第二十四話 ベニス⑫
カラン、カランッ♪
お客さんです。
小さな女の子の三人組が入ってきます。
Fランクパーティーの『行き場のない次女』さん達です。
「トキン様、こんにちは。ここで問題なの。私達三人の名前を覚えているか答えてほしいの」
いきなり問われます。
僕は笑顔で答えます。
「一番左は、ボローニャ伯爵家のローニャさんで、歯ぎしりがひどい」
「うっ」
「真ん中は、フェラーラ男爵家のラーラさんで、牛なみのイビキ」
「ぐさぁ」
「一番右はマントヴァ子爵家のトーヴァさんで、寝言が卑猥」
「いやん」
全て正解のはずです。
「名前を覚えていただいて光栄ですが、嬉しさより、心のダメージの方が大きいですわ」
「うん、聞かなきゃ良かったの」
「改めてトキン様に言われると、次女かどうか以前に、女の子として駄目な気がしてきたのん」
おっと、僕はまた間違えてしまったようです。
フォロー出来るかわかりませんが、足掻いてみます。
「そんなことないよ。三人ともとっても可愛いし。そういえば、パーティー名でも次女って言ってるけど、長女と次女はそんなに違うの」
「全然違いますわ。と言いたいところですが、私の所はあまり差が有りませんわ。お婆様が、伯爵の第三夫人。父がその次男で、私がその次女。跡取りが決まったら、一家揃ってお屋敷も出ることになりますわ」
「そうなんだ。ボローニャ伯爵とは、一度だけ会ってるけど、奥さんが三人いるんだね」
「うちなんか、貧乏男爵家なのに奥さん二人いるのん。で、私は第二夫人の次女なのん。五人兄弟で、嫁ぎ先はおろか、働く場所すら、地元で探すの大変なのん」
「フェラーラ男爵家も、奥さん二人居るんだ。それで五人兄弟か」
「マントヴァ家も、お母さんが三人居るの。私は正妻の次女だけど、子供が全部で九人いるの。まともな嫁ぎ先なんて、期待できないの。だから、伯爵主催のパーティーで知り合った、同い年のローニャとラーラと三人で、冒険者になったの」
「そうなんだ。貴族家は奥さんが二人以上いて、子供が多いのが普通なのかな?」
コン、コン♪
作業場に続くドアが、優しくノックされます。
「トキン様、失礼いたします。お話が弾んでいるようでしたので、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼが、四つのグラスをトレイに乗せて現れます。
テーブルが無いので、カウンターに並べます。
「うわぁ、綺麗な方なの」
「公爵家の家人ともなると、品が違いますわ」
「きっとトキン様お付きの、エリートメイドさんですのん」
エリーゼ、大人気です。
「トキン様、よろしければ、追加でティラミスをお持ちします」
「うん、頼むよ。エリーゼ」
エリーゼが、ティラミスを四人分並べて、作業場へ戻ります。
「トキン様、素敵な方ですわね」
ローニャさんが、瞳をキラキラさせています。
「うん。エリーゼは、美人なだけでなく、何を頼んでも完璧にこなすんだ。さあ、遠慮なく食べて」
ついさっき裏の水路で、泥をすくってたとは言えません。
美味しい甘味を食べながら、お話を聞きます。
「冒険者を選択したってことは、向いてるスキルがあったからなの? あっ、もちろん話せる範囲で、構わないからね」
「戦闘スキルは、持ってませんわ」
「私も持ってないの」
「私もなのん」
ローニャさん、トーヴァさん、ラーラさん共に、戦闘スキルは無いと言います。
「持ってないから、グラスダンジョンを選択したとも言えますわ」
「スライムしか出ない、他より安全性が高いダンジョンなの。小さな子でも挑めるの」
「ドロップ品も、ベネチアングラスで綺麗なの、人気のダンジョンなのん」
三人とも貴族令嬢だからでしょうか、とってもお話しやすいです。
やっと気付きましたが、三人とも語尾に特徴があります。
金色セミロングのローニャさんは「〜わ」
苺色おさげのトーヴァさんは「〜の」
水色ショートのラーラさんは「〜のん」
ティラミスを食べながら、お話を続けます。
「でも私達三人は、魔法が使えるのん」
「すごい、三人とも魔法使いなの?」
「と言っても、三人で一人前ですわ」
「ローニャが土魔法、私が火魔法、ラーラが水魔法使いなの」
「土魔法と水魔法で、壁をつくったり、泥濘を作ったりして、スライムの動きが鈍ったら、火魔法で仕留めるのん。単独だと、まだ誰も魔法を当てられないのん」
「そっか、協力して戦ってるんだね」
僕は思います。
何でも一人でやる必要性はあまり無くて、大事なのは協力しあえる仲間だと改めて思います。
「グラスダンジョンは、十歳以下の冒険者も多いですから、パーティーで協力して、より安全に戦ってるのをよく見かけますわ」
「女の子だけのパーティーも多いから、もっと明るいうちに切り上げて、帰る子も少なくないの」
おっと、これはお店の開店時間にかかわる情報です。
「私達もそろそろ帰るのん」
「そうですね。トキン様、ご馳走様でした。とても美味しかったですわ」
「トキン様、お話できて楽しかったの」
「トキン様、また明日なのん」
カラン、カランッ♪
三人がお店を出ます。
ラーラさんが振り返って言います。
「トキン様、昨日のトーヴァの寝言は『そっちは違うからぁ』だったのん♪」
凄く気になります。
僕もお店を切り上げます。
フォルトゥーナ号で帰ります。
エリーゼにクワッドも入れて三人です。
仲間が増えてにっこりです。




