第三十五話 ベニス23
「共鳴?トキン君【共鳴】とは?」
「はい【共鳴】は、僕と母さまとジーヤの三人で気付いた【古代の逸品】の隠れた効果です」
トツカーナ伯爵が頷きます。
「具体的にはアイテムの発光現象がおき、おそらく効果数値が二倍になります」
「この数値がさらに二倍に!」
「はい、そう思います。魔法効果はあまり自信がありませんが、ひょっとすると、「雷」と「風」の合成魔法が出現する可能性が、僅かにあると僕は思ってます」
「あの建国物語の中でだけ登場する、作り話と言われ続けた合成魔法の可能性まで・・」
「トツカーナ伯。この腕輪、しばらく預けたい。結果だけ知らせてもらえるかな」
「それは、もちろんです。ですが、家人に鑑定士がおりません。他言しないと信頼できる者が・・」
「鑑定士か」レオナルド様が呟きます。
「ブランドお義父さま、それなら僕の家人のセドポンを使って下さい。僕が以前住んでいた、小さなお家を使ってます。手紙を書いておきますから」
「おお、今トキン君のお店を預かっている子がいたか」
「慌ただしくはあったが、なんとか話がまとまったようだ。我が派閥トップクラスの武闘派と名高いトツカーナ伯が、ますます頼りになりそうだ」
レオナルド様が笑います。
トツカーナ伯爵も笑います。
「少しだけ時間もできたことだ。少しトキンにも話しておこう。以前、我々はカイン王国より独立するつもりだと話したね」
「はい」僕は頷きます。
「北西に位置するジェノバ伯爵は、ミラノ侯爵の手柄によって、仲間に引き入れる事ができた」
僕は頷きます。
「残るは、フィレンツ侯爵だけとなるが、こことの交渉は無しだ。歴史の舞台から、永遠に降りてもらう」
「永遠に・・」僕は呟きます。
「そうだ、永遠にだ。未来に禍根を残さぬよう、消し去ることになる」
僕は頷きます。
「今、トキンが仕掛けてる、フランネル織物潰しが直に効いてくる。その後にこちらも仕掛けるつもりだ」
僕は、ハッとします。
「レオナルド様、ブランドお義父さま。アレンツォ子爵家のお話はどうなってますか。ご令嬢のアリーチェは、僕とソフィの友達なんです」
「ふむ。トツカーナ伯、アリアンナから何か聞いているかな」
「シェーナを発つ前に聞いた話では、有事の際はフィレンツとの領境を固めるのみ。との方向で交渉していると」
僕はホッと胸を撫で下ろします。
レオナルド様はニヤリと笑います。
「なるほど、ジーヤが動いてると。出来ればピサーノ伯爵も取り込みたいところだが、フィレンツ侯爵と親戚筋とあっては難しいか」
「ところがヴェネート公、まだ裏取りは出来てませんが、どうも嫁いだ侯爵令嬢と、伯爵子息の不仲説があるようです。もちろん子も成してないとか」
「ふむ。ならば離縁させたのち、こちらにつく道も残るか。トツカーナ伯、やり方は任せる」
「お任せを、ヴェネート公」
う〜ん、これぞ貴族といった会話なのでしょうか。
これも僕やソフィ達、次世代の為にやっていると、今は思うことにします。
実際、戦うよりは、ずっとマシです。
「トキン。ミラノ行きの件だが、今後はミラノ経由でシェーナに行くといい。もちろん、アレンツォ領を経由して、海沿いにベニスへ入っても構わない。当分フィレンツ街は立ち入らぬ方がいい」
「はい、わかりました」
僕は頷きます。
「トキン君。アリアンナ様は「いつ頃帰る予定か聞いておいて」と言ってたぞ。はははっ」
僕は大好きな、母さまを思い浮かべます。
「ブランドお義父さま。ミラノの次はシェーナに戻りますと伝えて下さい」
「ああ、確かにたまわったよ」
僕はにっこりでぺこりします。
「ベニス、シェーナ、ミラノを拠点に、幸運アイテム探しをするつもりだともお願いします」
「それが良い。ソフィも寂しい思いをせずに済む。ははは」
ジョバンニ執事長がドアをノックして入室します。
「そろそろ、夕食会のお時間となりますが、いかがなさいますか」
レオナルド様が言います。
「ちょうど話もついたところだ。今、行く」
ジョバンニ執事長を先頭に、レオナルド様とブランドお義父さまが続き、僕、エリーゼの順に大食堂へ移動します。
「皆、待たせて申し訳ない」
レオナルド様が代表して謝ります。
会場では、皆が揃っています。
特に女性陣は、バッチリおめかししています。
僕にとっては、二人のお義母さまと、二人の婚約者です。
僕のせいで待たせてしまったので、接待に励みます。
お世辞を言って、煽てることも忘れません。
実際に四人の女性陣は皆、美人・美少女です。
「麗しのソフィアお嬢様。ブドウジュースのおかわりなど、いかがですかな?」
ソフィの髪には、金の髪飾り。
そして首元には、サファイアのネックレスが輝きます。
ソフィはニコニコの笑顔で言います。
「ええ、頂くわ」
金模様の入ったベネチアングラスに、そっと注ぎます。
「お隣りのニコーレお嬢様も、また美しい。お飲み物のおかわりは、いかがですかな?」
ニコの胸元には、銀模様のブローチが輝きます。
ニコは微笑を浮かべて言います。
「頂こうかしら」
銀模様の入ったベネチアングラスに、そっと注ぎます。
寸劇「見目麗しい貴族令嬢と怪しい男」の開幕です。
時間を忘れて、お話します。
三人の夜を楽しみます。




