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 三時間前まで海は栞の部屋にいた。会うのは三週間ぶりだった。休日の昼間だが、二人とも仕事で疲れていて出かけるほどの元気はないため、どちらかの家で時間を過ごすことが最近は多かった。

 本来ならいつも通りの一日になるはずだった。

 栞が海に別れを告げる瞬間まで、こんなにも急に関係が断ち切られるだなんてお互いに想像もしていなかったのだ。

 十四時から短針が少し動いた頃に、海は栞の家にやって来た。屋内に入ったばかりの彼の鼻の頭はほんのり赤くなっていて室外の寒さを思わせた。

 冷たい海の手に湯気をたてる温かな飲み物を渡して、二人掛けのソファに並んで座り、彼が買ってきてくれた手土産のケーキを食べながら海の話を聞いた。

 飲み物は栞は紅茶で海はコーヒーだ。栞はコーヒーを飲まないので彼のためだけにこの家にはコーヒーのストックがある。

 ここ最近彼が口にする八割は仕事の愚痴だ。昔はもっと色々な話を、趣味の話などもしていたような気がするのだが、就職して半年を過ぎたあたりからそうなっていった。

 大学二年生の秋から栞と海は付き合い出した。ゼミが同じで顔を合わせる内によく話すようになったという、平凡な出会いだった。

 学生の頃は今よりは海と頻繁に会っていた。そもそもがわざわざ会おうとしなくても同じ授業を取っていれば必然的に顔を合わせる。休日にデートもしていたけれど、日常的に会えるというのはそれだけで良くも悪くも関係性に影響するのだろう。その頃、栞は海のことを好きなのだと思えていた。

 感情の空白を埋めるように時間や温もりを共有し合えば恋だと錯覚することができた。最初の二年しか、持たなかったけれど。

 就活に、卒論。恋人の優先順位が下がる時期はこれまでだってあった。就職してからも節目節目で別れるタイミングもあったはずだった。

 日常に圧迫され共有していた時間が削られていくと、海の考えていることが日に日に分からなくなっていった。しかしそれでも何故か付き合いは続いた。

 彼が今もまだ好きでいてくれたのか、それとも向こうも別れを切り出しそこねていたのかは栞には分からない。話すべきことすら話さなかったからだ。

 話そうとも、しなかったからだ。

 栞から彼に別れを告げる予定はなかった。

 情がそうさせたのではない。変化が恐ろしくてできなかったのだ。だからきっとこれから先も海が栞を見限るまで、付き合いは続くのだろうと思っていた。

 それなのに事故にでも遭遇したかのように唐突に海と別れた。

 だって、許せなかったのだ。

 栞自身はどう思われても構わない。優柔不断だと思われても、コミュ障だと思われてもいい。でも、世界で一番愛している作品を貶されるのだけは許容できなかった。


「それさあ、いつまで好きなの?」

 栞の部屋の本棚に並べられたカラフルな背表紙たちを指差して、海が言った。

 これまで一度も興味を示したことはなかったのに、急に彼はそれを視界に入れたのだ。

「子どもが読む本でしょ、それ」

 声色の中に潜む見下すような視線に心臓を刺されたような衝撃を感じた。

「出てって」

 考えるよりも前に言葉は飛び出していた。もしかしたらそれは防衛本能だったのかもしれない。

「出てって。出てって……この部屋から出てって!」

 二十四年間の人生の中で一度も生じたことがない激情が栞を動かした。

 悲鳴に近い声をあげてから、突き飛ばすようにして海を部屋から押し出す。喉の奥が沸騰したくらい熱かった。

「は?」

「今すぐこの部屋から出てって!」

 赤く強い怒りが栞を突き動かしていた。自分では止められない。止まらなかった。

 はじめて、人を、怒鳴りつけた。

 どうして栞が声を荒げているのか海には分からないようで、呆けた顔でされるがままに玄関まで後退していく。奇妙に残った冷静さが、途中で栞に海の上着や荷物を掴み取らせた。乱雑に手渡すと彼はスイッチでも入れられたように表情を戸惑いに変えた。

