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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第1章
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成人式



 夏も終わり…我が家に嬉しい出来事がありました。

 そう…お母様が元気な赤ちゃんを産んだのです!!


「おぉ~…!」


 可愛い女の子…アニスの妹!!


「お父様はヒュールなのに、この子は違うのね」

「そこは遺伝しないからね。この毛の色は…俺の母さん譲りかな」


 妹は白狐。なんだか…


「イグリットとお揃いだね。綺麗な白だ」

「トア…ありがと」


 妹にはトラウマしかないけど、そんなの関係なく可愛い!

 恐る恐る抱っこ…赤ちゃんってすごく小さくて温かい。


「ふぇぁ~」

「はーい、おねえちゃまよ」


 早く大きくなってね。そしたらいっぱい遊んで、一緒にお勉強しましょうね。

 妹の名前はミュリエル。まさに純白の天使…ずっと側で成長を見守りたい、のに…!



「なんでこんな時に成人式なのよー!」

「諦めて行こうね、イグリット」

「ミュリエルー!次に会う時はおねえちゃまって呼んでねー!」

「3ヶ月じゃ無理だなあ」

「行ってらっしゃーい」


 あー、あーーー!!!

 お父様とトアに引き摺られ、お母様とミュリエルとお別れ…ぐすん。


 成人式は同時に社交界デビューの場でもある。

 そして3ヶ月、年明けまで首都にいなくてはならない!!



 だけど私にとって本当のお別れは、ここからだった。


「イグリット様ー、トア様!」


 いつもの友達が見送りに来てくれた。みんな悲しげに笑っているけれど。


「……みんな…今までずっとありがとう」

「やだ、こっちのセリフです!」

「本当に楽しかったです。本当…に…」

「お友達って言ってもらえて、すごく嬉しかったです」

「これから立場は変わりますが…心の中ではお友達って思っててもいいですか…?」

「いいに決まってるじゃない!…ぐす」



 彼らは平民、私達は貴族。

 トアも以前言っていた…「大人は弁えているけど、子供同士は距離が近い」と。

 それも今日まで。デビューを迎える私達は…これから本格的に貴族社会で生きていく。


 だから…もう彼らを「友達」と言ってはいけないのだ。

 誰かが引っ越す訳でもなく、2度と会えないこともない。

 でも次に顔を合わせる時は…「小領主様と領主のご令嬢、領民」の関係になる。


 私は涙が溢れて止まらず、次第に嗚咽の声を上げてしまった。

 その様子にターニャやヒルダ、アンナも大声で泣いた。

 男の子達も目に涙を浮かべている…


 実はヤンとターニャは成人済みで、家の仕事を手伝っている。

 なのに私が寂しがるから…一緒に遊んでくれてたの。



 …駄目、これ以上泣いては。

 私はテルトラント領主の娘にして、次期領主の妻になる。情けない姿はもう終わり!!

 最後に全員とハグをして、笑顔でお別れ。


「さようなら、みんな。貴方達領民のお陰で、私達は保っているの。

 これから先何があっても…私達がみんなとこの土地を守るわ。だから…元気でね!」

「「「イエス、マム!!」」」


 子供達の揃った返事に、1拍置いて笑い声が木霊した。

 馬車に乗り、窓から顔を出して手を振る。



 みんな…小さくなって、見えなくなるまで両手を大きく振ってくれていた。

 私は馬車の中でも泣いてしまって、トアにずっと慰められていたけれど。


 目を瞑ると…楽しかった日々が脳内を駆け巡る。


 みんなで山や森を冒険して。

 木登りをして釣りをして。

 海で泳いで、ボートに乗って。

 木の実を食べて、お腹を壊して。

 夜の林で肝試しをして、ルプスを置き去りにしてしまって。

 私が犬のウ◯チを踏んで、男の子が腹を抱えて笑って。

 ブチギレた私が裸足で、ウ◯チの付いた靴を掲げながら追いかけ回して。最終的にぶん投げて。


 どれも…かけがえのない最高の思い出よ。ふふ…


「なんか無理矢理いい思い出に変換してない?」


 うるさいわよトア。

 私は過去を振り返るのはやめたの、楽しい幼少期だった…それが全てよ。



 ね、みんな。いつか立派な領主夫人になってみせるから…待っててね!





