第二十八話 ベニス⑯
赤の冒険者、レッジーナさんの幸運を、少し分けてもらった気分です。
一度、作業場に戻ります。
お店に残る素材を、一気にリペアします。
エリーゼとクワッドに説明します。
お店で使いたいアイテムを除き、新しい清掃施設に持って行って、
「サリンベーニ商会」行き
「アンティーク通り」行き
「ベネチアングラス製品」
に分けるよう伝えます。
僕は鑑定室に戻ります。
カウンターに【逸品】素材を三つ並べます。
ちなみに、僕が普段使うカウンターは、僕の席側だけにある、一段低いカウンターです。
「ガラスの箱」
不良品
(割れ・欠け)
【レースグラスの宝石箱】
幸運+0 (0/1)
1,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスのネックレス」
不良品
(割れ・欠け)
【レースグラスの首飾り】
癒し+0% (0/30%)
3,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
それと、エリーゼが水路から見つけた、金属のフレームが付いた、宝箱形のガラス小箱です。
リペアしてみます。
「ガラスの箱」
良品
【レースグラスの宝石箱】
幸運+1
10,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスのネックレス」
良品
【レースグラスの首飾り】
癒し+30%
30,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスの箱」
良品
【偶然の赤銅箱】
潤い+30%
9,000,000ゴルド
ベネチアングラス。
アベンチュリン・ガラス技法。
三つの【逸品】素材が、本来の姿を取り戻します。
これで「レースグラス」の良品が、四つ手に入ります。
ベネチアングラスの装飾技法の中でも、秘伝中の秘伝といわれる最高級品です。
大皿と小皿は、レオナルド様に渡す予定です。
僕は大きな期待を持って【レースグラスの宝石箱】を手に取ります。
そっと斜めに傾けます。
コロ、コロッ♪
期待通りの音がします。
僕は満足して、一度カウンターに置きます。
もう一つの小箱【偶然の赤銅箱】を持ちます。
僕は僅かな期待を持って、斜めに傾けます。
音はしません。
少し残念ですが、予想通りです。
カウンターに戻して、カエルのリュックをあさります。
【針職人の千枚通し】器用さ+34を取り出します。
【レースグラスの宝石箱】の蓋をそっと開けます。
内側はガラスを守るため、木片に白いフェルトを巻いた、カバーがあります。
底のフェルトを、慎重に突き刺し、持ち上げます。
中から、もう一つの底が現れます。
底の上には、五ミリほどの素材が三つ見えます。
僕はにっこりしてしまいます。
二重底の仕掛けを知っていたのは、以前に一度だけ経験していたからです。
僕の婚約祝いにと、冒険者さんが贈ってくれた「幸運アイテム」の小箱が二重底だったのです。
偶然、音に気付いて調べているうちに、仕掛けを見つけたのです。
その時は、五つの素材が入っていて、僕が一人旅をする為の力を、得ることができたのです。
カラン、カランッ♪
お客さんです。
アイテムをカウンターの隅にずらします。
「お邪魔します」
十代前半に見える、男の子が一人入ってきます。
「鑑定お願いします」
礼儀正しい人物です。
僕はにっこりお返事します。
「こんにちぃ」
カラン、カランッ♪「やっふぃい〜。噂の美少女・弓使いジュリアーナちゃんだよっと」
勢いに飲み込まれ、全て持ってかれます。
一つ深呼吸して応えます。
「ちょ」
【おい、お前。よく来たナ。待ちくたびれたゾ】
おっと、ここでアルジェントが、気まぐれぶりを発揮します。
なかなかのカオスです。
しかも、誰に言ったのかわかりません。
もう一度、深呼吸して応えます。
「ちょっと、待ってて下さいね。こちらのお客さんから、順番に対応しますので」
噂の美少女が、大人しくコクコク頷きます。
「お待たせしました。こんにちは、僕はトキンです」
「こんにちは、オレはピッピーノです。Bランクのソロ冒険者です」
剣士ピッピーノさんはBランクだと言います。
背中に剣を背負い、左腰には二本の短剣が見えます。右腰には革のポーチ、同色の革のブーツ。何より目を引くのは、金属製の防具を、一切身につけていないことです。
ただの普段着なのです。
「グラスダンジョン」くらいなら、防具はいらないのかもしれません。
「ピッピーノさん、鑑定依頼品をカウンターにお願いします」
ピッピーノさんが頷いて、一つのアイテムをカウンターに置きます。
「では、観てみますね『鑑定』」
鑑定結果
「ガラスのブレスレット」
良品
【レースグラスの腕輪】
潤い+30%
肌艶+30%
60,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ふむぅ〜ん、観えました。この「ガラスのブレスレット」銘は【レースグラスの腕輪】効果は潤い+30%、肌艶+30%。価値6,000万ゴルドの逸品です。買取りなら、25%の1,500万ゴルドになります」
ピッピーノさんが興奮気味に言います。
「1,500万ゴルド、そんなに。それなら冒険者を辞めて、船頭になる夢が叶います」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
数話にわたって誤表記を訂正しました。
ヴェネート公爵家の執事長名はジョバンニさんです。
ジュゼッペ執事長→ジョバンニ執事長に訂正。
ジュゼッペ執事もいます。二番目に偉いです。
ちなみにトツカーナ伯爵家の執事長はジュゼッペさんです。