「え? は?」

 まだ彼が混乱している内に玄関の鍵を開け、海と彼のスニーカーを外に投げ出す。

「私と別れて。私、あなたとはもう付き合えない。あなたと別れたい。あなたとはもう二度と会いたくない。……さよなら」

 言葉を差し挟む隙間を潰すように矢継ぎ早に別れを告げ、勢いよく扉を閉めた。

 力では絶対に敵わないので、我に返った海に扉をこじ開けられないよう急いで内鍵を回してチェーンをかける。

 がちゃりと鍵が閉まる音にかぶさり、案の定、インターホンの音が鳴った。

 扉を叩く音が、海が栞を呼ぶ声が聞こえた。インターホンが、扉を叩く音が、インターホンが、声が、叩く音が、声が、声が、インターホンが、叩く音が、声が、叩く音が、叩く音が、声が、海が栞を呼ぶ声が聞こえる。

 もう、何も聞きたくなかった。

 逃げるように玄関から立ち去り、リビングのソファで耳ごと覆えるように腕いっぱいで頭を抱え音を遮断する。

 彼がどれだけ粘ったのか正確には分からないが、しばらくそうやってソファで体育座りをしていると、ふつりと音が止んだ。

 緩慢に起き上がって玄関に向かいスコープから外をのぞくと、誰の姿も見当たらない。

 緊張の糸が切れて足に力が入らなくなり、栞はその場にずるずるとしゃがみ込んだ。

 玄関の床のタイルは冷たくて靴下やスカートに遮られていても体温を奪っていく。力が抜けてだらんと床に落ちた手のひらに、砂粒の感触があった。

 最後に玄関の掃除をしたのはいつだっただろう。せっかく気に入って買ったロングスカートが汚れてしまう。そんなどうでもいいようなとても大事なことのような気もする考えだけが、ぼんやりと霞がかった頭の中で明確に主張してくる。他のことは、何も形にならなくて、考えられない。

 だがその中でも一つだけ思いついた考えに従って、栞は壁に手をつき立ち上がった。

 足をずるりと動かすと踏みつけていたパンプスが蹴飛ばされる。腕も足も頭も重い。自分の身体は前からこんなに重たかっただろうか。感情がどろどろと身体から流れて手足を地面に縛りつけているようだった。

 壁を支えにして足を引きずりながら動かしてリビングまで戻る。どうにかソファまでたどり着くと、力尽きた身体を投げ出してぼすりとうつぶせに倒れ込んだ。

 自分の中に渦巻く感情に名前を付けられない。

 消化できない気持ちが重力となって、倒れたまま動き出せなくなる。

 骨がすべてとろけたようにソファに顔をうずめていると、起きろと栞を促すように軽い電子音が鳴った。

 音は、続けてもう一度鳴った。続いてもう一度、更にもう一度鳴る。

 テーブルに放置されたスマートフォンが何度も鳴った。

 音を我慢できなくなってうつぶせになったまま手を伸ばす。伸ばした手の先で、がちゃん、と不吉な音がした。顔をテーブルの方に向けると、カップが倒れて飲み残しの紅茶がテーブルにこぼれている。大半はもう飲み終えていたのでそこまで被害はひどくなかったが、ゆるやかに液体が広がっていく先にはスマートフォンが置かれていた。身をのり出すようにして咄嗟に手を伸ばすと、なんとか紅茶がたどり着くよりも先にスマートフォンを拾い上げられたが、その代わりに勢いをつけすぎた栞はソファから落ちた。