 ***





 3日間の馬車の旅は終わり、首都に到着。

 やはり王国よりは発展していないけど…とっても賑やかね。

 建物も木製が多い地元と違って石造りがメインだし、道路も整備されているわ。



 まずは別宅で一息、式は来週ね。

 お茶を飲みながら貴族名鑑に目を通す。私は全員覚えたけど、トアは不安そう。


「これ誰だっけ」

「グリーノ地方の小領主よ…」

「むむむ…」


 せめて領主家と次期領主くらいは覚えなければ。

 特に成人式で一緒になる相手を重点的に…と並んで勉強。



 昼過ぎに来客が…とサファから報告が。

 テルトラント地方に住む、同じ歳の子達が挨拶に来たのだ。

 今年は私とトアを含めて7人が成人。

 彼らは私達の誕生日パーティーとかで、何度か顔を合わせている。


「イグリット様、トア様。成人を迎える素晴らしい時に立ち会える喜びをご挨拶させてくださいませ」

「ありがとう、貴女達もおめでとう。一緒にこの日を迎えられて嬉しいわ」


 島では男女で立場の違いはあまりない。故に今は領主の娘である私のほうが、トアよりちょびっと上なので返事をする。


 みんなを代表して挨拶したのが、ゆったりとしたドレスに身を包んだ人間の令嬢アンジェ。男性はトアともう1人、シャルルしかいない。

 なので私は女性5人でお茶会をする。


「イグリット様、ミュリエル様のご誕生おめでとうございます!」

「ありがとう。とっても可愛くて離れたくなかったのだけど…成人式じゃ仕方ないわよね…」

「もう、イグリット様ったら!」


 こういう貴族の付き合いは久しぶりだけど…身体が覚えているものね。

 優雅なお茶の飲み方を始めとした振る舞い…自然にこなせるわ。


 そんな私を見てみんな、目をキラキラ輝かせている。


「本当にイグリット様って完璧な淑女ですよね…」

「うふふ、ありがと」

「憧れます…色々教えてください!」


 特に獣人のみんなは好意的。

 それに関してはずっと疑問だった。悩んでいたらトアが、私は獣人に好かれやすい匂いをしてるんだって教えてくれた。


 簡単に言えば…通常初対面での好感度が0スタートに対し、私は獣人限定で50%なのだと…わかるようなわからないような。


「ふふ、私は人間でもイグリット様の素晴らしさは存じてますわ。美しいだけでなく所作も完璧で…同性ながら惹かれてしまいます」

「ありがとうアンジェ」

「トア様は大変ですねえ」

「そう…かしら?」


 ちょっと照れくさいわ…



 そんなこんなであっという間に1週間が経った。

 お父様と3人で王宮を目指す。


 この日の為に作ったドレスに袖を通す。うん…やっぱコルセットが無いってラクだわ~。私もう、公爵令嬢には戻れない~。


「行こうかイグリット。今日は君が誰よりも輝いている…綺麗だ」

「ありがとうトア。貴方もとっても素敵、女の子の視線を独占しちゃうわ」

「大丈夫、僕は君しか見えないから」


 ふふ…ん?


「トア、耳と尻尾は?」

「ああ、この先人が多いから仕舞っ」

「チェンジ!!!!」

「「えええーーー!?」」


 嫌よ、トアの可愛い尻尾が無いなんて!!

 モフモフの無いトアなんてただのイケメンじゃないの!!


「君そんな大声出せたの?というか…他の女の子が僕の尻尾に触ってもいいの…?」


 トアがしょぼくれてしまった。それは…うん、嫌だわ。


「しょうがない…帰ったら沢山モフらせてね」

「うん!なんならお風呂で洗ってく」

「さあ行くぞ!!」


 わあっ!お父様に放り投げられ馬車に乗る。

 お風呂は一緒に入らないけど、私が乾かしてブラッシングしてあげる~!



 王宮に到着、トアのエスコートで降りる。

 テルトラントの控え室に案内されると、広い部屋に5人と親達はすでにいた。


「緊張するわね…王族にお会いするのは初めてだわ」

「俺達もです。女王陛下はとてもきさくなお方と聞きますが」


 シャルルは硬い表情で笑った。

 というかみんな緊張してる。雑談で気を紛らわせていたら…



「テルトラントの皆様、入場のお時間です。どうぞ」


 来た…!!

 私はトアの腕を取り…深呼吸。



 大丈夫、私は大丈夫。この程度の試練、何度も経験済みよ。

 会場へ案内され、扉の前に立つ。後ろをチラッと見ると、みんな力強く頷いた。

 お父様含む大人達は後で入場なのでここにはいない。


「…お願いします」

「はい」



『テルトラント地方より領主令嬢イグリット様、次期領主トア様。

 アンジェ様、シャルル様、ネリー様、ドリス様、テリーサ様のご入場です』


 扉が開くと同時にアナウンスが。

 私は背筋を伸ばし…微笑み優雅に歩く。

 ギャラリーの視線を独占する、という意気込みで自分を奮い立たせるの。


 さあ…私がテルトラント地方、キーフォの娘イグリット。この場の全員に、私という存在を刻んでやるわ!


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