第二十六話 ベニス⑭
お日様が登りきる前、いつもより早い時間にお店に着きます。
フォルトゥーナを撫でて、声をかけます。
「フォルトゥーナ、行ってくるね」
三人でゴンドラに乗り込みます。
僕とクワッドは並んで座ります。
船頭はエリーゼです。
玉網も忘れません。
路地裏の細い水路を進みます。
鑑定屋さんの開店前に、ベニス中の水路を少しずつ探査することにしたのです。
まずは、お店の近く、街の東部の水路です。
「トキン様、こうやってゴンドラに揺られて水路を移動してると、オイラ、水の都ベニスに居るんだなって実感します」
「うん。僕も同じ気持ちだよ」
建物の隙間を抜ける、穏やかな風が吹きつけます。
隣に座るクワッドが、ワクワクしてるのがわかります。
エリーゼが操るゴンドラが、ゆっくり進みます。
しばらく進んで、ベニス本島の東端まで来ます。
「ここまでは、何も無かったね」
「はい、残念ながら【古代の逸品】の反応は、ありませんでした」
「トキン様、戻りながらダンジョン側の水路を行きます」
「うん。エリーゼよろしくね」
帰りは期待が持てる、グラスダンジョン側を通ります。
ゴンドラが風に乗って、すいすい進みます。
「トキン様、エリーゼ先輩。もう少し先に、ありそうです」
クワッドが興奮気味に言います。
僕には残念ながらわかりません。
仲間の力をかりることの、大切さを感じながらも、やはり僕自身ももっと成長したいです。
「エリーゼ先輩、そろそろです」
ゴンドラがゆっくりとまります。
「さすがエリーゼ先輩。ばっちりのポイントです。トキン様、この下に弱い反応があります」
「わかった。みんな探してみよう」
三人で玉網を水路に入れます。
水路脇の石畳の上に、泥を積み上げます。
「これでしょうか?」
エリーゼがすくった泥の中に、赤色のガラス片が見えます。
「エリーゼ先輩、それです」
クワッドが、泥の中からガラス片を取り出します。
ガラスを水路の中で揺らし、泥を落とします。
鮮やかな赤色のベネチアングラスの欠片です。
「お〜、最初のポイントはエリーゼね」
「さすがはエリーゼ先輩です」
エリーゼがニコリと笑顔を見せます。
ベニスの水路を調査するにあたって、ポイント制の遊びを導入したのです。
良品なら5ポイント、不良品なら1ポイントです。
これはお店のお客さんの言葉を、ヒントに思い付いた遊びです。
「トキン様、すぐそこで反応があります」
泥を戻して移動します。
船頭エリーゼが、絶妙のポイントにゴンドラを寄せます。
「ここです」
三人で玉網を持ちます。
「いくよ、せ〜の」
一斉に探し始めます。
泥を何度もすくい上げます。
「トキン様、これかもしれません」
またしても、エリーゼが見つけます。
泥を落として確認します。
「これは良品かな?ちょっと観てみるね」
鑑定結果
「ガラスの浮き玉」
良品
【凪の浮き玉】
防波+30%
900,000ゴルド
半径30メドルの防波効果。
「エリーゼ、おめでとう良品だよ。それでね、効果が凄いんだ」
僕は二人に鑑定結果を伝えます。
これはレオナルド様に、渡したいと思います。
「エリーゼ先輩、凄いです。もう6ポイントです」
「たまたまですよ、クワッド」
エリーゼもクワッドも笑顔です。
僕もにっこりです。
少し先にゴンドラを進めます。
次のポイントに着きます。
「せ〜の」僕のかけ声で、一斉に玉網を入れます。
しばらく泥をすくいます。
「ここで、間違いありません。もう少し深いところに沈んでます」
クワッドが確信を持って言います。
もうしばらく泥をすくいます。
「トキン様、ありました。これだと思います」
またしても、見つけたのはエリーゼです。
蓋の部分だけ、ガラスを失っていますが、金属のフレームが付いた、宝箱の形をした小箱です。
「本当に凄いね、エリーゼは」
「エリーゼ先輩、何か凄いスキル持ってませんか?」
「ふふ、今日だけ運が良かったようです」
エリーゼの笑顔が、とても可愛いです。
「トキン様、もうそろそろで、お店を開ける時間になります」
「うん。この辺りは、また調べにこよう」
お店に向かいます。
クワッドが船頭に立候補します。
少しずつ、ゆっくりとゴンドラが進みます。




