番外編 SS クワッドの冒険
オイラは今、ドゥカーレ宮殿の廊下で立ちつくしてます。
長い廊下が、前後左右に続いています。
あまりに広い宮殿内で迷子になってます。
今、何階にいるのかもわかりません。
立ち止まっていても、自室には着かないので、一歩踏み出します。
話し声が微かに聞こえてきます。
声を頼りに移動します。
「こっちは永遠イカの、海鮮パスタがあがったよ」
「イヤ鯛のカルパッチョは、あと二分ほどかかる」
「今日の客人の一人は、食通で知られるミラノ侯爵だぞ。公爵家調理人の威信がかかってることを忘れるな」
「しかも婦人がテーブルマナーの権威ときてやがる」
「でもご令嬢は、かなりの美少女だと聞くぜ」
「俺っちは、ソフィアお嬢様派だ。フヒヒ」
「おい、オマールエビのヒゲが、一本ねぇじゃね〜かっ。どうすんだ、これ」
「料理長、ドルチェは完璧に仕上がったわ」
「このタイミングでバカンス休暇なんぞとりやがった、バッジョのヤツは絶対許さねぇ。帰ってきたら微塵切りの刑だぁ」
「そうだ、そうだっ」
まるで戦場に迷い込んだようです。
とても「僕の部屋はどこですか」とは聞けません。
もう少し、彷徨ってみます。
女の人の高い声が聞こえてきます。
行ってみます。
「誰です、貴賓寝室のベッドメイキングを担当したのは」
「私です」
「私もです」
「メイド長、私もです。三人で担当しました」
「貴方達に聞きます。枕の上にあったこれは何ですか?」
「それは、髪の毛です」
「髪の毛です」
「髪の毛です」
「よ〜く見なさい。ちぢれてるではないですか!もう一度、聞きます。これは何ですか!」
「ジン、、しもの毛です」
「しもの毛です」
「しもの毛です」
「トツカーナ伯爵夫妻が使うベッドで、なんて物を見逃してるんですか!」
とても「僕の部屋はどこですか」と聞ける状況ではありません。
自力でなんとかするしかありません。
オイラはあてもなく歩きます。
突き当たりを右に曲がってみます。
目の前に綺麗な女性が現れます。
エリーゼ先輩が、少し首を傾げて微笑んでます。
なんなく自室に戻ります。
彷徨った記憶を呼び戻し、マッピングします。
ドゥカーレ迷宮攻略が始まります。
通路と施設、気付いたことを書き殴ります。
書き物なんて、したことないけど無性に書きたい気分なんです。
「よし、攻略本が1ページできたぞ」
エリーゼ先輩を訪ねます。
「エリーゼ先輩、さっきはありがとうございました。オイラ、記憶を頼りに攻略本を書いたんです。みてもらえますか?」
エリーゼ先輩が、ニコリの笑顔で頷きます。
「クワッド、ここは十字路ではなくT字路。厨房とメイド控室の位置は逆。あとここは階段になってるわ」
エリーゼ先輩は、オイラのいい加減な攻略本を、嫌な顔一つせずに添削してくれます。
オイラは、嬉しくって、にっこりで言います。
「エリーゼ先生、ありがとう」




