↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
ミラノ編
55/64

第四十一話 ヴェローナ

完結まで書き終えました。

本日中に随時投稿します。

よろしくお願いいたします。

僕は今、ミラノ侯爵領の領都であるミラノ街へ向けて、レンガ舗装の街道を西進しています。


ヴェネート公爵家の紋章「有翼の獅子」を掲げ、焦げ茶色の木目を丁寧にニスで補強した車体、二頭立て四人乗りの馬車に揺られています。


強行軍の移動にも、力強い馬脚で応える二頭の馬が、アルプス山脈から振り降ろす北風を、東から西へ切り裂きます。


一頭は愛馬フォルトゥーナ。二歳半♀。

そしてもう一頭は、フォルトゥーナと両親を同じくする、まだ名前のない新馬。一歳半♀。


馬車を操る御者席には、二人の背中がみえます。

一人は若き凄腕剣士であり護衛兼、船頭ゴンドリエーレのピッピーノ。十二歳。


もう一つの小さな背中は、狸獣人の御者クワドリフォーリオ、通称クワッド。四歳。

木製の弓と矢筒を肩にかけ、手綱を握ります。


四人掛けの車内で、僕の隣に腰掛けるのは、洗体をさせたら右に出る者はいない、美人エリートメイドのエリーゼ。推定十五歳。


この三人と二頭とともに旅路を急ぎます。


道中いくつもの街や村を越え、ようやく旅の中継地であるヴェローナ街に入ります。


馬車の速度が緩やかになります。

初めて目にするヴェローナ街は、焦げ茶色のレンガが広がり、落ち着いた時間が流れます。



「トキン様、まもなく休憩予定の宿に到着となります」


「わかった。対策してたとはいえ、思ったより早く着いたね」


「ええ、そうですね」


エリーゼがニコリと笑顔を見せます。


僕とエリーゼが腰掛ける座席の下には、馬車移動対策として「振動耐性」「疲労耐性」「防風」「清浄」などの効果を持つ【古代の逸品】を設置済みです。

効果はお馬さんにもおよびます。



馬車が静かに停まります。


「トキン様、到着致しました」


「うん、早く身体を伸ばしたい」


自ら馬車のドアをあけ、ヴェローナ街に降り立ちます。

眼の前の宿を眺めます。



下水道工事専門店


『尻のしずく



「トキン様、宿は反対側になります」


固まる僕にエリーゼが声をかけます。


「そうだよね」


僕が勝手に馬車を降りたため、反対側の建物を見てしまったようです。

身体を伸ばし、改めて宿を眺めます。



宿泊・休憩・軽食


『ホテル ヴェローナ』



馬車『フォルトゥーナ号(改)』を宿の世話係に預けます。

二頭の首すじをゆっくり撫で、労をねぎらいます。


四人で宿屋に入り、まずは食事にします。


受付にて部屋の予約を終えたエリーゼも着席します。


宿屋の看板娘とおもわれる、十歳前後のかわいい少女がやってきます。


「ご注文はお決まりですか?」


「ヴェローナ街は初めてなんです。なにかお勧めはありますか」


僕はにっこり質問返しします。


少女は笑顔でこたえます。


「はい、あります。ここヴェローナといえばリゾットです。炊いたお米をチーズで包んだ名産品です」


「じゃあ食べない訳にはいかないね。みんなはどうする」


皆、リゾットを注文します。




食事をおえ、僕とエリーゼ、クワッドとピッピーノの二手に分かれて部屋に移動します。

二時間程休憩をとります。


