第二十五話 ベニス⑬
僕は今、朝食を終え、ドゥカーレ宮殿の執務室に向かっています。
レオナルド様に、新しい家人を紹介したいと、時間をもらったのです。
ジョバンニ執事長に続いて、クワッドを伴い「黄金階段」と呼ばれる、階段を進みます。
実際には、階段が黄金でできているわけではなく、ドーム型の天井の漆喰に、金で装飾された、ベニスにまつわる神々が描かれた通路のことです。
執務室の前に着きます。
ジョバンニ執事長が取り次ぎます。
「入りたまえ」と声がかかります。
「失礼します」と頭を下げて入室します。
「トキンです。クワドリフォーリオを連れて参りました」
「は、は、はじめまして。オイラは、あ、僕は狸獣人のクワドリフォーリオです。四歳です」
「まあ、そう固くならずに掛けたまえ。トキン、説明を」
「はい」とお返事して、クワッドと一緒に応接ソファに座ります。
テーブルを挟んで、レオナルド様も座ります。
「昨日、僕を訪ねてトレント司教領の、ボルツァーノ村から来た、クワドリフォーリオです」
「ほう、北のトレント司教領か」
「はい、ユニークスキル『探査』を持っています。これは実際にスキルを使って、お店裏手の水路の中から、見つけたアイテムになります」
僕はテーブルの上に、そっと【銀鼠のナイフ】を置きます。
「ほう、クワドリフォーリオ。『探査』の詳しい説明を頼む」
「はい。『探査』はオイラ、あ、僕の半径10メドル以内にある【古代の逸品】を知ることができるスキルです」
「なるほど。このユニークスキルの、存在を知る者は」
「両親とトキン様とエリーゼ先輩だけ知ってます」
「うむ。わかっているようだが、ユニークスキルの存在を、これ以上知られてはならない」
「はい」
「トキンをよく助け、ヴェネート家のために励むことを期待しているよ」
「はい」
「ジョバンニ、クワドリフォーリオに、トキンの近くの部屋をあてがってくれ」
「かしこまりました。ではクワドリフォーリオ、付いてきてください」
ジョバンニ執事長が、クワッドを伴い退室します。
ぺこりとお辞儀するクワッドに、僕はにっこり頷いて送り出します。
「トキン、この「銀のナイフ」は幸運アイテムなのかな」
「はい、そうです。三人でかなりの泥をすくった底で見つけました」
「なるほど『探査』か、ふむ。いずれにしても、即、家人として迎えたのは賢明な判断だ。これからも、自分の直感を信じて動くといい」
「はい、ありがとうございます。レオナルド様」
「それと、今日客人が来る。トキンも夕食会には顔を出してくれ」
「はい」
僕はにっこりお辞儀して退室します。
四階にある、僕の部屋に戻ります。
向かいの家人用の部屋から、クワッドが顔を出します。
「オイラ、トキン様の近くの部屋でホッとしました」
「昨日は客室に泊まったもんね」
「はい、部屋が豪華すぎて・・」
「ははは、今日はお店に行く時間まで、ゆっくりするといいよ。家族に手紙を書いてもいいし」
「はい、そうさせていただきます」
手を振って、クワッドと別れます。
部屋にはエリーゼがいます。
「エリーゼ。僕のスキルを鑑定するから、メモをお願い」
「はい」
エリーゼがニコリと頷きます。
ユニークスキル
『リペア』R-MAX
スキル
『操船』R1 (3/100)
『馬術』R1 (79/100)
『武術』R3 (145/200) +R5
『交渉』R1 (53/100)
『直感』R2 (188/200)
『鑑定』R-MAX
『剣術』R2 (9/200) +R2
『算術』R-MAX
『識字』R3 (247/300)
「トキン様、メモできました」
「うん、ありがとう。『直感』スキルがどのくらいか、まず見たかったんだ」
「『直感』スキルが気になったのですか」
「うん、そうなんだ。レオナルド様に、クワッドを紹介したあと『直感』を信じろって言われてね」
「レオナルド様に」
「うん。それをきっかけに、こう思ったんだ。『鑑定』スキルと『直感』スキルの組み合わせで、僕は、鑑定する前から【古代の逸品】がなんとなくわかる。これって見えてる物限定の『探査』スキルとも呼べるんじゃないかってね」
「たしかにそう言えると思います」
「それで『直感』スキルを鍛えたいんだ。どんな訓練が経験値が入るか試したいんだ」
「わかりました。まずは『直感』スキルの経験値検証ですが、試してみたい方法はありますか」
「うん。少し考えがあるんだ」
僕はこの後、エリーゼに手伝ってもらって、いくつかの方法を試します。
訂正します。
ジュゼッペ執事長
→ジョバンニ執事長




