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迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
ベニス編
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番外編 SS 父娘二人の大聖堂

 大聖堂の一角にある、居住スペースで、ランプの柔らかい灯が父娘を照らします。


「ティナ。トキン様は、近々ミラノ侯爵領へ旅立つと聞いたよ」


「はい、お父さま。私もそう聞いております」


 よく似た雰囲気を持つ、父娘は甘いコーヒーとともに、食後の会話を楽しみます。


「ティナも、一緒に行きたいかい」


「旅には、憧れがあります。ですが・・」


「うん、ティナは治療予約が気になるんだね」


「はい」


 父は、コーヒーを一口飲んで考えます。

 

 治療行為を任せているのは、娘の回復魔法を鍛え高めるため。

 既に技術面においては、この私と遜色なく、魔力量において僅かに優位性を保つだけ。

 外の世界を知る、良い機会であることに違いない。


 少しだけ迷っていた気持ちを固め言います。


「ティナがいない間の治療は、父さんが引き受けよう。行ってきなさい」


「まあ、本当ですの、お父さま。でもお母さまが・・お勉強もありますし」


 父は考えます。

 まだ七歳のこの娘には、なんとしがらみが多いことか。

 普通の市民の家に生まれたなら、「明日は誰と何をして遊ぼうか」と一番自由な時期である筈なのに。


 父は笑顔を浮かべて、首を横に振ります。


「大丈夫だよ。父さんが、大好きなティナの盾になろう。あまり、長持ちしないけどね。あはは」


 父は、頭を掻きながら笑います。


 娘は「お父さまっ」と席を立ち、テーブルを回り込んで、父の隣りに座ります。


「私も、いつもお優しいお父さまが大好きです」


 父は思います。

 この俗世において、今、一番幸福な父親は、私であろうと。


「ですが、お父さま。私が行きたいのは、ミラノ街ではないのです」


「なんと、そうなのかい」


 父は思います。

 この俗世において、今、一番驚いてる父親は、私であろうと。


「はい。楽しみにしているはずの、ニコーレ侯爵令嬢のことを思いますと」


「ふむ。ではティナは、どこに行きたいのかな」


「私は、シェーナ街に行きたいと思っています。トキン様の生まれ故郷を訪れたいと願っています」


「なるほど、シェーナ街か」


「はい。街を知り、トキン様の母上様と、ソフィア伯爵令嬢と親交を深めたいと思っております」


「ふむ」


「シェーナ街であっても、私の盾となってくれますか」


 父は笑顔で答えます。


「もちろんだよ、ティナ。ただし、長持ちしないから、早めに帰って来ておくれ」


 父は少しだけ、大きくなったと感じる娘を、愛おしくおもいます。

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