので、様々な香水が混ざり合った閉鎖空間は軽く地獄だった。
っと、懐かしんでいる場合じゃない。さて肉でも…
「隙ありっ!!!」
「なんのトングガーッド!!!」
「おのれ!!」
「「おりゃあああっ!!!」」
この肉は渡さない、たとえ陛下と言えども!!!
陛下は皆に敬われ慕われるお方だが、このように少々気さくな方でもある。
はっ!!イグリットが父の戦いを見ている…!
「この肉は愛娘に捧げる!!陛下、お覚悟!!!」
「なにイグリットに?ならばよい」
「ありゃりゃ」
「「「うおおおおおぉぉっ!!!」」」
陛下は一瞬にして冷め、くるりと背を向けた。勝った…固唾を飲んで見物していた全員が沸いた。
「はいどうぞ、熱いうちにお食べ」
「ありがとうお父様」(遠い目)
うんうん、いっぱい食べなさい。
ついでにトアも、ジャンヌもね。
「この国のパーティーは…賑やかね?」
「え、そう?イグリットだって家で誕生日パーティーとかあったでしょ?」
「そうだけど…あれは屋敷内だから騒がしいのかとばかり。
公式の場でこの騒ぎは想定外だわ」
そう言いながら肉を頬張る愛娘。うんうん、大分島の文化に馴染んだね!
特に成人式は騒がしいものさ。酷い年は会場半壊くらいするし。
酒に酔って全裸になる男とかザラだし。女の子は周囲が死ぬ気で止めるけど。
「ミア〜、明日遊び行っていいか〜?」
「ト・ア!いいよ、待ってる」
「イグリット、私もいい?」
「もちろん!」
「やった!一緒にショッピングしましょ。あ、トアは来なくていいわ」
「ぐぬぬ…!」
トアにもイグリットにも新しい友達ができたみたいだな。
俺がジャンヌの父親…キハンナの領主・ジルベールと知り合ったのも成人式だった。
当時彼の想い人が俺に気があって…俺にその気は無かったから断ったのに、ジルベールに決闘を挑まれ…返り討ちにして。
そこから友達になったんだよな〜。結局彼らは結ばれなかったけど。
「ねえねえ、わたくしも遊びに行っていい?」
「もちろ…えっ?」
え?4人の会話に入ったのは…王太女殿下?
「で、殿下…?」
「ダメかしら?」
「もちろん歓迎いたしますが、陛下の承認を…」
「お母様も了承済みよ」
「あ、はい」
あっさり負けたイグリット。王族だからって、あまり萎縮しなくていいんだけど…なんていい子なんでしょう。
「よう、キーフォ。娘は大層人気者だな」
「ジルベール。ふっ、そうだろう?」
「ああ、お近づきになりたい気持ちは分からんでもない。オレもあと20歳若ければ確実に声を掛けていたな」
「さて夫人はどこかな…」
「やめんか!!!」
冗談だ。
そう、殿下だけでなく大勢がイグリットに声を掛けたくてソワソワしている。
何せ彼女は無条件で獣人を引き寄せてしまう体質の持ち主だからな。先程からトアは周囲を威嚇するのに大忙し。
もしもトアという伴侶がいなければ、成人式は大勢がイグリットへ求婚する場へと早変わりしていただろう。
このジルベールのように番のいる獣人は異性に興味を抱くことは無いが、イグリットは別。
それは恋愛感情ではなく…守りたいという庇護欲からくるものだが。それでもトアは嫌なんだな~、若いなあ。
「そこだっ!!」
「ぎゃーーー!!!」
あ、また陛下が肉を奪っている。吹っ飛ばされた新成人大丈夫かな?まあ通過儀礼みたいなものだし、頑張れよ。
「さあアイリーン(※王女)にイグリット、この肉もお食べなさい」
「恐縮です…」
「ありがとうお母様。ついでにわたくし、あちらのケーキも食べたいわ」
「任せなさい」
ああ、陛下が指をボキボキ鳴らして…そこの令嬢達逃げてー。
「なんか…狩りをしてくる母親って感じね…」
「「んふふ…っ」」
イグリットがぽそっと呟き、俺とジルベールは吹きかけた。陛下は娘…延いては女の子に甘くて、格好いい姿を見せたがる。
ホラ、ケーキは平和的に取ってきた。あそこにいたのが男だったら言わずもがな。
「美しくて強くてしなやかで…
これがホントの女豹…なんちゃって」
「んぐっ…!」
イグリットの言葉に、反射的にワインを噴き出しかけた。それはみんな思ってても言わないで堪えていたのに…!!