 鈍い音をたてながらソファとテーブルの隙間に落ちる時に見えたロック画面には、想像通り海からのメッセージが届いたことを知らせるポップアップが表示されている。

 痛みにうめきながら起き上がってソファに座り直し、誕生日の数字で画面ロックを解除してメッセージアプリをひらくと、海から七件もメッセージが届いていた。

 彼はあまりメッセージを連投するタイプではないのでそれはとても珍しい。

『出てくる様子ないから帰った』

『俺、何かした?』

『よく分かんないけど何かしたならごめん』

『あのさ、』

『本気?』

『まじでよく分かんないんだけど』

『返事くれ』

 ――自分の感情に、名前を付けられない。

 ただ、どうしようもない衝動が、再び栞を突き動かした。

 全力疾走でもしたかのように息が荒い。両目からぼろぼろと涙がこぼれていく。

 何かが破裂したようなひどい音がした。

 手に持っていたはずのスマートフォンが、壁に叩きつけられている。

 説明のできない、何かが、耐えようもないほどに悲しく、苦しく、虚しかった。

 何が、悲しくて。何が、苦しくて。何が虚しいのか、分からない。

 自分の抱えている感情があまりにも強すぎて理屈では説明できない。誰にも分類できない気持ちが栞を今掴まえている。

 熱い。

 自分の吐き出す息が熱い。目からこぼれていく涙が熱い。爪がくいこむほどに握りしめられた左手が熱い。けれど涙に付随するように出てきた鼻水という生理現象によって沸騰した感情は急速に冷めていった。

 現実を生きる栞には、物語のように、綺麗なだけの涙を流すことは、できない。

 しばらくは嗚咽をもらすこともなく無気力に泣いていたが、へこんだ壁紙をながめるでもなくながめているといつしか涙も勝手に止まった。

 後先考えない衝動的な行動に走った自分を嘲るように出た乾いた笑いが部屋を揺らす。

 冷静さを取り戻した栞は、テーブルにこぼれた紅茶を拭いて、鼻水をかんで、自分が壁に投げつけたスマートフォンを自分で拾った。ぶつかり方が悪かったのか保護フィルムの下の画面まで割れてしまっている。

 画面の右上から中ほどまでひびが広がっていて、保護フィルムの上から画面に触れるとざりざりと砕けた破片の感触がした。

 栞は、ひどく短絡的な行動をした。

 けれど思うのだ。

 この世で一番大切なものを踏みにじられても笑うくらいなら死んだ方がましだ、と。

 ソファの裏側を背もたれにして、栞はぺたりと、本棚の前に座った。

 そこには自分にとっての全てが並べられている。

 色とりどりの背表紙に指でそっと触れる。タイトルをなぞるように指をすべらせると、つるりとした感触が心地良い。

 背表紙の色は作者ごとに変えられているため、遠目からでもどの本にどんな物語が秘められているか栞には分かる。

 栞の本棚のほとんどを埋めているのは女の子向けのライトノベル――少女小説とも呼ばれる本たちだ。

 本の表紙は少女漫画的な華やかなイラストから、やわらかい絵本のような絵柄のものまで様々ある。

 ここに並んでいる一冊一冊は、栞が中高生の頃に買ったもので占められているので、丁寧に扱っていても角がよれてしまっていたり、背表紙が少し色褪せたりしていた。改めてまじまじと観察すると、その姿に流れた時間を感じる。

 ライトノベルは、いつか通り過ぎるコンテンツらしい。昔どこかでそんな文章を見かけた。

 おそらくそれは事実そうなのだろうとも思う。どれだけ抵抗したくても子どもはいつか大人になるし、夢はいつか現実と入れ替わる。

 栞だって、本当はもう通り過ぎているのかもしれない。

 小さな頃に見ていたアニメからは年を重ねるごとに遠ざかっていったし、今の中高生に向けて書かれているライトノベルは読んでいない。

 ここに並べている小説たちにだって、思い出に執着しているだけで本当はとっくに通り過ぎて必要ではなくなっているのかもしれない。だって栞はもう、大人になってしまったのだから。

