成人式…?
昔の私は…未来の王妃に相応しい女性となる為。
お母様や教師に鍛えられ、血の滲む努力をしていた。
完全に無駄だったと思ってたけど…今こそ役に立っているわ。
背中を丸めたり、俯いては駄目。
真っ直ぐに前を向き、優雅に微笑みなさい。
後ろを歩くみんなと、隣に立つトアに恥をかかさぬよう…ね。
周囲から、ほう… と感嘆の声が聞こえてくる。
そして…このまま女王陛下の元へ挨拶へ。
会場の中でも高座にある椅子に、男女と少女が座っている。国王夫妻と王太女殿下ね。
椅子の前でトアは片膝を突き右手を胸の前に、私も膝を突いて揃って頭を下げた。
「お初にお目に掛かります。麗しき女王陛下、王配殿下、王太女殿下にご挨拶申し上げます」
「ええ、お顔を上げて頂戴」
「ありがとうございます。
私はテルトラントより参りました。キーフォの娘、イグリットにございます。
隣におりますのはトア。後ろに…」
全員分私が紹介して、みんな名前を呼ばれるとスッと頭を下げる。
「成人おめでとう、イグリット。貴女のお話はキーフォより聞いています。
この国に来てくれて嬉しいわ。皆も今日は楽しんでいってね」
「もったいなきお言葉、恐悦至極に存じます」
うむ、まずまずの感触だわ。
これで終わりではなく、1人ずつ陛下より贈り物を戴く。
これは社交界デビューの証であるブレスレット。
宝石はみんなバラバラだが、デザインは同じ物。新成人は1年間、社交活動中は必ず装着する。
チラ…と陛下のお顔を拝見。パーティー会場にいる全員、変化しているから一見すると人間だけど…
確か陛下はヒョウの獣人だったはず。ふむ…キリッとした口元に、鋭い目。うーん…格好いい女性ですね。
対する王配殿下はほわ〜っとした癒し系?バランスのいい夫婦だなあ。
で、現在12歳の王太女殿下。目が合うとにっこり笑ってくれたので、私も微笑み返す。すると頬を染められて…可愛い。
とと、後ろが詰まっちゃうので退散!
最後に一礼して、私達は下がった。
「はー、緊張した」
「でもイグリット様、堂々としていて格好良かったですわ!」
「本当、私なんて心臓が飛び出そうなほどでしたもの」
ほっと胸を撫で下ろす、が。
まだまだ終わりではない。次は領主家に挨拶!これは私とトアだけでいい。
アンジェ達と別れ、会場にいるはずのグリーノ地方小領主と、キハンナ地方令嬢を探す。
「キハンナ…そっちは後にしない?」
「え?いいけど…知り合いなの?」
キハンナ地方は、我がテルトラントとは首都を挟んで反対側のようなもの。遠く離れているのでちょっと意外。
「父上とキハンナ領主が知り合いでね、令嬢とも幼い頃会ったことがある。
で、隠したくないから言うけど…僕昔、令嬢に「けっこんしましょう」って言われたことが…」
「んな…っ」
何それ!?早く言ってよー!!
うがー!と詰め寄ると、彼は目を泳がせた。
「わあっ、ごめん!?でもホラ、子供の一過性の感情だし!実際手紙のやり取りも2〜3回で終わったし。
君と出会ってからは、令嬢を思い出すこともなくなったし…」
何故だろう、トアの発言が言い訳っぽい。
でも…困ったわ。
「『ちょっと、アンタがトア様の婚約者ですって?』
『それが何か?』
『彼は私と将来を約束してたのよ』
『あら、でも私は正式に番となってますのよ』
『この泥棒猫!!』
『なんとでも仰いませ、彼は渡しませんわ!』
…的なやり取りが始まってしまうのかしら…!?どうしよう、シミュレーションが間に合わないわ!!」
「(そっちか…なんでちょっと楽しそうなのかな、イグリット?)」
不思議と胸が高鳴り、ニヤけてしまうのを抑えられない。女の戦い…うふふふふふ。
アウロラとは勝負にならなかったけど…私は正妻!!!という余裕がある。負けないわ!!!
妄想していたらトアがグリーノの小領主を発見したようで、私を引き摺って移動。おっと切り替えなきゃ!