エリーゼと部屋に入った僕は、荷物をおろしてベッドに飛び込みます。


「エリーゼも一緒に休もう。その後でお風呂ね」


「はい、トキン様。失礼します」


エリーゼはニコリと笑顔をみせ、僕の隣で横になります。


二人で横になりながらお話します。


「ここまでは何事もなく順調に来れたね」


「そうですね、トキン様。ですがミラノに着くまでは気を抜けません」


「うん、そうだね」


今回のミラノ行きは、直前で少し予定が狂ったのです。


ベニスを旅立つ前日に、国境を守るトリノ辺境伯から早馬が届いたのです。

「隣国が国境に兵を集結させている」と。


トリノ辺境伯の領地は、ミラノ侯爵領のさらに西北に位置します。

直接的な脅威はありません。

ですが、それに連動して国内の敵対派閥が動く可能性を考慮したのです。


そこで念のため護衛を増やしてミラノへ向かうことになり、ピッピーノとクワッドも旅の道連れとなってもらった経緯があります。


非戦闘員だったクワッドにも、スキル「弓術」を覚えてもらい、自衛できるようにしました。

ちょっと申し訳ない気持ちにもなりましたが「トキン様、弓ってロマン武器ですよね」とよくわからないことを言うクワッドに、救われたのも事実です。


もう一人のピッピーノも船頭ゴンドリエーレでスカウトしたのに「トキン様をお守りするためにオレはいます。母も元気になり、また嬉しそうに花屋で勤めてます。お気遣いなく」と言ってくれたのです。


本当にありがたい家人達です。

ありがたい家人といえば、隣りにいるエリーゼです。


エリーゼは元々ヴェネート公爵家の家人です。

つまり当主であるレオナルド・ヴェネート公爵の家人です。

僕の世話係に選抜されましたが、僕の家人ではありません。

その点がクワッドとピッピーノとは異なります。


今回の旅で、クワッドとピッピーノも連れて行くなら、この機会に正式に僕の家人となってもらおうと思ったのです。


ですがエリーゼは本当のエリートメイドです。

次期公爵家メイド長が内定しています。

一部からは、公爵家初の女性「家令」になるのでは、との声も上がるほどです。


家令になるかは不明ですが、公爵家メイド長という地位は、家人において執事長につぐ、高い地位であり対外的にも、低位の貴族より高いステータスを持ちます。


だから僕は心から口説きました。


その時のエリーゼの返事を、独白を、一語一句たがわず思い出します。


〜〜〜


「私はメイド長を補佐する立場として、ヴェネート公爵家に仕えてまいりました。周囲からも次期メイド長だと言われ、私自身もそう思っていたのも事実です・・・自惚れがすぎますね」


自嘲気味に微笑み、つぎの言葉を選びます。


「そんな私の前に、あるお方が現れました。そのお方と過ごすうちに、これまでのメイドとしての自信とは、全く異なる感情を抱きました。御者も船頭も宮殿内での接客も、武芸も裏方仕事の全てを経験し、知っていたつもりの私は驚きました」


エリーゼは一呼吸入れ、言葉を紡ぎます。


「馬車に乗り、ゴンドラに乗り、お店で接客をし、一緒に美味しいものを食べ、泥をすくい、素材スクラップ処理場から、沢山の宝物を見つけ私に見せてくれました。これまでと同じメイドとしての仕事をしているはずなのに、これまでと全く違う感情を知ってしまったのです。楽しさと、もっと一緒にいたいという想いを・・・」