 しかしすぐ、本当に? と、過去の自分が問いを投げかけてくる。

 高校生の時、ある小説の作者がインタビューで自分の書いている話は今熱心に読んでくれている子どもたちからいつか忘れられる物語だ。と答えていたのを目にした時、栞は悲しくて仕方なかった。

 大人に、社会人になった自分は、言われていた通りに忘れてしまったのかと問いかけてみれば、答えはすぐに出る。

 忘れられるわけがない。いつか忘れられる物語だなんて言わないでほしいと今でも思う。

 ここに並べた物語たちから栞は沢山のものを貰ったのだ。

 手を伸ばして、薄紫色の綺麗な背表紙を持つ一冊を本棚から引き出す。

 表紙には、印象的な鮮やかな赤い髪をなびかせたはつらつとした表情の女の子と、理知的な顔立ちをした黒髪の女の子が描かれている。

 彼女たちを目にしたら、止まったはずの涙がまたこみあげてきた。涙が表紙に落ちないように鼻をすすりながら上を向く。

 一番。

 栞の、一番、大切なもの。

 肯定されたい。

 あさましいだろうか、承認欲求のような、執着のような、何かから許されたいような、そんな気持ちは。

 誰かに否定されたからといって自分の中での順位が揺らぐわけではないけれど、それでも誰かに肯定してほしい。みっともないすがりつくような感情でも、焦げつくようにそう願う。

 あなたが大切にしているそれは、とても尊いものなのだと、肯定されたい。

 分かち合いたい。

 あの頃、栞とともに夢中になって小説を読んでいた友人は、母になり、今はもう小説を必要としなくなった。

 本棚の前に座ったまま、画面は割れたが、本体までは壊れずにすんだスマートフォンを操作する。

 検索画面を開いて小説のタイトルで検索してみると、出てきたのはほとんどが書籍情報だった。

 ネット通販、出版社の公式サイトがのせている発売情報、電子書籍のサイトなどが検索結果に並んでいる。

 その中に読んだ本の感想を書いているブログもあるにはあったが、感想を読んでみると、作品のファンというよりは他にも沢山読んだ中での一冊でしかないようだった。そもそもブログという時代でもないのだ。誰かを探したいのならSNSで検索した方がいいのかもしれない。

 SNSのアプリを開くと画面が一度水色に染まる。手始めにタイトルで検索してみると、今度は書籍情報でも感想でもなく、小説の登場人物の台詞を定期的につぶやくアカウントがひっかかった。そのタイプのアカウントが複数存在していたため画面が見覚えのある台詞で埋まる。スクロールしてもスクロールしてもそればかりで、欲しい情報はちっとも出てこない。

 タイトルで検索しても見つからないならと、登場人物の名前を並べて検索してみるが、そちらでも例のアカウントのつぶやきがひっかかる。

 検索結果にはずらっと台詞や印象的なシーンの文章ばかり並んでいたが、目をこらして探していると、ぽつぽつ感想らしきものもあった。しかしよくよく確認してみると、そのつぶやきの日付はどれも何年も前のものだった。

 念のため感想をつぶやいていたアカウントのホームに飛んで、最新のつぶやきも見にいった。だが、どのアカウントも今はもう他の作品に夢中になっていたり、更新自体がだいぶ前のものを最後に止まっていたりした。

 結果の出ない不毛な行為に、一体自分は何をやっているんだろうと思っても見つからないほど、どんどんムキになっていった。だって駄々をこねるように、こう思う。

 今だって、あの頃大好きだった物語を抱えたままに生きている人はいるはずだ。時間が過ぎたからもう誰も心の中の椅子に彼女たちを座らせていないなんて、あっていいわけがない。

 胸で燃え上がった想いと、意味の分からない使命感に突き動かされて検索を続けた。

 探して、見つからなくて、探して、見つからなくて、探して、探して、単語を変えて何度も繰り返して、繰り返して、目にしている文字が頭の中でゲシュタルト崩壊しそうになって。スマートフォンの充電もなくなりかけた時。

