第二十三話 ベニス⑪
癒された気分のまま、鳥かごを持って鑑定室に戻ります。
カラン、カランッ♪
お客さんです。
「やっほ〜。噂の美少女・槍使いアクアリーナちゃんだよっと」
やたら元気な子が来ました。
八歳くらいにみえる、短槍を持った女の子です。
水色のドレスをベースに、白色と水色の装備品で、コーディネートしています。
スライムしか出ない、グラスダンジョンの冒険者ならではです。
「こんにちは、アクアリーナさん。僕はトキンです」
僕はにっこり挨拶します。
「やっほ〜トキン。アクアリーナさんじゃ減点だぞ。アクアリーナちゃんね。はい、やり直し」
僕は素直に従います。
「こんにちは、アクアリーナちゃん。僕はトキンです」
僕はにっこり挨拶します。
「やっほ〜トキン。無料鑑定してくれるんでしょう。無料って、良い響きよね。10点プラスよ。これお願いね」
なにかが、10点プラスされたようです。
噂の美少女・槍使いアクアリーナちゃんが、カウンターに二つのアイテムを並べます。
「では、観てみますね。鑑定」
鑑定結果
「ガラスの香水瓶」
良品
【赤薔薇の芳香瓶】
芳香+5%
50,000ゴルド
バラの香り。
「ガラスのコップ」
良品
【氷無のコップ】
保冷+15%
300,000ゴルド
「ふむぅ〜ん、観えました。この「ガラスの香水瓶」は、銘を【赤薔薇の芳香瓶】効果は芳香+5%の逸品です。価値は50,000ゴルドです」
「まあまあの価値ね」
「この「ガラスのコップ」銘は【氷無のコップ】効果は保冷+15%の逸品です。価値は300,000ゴルドになります。買取なら価値の25%で、引き取ります」
「トキン、全部買い取って」
僕はにっこり頷いて、87,500ゴルドなので、切り上げて88,000ゴルド(銀貨八枚、銅貨八枚)を手渡します。
「あの、アクアリーナちゃん。壊れたアイテムも素材として買い取ってます。良かったら、持って来てください」
「え〜、アクアリーナどうしよう」
「昔から、真の美少女は、心も優しいと聞いてます。アクアリーナちゃんなら、引き受けてくれると思って」
「もう、トキンったら、分かってるじゃない。真の美少女アクアリーナちゃんに任せなさい。まったね〜」
カラン、カラン♪
一気に店内が静かになります。
買い取った【赤薔薇の芳香瓶】芳香+5%は、お店の水まわりで使います。
【氷無のコップ】保冷+15%は、昨日も買い取りしています。
色も形も一緒です。
やはり【古代の逸品】には、量産品もあるようです。
【氷無のコップ】もお店で使います。
これで二個セットになります。
綺麗なベネチアングラスなので、たくさん揃えたいです。
「ヒヒィ〜ン」とフォルトゥーナの声が聞こえます。
エリーゼとクワッドが帰って来たのかもしれません。
裏手にまわります。
クワッドが玉網を三つ持ってます。
「トキン様、今後も水路を探る可能性を考えて、一番強度の高い網を揃えました」
「うん、クワッドがいるから、今後も水路に沈んだ【古代の逸品】を引き上げることができるね」
「トキン様、エリーゼ先輩、この辺りです」
「うん、みんなで探そう。宝探しだ」
三人で水路に玉網を入れて探ります。
泥を石畳の上に重ねます。
泥の中で何かが光ります。
クワッドが素手で取り出します。
「トキン様、これで間違いありません」
僕は頷いて鑑定します。
鑑定結果
「銀のナイフ」
良品
【銀鼠のナイフ】
幸運+1
50,000ゴルド
食べ物に困らない幸運の食器。
「やっほ〜噂の幸運アイテム、銀鼠ちゃんだ」
僕は二人に鑑定結果を伝えます。
クワッドが本物のお宝発見だと喜びます。
エリーゼも良かったですねと笑顔を見せます。
クワッドが洗って、エリーゼが消毒してくれるそうです。
僕は泥を水路に戻します。
ベニスの水路は、潮の干満によって絶えず浄化され、海水が流れることで生態系を保っています。
泥も、目に見えない生物の、大事な住処だといいます。
ベニスは元々、干潟や湿地だった場所に、つくられた街だからです。
片付けして、お店に戻ります。
エリーゼとクワッドは、作業場でフランネル織物を切り分けます。
僕は鑑定室に戻ります。
カラクリ鳥のアルジェントをカウンターの角に置きます。
クワッドがくれた、不良品素材を眺めます。
ユニークスキル『探査』
改めて、凄いスキルだと思います。
【古代の逸品】の在処がわかるスキルのことなんて、想像もしてなかったです。
クワッドが『探査』で見つけてくれた【銀鼠のナイフ】を取り出します。
銀製品特有の黒ずみがあります。
長い時間、水路の中に居たのだと思います。
僕はすぐ近くに居ながら、全く気付けなかったです。
僕一人だと、まだまだ力不足です。
協力してくれる仲間の大切さを、改めて実感します。
【銀鼠のナイフ】を、ひと撫でします。
「いま、綺麗な姿に戻すからね『修復』」
僕の両手から、淡い光が溢れ、【銀鼠のナイフ】を優しく包みます。
往年の輝きを取り戻し、ランプの光を少し和らげて反射します。
カラン、カランッ♪




