第二十七話 ベニス⑮
エリーゼとクワッドと三人で、開店準備を進めます。
三人だととても早いです。
A型の看板を表に出します。
『トキンの虫眼鏡』開店です。
昨日までより、少し早めの開店です。
まずは「宝石ダンジョン」近くの、買取所から届いた不良品素材を仕分けします。
ついさっき、開店準備中に届いたものです。
僕とクワッドが、【古代の逸品】と「一般品」を判別します。
判別した素材を、それぞれ綺麗に並べます。
エリーゼが担当です。
分けた素材のうち「一般品」の方をチェックします。
宝石の欠片が、全部で四十個並んでます。
「鑑定」
鑑定スキルR-MAXで得た「複数表示」を使います。
これは、目の前にあるアイテムが、鑑定書付きで観えるイメージです。
ちょっと、ごちゃごちゃして観えるので、普段はあまり使ってないです。
ちなみに、鑑定スキルR4で得たのが「表示」です。
R3までは、頭の中にイメージとしてわいていたのが、目で見えるようになった感じといえます。
十個を取り除いて、残り三十個を残します。
「クワッド、これが僕のユニークスキル。よく見ててね」
クワッドが驚いた顔で頷きます。
「『修復』」
三十個の宝石の欠片が、元の姿を取り戻します。
中には、かなり豪華な装飾が施された、大粒の宝石もあります。
「うわ〜、凄いスキルです。トキン様。なによりとても綺麗です」
僕はにっこりしてしまいます。
クワッドに頼み、鑑定室のカウンターの上から、アルジェントの鳥かごを持ってきてもらいます。
「アルジェント、これあげるね」
残した十個の宝石素材を、鳥かごに入れます。
「あっ」
「えっ」
「食べた?」
三人同時に驚きます。
カラクリ鳥のアルジェントが、一度だけ金属の羽を、上下させたと同時に、宝石素材がスッと消えます。
アルジェントを鑑定してみます。
鑑定結果
「金属製のカラクリ鳥」
良品
【気まぐれの銀梟】
助言 6%
稀に定型文を話す。
「あっ、アルジェントが成長してる。効果の「助言」5%が6%にアップしたよ」
「本当ですか」
「トキン様、それはとてつもなく凄いことです」
クワッドとエリーゼが、さらに驚きます。
僕も「うん」と頷きます。
【古代の逸品】が成長するなんて、聞いたことがありません。
ですが一方で、アルジェントは特別だからと、納得している自分もいます。
本当に不思議な「小さなフクロウ」です。
「アルジェント、君はやっぱり凄い子だね」
様々な金属でできた、わずか5〜6センチのカラクリ鳥は、いつものように何も言いません。
ただ静かに存在感を示すだけです。
これは、これまでの経緯をまとめ、レオナルド様に報告しないといけません。
カラン、カランッ♪
お客さんのようです。
鳥かごを持って鑑定室に移動します。
「鑑定を頼みたい」
十代前半に見える、一人のお姉さんが入ってきます。
赤い髪、赤い軽鎧に弓と矢筒を背負ってます。
一昨日も来てくれた冒険者さんです。
「こんにちは、赤の冒険者さん」
僕はにっこりで言います。
「ふっ、赤の冒険者か。そういえば、名乗って無かったな。私の名はレッジーナ。 Cランクのソロだ」
「レッジーナさん、僕はトキンです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。トキン」
レッジーナさんは挨拶しながら、アイテムをカウンターに並べます。
「昨日この気まぐれフクロウが言った通り、私に幸運が訪れたよ」
クール美少女のレッジーナさんが、微笑を浮かべ言います。
「これがその幸運の成果ですね」
カウンターの上に、五つのアイテムが並びます。
一目で高級品とわかります。
「ああ、そうだ。「グラス」に潜って五年になるが、初めて隠し部屋を見つけてね」
「隠し部屋ですか」
自然と声が小さくなります。
「ああ、何年も使っているルートで、壁に隙間があるのに偶然気付いた」
僕は頷きます。
「入ってみると、小部屋の真ん中に宝箱が一つあった。その中身がこれさ」
「そうでしたか」
「不思議な話だが、隠し部屋を出たあと、その隙間はなくなった」
「えっ、入口が?」
「ああ、俗に言う『ワンタイム・ルーム』だったと言うことさ」
後に『ワンタイム・ルーム』と呼ばれるようになった、一度だけ入れる部屋は、建国物語【王様と時の扉】の終盤でも出てきます。
少しドキドキします。
「すごい幸運でしたね。レッジーナさん、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「さっそく鑑定してみますね」
鑑定結果
「ガラスの皿」
良品
【レースグラスの大皿】
鮮度+25%
5,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスの皿」
良品
【レースグラスの小皿】
鮮度+25%
1,250,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスのランプ」
良品
【レースグラスの燈】
癒し+30%
30,000,000ゴルド
心安らぐ照明。
最高級ベネチアングラス。
「ガラスの箱」
不良品
(割れ・欠け)
【レースグラスの宝石箱】
幸運+0 (0/1)
1,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ガラスのネックレス」
不良品
(割れ・欠け)
【レースグラスの首飾り】
癒し+0% (0/30%)
3,000,000ゴルド
最高級ベネチアングラス。
「ふむぅ〜ん、観えました。まずお皿からいきます。
この大皿、銘は【レースグラスの大皿】効果は鮮度+25%の逸品です。価値は500万ゴルド。
小皿もおなじ効果で、価値は125万ゴルドになります」
「ほう」とレッジーナさんが頷きます。
「次にこの「ガラスのランプ」銘は
【レースグラスの燈】効果は癒し+30%。価値は3000万ゴルドになります」
レッジーナさんが頷きます。
「次はこの「ガラスの箱」銘は【レースグラスの宝石箱】効果は本来、幸運+1ですが、割れて効果を失っています。それでも価値は100万ゴルドです」
「仕方あるまい」とレッジーナさんはつぶやきます。
「最後にこの「ガラスのネックレス」ですが銘は【レースグラスの首飾り】効果は本来なら癒し+30%ですが、割れて効果がなくなってます。それでも価値は300万ゴルドになります。
買取希望のアイテムがありましたら、価値の25%で引き取ります。
ガラスの箱だけは、価値100%で引き取ります」
「ランプだけ残して、あとは買取で頼む」
「はい、わかりました。端数切り上げして、四点で332万ゴルドになります。証文にしますか、コインにしますか」
「コインで頼む」
僕はにっこり頷いて332万ゴルド(金貨三十三枚、銀貨二枚)を手渡します。
「トキン、ありがとう。こいつは礼だ、金はいらない」
レッジーナさんが、麻袋をくれます。
中には、細かな素材がたくさん入っています。
「レッジーナさん、ありがとうございます」
「ああ、また頼む」
笑顔を見せて帰ります。
赤の冒険者、レッジーナさんの幸運を、少し分けてもらった気分です。