 やっと、ひとつのつぶやきが目に止まった。


『ルビーにとってのリオみたいな友達がほしい』


 日付を確認すると、五ヶ月ほど前のつぶやきだった。

 比較的最近のつぶやきなのに見逃していたのだろうか。最初にルビーとリオで検索した時は気がつかなかった。

 アカウントのアイコンをタップしてホームに飛ぶと、一番新しいつぶやきは一分前のものだった。ソーシャルゲームのガチャ結果のスクリーンショットをあげて『勝った』とコメントをつけている。

 プロフィールには『趣味用』としか書かれていない。過去のつぶやきを見ていくと勉強やテストなどの単語が出てくるので学生のようだが、それ以外には性別や年齢を予想できそうなことは書かれていなかった。

 直近ではガチャ結果をのせていたゲームのことや日常の些細な『ねむい』『ごはんたべる』などといったつぶやきしか見当たらず、検索に出てきた感想をつぶやいたであろう五ヶ月前辺りまでさかのぼらなくては栞が知りたい情報は見つからなさそうだ。思ったことをそのまま文字にして頻繁に更新するタイプのようで、またもやひたすら画面をスクロールする羽目に陥った。

 顔も名前も性別も年齢もその全てを知らない相手のつぶやきを漫然とながめていると、ここまで意固地になって探したけれど、見つけた後、自分はどうするつもりだったのだろうという疑問がふっとわいた。見つけることに固執していたが、見つけた後のことは何も考えていなかったのだ。

 一体自分は何を求めていたのか。

 肯定されたいだけだったら、過去の感想だっていいはずだった。

 栞だって好きな気持ちは昔と変わっていないつもりだけれど、今、熱烈にネットに感想を書き連ねたりはしていない。気持ちはあっても、行動には起こしていない。

 自身もそうであるのに、今この瞬間に表に出していないからといって気持ちが枯れただなんて、人を勝手に判断していいわけない。勝手に、そう、栞の友達だってそうだ。

 今どう思っているかは分からないけれど、あの頃栞と同じサイズの好きを彼女は持っていた。それは絶対に嘘じゃない。

 彼女はもう小説を必要としていないだろうなんて、連絡を取り合ってもいないくせにどうしてそんな卑屈な気持ちを彼女に抱いたのだろう。勝手に彼女を決めつけてしまったのだろう。今の彼女を知りもしないくせに――。

 もう、いい。

 冷静になった思考が、スマートフォンを操作する手を止めさせた。

 今更誰かに肯定されなくとも、絶対的な価値はそこにあるのだ。過去がそれを証明している。ちゃんと人気だった。ファンは沢山いた。今だって栞のように胸に気持ちを秘めているファンは探さずともどこかにいるはずだ。こんな風にムキになって馬鹿みたいだ。

 理性的な自分が訴えてくる。不毛なことはさっさと止めて、日常に戻るべきだ。否定されたから、否定し返すために理論武装したいだけだ。しょうもない対抗意識だ。反射的な行動だ。

 時間がたてば、無駄なことに時間を使ったなと思うだろう。いくらでも自分を説得する言葉は出てくる。

 それなのにすがりつくような気持ちが消えなかった。

 過去ではなく、今。この想いを肯定してくれる人、共有してくれる人が欲しい。

 年上でも年下でもいい、男でも女でもいい、十年前に読んでいた人でも最近読んだばかりの人でも構わない。本当に自分が求めていたものが鮮明になっていく。

 栞は、今、同じくらいの熱量で気持ちを共有してくれる人と話がしたい。

 ああ、そうか。

 本当はずっとそうだった。ずっとずっとそうだったのだ。

 狭まっていた視界が広がると、導かれるようにその文字は目に飛び込んで来た。


『誰かとホノマホの話がしたい』


 滲む視界を袖でぬぐって、栞は文字を書き込むためにスマートフォンを操作した。

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