「やあ。君がグリーノの次期領主、ギリアム君だね?」
「ん?えーと…あんのー…確かー…」
こちらを振り向いた彼は、垂れ目に癖っ毛が特徴的ね。
トアを指差しながら、うーんうーんと唸る。
隣にいる少年がボソッと耳打ちした。
「あ、はいはい完璧に思い出したわ。トマ!!」
「トアね」
「あちゃー。まあ長い人生そんなこともあるさ、気にすんな」
「気にするのは君のほうだよね」
随分マイペースな人ね…新しいタイプで新鮮だわ。
ギリアム様はトアと言葉を交わし、次に私を向いた。
「!…なんだぁ、ノアの嫁かよー」
「トアだってば。そうだよ、僕の愛する人なんだから」
「残念。お嬢さん、オレはグリーノを代表する男ギリアムだ。お名前を伺っても?」
「はい、私はテルトラントの娘イグリット。よろしくお願いします、ギリアム様」
「ははは、様付けなんてよしてくれ。イグリットと呼んでもいいか?」
「ええ、どうぞギリアム」
なんともフレンドリーね。差し出された右手を取り握手を交わすと、トアが間に入った。
「成人おめでとう!はい挨拶終わり!行くよイグリット」
「あ、うん。じゃあまたねギリアム」
「じゃあお前ら適当に楽しんでけ。オレはトムにくっ付いてくから」
「トアだよ!なんで来るのさ!」
「面白そうだから」
おお…トアが男の子って感じの対応してる。
ギリアムは側にいた少年少女にまた後で、と告げ強制的に同行。この後どーすんの?とか言っている。
「全く…キハンナ地方令嬢を探してるの」
「えーと…誰だっけ」
「君はもう黙って付いて来て…」
諦めたわ。
で…目的の人物は…
「トア!貴方トアでしょ!?」
向こうから来た。
「婚約したって聞いたんだけど、私はどうすんのよ!?」
「わぁ、ジャンヌ…」
トアはさり気なく私を背に隠し、正面から人をかき分けやって来る令嬢と対峙した。
「それは君が言ってるだけで、僕は了承してないでしょ」
「何よ、よっぽど私よりいい女なんでしょうね!?」
うーん気が強そう。でも背が小さいようで、後ろからじゃ全然見えないわ。
「あ、その女ね!?」
おっと見つかった。ふ…ここは優雅に挨拶してみせますわ!!トアをずいっと押し退け前に出る。
「初めまして、令嬢。私はテルトラントより参りました、イグリットと申します」
喰らえ、お母様直伝営業スマイル大爆発!!!
って…かわいっ。私は153センチで小さめなんだけど、更に頭1つ分小さい。赤いほっぺに大きな目、真っ赤な髪…何この子可愛いんですけど!
「ハァ〜〜〜?
何この子クッッッソ可愛いんですけどぉ〜?」
「え?」
私口にはしてないわよ?
彼女…ジャンヌ様はトアを突き飛ばして私の両手を取った。
「私キハンナのジャンヌ、どうか呼び捨てにして。イグリットって呼ばせてもらっていいかしら?」
「え、ええ…喜んで」
「ハーァ声も素敵ぃ?バチクソ美人だしぃ、ちょっともうヤダァ~~~」
「えっと…ありがとう?ジャンヌもとっても可愛らしいわ」
「んはぁ~!!!」
ええー?ジャンヌは私の腕を取って、トアとギリアムを放置してあっち行きましょ!と誘ってくる。えーと…どうしましょ?
「あーらら、取られちまったなあロア」
「トア!!ぐぅ…!だからジャンヌには会わせたくなかったのにー!!彼女ああなったら人の話聞きやしないんだから!!」
後ろから2人の気配もするし…まあいっか。
思ってたのと展開違うけど、喧嘩するよりいいわよね?きっと!
*
新成人が全員陛下に挨拶も終え、保護者や領主達も入場した。
ギリアムとジャンヌは一旦別れて、お父様とシャルル達と合流。それぞれ飲み物を…って。
なんでお父様とトアはビールジョッキを持ってるの?
パーティーってワイン…シャンパンとか、レモネードなんかのジュースじゃないの?
「私お酒飲めないのよねー。ちょっとそこの貴方、ミルクちょうだい」
ミルク。
わりと近くからジャンヌの声がして…ミルクのグラスを受け取っている。自由ねこの国。
「では新たに成人を迎えた其方達の今後を祝し、乾杯!!」
わあ、陛下もジョッキ掲げてるー。
かんぱーい…お父様男らしい一気飲みね。
ていうか料理が。パーティーってお菓子メインで、料理は少なめじゃ?それも彩り重視で、お洒落で小さな料理が並んで…
なんでガッツリ山盛りお肉があるのよ。あとデカイ鍋があって、熱々のスープも……
「うん、うん!これが島の普通なのね!」
いつまでも王国の常識に囚われては駄目!という訳で…お肉だーーー!!
「その肉は私が狙っていたのだ!!」
「いいえ俺が先です!!」
隣のテーブルから陛下とお父様の争う声が聞こえるけど、幻聴よね!!
「イグリット~!あっちで決闘が始まったわ、見に行かない?」
「ジャンヌ!え、決闘って?」
「女性を巡ってガチンコバトルみたい」
「今成人式中よね?」
「?パーティーに喧騒はつきものよ!ほら、女王陛下とキーフォ様も取っ組み合いしてるわ」
待ってそっちのほうが気になる。
うん……あの…諦めよう!!!




