第三十八話 ベニス26
鑑定屋さんに着きます。
お店の前に一人の少年がいます。
馬車から、僕だけ降ります。
フォルトゥーナ号は、お店の裏手にまわります。
「やあ、ピッピーノ。来てくれたんだね」
僕はにっこり声をかけます。
「はい、トキン様。今日からお世話になります。よろしくお願いします」
ピッピーノが、礼儀正しくお辞儀します。
「うん、よろしくね。さあ、中に入って」
お店の中に入ります。
裏手から、エリーゼとクワッドが入ってきます。
「みんな、新しい仲間のピッピーノ。この若さで、ソロBランクの凄腕冒険者なんだ。船頭と護衛をメインにやってもらう予定だからよろしくね」
「ピッピーノです。よろしくお願いします」
ピッピーノが頭を下げます。
「ピッピーノ、二人を紹介するね。まずは僕の専属メイドのエリーゼ」
「エリーゼです。よろしくお願いします」
「エリーゼさん、よろしくお願いします」
「クワッドとは、昨日会ってると思うけど、ピッピーノの先輩になるから、よろしくね」
「クワドリフォーリオです。クワッドと呼んでください」
「クワッドさん、よろしくお願いします」
「じゃ、座ってお話しよう。ピッピーノのこと教えて」
「トキン様、お茶をお淹れします」
「うん、お願い」
エリーゼが、席に着くのを待って、ピッピーノが話し始めます。
ピッピーノは、代々船頭の家系に生まれ育ったこと。
父親を事故で失い、借金返済のために冒険者をしていたこと。
母親と二人暮らしで、足が悪く働けなかったが、先日奇跡的に回復したこと。
ユニークスキル『音斬』を持っていることを教えてくれます。
今度は僕が、今後の予定を伝えます。
「週末からミラノ街に向けて出発するんだ」
「ミラノですか」
「うん。エリーゼも一緒に行くから、クワッドと一緒に水路探査と店番をお願いね」
「はい、わかりました。クワッドさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人が礼儀正しくお辞儀します。
「クワッドは、水路とも相性のいいスキルを持ってるから、船頭が楽しいと思うよ。さっそく、二人で出かけてみたらどう?」
ピッピーノがにっこりします。
「トキン様のお許しがいただけるなら、クワッドさん、是非お願いします」
「わかりました。きっとお宝を持ち帰ります。ピッピーノさん、玉網を二つ持って出発しましょう」
「はい、行きましょう」
二人が楽しそうに、裏手から出ていきます。
「エリーゼ、お店を開けよう」
「はい、トキン様」
二人で開店準備をします。
「そうだ、最初のお客さんはエリーゼ担当ね」
「えっ。はい、わかりました」
エリーゼが機嫌良く、A型看板を外に出します。
しばらく時間をつぶします。
作業場の棚に、エリーゼがフランネル織物の欠片を並べて、僕が修復します。
既に大量のストックがありますが、在庫を増やしておきます。
カラン、カランッ♫
お客さんです。
エリーゼが鑑定室に移ります。
「トキン様、先日は申し訳ございませんでした」
「ごめんなさいなの」
「あれ?今日はこのあいだお見かけした、綺麗なお姉様なのん」
エリーゼが固まります。
三人も固まります。
「鑑定ではなく、トキン様にご用のようですね」
作業場で、お話を聞いていた僕は、鑑定室に移ります。
「やあ、いらっしゃい」
Fランクパーティー『行き場のない次女』の三人に声をかけます。
「トキン様、ご無事でしたか」
「トキン様、ごめんなさいなの」
「ごめんなさいなのん。生きてるか心配だったのん」
「はははっ、大袈裟だよ」
僕は笑います。
ボローニャ伯爵家ご令嬢、ローニャさんが言います。
「そう言って頂けると、ホッと致しますわ。今日は素材を二つだけですが、お持ち致しました」
ローニャさんが、素材をカウンターに置きます。
「じゃ、鑑定依頼だね。エリーゼ、お願い」
「はい、トキン様」
「エリーゼお姉様が鑑定なさるのですか。申し遅れました。私、ボローニャ伯爵家のローニャと申します。お話出来て光栄ですわ」
「エリーゼお姉様、私はマントヴァ子爵家のトーヴァと申しますの。やっぱり素敵ですの」
「エリーゼお姉様、私はフェラーラ男爵家のラーラと申しますのん。お姉様に憧れてますのん」
エリーゼ大人気です。
エリーゼがニコリと笑顔を見せます。
「トキン様の専属メイド、エリーゼと申します。今回は私が鑑定させて頂きます。では『鑑定』」
鑑定結果
「ガラスの花瓶」
不良品(欠け)
『赤ガラスの花瓶』
清浄+0 (0/5)
500ゴルド
ベネチアングラス。
「ガラスのブローチ」
不良品(欠け)
500ゴルド
「お待たせ致しました。この「ガラスの花瓶」の欠片、銘を【赤ガラスの花瓶】効果は本来なら清浄+5の逸品です。価値は500ゴルド。こちらの「ガラスのブローチ」の欠片は特別な効果はありません。価値は500ゴルド。買取りですと合計1,000ゴルドになります」
「エリーゼお姉様、買取りでお願い致しますわ」
エリーゼがニコリと頷きます。
1,000ゴルド(銅貨一枚)を手渡します。
「実家からの仕送りがあるから、なんとかなるけど、私達やっぱり向いてないの」




