第三十六話 ベニス24
「トキン様、もうすぐ朝食のお時間となります」
眠い目をこすって、薄目を開けます。
エメラルド色の髪の、美人が見えます。
洗体をさせたら、右に出る者はいない、僕の専属メイド、エリーゼです。
「うん。エリーゼ、おはよう」
エリーゼはニコリと笑います。
「おはようございます、トキン様。朝食後、トツカーナ伯爵家とミラノ侯爵家の、お見送りの予定となります」
「そうだった」
僕はガバッと掛け布団をめくります。
エリーゼに手伝ってもらい、洗顔と着替えをします。
大食堂に向かいます。
皆、席についてます。
「おはようございます。遅くなりました」
僕はぺこりして着席します。
昨夜の夕食会は、立食式で会話を楽しみながら飲食しましたが、今朝は普通の朝食なので、皆、品良く静かに食事します。
まずは、ミラノ侯爵家の見送りです。
宮殿前に、執事やメイド達もズラリと並びます。
レオナルド様が、旅の安全を願い、声を掛けます。
ミラノ侯爵が、僕に声を掛けます。
「トキン君、気を付けてミラノに来てくれよ」
「はい、お義父さま。週末にはベニスを発つ予定です。よろしくお願いします」
僕は、にっこりでぺこりします。
ニコと目を合わせ、小さく手を振ります。
六頭建ての馬車が、三台連なり走り出します。
北西に向かって、石畳を蹴ります。
続いて、トツカーナ伯爵家の見送りです。
一人、知らない美少女がいます。
綺麗な金色の髪を背中で揃え、エメラルドグリーンのドレスに、クマのポシェットを掛けています。
あのポシェット、見たことあるような。
後ろには、フランチェスコ大司教の家族が見えます。
トツカーナ伯爵夫妻とお話してます。
「え、ティナなの?」
美少女はホッとした笑顔を見せます。
「はい、気付いていただけないかと思いました」
「いったい、どうしたの?」
「トツカーナ伯爵様の馬車に、同乗させて頂いてシェーナ街へ行きます」
「そうなの。いや修道女姿じゃないティナもかわいいけど、ビックリしたよ」
ティナは顔を赤らめ俯きます。
「ありがとうございます。トキン様もミラノ街への道中、お気をつけて下さい」
「うん、ありがとう。ソフィは知ってたの」
「もちろんよ」
ソフィはクスクス笑います。
ソフィとティナに小さく手を振って別れます。
四頭建ての馬車が、五台連なり出発します。
南西に向けて、石畳を蹴ります。
ちょっとビックリしましたが、無事トツカーナ伯爵家の見送りも終わります。
「エリーゼ、クワッド行こう」
三人で部屋に戻ります。
お宝鑑定とリペアを再開します。
「クワッドも見ててね。この宝石箱の二重底に、隠されてた素材を確認するから」
「はい。オイラ、ワクワクします」
「『鑑定』」
鑑定結果
「銀の指輪」
不良品
(欠け)
【弓術の銀指輪】
弓術R+4
鑑定結果
「金の指輪」
不良品
(欠け)
【博識の金指輪】
鑑定R+3
「『修復』」
「エリーゼ、言うよ。まず、この「銀の指輪」銘は【弓術の銀指輪】効果は弓術R+4。こっちの「金の指輪」銘は【博識の金指輪】効果は鑑定R+3。価値は不明というより、値段を付けられない程のアイテムってことかな」
「スキルランクを上げる【古代の逸品】なのですか?」
「オイラ、そんな【逸品】があるなんて知らなかったです」
「うん。それだけじゃないんだ。おそらく、この【博識の金指輪】鑑定R3をつけて、アイテム鑑定すると『鑑定』スキルをおぼえると思う。エリーゼ、クワッドやってみる?」
「トキン様、オイラやってみたいです」
「私もやってみたいです」
エリーゼとクワッドが、目をキラキラさせてます。
「うん、やってみて。じゃ、エリーゼからね」
【博識の金指輪】をエリーゼの指にはめます。
「『鑑定』」
「あぁ。トキン様には、この様にアイテム情報が頭に浮かんでたのですね」
次はクワッドが【博識の金指輪】をはめます。
「『鑑定』」
「うわ〜、トキン様。不思議な感じがします」
エリーゼもクワッドも嬉しそうです。
「二人とも、自分のスキルを鑑定できるか試してみて」
僕はにっこり待ちます。
「トキン様、鑑定R1とあります」
エリーゼが珍しく興奮気味に言います。
「オイラは、鑑定R1+3となってます」
クワッドも笑顔です。
「うん。【古代の逸品】をどんどん鑑定していけば、あっという間にスキルランクも上がるよ。まずは僕が持ってる【逸品】を鑑定して、その後は三人で粗大ゴミ置き場に行こう」
「「はい」」
信頼できる鑑定士が、二人誕生します。
僕はにっこりしながら、マジックバッグをあさります。




