第三十三話 ベニス21
ドゥカーレ宮殿に戻ります。
エリーゼに頼み、僕のお部屋にソフィを案内してもらいます。
しばらくして、ドアがノックされます。
「はい、どうぞ」
ソフィが笑顔で入ってきます。
僕は席を立って出迎えます。
そのまま、ソフィをギュッと抱きしめます。
「ずっと、こうしたかったんだ」
「私もよ」
ソフィも僕の背中に腕をまわします。
お話したいことが、たくさんあった筈なのに、どうでもいい気分になります。
「トキン、ニコとの時間を多めにとってあげて。まだ二人っきりでお話できてないでしょう」
「ソフィは、いいの?」
「トキンに抱きしめられたら、満足しちゃったわ。フフフッ」
「ソフィ、ありがとう。そんなソフィに渡したい物があるんだ。この照明なんだけど、どうかな」
部屋に置いてある【葡萄の装飾ランプ】安眠+5%を見せます。
「素敵な置き物ね。凄い装飾だけど、これもベネチアングラスなの?」
「うん、そうだよ。ランプを灯せば、青ブドウが赤ブドウに変わるんだ」
「素敵ね。トキン、ありがとう。私の部屋で使わせてもらうわ。これはお礼よ」
と言って僕にキスします。
思わず、もう一度ギュッと抱きしめあいます。
笑顔でソフィと別れます。
エリーゼが、ソフィを送り、ニコを迎えに行きます。
しばらくして、ニコが部屋に入ってきます。
「やあ、ニコ。慌ただしくてごめんね。やっと二人でお話できるね」
「うん、でもトキン、ソフィは大丈夫なの?」
「うん。少しお話できたから。私よりニコとの時間を取れって言われたよ」
僕はにっこり答えます。
「ソフィらしいね」
二人でゆっくりお話します。
途中、エリーゼがお茶を持ってきてくれます。
クワッドを迎えに行くと退室します。
「ニコ、さっきのお店で見つけたんだ。素敵なデザインと色味が、綺麗なニコに似合うと思って」
僕はニコの髪色と同じ銀色が入った【銀ガラスの涙ブローチ】を手渡します。
「ありがとう、トキン。ねぇ、トキンが付けてちょうだい」
僕はにっこり頷いて、ニコのドレスに、そっとブローチをつけます。
ちょっとお胸に触れてしまいますが役得です。
「とっても嬉しいわ」
部屋の姿見を見ながら、笑顔を見せます。
あらためて、思います。
やはり、ニコには洗練された美しさがあります。
二人目の婚約者になってくれて、とっても嬉しいです。
僕はにっこりしてしまいます。
「そういえば、ミラノ侯爵に近々遊びに来るように言われたけど、どんな街なのかな」
ニコが顎に手をあてながら考えます。
「そうね、有名な建築物があるわ。ミラノ大聖堂、スカラ座、それと屋根付きの商店街ガッレリアね」
「屋根付きの大商店街は、聞いたことあるよ。有名なファッションブランドのお店が並ぶって」
「そうそう。あとは隣国のアルプス山脈が見えるの。最高峰はモンブランの4,810メドルよ」
「そこまで高いと想像できないや。はははっ」
「そうね、見てのお楽しみよ。絶対来てね」
「うん、必ずいくよ。ニコに会うために」
「ふふ、嬉しい」
その後も、たわい無い話を重ね、お互いを知ります。
政略結婚・婚約であったとしても、ニコと会えたのは、幸いだったと心から思います。
「そろそろ、部屋に戻るわ。夕食会のために、着替えないと」
ニコが席を立ち、言います。
僕も席を立ちます。
「待って、ニコ。ハグしよう」
僕は両手を広げて、待ちます。
「うん」
ニコが僕の胸に飛び込んできます。
互いにギュッと抱きしめあいます。
「ニコと婚約できて、心から嬉しいと思ってる」
「私もよ、トキン」
ニコが笑顔で部屋を出ていきます。
【葡萄の装飾ランプ】を置いていた、窓辺に【青ガラスの蛙置き物】を置きます。
「やっぱり可愛いな。これからよろしくね、蛙船頭くん」
僕はにっこりで言います。
エリーゼが部屋に入ってきます。
クワッドを迎えに行った後、廊下で待機して、ニコを部屋まで送ってきたのです。
「お帰りエリーゼ、鑑定したい素材があるんだ。手伝ってくれる」
エリーゼがニコリと笑顔を見せます。
「はい、トキン様」
僕はマジックバッグから【ベネチアングラスの宝石箱】幸運+1を取り出して、テーブルに置きます。
【針職人の千枚通し】器用さ+34もセットします。
「エリーゼ、この宝石箱をそっと振ってみて」
「はい、振ればいいのですね」
コロ、コロッ♩
「トキン様、何か音がします」
「うん、そうなんだ。蓋を開けてみて」
エリーゼが、宝箱の蓋をそっと開けます。
「何も入ってません」
僕はにっこり頷きます。
「二重底になってるんだ。エリーゼ、この千枚通しを使って、二重底を開けてみて。本物のお宝が隠れてるんだ」
「私が開けていいのですか」
「うん。エリーゼは水路の宝探しで、ポイント総取りの大活躍だったからね」
「ありがとうございます、トキン様。開けてみます」
エリーゼが、慎重に底をあけます。
「トキン様、お宝が三つあります」
「うん、鑑定してみるね」
僕もエリーゼもドキドキです。