うつむいていたエリーゼが、ニコリと微笑みながら目を合わせます。


「トキン様。トキン様がお爺さんになっても、お婆さんになった私をメイドとしてお側において頂けますか」


僕はにっこり頷きこたえます。


「もちろんだよ、エリーゼ。僕が公爵家を継げばエリーゼはメイド長だし、もし公爵家を継げなかったとしても、エリーゼは絶対手放さない。それでも大丈夫かな」


「はい、トキン様。ずっとお側で仕えます」


ニコリと微笑みをみせる、エリーゼの頬をスッと涙が流れます。


〜〜〜


今、こうして思い出しても、嬉しくて感動してしまいます。

つい昨日のことなのが嘘のようです。

横にいるエリーゼをみます。

エリーゼと目があいます。


「エリーゼ、お風呂に入ろう。今日は僕がエリーゼの背中を流すよ」


「はい、トキン様」


〜〜〜


食事と休憩をおえ、四人で宿屋をあとにします。


ちょっと小雨が降り出しました。


宿の世話係が、『フォルトゥーナ号(改)』を引いてきます。


ふと隣の敷地に目を向けます。

若い男女がゴザを敷いて座ってます。


「なにかを売ってるのかな?みんな、ちょっと観てくるね」


そこに居たのは十歳くらいの男女です。

木の板に手書きした看板があります。


『回復魔法 一回1000ゴルド』


「こんにちは、僕はトキンです。えーと、どうして教会じゃなく路上で?」


男の子がこたえます。


「半年前までは、ここに廃教会があったんだ。俺達は孤児だから住み着いてさ、二人とも運良く回復魔法のスキルを持ってたからさ」


「なるほど。住まいと仕事場を失ったからか」


僕は、敷地の奥にまだ残る、焼け跡をみて頷きます。


「よかったら、もう少し話を聞かせてよ。いま馬車を動かすからさ」


クワッドが馬車を少しだけよせます。

僕はエリーゼに耳打ちして用事を頼みます。

エリーゼは先程の宿屋に入っていきます。


「濡れちゃうから、馬車の中に入って。もしかしたら住み込みの仕事を紹介できるから」


ちょうど雨脚も強くなります。

二人が少し警戒しながら馬車に乗り込みます。

クワッドとピッピーノは雨具を着込み、愛馬たちにも雨具を被せ馬体が冷えるのを防ぎます。


二人を前の座席に座らせたところで、リゾットを二つ持ったエリーゼが帰ってきます。


「遠慮しないで食べながら、お話聞かせてよ。僕達はさっき食べたばかりだからさ」


エリーゼも僕の隣に座り、四人で向き合います。


「ありがとう、遠慮なくいただくよ。何でも聞いてよ」


二人に少しだけ笑顔がみえます。

色々お話します。


名前は、女の子がジュリエッタ、男の子がロメーオで、二人とも九歳。

元々ここにあった、教会兼孤児院で修道女と三人で治療行為をして暮らしていたそうです。

二年ほど前に、高齢の修道女がなくなって二人暮らしとなり、さらに半年ほど前に不審火で焼け出されたといっています。


もう少し質問してみます。


「回復魔法って低級や中級とかのざっくりしたランクがあるよね」


ロメーオがこたえます。


「俺達の育ての親でもある、修道女のメリアさんが言ってたのは、俺が初級で、ジュリエッタが中級らしい。さらに二人ともランクアップが狙えるってさ」


僕はにっこり頷きます。


「わかった。ベニス街にあるサンマルコ大聖堂の大司教宛に手紙を書くよ。ちからになってくれると思うから」


「えっ、そんな大教会につてがあるのか。ありがたい話だけど、トキンってやっぱり高貴な身分なのか」


僕は首を横に振り、エリーゼは縦に振ります。


「一日だけだけど隣の宿屋、ホテル ヴェローナに部屋をとったから、今日は泊まって二人でよく話し合ってよ」


「どうして、そこまでしてくれるの」


やっとジュリエッタが話します。

もっと心を開いてくれるよう、ゆっくりお話します。


「大司教の孫娘さんは、僕の友達なんだ。でも治療予約が二年先まで埋まっててね。あまり自分の時間がとれないんだ。だからロメーオとジュリエッタが居てくれたら助かるってだけだから」


「そう。私達が行けば役に立てるかもしれないのね。わかったわ、ありがとうトキン」


紹介状を渡して笑顔でわかれます。

隣の宿まで送ったエリーゼが戻ったのを合図に、馬車が走り出します。


ヴェローナ市街地を、抜けたあたりで雨もやみます。





夕焼けを正面に観ながら、旅の目的地、ミラノ侯爵領スフォルツェスコ宮殿に到着します。


何事もなく無事到着できました。


宮殿と城と要塞の機能を持つ、大きな建築群に圧倒されます。


侯爵家の歓待を受け、豪華な夕食と会話を楽しみます。


旅の疲れもあったのか、早めに就寝します。


明日は朝からミラノ街の探索予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。