ジルベールは堪えられずに逃げた。多分裏庭とかで笑い転げてると思う。
友達と雑談し、沢山食べるイグリットの姿は愛らしい。
伏せていた時期を知っているだけに…尚更。
「おいキーフォ、ちょっとこっちに来なさい」
「陛下?」
なんだ突然、感慨深くなっていたら王族専用の休憩室に連れて行かれた。
そこには俺と陛下、王配殿下のみ。
「王国との恒例行事、交換留学は知っているな?」
「何を当たり前のことを」
「ではこちらの留学生は…必ず番がいる者から選ばれるのも知っているな?」
「……ハイ…」
く…っ、陛下はニヤニヤと…!
ああそうだよ、俺のせいで制度が変わったんだよ!!俺が結ばれない相手と番になって帰って来てしまったから!!
「ははは、そう怒るな。
そこでな…来年の留学生に、イグリットとトアはどうかと思ってな」
「え…?来年の対象者はもう決まっているのでは?」
「無論。だが人数の変更はともかく、入れ替えなぞ容易だ。
イグリットは本来、王国で寄宿学校に通う予定だったろう?友人とも会いたいだろうし、どうか?」
「………」
陛下は…本当に好意で提案してくださっている。だが…
「…本人に確認させてください。あの子は王国に厭な思い出があるようで…」
「何?」
陛下と、普段穏やかな王配殿下まで顔を顰めた。
「俺も詳しくは知らないんです。が…
一時期は、自ら命を絶とうとした程苦しんでいたんです…」
「「………………」」
「ですから…」
「相分かった。では王国へ宣戦布告といこうか」
「すぐに準備させよう」
「いや待ちましょう?」
陛下のみならず、殿下まで額に青筋を浮かべている…!
「今はあの通り元気いっぱいですから!!」
「国民は全て我が子である。我が娘を苦しめた王国…許さぬ」
「お待ちをー!!」
このままでは本当に戦争になる!!
「心優しいイグリットは戦を望みません!!まず俺から話してきます、絶対に何もせずここで待っていてください!?」
「チッ…早うせい。長くは待てんぞ」
俺は休憩室を飛び出しイグリットを探す。
確かに王国は憎いが、滅ぼす気は無い!!
「イグリット!トアも、ちょっといいか?」
「お父様、どうしたの」
匂いを辿ればすぐ見つかり、会話を楽しむ2人を連れ出した。
人気の無いテラスで…ふう、と深呼吸。陛下の言葉を伝える。
「交換留学、生?私が…?」
「伯父さん!駄目だ、絶対駄目!!」
イグリットは目を丸くして、トアは全身で拒絶反応を見せている。
まさかトアは…イリアも知らない、イグリットの心情を聞いているのか…?
「もちろん無理強いはしない。それに陛下も悪意はない、本当に。断ってくれて構わないから」
「………………」
「イグリット、いいんだよ?ね?」
俺とトアの言葉は届いていないのか…イグリットは顎に手を当てて動かない。
「…一晩時間をください」
「イグリット!!」
「大丈夫よ、トア」
あ…微笑むイグリットの姿が…イリアと重なった。
本心を隠している時の笑みだ。
「…俺から断っておく。ごめんね、忘れなさい」
「よろしくね伯父さん」
「待って」
「「え?」」
踵を返すと、裾をぐっと引っ張られた。
視線を落とせば、イグリットが力強い目で俺を見上げている。
「お願い、少し時間をちょうだい」
「イグ…」
「トア。ありがとう…でも」
イグリットは俺から離れて…柵に両手を突いた。
飛び降りる!?と怖くなり、トアと一緒に彼女を抱き締めた。
「ふふ…飛ばないわよ」
そう言って過去何度も未遂を起こしただろう!なのに…
「そうか…これが縁というものなのね。私は王国に戻る運命なのだというのならば」
くるっとこちらを向くイグリットは。
月光を全身に浴び、白い髪を輝かせ…月の女神と言われても納得する美しさだ…
「私には…見届ける義務があるのかもしれない」
正直俺は、娘が何を言っているのか理解できなかったが。
それでも…止めることは出来ない、ということだけは悟った。




